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BUSINESS LAWYERS 編集長が選ぶ2019年の注目トピックス

2019年もあと数時間を残すばかり。私が編集長を務めているBUSINESS LAWYERSでは約440本の記事を公開し、述べ450万人以上の方にサイトを閲覧いただきました。

読者の皆様、執筆や取材、インタビューなどでご協力いただいた皆様に心より御礼申し上げます。

今年は初の取り組みとして、法律雑誌編集部の方に注目のトピックスを選んでいただく、こちらの企画を実施しました。

雑誌の個性=編集の方の個性を感じ、BUSINESS LAWYERSでもやってみようと考えました。2019年の注目トピックスを記事と共にご紹介し、2020年を展望します。

2019年の注目記事5選

① 中村直人弁護士に聞く、スルガ銀行問題の根幹にあるもの

まずは、昨年発生したシェアハウスなどの不動産投資向け融資に関するスルガ銀行の不正について中村 直人先生に伺ったインタビュー記事から。

2018年に発覚した不正を題材としていますが、今年明るみになった様々な不祥事と共通する構造や、改正会社法によって上場企業などに設置が義務化された、社外取締役に求められる役割などを考えるうえで示唆に富む内容です。

ガバナンスの強化が求められる中、不祥事が相次いで発生する理由について、中村先生は

「ガバナンスをいくら変えても不祥事はなくならない」

「社外取締役や社外監査役が担うガバナンスの強化は、社長の指名や報酬の決定、重要な意思決定に関わるプロセスの構築など経営者をコントロールするために有効なもの」

とおっしゃっていました。そこで提案されたのがこちらのご意見。

「企業風土を評価するためのツールやサービスが普及し、取締役会に上げることが必須になれば、社外役員にも情報が上がってくるのでガバナンスの強化も不祥事防止に有効になってくる。」

社外役員を有効に機能させるために検討されてもよい考え方ではないでしょうか。このような仕組みを導入されている企業があれば、ぜひお話を伺ってみたいと思います。

この他、ルールを守りながら会社が回る仕組み、不正検知のためのテクノロジーの活用、企業風土を社員へ示すための人事制度や予算の位置付けなど、ガバナンスのあり方を考えるうえで参考となる視点が満載です。

② 日本の法務に足りないものは意思決定をする力

昨年、経済産業省から『国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書』が公表されたことを受け、研究会の座長を勤めた名取 勝也先生に日本とアメリカにおける法務の違いと、これからの法務部門に求められることについて伺いました。

「私が勤めていたアップルの法務部では、ready, aim, shoot(構え、ねらいを付けて発射する) という普通の順番がready, shoot, aimの順番となっていて、ねらいを付ける前に発射する、それだけ自分たちはアクションが早いんだ、というジョークをよく言っていました。」

「日本の法務はready, aim, aim, aim ・・・でなかなか発射しない。」

グローバルな競争環境の中で戦う際に重要な意思決定の力を伝えるために紹介いただいたエピソードです。

法務部門のトップは「企業の中における自らの役割・機能を定義づけ」、「野心や戦略を持って動ける人材」が必要と語っていただきました。お話を伺う中で、部門は違えど果たして自分はどうだろうか・・・と我が身を振り返る事の大きいインタビューでした。

本年11月には『国際競争力強化に向けた 日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~』(令和報告書)が公表され、ネット上では様々な意見が見られました。

賛否いずれのご意見にも理解できる所はありましたが、企業の競争力確保のために注目されている機能の1つが法務と言える事は間違いありません。

11月にBUSINESS LAWYERS主催で開催したカンファレンスには報告書の取りまとめを担った経済産業省の枡口様にも登壇いただきました。年明けにはサイト上でレポートも公開する予定です。テクノロジーと法務のあり方を考える上でも参考となる記事をご用意していますので、そちらもぜひご覧ください。

③ 【連載】 法務パーソンの目標設定

今年、編集部内で大切にしたテーマの1つが「法務の実務に寄り添う」ことです。読者の方と編集会議を開催し「目標設定は難しい」「うまくワークしない」というご意見に注目し、企画しました。

人事・人材戦略コンサルティング、法務部門の役員・管理職・メンバーといったそれぞれの立場から多面的に目標設定の問題点と解決策を示す事を試みています。

こういう記事の構成は今までやりたいと思いつつも自分の力ではなかなか形にできなかったのですが、4月から新しく編集部のメンバーに加わってくれた I さんのおかげで実現することができました。

連載の第5回で株式会社ロコガイドの片岡様にいただいた「被評価者から信頼されていない限り、評価者の声は、どんなに工夫をしてもまったく響かない」というコメントは、自分自身もマネージャーとして評価をする立場なので、ドキッとするご意見でした。

来年はもっと読者の方と交流し、アイデアや企画について伺う機会も設けたいと考えています。

BUSINESS LAWYERS会員向けメールマガジンでの募集を予定していますので、興味のある方はぜひこちらからご登録ください。

設立から半年で約40名が集結 新時代のプロフェッショナルファームを目指す三浦法律事務所 / 世界で戦う日本企業の軍師であれ 東京国際法律事務所 森弁護士、山田弁護士が描くビジョン

新たに独立され、ビジョンを掲げた事務所が次々に立ち上がった1年でした。ここでは2本の記事をご紹介します。

設立から半年で約40名の先生方が集まった三浦法律事務所のインタビューでは、三浦 亮太先生、大村 由紀子先生、尾西 祥平先生からお話を伺うことができました。

なぜ、こんなに多くの先生方の賛同を得られたのだろうか・・・と疑問に思っていたのですが、「フルカバレッジでクライアントを支援する場を作りたい」、「働き手にとっても多様性のある環境を確保したい」と魅力的なビジョンを楽しそうに語る三浦先生のお人柄に尽きるんだろうな、と感じたインタビューでした。

取材時には立ち上げ準備中とされていた、渋谷オフィスも11月から開設され、「イノベーション・エコシステムの構築と活性化」がどのように実現されていくのかとても興味深いです。

続いて、東京国際法律事務所のインタビューでは、山田 広毅先生、森 幹晴先生から立ち上げの背景を伺い、こういう先生方の気持ちを発信していくことが自分の使命だ、と強く感じました。

「国内市場が縮小する中で抱いた日本企業が世界で戦う必要性と、それを本気でサポートできる弁護士が不足しているという問題意識が事務所立ち上げの背景にあります。」(山田先生)

「日本人弁護士の手による、日本企業のためのグローバル戦略法務を提供する事務所を作るべきじゃないか、という思いが立ち上げの原点です。われわれの子どもたちの世代に、日本が海外で稼げるような豊かな経済を残す一助になりたいという気持ちもありました。」(森先生)

私自身、10月に第一子が生まれ、次の世代に何を残せるのだろうか、何か残せる仕事ができないだろうかという気持ちを持つようになりました。

12月に日経新聞で報じられた「年収1400万円は低所得」の記事をはじめ、日本の未来を憂う論調や将来を悲観的に捉えざるをえない統計を目にする機会も多くあります。

世界で戦う日本企業を本気で支えたいと考えている先生方を多くの方に知ってもらうことが、より良い世の中へ繋がる一歩になるかもしれない。そう考えながら編集を担当させていただきました。

⑤ リクナビによる「内定辞退率」データ提供の問題点はどこにあったか 法的観点から弁護士が解説

BUSINESS LAWYERSのアンケートでも注目を集めたリクナビ問題は、2019年を代表する大きな出来事の1つであり、これからデータを扱うビジネスを行う上での指針となる事案です。

編集部でセキュリティ分野について知見を有する F さんがこれは記事にするべき、と企画をまとめ、STORIA法律事務所の杉浦先生にスピーディに執筆いただきました。

「個人情報保護法、職業安定法等の法令を遵守することはもちろん、たとえ適法であっても、採用時における求職者情報というデリケートなデータを取り扱う以上、そのビジネスモデル自体が批判を受けることも想定されますので、これまで以上に慎重な検討が求められるものと考えます。」

「特に個人データの第三者提供を行う場合は、不明確なプライバシーポリシーを提示して形式的な同意を得ておくだけでは不十分であり、ユーザーの個人データが第三者提供される旨が明確にわかるようまず利用目的の欄に記載したうえで、提供を予定する個人データの項目もできる限り具体的に記載することが求められるでしょう。さらに個人データの第三者提供に同意することで、ユーザーにとってどのようなメリットが生じるのか(たとえば当該サービスの無償提供や、より充実したサービスが提供可能となること等)まで触れられていれば望ましいものといえます。」

こちらの記事末尾のまとめは、個人情報を扱うビジネスを行う上で肝に命じるべき点を端的に整理いただけたと感じています。

2020年の展望

来年予定されている法改正などについて、下記の事項は実務上の影響が大きいと考えています。

・CCPA施行(2020年1月1日)

・改正民法(債権法)施行(2020年4月1日)

・改正意匠法施行(2020年4月1日)

・労働施策総合推進法施行(パワハラ措置義務化)(2020年6月1日)

・個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し(大綱に対する意見募集が2020年1月14日まで、6月の通常国会へ提出予定)

これに加え、プラットフォーマー規制の動向、会社法改正への対応準備などタイムスケジュールがこれから確定する事項も含め、法改正のキャッチアップだけでも取り組むべきことの多い1年になりそうです。

次に、大手法律事務所によるリーガルテックを含めたビジネスへの参入に関する動向に注目です。

森・濱田松本法律事務所と株式会社Legalscapeとの協業

長島・大野・常松法律事務所と株式会社PKSHA Technology/MNTSQ株式会社とのリーガルテック領域での協業

TMI総合法律事務所による新会社設立

法律事務所がどのように変化を遂げていくのか、それによってリーガルテックサービスはどのように進化していくのか。BUSINESS LAWYERSでも追いかけていきます。

最後に、今年弁護士の先生方とお話しているなかで感じたことですが、テクノロジーの活用やルールメイキングなど新しい活躍の場が注目される一方で、訴訟の重要性を改めて強調する方が増えている印象がありました。

ビジネスの様相が変化していくなか、訴訟を見据えた助言や企業と弁護士の方々とのコミュニケーションのあり方はどう変化するのか。来年は注目して追いかけていきたいと思います。

BUSINESS LAWYERSは「日本のガバナンスを変える」ことをビジョンとして掲げ、編集部では「信頼される情報を発信し続けることで、法務の未来を提案するメディア」をミッションとし、サイト運営を行っています。

法的な問題を端的に整理した「実務Q&A」をはじめ、「特集」でも最新の動向をキャッチアップし、読者の皆様に信頼いただける情報を配信してまいります。

来年もどうぞよろしくお願いいたします。


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