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スカイハイタウンこうふくPJT

一.

高齢化社会。この国が抱える問題の一つ。問題というと「聞こえが悪い」と怒りの声が噴出するだろうが問題には変わりない。一個人から国まで問題視して当然のことなのだ。
今朝も一人暮らしの高齢者が火事で意識不明とのニュースが流れた。大家族が減り、本当に一人ぼっちの人もかなり増えた。子供や孫に頼りたくない、ご近所さんなどもっと嫌だ、そう思うご老人もいるだろう。「やれるうちは自分でやる」そう決めて無理をして生活するも、若い頃の様には出来ず、家事もそうだし、詐欺にやられたり…やはり問題になる。
この国は高齢化社会を讃える場合ではないのだ。


二.

ここはとある都道府県。決して裕福ではないが財政難には陥らず、問題解決に充てられる経費も何とか蓄えてある。勇ましいものだ。ここでも高齢化社会化は大きな問題で、まだ子供人口は少ないので環境整備は程よく行き届いているが、老人の対応については議論が落ち着かない。話し合うもの、物別れし、定例会が捗らない。

長は考えた。自由の国とはいえ、このままでは老齢者に配慮が回らない。いっそ、老人マンションを行政で運営すれば…住む場所は個別、今までの生活、ただ一か所に集める…一定年齢を超えたら住むことを義務とするのだ。
この町には今や空のまま放置されている様な公団住宅が多く、若者が好きに屯する格好の場所となっている。それはまたよろしくない現実であり排除せねばならない。貯めていた備蓄を高齢化対策として公団住宅リノベーションに使うのは悪くないんじゃないか…私の名を上るだろうしな。全国民の面倒を見るわけではない、この町をうまく回すのだ、使っちゃえ、だ。いいんじゃないかぁ…と長は気軽に考えた。

次の定例会で早速議題に挙げてみた。
『スカイハイタウン(リノベーション)プロジェクト』、やらんか?
公的資金も得られるし、今までの貯金もある。この町の高齢者割合を考えると一括で安心を提供する、と言っちゃあ何だが、持っていきやすくないか?
若い議員が質問した。「スカイハイってどうしてスカイハイなんですか?」
長は答えた。「うーん、大きな意味はないが…ここんとこ昔のものが流行ってるから、昔流行った歌からとった。
まぁ、老い先を考えれば高い空ってのもいいんじゃないか。“いきいき”とかさ、“ほのぼの”とかよりさ、洒落てるしな。受けもいいんじゃないか。」
何とも軽やかな考えだ。それでも若者は、そうかぁ、と納得した。

ある年齢になったら自動的にスカイハイタウンへの引越し券を持って入居させる。引越し費用はかからない。もし家族と同居している老人としても入居必須だ。年金を全て運用に充てるんだ。働いている場合はその金は自由資金だ。当然確定申告してもらうから、課税対象は当然支払ってもらう。が、自由に使えるものも残る。スカイハイタウンには町が運営するスカイハイタウン病院も設立するぞ。こりゃあ1割負担でも儲かる。最先端医療にしなくても、この先の行く先はスカイハイだもんな。そうそう、
葬儀場も勿論運営する。みんなワンルート・オペだ。金回りが明確だろ。

そしてリノベーション業者は当然公募だが、町の業者でまずトップを決める。町のことを知った人達だ、悪い様にはせんだろう。建設についてはそいつらに任せる。金額内にやってくれと。自分達のためと思えば心の中も気分ええだろ。

そんなこんなで、緩い人達は草案を進め、それは議会を通過した。みんな良いことだしなぁ、という緩い人間味に酔うところもあったからこその事だった。


三.

そしてこの緩く優しいプロジェクトは、心優しい住民達の心を何故か掴み、加速した。勿論「この町にアウシュビッツを作るのか?!」という声も無きにしも非ずだったが、不安がなくなるよな、という気持ちの多くが勝った。若い力はクラウドファンディングの手法で更に資金調達に励んだ。

そうこうしている間に何といきいきした
『スカイハイタウン』は完成し、老人達が入居した。入居前に一悶着があった。老人だって人である、「あの人とは離れたい」とかいう思いを訴える老人は少なからず居た。幸いな事に、部屋は余る程あったので、調整はうまくいった。
医者は近いし、食住に困らない、綺麗な部屋で一からスタートも悪くないと
スカイハイタウンは好評だった。他の都道府県からの行政達の見学も絶えなかった。ただ、ここだからできたっちゃぁ、そういう事になる節もあった。ま、考えてやったもの勝ちでいいのだ。
若い奴らも屯場所がなくなった事で、まぁ俺たちもああなるんだなぁと、ちょっぴり安堵も感じて悪を解散していった。これはオマケだが大きな事だった。緩町は、“ハッピー”に緩かった。


四.

世界情勢が不安定になり、この国もいつターゲットになるかという不安に襲われた。もう少ししたら年の若いものから順に徴兵されお国のためにと送り出される日が来るだろう。二度と繰り返さない、そう誓った国ではあるが、国を守る事しかもうなくなったら、やることは一つ、戦争だ。小金のある国は狙われやすいものだ。

『スカイハイタウン』では、老人達がテレビを見ながら憂いていた。辛うじて前の戦争を経験していない世代が多いため、経験世代より少し緩めの感じ方ではあったが、それでも嫌なものは嫌だ。家族がいる場合、大切な人達が戦争に取られる訳で、これ程きつい事はない。

ここ『スカイハイタウン』にも寄り合いはある。ある日、同居人である町の長が寄り合いを開いた。秘密裏とはいっても元々高齢者住宅、見向きもしない人達にとっては実質秘密の園、なのだし、気にすることなどなく話せる訳で。

「今日はね、スカイハイタウンのこうふくについて考えようと思ってね。」長は始めた。
「こうふくねぇ…結構幸せにしてもらったよ、ここで。」ある老人が言った。
「そうだねぇ、誰かいるって、こんなにも安心なんだとわかったのも、ここ、
スカイハイタウンのお陰じゃよ。」そんな声も出た。「ここは一つの国だ。」
「わしら、もう戦争なんて無理。そこでさ、考えたんだよ。こうふくせんか?」
「へ?」
「こうふくって、そっちの、こうふくか?」ガヤガヤと声が上がった。
長は続けた。
「いや、こうふくだ。戦争はもうしたくない。逃げたりもしたくない。でも、
戦争を反対する声は上げられる。」

沈黙があった。

「あぁ、そうだな。」
「そうだよ。」
「こうふくだ。」
みんなが口にした。
我々まで生き残すために、あの頃ここで屯していた若者達が戦争に駆り出される。なんていう事だ。あの子達に何の罪もないのに。わしらは守ってもらうだけか?どうなんだ?えっ?
そうみんなが心の中で叫んだ。

「いつ決行だ?」
「わからん方がいいんじゃないか?」
「そうだな。老い先なんてわからん。」
そうして、その日は長に託された。

早速長は町の議会を招集した。
『スカイハイタウンこうふくPJT』。

「君らは何も気にする事はない。
スカイハイタウンももう10年経った。
修繕の時期だ。何か起こってもおかしくない。我々も何が起こってもおかしくないんだよ。」

少なからず食糧難の波も来ていた。
長よりも若いスカイハイタウン外居住者達は心から涙した。
「でもどうやって?」若い議員が手を挙げた。
「君らはいつも通り、スカイハイタウンの住民の健康を診て欲しい。それ以外はこのプロジェクトには何もいらない。ただ、達成後が…ま、いいか。」
長は穏やかに微笑んだ。

戦火が明日にも来ようかとするある日の夜。スカイハイタウンの住民は何故か穏やかだった。多分今夜だ。今夜だ…
遠くから、ひゅぅぅぅ、そんな音が聞こえた気がしたのは若者達だった。スカイハイタウンの住民は高い音には頗る弱いので、ただ穏やかに夜を過ごしていた。もう寝ようかなどと思いながら。
その音は徐々に緩やかに音を上げ、闇からスカイハイタウンに近づいてきた。一瞬の花火の様だった。
ドン
鈍い音があり、町が揺れた気がした。
それでも思いの外静かだった。

明日になれば空襲も始まるかもしれない、もう住人達は少しでも安全な場所に移ったか、戦争に行った家族を待つんだと家を守っているか、どちらかだ。
静かな訳だ。

翌朝、スカイハイタウンこうふくPJTの成功が町の議会で報告された。
国が隠れて保有していた極秘戦力の一つ、超科学兵器「こうふく」が、スカイハイタウン一帯に投下されたのだった。
それは、ものの見事にスカイハイタウンだけを的確に爆破し砂塵と化していた。
計測器は、スカイハイタウン以外の土地の被害がほぼ無いことを示し、スカイハイタウン内のみが死の商人が集まるかの様相を呈していた。

この国はここまで的確に標的を、周りには安全に仕留める兵器を持っている事、そして、今もこの国は神風の国、
命すら差し出す覚悟はあると敵国に見せつけた、そう世界に向けて報じた。

世界は弱者国と思っていたのが、またあの戦争になるのかと怯えた。
戦争本格化までの時間が延長された。

国中で、この町の尊い老人達の事を讃え、歌が歌われた。
束の間の高く美しい心がこの国を包んだのだった。




えっと、すごいよろしくないかなぁと思われるお話をさくっと5分10分で思いつきまして、さくっと纏めもせずに思いついたまま書きました。
どうして書きたくなったのかなぁ。

日本が言論の自由が守られている国と思いたくて、こんなお話を書いたのかなぁ。自分らしいのかそうでないのかもわからないお話です。

そもそも、老齢の皆様を実験に使う様なお話です、良いわけがない。でも書いてました。自分もスカイハイタウンに入居する日が来る、そう思っても悔いがなく今を生きている気がします。
だからと言って、やはり戦争はダメだ。
それの思いは変わりません。

あくまでフィクションでありますが、
不謹慎と思いつつ、反省しつつ、
この場を閉じさせていただきます。

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