ちょっと怖い話。

私は探し物をしている。どのくらい時間がたったのかもう思い出せない。
本棚の本を1ページずつ探す。見つからない。引き出しを開ける。引き出しの奥も見る。見つからない。髪の毛を一本抜いてじっくり見てみる。見つからない。畳のイグサもじっくり見るけど見つからない。フローリングをはがして探してるまた張り付ける。
私は何を探しているのか。それすらもう思い出せないくらいずっと探している気がする。
隣の女に声をかけた。こいつはこいつでずっとプチプチしている。緩衝材に使われてる透明のアレだ。あれをずっとずっとプチプチしている。私よりやべえ。あんま関わりたくない。でももう耐えられない。なんだこれ不毛すぎるぞ。だから声をかけた。

「・・・」

無視かよ!いや私も久しぶりに声を出したような気がするのでなんか変な感じになっちゃって聞こえなかったのかもしれない。あまり他人のせいにするとよくないし。よし、もう一度。

「・・・」

無視だよ!これガン無視だよ!なんなんだこいつは、プチプチそんな面白いか?だんだんムキムキしてきた私はさっきの倍くらいで声をかけた。

「いや用件まで言ってくれないとさ、なんて答えるのあたし?」

聞こえてたんじゃねーか!返事くらいしてよ!

「はぁ?なんで?」

やっぱやべえ奴だこいつ、コミュニケーションとれねえ。どうみてもこの部屋に私たち二人しかいないのに助け合いの精神が見えねえ。

「無駄なこと嫌いなんだよねあたし。ねぇ?ん?あのさー?ん?これ無駄じゃない?そんまま続けて用件まで言ってくれりゃ二行で済むじゃん。」

こいつのプチプチを取り上げてねじりあげて一気に潰してやりたい衝動が込み上げた。これより無駄な私との会話とは一体・・・。

「んで何?見つかった?」

こいつは私が探し物をしているということは知ってるみたいだ。私は正直に見つからない、何を探してるのかもわからないと答えた。

「あはーそうかー。もうそんなかー。んじゃ帰っていいよー。」

はい?

「いやだからもう帰っていいよ。」

説明足りなすぎだろ。もっと私に納得をくれ。

「そう言われてもなぁ。探してるものがなにかもわからなくなるほど時間がたったってことなんだけど。最初大変だったんだわ、あんたすぐ泣くし。泣きながらセーターの毛玉とってたわ。どうすんのこれだった。」

私が?うっそだー。あとプチプチやめろ。

「あと3ロール買い置きあるから全然平気。」

無くなる心配してねえよ。

「なのでもう大丈夫です。お疲れさま。」

ダメだこいつ、会話にならねえ。いやなってるのか?ん?帰っていいってことは、ここ私の部屋じゃないの?

「いやあなたの部屋でもあるけどね。」

なにそれ?んじゃあどこに帰るのさ?

「あなたの居たいところだよ。」

許してくださいお母さん、貴子は初めて打撃系の犯罪を犯します。・・・貴子?

「そうだよ、それがあなたの名前。貴子さん。」

私、自分の名前も忘れてたの?

「うん。そうだね。」

・・・何があったの?

「この部屋に置いていっていいくらいの、もう二度と思い出さなくていいことかな。」

・・・そっか。

「じゃあお務めご苦労様。今度はもっと自分を労ってあげてね。」

・・・目が覚めた。辺りは騒がしくて、なんか色々言ってるお母さんがいて、看護師さんみたいな人もいて、私の身体にはいっぱいチューブがくっついてた。外そうとしたけど、ちからが入らなくて、なんだか視界はぼやけて見えた。ああそうか、私まだ進んでいいんだ。

おしまい。

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