相当賃料と継続賃料の関係

1 賃料増減訴訟と賃料鑑定

土地や建物の賃料に争いがあり、賃貸人又は賃借人が賃料増減請求権を 行使して賃料増減訴訟(賃料増減請求権の行使により賃料が相当賃料に改定されたことの確認を求める訴訟)が提起された場合、ほとんどの訴訟において、不動産鑑定士が鑑定人として選任され、鑑定人による鑑定(鑑定人である不動産鑑定士による継続賃料の鑑定評価)が行われます。また、各当事者から、(裁判所から選任された鑑定人による鑑定とは別に)私的に依頼した鑑定評価書が証拠として提出され、それに依拠した主張がされることも少なくありません。

2 相当賃料と継続賃料の関係

そのため、賃料増減訴訟においては、自身が提出した鑑定評価書を踏まえた効果的な主張を行うことや、裁判所鑑定や相手方が提出した鑑定評価書の問題点や誤りを的確に指摘することが必要になりますが、その際には、不動産鑑定士による継続賃料の鑑定評価額と相当賃料額の関係に留意する必要があります。
※賃料増減請求権(借地借家法11条1項、32条1項)の行使により改定された後の賃料を「相当賃料」といいますが、賃料増減訴訟において行われる鑑定評価は「継続賃料」(=不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を適正に表示する賃料)の鑑定評価であり、相当賃料と継続賃料の関係が問題となります。

相当賃料と継続賃料の関係については、以前は、不動産鑑定士による鑑定評価は経済的に適正な賃料を判定するものであり、継続賃料は法的な判断である相当賃料とは異なる(不動産鑑定士が経済事情以外の当事者間の個別的な事情を踏まえた判断をすることは困難である)との考えもありましたが、平成26年の不動産鑑定評価基準の改正の際に、継続賃料は相当賃料と同じものとして整理されています(「不動産鑑定評価基準に関する実務指針-平成 26 年不動産鑑定評価基準改正部分について-」225頁)。
この改正は、サブリースにおける賃料減額請求に関する一連の最高裁判例が出された際に、それらの事案で実施された鑑定評価の評価額(継続賃料の鑑定評価額)が相当賃料と同じものかどうかについての理解に混乱が見られたことから、継続賃料を相当賃料と同義のものと整理したものです。

3 賃料鑑定を踏まえた主張における留意点

このように、不動産鑑定士による鑑定評価の結果である継続賃料は相当賃料と同義のものであり、当事者間の個別的な事情等まで考慮した額として判定されているものですので、自身が提出した鑑定評価書を踏まえた主張にあたっては、当該案件における個別的な事情が鑑定評価書に適切に反映されていることを指摘する必要があります(不動産鑑定士に対して当該事案の実情が十分に共有されていないなどの理由により、当事者間の主観的な事情等が適切に考慮されていないことがないかを確認する必要があります)。
また、他方で、裁判所鑑定や相手方が提出した鑑定評価書の問題点や誤りの指摘に当たっては、それらの鑑定評価において、当該案件における個別的な事情が的確に反映されているかを確認したうえで、これを踏まえた指摘をする必要があります(裁判所鑑定においても、前提となる事実関係について争いがあるなどの理由により、当事者間の主観的な事情等が考慮されていない場合が多々ありますので、裁判所鑑定や相手方の鑑定評価書は十分に注意して確認する必要があります)。


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