「明日のあした」

不思議だった。
あれは確か小学生の頃か。私はいじめられていて、いじめられている原因も自分ではどうにもならない理不尽なものだった。まぁ大半のいじめなんて自分ではどうにもならない。どうにかなるくらいならそもそもいじめなんて起きないだろうし。
だから私は泣いていた。そのときの私には泣くことしか出来なかったから。精一杯の抵抗。誰かに教えてもらいたかった。答えて欲しかった。
「血が繋がっていないと家族じゃないのか?」
毎日同じ事を冷やかされ、毎日同じ事で泣く。なんだか疲れた。なんで他の子に当たり前なことが私には当たり前じゃないんだろう。ああ悔しい。なんでこんなことで私は毎日毎日辛い思いをしなきゃならないんだろう。ねぇ?誰か答えてよ。
「血が繋がってる仲の悪い家族と、血が繋がってないけど仲がとっても良い家族ならどっちがいいかい?」
なんかじじいが居た。あ、いや初老にさしかかろうとする男にする。私は答えなかった。知らない人には気を付けなさいときつく言われてたからね。
「貴女のことをお父さんもお母さんもとっても心配してるよ。さぁ、暗くなる前におうちに帰りなさい。」
じじい、いやお爺さんは危険そうには見えなかった。決して私に近づいてはこない。私は少し安心した。
「なんなら送っていこうか?一人じゃ危ないから・・・あっ待ちなさ・・・」
逃げた。あのじじいは危険だ。早く家に帰らなきゃ・・・私の大好きなお父さんとお母さんの待ってる家に。・・・ん?私はお父さんもお母さんも大好きで、お父さんもお母さんも私を大好きだったら・・・はてな?これが家族ってことなんじゃないだろか・・・まぁいいか。今日のごはんは何だろな~カレーだといいな~。


少年「どうしたのおねえちゃん、そんなしょんぼりしちゃって。」
女「・・・」
少年「僕を睨んでも仕方ないでしょー。」
女「・・・あんた誰よ?」
少年「僕は僕だよ。ずっと一緒に居るじゃない。」
女「・・・知らない。どっかいって。」
少年「えー、せっかく出てきたのにー。」
女「あたしは今機嫌が悪いの!とっととどっか行ってってば!」
少年「まぁまぁ落ち着いておねえちゃん。僕が聞いてあげるから。」
女「いいわよそんなの!」
少年「そういわずに。ほら、聞くだけだから。アドバイスとかよくわかんないこと挟まないから。」
女「・・・」
少年「ね?」
女「・・・フラれたの。」
少年「うん。」
女「フラれましたー!これでいいですかー!」
少年「うん。辛かったね。」
女「・・・重いんだってさ。あたし。」
少年「うん。そうだね。」
女「おおおい、返事あってるかそれ!」
少年「うん。あってる。」
女「なんだよ重いって。あいつに合わせてごはん作ったり、好きそうな服着たり、アルバイト一緒のとこにしたり、あいつの目覚まし鳴った2分後におはようLINEしたり、部屋の電気消えてからおつかれさま、今日もがんばったねおやすみなさいってしたりしてただけだろー!!」
少年「途中からちょっと・・・」
女「あ?」
少年「なんでもないです。」
女「どこが重かったんだよー!」
少年「いや全体的に発想が。」
女「はああ?!」
少年「・・・うん。」
女「・・・だって好きだったんだよぅ。」
少年「うん・・・そうだね。好きだったね。」
女「・・・ダメだった?」
少年「ちょっとだけね。」
女「・・・どこ?」
少年「うーん、だっておねえちゃんもおんなじことされたらいやでしょ?」
女「・・・ちょっとだけ嫌かも。」
少年「じゃあ相手も嫌だよ。」
女「・・・もう無理?」
少年「無理。」
女「・・・可能性ゼロ?」
少年「0.2パーくらいは。」
女「ふええええええ。」
少年「ああもう、よしよし。」
女「もうダメだー!あたしなんてぶえええ。」
少年「あああ鼻水ついた。」
女「涙だろー!それ涙の間違いだろー!」
少年「はいはい涙でした。大丈夫大丈夫。今回はちょーっとだけ愛が深かっただけだから。」
女「うううう。」
少年「おねえちゃんには気づいてないだけで良いとこいっぱいあるから心配いらないよ。」
女「うー。」
少年「もっと素敵なひとが見つかるって。」
女「うー。」
少年「うーうー言わないの。」
女「・・・わかった。」
少年「うん。」
女「吹っ切る!あたしはもっといい女になる!」
少年「そうだそうだ!」
女「見返してやる!後悔させてやるぜあたしをふったこと!・・・あ、ちょっとまた思い出し涙・・・」
少年「・・・うん。もっともっと強くなろうね。・・・それじゃあまた・・・ひぇッ!」
女「ちょっと待てゴルァ!」
少年「いやそろそろ帰ろうかと」
女「いーや、まだあたしは慰まってないね。全然慰まってない。」
少年「充分前向きに・・・」
女「なってませーん!まだまだぶっ倒れてますーちっとも立ち上がれませーん。」
少年「はい?」
女「とりあえずあたしのいいとこ選手権。」
少年「・・・なにそれ?」
女「あんたがあたしのいいところをひたすら言っていくんだよ!」
少年「えええ?」
女「さっき自分で言ったんじゃない。気づいてないだけでーって。」
少年「いやそうだけど。」
女「最低で100個は教えてほしいね。」
少年「・・・なんでこんなことに。」
女「なんか言った?じゃあまずひとつめねー。」
少年「ええと、げ、元気。」
女「なるほどねー、それはあるかもなー」
少年「なときは可愛い。」
女「おおい、それ元気ないとダメってことになるだろー。はいやり直し。」
少年「ぐぐぐ・・・」
女「ほら早く早くー!聞きたーい!あたしのいいとこ聞きたーい!」
少年「はぁ・・・」

老女「あら久し振り。」
青年「こんばんは。」
老女「こんばんは。・・・不思議ね。ちょうど貴方のことを考えていたのよ。」
青年「わたしのことを?」
老女「ええそうよ。しばらく会ってなかったから。」
青年「さすがに300個もいいとこ挙げればしばらく大丈夫かな、と。」
老女「あったわねそんなこと。私はせいぜい10個くらいまでしか出ないだろうとと思ってたけど。」
青年「いえ、わたしが伝えたかったんです。」
老女「・・・ねえ、わたし?」
青年「・・・はい。」
老女「・・・どうだった?」
青年「・・・楽しかったですよ。」
老女「そうね。そりゃあやっぱり辛いこともあったけど、楽しかったわね。だから今度わたしと会ったときは、もっとお喋りしようと思ってたのよ。悲しいことも嬉しいことも。色々あったから。」
青年「全部知ってますよ。」
老女「そう、そうね。だけどお話したかったのよ。ちゃんとお話したかったの。」
青年「・・・そうですね。私もです。」
老女「でも、ごめんなさい。もう瞼も開かなくなってきた。・・・まだそこにいる?」
青年「いますよ。ずっと側にいますから。」
老女「・・・ありがとう。」
青年「・・・おやすみなさい。」

おしまい




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