多重

多重人格の頭のなかの部屋。
女が二人いる。
一人は椅子から離れられない。

女1 よーし。はーい。それじゃあ作戦会議を始めまーす。
女2 よっしゃあああ!
女1 ・・・ねえ?
女2 ん?
女1 ・・・よっしゃーちょっと違くない?
女2 そう?
女1 うん。テンション?ニュアンス?みたいなのが。
女2 なるほど。
女1 ・・・もう一回ね?んじゃあ作戦会議を始めまーす。
女2 ぶちかますぞゴルアアアア!!
女1 ・・・ねーえ?
女2 なんすか?(笑顔)
女1 いやいやもうちょっと合わせていこうよ。ホラ二人しかいないんだし さ。
女2 えー・・・(嫌そうな顔)
女1 なによその顔。
女2 いやだってこっからお互いの意見とかぶつけあって話し合っていくん
でしょ?それを、はあ~い作戦会議を始めまあす、なんて言われても なぁ。
女1 なんで最初から闘おうとすんのかな。始めは和やか~に始まったほうがいいの。スムーズな会議に必要なのは適度なユーモアだよ。そっか らだよそっから。
女2 はいはい。
女1んじゃ気を取り直して、はーい作戦会議を始めまーす。
女2 了解でーす。(キラッ)
女1よしよし、えっと今回はね・・・なにが不満なのよ?!
女2 やる気でねえ。まじ無理。こんな自分に反吐が出るんだが?
女1 わかったわよ!あたしがあんたに合わせりゃいいんでしょ!作戦会議始めまああああす!!!(叫ぶ)
女2 いくぞ野郎共おおおお!!!

二人ともちょっと疲れる。

女1    ・・・はぁ。
女2 んで何?何の会議?
女1    まぁいっか。よし切り替えていこう。今回の会議はね、ホラこう世の中にはさ、沢山の異性がいるわけですよ。そのなかで選りすぐりの8人から同時に好かれたとする。そうするとあたしとしてはだ、果たしてどの男を選ぶべきなのだろうか、というね。
女2 はい。(手あげる)
女1    はい。
女2  無いでしょ。
女1   いやいや無いとは言いきれ・・・
女2 いやいや8人は無いでしょ。
女1    ・・・
女2 すげぇ面倒くさそうだけど。
女1    ・・・そっすね。
女2 もうちょっと現実的なのでよろしく。
女1    ・・・5人から同時に。
女2 (嫌そう)
女1 さ・・・二人から同時に!
女2 はいおっけー!
女1    ああもうわかんなくなっちゃった。ええとこれがこうであれがここか?
女2 なんじゃそりゃ?
女1    いやだから二人に再構築してんのよ。八人で考えてたから八人ぶんのセールスポイントをこう分け与えて。
女2 分けれるんだ(笑)
女1    分けざるを得ないんだよ!ちょっと黙ってて、ここが、うん。
女2 ・・・
女1    よーしこれでいけるか。お待たせしました。
女2 (ピクリともしない)
女1    ん?おーい。聞いてるー?
女2 (酸欠寸前でプルプルする)
女1    喋っていいわよ!
女2 ぶはー危なかったなんか見えてた!
女1    息止めろなんて言ってないじゃないの。
女2 いやぁ空気読んどくか、と。
女1    続けていいすかー?
女2 おけおけ。
女1    んじゃあ一人目ね。ええとタカシくん。タカシくんは結構お金ない。だけどあたしのことめっちゃ好き。んーと、愛され度でいうと200%くらい。あたしの言うことなんでも聞いてくれる。
女2 あーそういう話か。なら二人目がいい。
女1    まだ言ってないじゃん。
女2 いやだってこれお金か愛情か、みたいなやつでしょ?
女1    鋭すぎる・・・何故わかった・・・じっちゃんの名が書ける・・・
女2 書けるだろそりゃ。ていうかタカシくんなんでも言うこと聞くならまずバイトさせようよ。
女1    あ、気づかなかったわ。それアリだね。
女2 でしょ?
女1    なるほどバイトさせるか・・・出稼ぎなら年間で四百として計算すると、いやちょっと待て、話の主旨が違う。
女2 まあいいけど。んで二人目は?
女1    二人目はね、えーと仮にゴンゾーさんね。こっちはめっちゃお金ある。バラまけるくらい。でも愛され度だと75%くらいかな。
女2 それだとめっちゃお金がいくらかによるよね。
女1    金次第なのー?
女2 うん。
女1 んじゃ1000万。
女2 うわぁ微妙。絶妙に微妙。タカシくんの二年半じゃん。
女1    13兆。
女2 増えすぎ。逆に想像つかんわ。
女1    わがままだなあ、んー、3億くらいだと?
女2 あー、そんくらいかな。そんくらいならわかる気がする。
女1    はいはい、そんじゃこれならどっち?
女2 やっぱ二人目かなぁ。
女1    ちなみになんで?
女2 いやぁ3億大変だよ?タカシくん75年分だぞ。
女1    タカシくん換算やめようよ。なんか可哀想。
女2 愛され度は後からでも上げれそうな気もするからなぁ。なのでゴンゾーさんに一票。・・・なんでこっちさん付けなの?
女1    金もっててゴンゾーくんだと若干ホストっぽい響きに。
女2 (笑)んであなたはどっちなの?
女1    そうだねぇ、悩むよねぇ。お金いるかって言われたらあたしだってそりゃ欲しいけどさ。
女2 いやあなたのじゃないですよ。
女1    あ、そっか。まぁでもさ、そこまで無くてもいいっていうか。
女2 まあね。こういうの隣の芝生みたいなもんだし、どっちを選んでも、あーあっちが良かったかもなぁ、なんて思うのかもな。
女1    そう?
女2 うん。無い物ねだり?
女1    ・・・(考える)
女2 どったの?
女1    ・・・そこあたしはちょっと違うかな。
女2 ん?違うの?どういうこと?
女1 んとねー、これから生きてく上でさ、多分いーっぱい選択があんのよ。ちっちゃいことからおっきなことまで。うん。んでそっから選んで選んで、一番誇れる選択したいの。他の道選んだあたしにさ、どう?ここにいるあたしが一番輝いてるでしょって自慢したいの。
女2 ・・・すごいわ。
女1    え?そう?
女2 その発想は無かったなあ・・・素直に尊敬することにする。
女1    もっと誉めていいよ?あたしのいいとこ探しする?
女2 いやしない、終わらないから(笑)
女1 (笑)あ、あたしそろそろ戻らなきゃ。
女2 うん、あー、いつもありがとう。いつも会議はしてない気がするけど。
女1    (笑)じゃ、またね。
女2
ん、また。

  女退場。
  男は椅子から立ち上がるとゆっくり目を閉じる。

  おしまい

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