地域未来塾 in 下北山!実施報告
noteには3回目の投稿になります。学生団体まとい現代表の森藤啓介です。まといは今年度の夏休み8日間の日程で、奈良県下北山村にて地域未来塾を実施いたしました。やっと開催にこぎつけた地域未来塾。そこには様々な困難や感動がありました。1期目が終了した今、これまでの活動の過程を振り返りつつ思いの丈を述べたいと思います。 *文部科学省「地域未来塾の概要」→chiikimiraijyuku_gaiyou.pdf (mext.go.jp)
開催前夜
我々が貢献できることとは
実は、下北山村の教育に関わりたい!というまといメンバーの構想は、昨年の春から進んでいました。まとい発足時の当初の目標であった移住交流体験施設「むらんち」の建設が完了して以降、我々はゴールを失ったような状態であり、村に訪問する度に、村民さんにはお世話になるけど貢献はできていないというもどかしさを感じていました。ただ田舎で遊ぶことが目的の団体であればそれでよかったのですが、我々の目標は「村民さんとの交流の中で新しい学びや出会いを得ること」。まといメンバーは村の方々と、相互に影響を与え合うような活動に飢えていたのです。 下北山に対して少しでも力になれることを考えたときに、初めに思い付いたのは教育支援でした。昨年の夏には下北山村役場の上平俊さんに調整して頂き、村内で小中学生のお子さんを持つ親御さんや、小学校の教頭先生にヒアリングをとることができました。結果、下北山村の環境が東京とは大きく異なる分、教育に関する課題も東京で感じるものとは乖離していました。下北山村の人口は2023年現在で700人強ですが、そのうち中学生以下の子供の人数はたったの54人。1学年平均で3~4人しかいません。村内に塾がないことに加えて親御さん方が口をそろえたのが、同級生のコミュニティが極端に限定されていることから生じる、子供たちのコミュニケーション不足への不安でした。ただ勉強を教えるだけでなく、大人と同級生の中間の存在として子供たちと双方向に交流することは、一つまといの教育支援活動の重要な方針となりました。
春からの急展開
しかし誰に対して、何を目的とした学習のお手伝いをするのかは、なかなか話がまとまりませんでした。メンバー間からは様々なアイデアが生まれましたが、我々のような本職で教師をしている訳でなく、また大学生という村内にはほとんど存在しない年齢帯の人間が、果たしてご家庭に受け入れて頂けるのだろうかという不安もありました。 そんな中今年の春、永く二人三脚でまといと共にプロジェクトを進めて頂いている役場の上平さんが、文部科学省公認の制度として地域未来塾を紹介してくださいました。地域未来塾は、特に人手不足に陥る地域の中学生などに対する「退職教員や大学生等の地域住民等の協力により実施する原則無料の学習支援」を指しますが(上に概要ページのリンクあり)、お話を聞くうちにまさに、まといが活動するうえでピッタリな枠組みだと感じました。そこからは上平さんのご協力もあり、対象は来年から村を離れる中学3年生に決まり、またそのご家庭に向けてアンケートを作成・配布して具体的な活動プランを検討するなど、一気に実施に向けて現実味が増していきました。 地域未来塾のスタートが夏休み期間の8月と決まったところで、そのひと月前にあたる7月中旬に、ご家庭との顔合わせ会をオンラインで開催。2件のご家族に参加して頂きました。とにかく子供たちが安心して、一緒に楽しく勉強できるような関係性を作るべく、メンバーそれぞれには自己紹介から工夫を凝らして計画してもらいました。その甲斐もあったのかとても楽しく和やかな会となり、親御さんからは警戒されるどころか非常に好意的なご意見まで頂き、ほっとする一方で実施に向けて身が引き締まる思いでした。
いざ未来塾本番!
授業の雰囲気
まといの8月訪問に合わせて、いよいよ地域未来塾の授業が始まりました。参加者が受験を控えた中3の子たちということもあり、なかなか学校だけでは十分にカバーしきれない高校受験の対策を主眼としました。授業はまといメンバーがそれぞれの得意科目を担当し、テキスト選定から授業計画まで頭を捻って構成したオリジナルなものです。 初日には体を動かすレクリエーションも実施しましたが、やはり初めはお互いに緊張しました笑。普段めったに関わることのない東京の大学生と下北山の中学生。初回の授業は、私自身も「失敗しないように」と少し硬くなっていましたが、今思い返すとすばらしく充実感に溢れた瞬間でした。たった2人の生徒と自分がいる教室は、その瞬間からはじまった全く新しい環境です。授業中に双方向に会話することを意識した結果、少しずつ打ち解けていき、彼女たちが笑顔を見せるたびに"してやったり"な気分になりました。 授業が始まって数日目の夜には、親御さん方が懇親会を開催し私たちを迎え入れてくださいました。公園に拵えた食卓には、焼き立ての手羽先やお母さんの手料理がならび、村で獲れたばかりという新鮮な鹿肉に舌鼓を打ちました。お父さんが閉校になった小学校から、なんと荷台に載せて運んできたというジャングルジムで子供たちとはしゃぎ、ふら~っと飛来したクワガタに指を挟まれる遊びをしたときには、私はもう10年前の自分でした。のほほんと大人になるうちに忘れてしまった数々の楽しい思い出が、なぜか住んだことのない下北山で蘇ってくるというのは、なんとも不思議なことです。
N君との出会い
訪村中、高校受験対策以外に、急遽アディショナルの活動が始動しました。残る1人の中学3年生、N君との交流です。小学校の途中から不登校気味になってしまい、今度の高校受験対策にも参加していなかった彼ですが、なんと村役場の方のお誘いに応じて、まといメンバーと会いたいと言ってくれたのです。 公民館で彼と初めて会った時には、良い意味で驚きがありました。「不登校気味」という話が信じられないくらい、明るく楽しくメンバーと話してくれたからです。料理が好きだというカワイイ一面を教えてくれたので、今度は村のコワーキングスペースBIYORIで、餃子&クレープパーティをすることになりました(どうゆう組み合わせ?)。馬鹿みたいな男子校トークに花を咲かせ、恒例の「激辛餃子」を仕込むふざけた会でしたが、みんなで何かを作る体験は私にとっても久しぶりです。手先の器用なN君に色々教えてもらいながら、私自身が一番楽しんでしまいました。 その日の晩には、みんなで花火をしました。なんだか疲れてしまって、縁側で皆の様子をぼーっと眺めていましたが、ふと突然、彼が一本の花火を手渡して、一緒にやろうと言ってくれました。東京の夜とは比較にならないほど暗い下北山の夜に、花火の閃光はあまりにも刺激的でした。 後日、N君とのツーショットを撮ってくれたメンバーから、今までで一番良い笑顔だとからかわれました。「不登校の子と交流する機会を作ってほしい」という趣旨でしたが、私はただ、大切な友人が1人増えたことが、何よりも嬉しかったです。
エピローグ兼、プロローグ
夏休みの一区切り
8月が終わる一足先に、夏期講習「社会」の最後の授業を終えました。非常に落ち着いた品行方正な彼女たちですが、最後にひときわ大きな声で「ありがとうございました!」と言ってくれました。振り返れば1日4時間も授業を受けているはずなのに、目もそらさず熱心に話を聞いてくれて、心底やってよかった~~と達成感に浸り、どっと疲れが来ました笑。 初めての地域未来塾は、下北山での教育のメリット、デメリットに直に触れる機会となりました。確かに、同級生が自分の他に数人しかいない環境はものすごく寂しいです。先ほどのN君だって、もう少し同年代の男友達がいれば、きっと学校を楽しめたに違いありません。また塾が無いだけでなく、そもそも他地域の学生がどのような受験対策をして、どのような進路を描いているのかに関する情報も、非常に限定されていると感じました。いわゆる過疎地域的な悩みは、下北山にも当然あてはまるものだったのです。しかしそれでもなお、下北山で少年時代を過ごすことには、絶対に東京では得られない価値があると考えます。そのうちの1つは、自分の地元で長く受け継がれてきた個性あふれる価値観・文化を大いに吸収できることです。「地元が失われた」と言われる今日、私に関してもそうですが、今住んでいる場所は親の世代以降で引っ越してきた、という方が過半数を占めるのでは無いでしょうか。そしてその多くの場合は地方から首都圏をはじめとする都会への移住であり、宅地開発が進んだ首都圏郊外では、かつての情景に触れる機会なんて毛頭ありません。地域未来塾での私の担当は社会の中でも日本史でしたが、少しだけ受験の内容から逸れて、奈良県と神武天皇の関係や、十津川村と新十津川町のつながり、大峯奥駈道が世界遺産に登録されている所以など、「ジモトーク」にも触れました。本人たちがどう思っているかはわかりませんが笑、日本史の教科書に載るような物事が自分の地元で受け継がれ、日常生活の中でそれに触れることができるというのはプライスレスな経験です。私は中高の6年間を親元離れて奈良県で過ごしました(下北山ではないですが)。今年やっと南部含めて全ての市区町村を制覇しましたが、それでも行くたびに新しい発見や感動を味わえます。これ以上は趣味の領域になりそうなのでこの辺にしておきますが、下北山、ひいては奈良は、それくらい文化的にも、そしてそれを受け継ぐ人々も「豊かな」場所なのです。 少し話は変わりますが、村の良いところを人一倍よく知っている私たちにとって、1ミリでもデメリットの部分の解消に貢献できることはこの上ない幸せです。そしてこれは毎度のことですが、勉強を教える側だったはずの自分たちが、いつの間にか色んなことを学ばせてもらっています。たまたま道端ですれ違った村民さんから聞いた、想像もできないような山仕事のお話は、「森藤のウンチク格納庫」に大切に保管されています。冒頭に述べた我々の団体としての目標「村民さんとの交流の中で新しい学びや出会いを得ること」を、ちゃんと達成できた夏になったんじゃないかな。今更ながら、心底まといに入って良かったと思えました。
未来塾の未来
地域未来塾はこれからも続きます。ありがたいことにオンラインでの受験指導を続けさせて頂くこととなり、また本番直前の冬・春休みに現地で再会します。我々の1つ目のゴールは、未来塾の教え子たちに参加してよかったと思ってもらえるような、彼女たち自身が納得できる結果を実現させることです。現状の活動目的のメインである受験対策に、まずは集中しようと思います。しかし、まといにできることは他にもあるはずです。早ければ次の長期休みから、村の子どもたちを巻き込んだイベントをやりたいと思っています。私たちが今まで蓄積してきた経験に基づく価値観・情報と、子供から大人まで下北山の皆さんが持っている考え方には、共通点と相違点が確かにあります。似た部分を見つける楽しみと、新しい発見に伴う興奮を、600キロ離れた地に住む方々とギブアンドテイクできるなんて、素敵なことだと思いませんか。
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