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VOL. 02 嘆きの天使

今思えば,このとき既に僕は,彼女に惹かれていたのかもしれない.心の中のもう一人の僕が.


01月09日(土)

「待ってたの」
「なに!?」
「一体いつから?」
「いっぱい待ったの」
「どうして?」
「わかんない」
「けど……」
「会いたかったの」
「先生に会いたかったの!」

■羽村先生のアパート

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繭:「くしゅん,ヘケ」

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◻️ドラマの中で何回か出てくるけど,繭のくしゃみになってないくしゃみ,嫌いじゃない.

羽村先生:「大きい?」
繭:「うん,大きい」
ズボンの裾を折る繭.

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羽村先生:「そりゃ,おっきいよな」

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コーヒーを入れる羽村先生.

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◻️繭の分は半分ぐらいか?

羽村先生:「シャツもおっきいかな?」
繭:「うん」

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シャツのボタンを締める繭.

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繭:「名前入ってる」

羽村先生:「研究室にいたとき,皆がまとめて,大学に出入りのクリーニング屋さんに,やってもらってたから.安くてね.あれ」

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羽村先生,上着を繭に投げ渡す.

繭:「ふうん」

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廊下の上着を引き込む繭.

電話台にもたれて,腕時計を見ながら話しかける羽村先生.
羽村先生:「そっか,ウチでお母さんとケンカでもしたんだろ」

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繭:「お母さんいないの」

怪訝な表情の羽村先生.

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羽村先生:「そう.遅いから,お父さん,心配してるね」

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繭:「お父さんも死んじゃった」

髪をタオルで拭いている繭.

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ちょっとイラッとする羽村先生.
羽村先生:「よくないよ,そういう冗談は」

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羽村先生:「あれだな,悲劇のヒロイン願望ってやつ」

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水槽の水草をかき回す羽村先生.

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繭:「洗濯物,溜まってるね」

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羽村先生:「ああ,面倒だから,週に一回まとめてするんだ」

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繭:「あの人,してくれないの?」

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羽村先生:「まだ,結婚したわけじゃないからね」
羽村先生,繭の制服の乾き具合を確認.

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渡してもらった上着に袖を通す繭.
繭:「けど,本当に好きなら」

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羽村先生:「ん?」
繭:「ううん」

マグカップにお湯を注ぐ羽村先生.

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洗面所で上着を羽織ってへたり込んだままの繭.

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食卓でコーヒーを飲む羽村先生.

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01月11日(月)

■登校風景

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どうやら,抜き打ちの服装検査があるらしい.

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生徒の皆さん服装検査対策.

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■正門前服装検査

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繭,登校.

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繭:「おはようございます」

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羽村先生:「ああ,おはよう.髪は結んであるからよしと」

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羽村先生:「あ,この紙袋は?」

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中身をこそっと見せる繭.中に羽村先生のシャツが入っている.

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羽村先生:「まずいよ,ここじゃ」

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キョドる羽村先生.
宮原先生が不審げに羽村先生と繭の方を見ている.

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羽村先生:「あ,スカート丈は,よし.はい,行ってよし」

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上目遣いでいたずらっぽく笑いながら行く繭.

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◻️参考情報)学校の時計は0818.

次第に彼女に振り回されている自分を感じていた.ただ,そう,まだこの頃は,溜め息をつけばそれで消える.その程度のことだったけれど.

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■始業前の職員会議室

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学年主任:「D組の遊佐美奈子の鞄です.抜き打ちの持ち物検査で,こんなものが出てきました」

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宮原先生:「なんですかあ」
藤村先生:「かまととぶらないで下さいよ」

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教員の笑い声.

教頭:「鞄にコンドームを入れて持ち歩くような教え子がいる.それがそんなに笑えるようなことですか」

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学年主任:「しかも,ご丁寧にですね.生徒手帳に,入ったモーテルまでちゃんとこう記入してあります」

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宮原先生:「あの年ごろって,何でも付けちゃうんですよね」
藤村先生:「宮原先生もそうだったんですか」
宮原先生:「私は健全なもんでした」

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藤村先生:「どうだか」
宮原先生:「私の高校時代は」

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教頭:「静かに! とにかくこんなことがPTAに知られたら.いや,もう生徒を通して知られているでしょうから,迅速に,我が校の校風の清廉たるべきを示す必要があります」

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学年主任:「それでは,退学ということでよろしゅうございますか.はい」

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生徒手帳の身分証明書の名前を消す学年主任.

まわりを見回す羽村先生.

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腕組みをして下を向いたままの新庄先生.

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■始業前の職員室

始業のチャイムが鳴って,先生方,授業に向かう.

新庄先生の元に駆け寄る羽村先生.
羽村先生:「驚きました」
新庄先生:「なにがや」

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羽村先生:「いや,だって,あんなに簡単に,生徒の退学処分が」

新庄先生:「大げさになったらマズイやろ」

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ガーディガンのボタンを一段間違えて止めていく羽村先生.

羽村先生:「いや,僕は,先生が立ち上がって異議を唱えるような気がしたんで」

新庄先生:「オレはそんな熱血やない.それより,自分のこと気付けぇ」
羽村先生:「はい?」

新庄先生:「教え子との妙な噂ひとつで,これやぞ」
新庄先生『クビになるぞ』のしぐさ.

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羽村先生:「ああ,ぼくは別に」
愛想笑いの羽村先生.

新庄先生:「きのうな,アンタのアパートから,ウチの学校の生徒が出てくんの見たって,父兄から通報あったんや.俺がその電話とったからよかったようなもんの」

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羽村先生:「ああ」
新庄先生:「アンタがその気やのうても,生徒はちょっとしたことで思い詰めたりするんや」

新庄先生:「あの年ごろは,恋愛がほとんどすべてらしいわ.人生のな」

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職員室をあとにする新庄先生.

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■生物の授業風景

羽村先生,生物室での授業(学年クラス不明).

生徒:「起立」

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◻️参考情報)生物室の時計は1005.

生徒:「礼」

◻️「起立」から「礼」までの間が長過ぎて,ちょっと怖い.

■2Bでの授業風景.

古典の授業.授業の題材は百人一首.

生徒:「花のいろは うつりにけりな いたずらに 我が身よにふる ながめせしまに」

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先生:「はい,ありがとう.花のいろは〜うつりにけりな〜いたづらに〜.我が身〜よにふる〜ながめ〜せしまに〜.いいですね」

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◻️この先生の名前,最後まで出てこなかったような気がする.

直子,繭の方を見て『繭,これ(メモを回すよ)』の合図.

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直子から繭へメモリレー.

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メモが繭のところに到着(藤村先生に渡すお弁当の図解).

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授業終了のチャイム.

直子の方を見て笑顔の繭.

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繭の方を見てお弁当を掲げる直子.

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先生:「いいかな,ここまで.お正月に百人一首やった人いるでしょう.だから今日は百人一首からやってみました.はい,今日はここまで」

生徒:「起立」

生徒:「礼」

繭のところに来る直子.
直子:「すごいっしょ.繭は?」
繭:「購買で買った」

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直子:「じゃなくって,羽村先生によ」

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クラスの何人かで藤村先生の写真の取り合いをしている.

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直子:「藤村先生の写真.パウチっこしようとしてるの.たく,努力もしないでさ」

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様子を見ながら『ふうん』と頷く繭.

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クラスの生徒が慌てた様子で教室に入ってくる.
生徒:「繭!」

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『ん?なに?』という風に見る繭.

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直後,佐伯先輩がしもべを引き連れて教室に入ってくる.

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直子:「あたしがバスケの子に頼んだの」

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佐伯先輩に一礼する直子.
直子:「佐伯先輩」

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直子,佐伯先輩の横に.
佐伯先輩:「館野達に目を付けられてるんだって?」

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直子:「あ,そうなんですよ.何も悪いことしてないのに」
佐伯先輩:「あなたには聞いてないわ」
直子:「え?」

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佐伯先輩:「私が言ってあげようか」

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目をそらす繭.

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繭の方に寄る直子.
直子:「何してんのよ.頼みなよ」

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無視して黙って教室を出て行く繭.
直子:「え?」

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佐伯先輩に一礼して,繭を追いかける直子.

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直子:「ちょっと繭」

出て行く直子と繭の方を見つめる佐伯先輩.

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■体育館入り口前

購買に向かう繭と,繭に説教しながらあとをついて行く直子.
直子:「マズイよ,佐伯先輩にあんな態度さあ」

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繭の腕をつかんで振り向かせる直子.

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直子:「たくう,あたしの顔,丸つぶれだよ」

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繭は,その辺まったく気にする気配なし.それどころか,藤村先生に早くお弁当をと直子を窘める.

繭:「早く持ってった方がいいよ.競争率高いんでしょ」

◻️直子の膨れっ面がちょっとかわいい.

直子:「そんなことより」

繭,我関せずで購買へ.

■昼休みの購買

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パンを買いたいが,生徒の勢いに気後れして買えない羽村先生.
羽村先生:「出前にするか」

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腕時計を見ながら立ち去ろうとする羽村先生.
後ろに立っている繭が声を掛ける.
繭:「何してんの?」

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羽村先生:「え? ああ」
繭:「無くなっちゃうよ」

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羽村先生:「バーゲンセールみたいでさ」

繭:「何個?」
羽村先生:「ん?」

羽村先生の前に体を寄せる繭.
繭:「何個欲しいの?」

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羽村先生:「あ,いいよ」

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繭:「買ったげるよ」

繭が羽村先生の分のパンを購入.
繭:「これとこれ下さい」

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繭,パンの入った袋を抱えて戻ってきて,袋を羽村先生に渡す..
繭:「焼きそばパンも買えたの」

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繭:「ラスイチだったよ」

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先に行く繭.

■購買〜生物室

外廊下を歩いて生物準備室に向かう羽村先生.

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羽村先生の後を追っかけてくる繭.それに気付く羽村先生.

羽村先生,そのまま行こうとするが……

お代を払ってないことに気付く.
羽村先生:「あ,お金,忘れてたね」

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繭:「奢ったげるよ」
羽村先生:「そうはいかないよ.いくら?」

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繭:「420円」
お金を受け取る繭.古い10円玉を見つけた.
繭:「これきったなーい」

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繭:「でも,あたしの生まれた年のだ」

繭:「昭和五十年」

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羽村先生:「50年……」
繭:「どうしたの?」

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羽村先生:「え,いや,50年代か」

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早足で行く羽村先生.
羽村先生:「とにかく,ありがとう」

それでも後をつけてくる繭に気付いた羽村先生.
羽村先生:「何?」

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羽村先生に近づいてくる繭.

羽村先生:「キミ,お昼食べないの?」
袋を指さす繭.

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羽村先生:「あ,入ってたのか」
頷く繭.

羽村先生:「あれ? パン三つしかないけど」
繭:「自分の買いそびれちゃった」

羽村先生からパックの牛乳とパン2個を受け取る.

繭:「いや」
パンをひとつを返す繭.

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羽村先生:「足りる?」
頷く繭.

繭:「あ,お金」
羽村先生:「奢ってあげるよ」

行きかける羽村先生と,付いて行きたい繭.
繭:「一緒に食べちゃダメ?」

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羽村先生:「用もないのにダメだよ」
羽村先生,一人で新校舎に入って行く.

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■昼休みの生物準備室

三角フラスコでコーヒーを煎れる羽村先生.

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廊下に人の気配を感じるが……

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誰もいない.

三角フラスコのコーヒーをビーカーに注ぐ羽村先生.

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廊下を走ってくる音して,ドアをノックする音が.
羽村先生:「はい」

笑顔でドアを開けて入ってくる繭,

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例の紙袋を持ってきて,中身を見せる繭.

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繭:「用あった」

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■昼休みの校内の流し台

新庄先生,パーマの生徒の頭を押さえ付けて水洗い.
生徒:「冷てーよ! もう,冷てーよ!」

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新庄先生,構わず水洗い.
生徒:「天然だっていってるでしょ」

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遠巻きに様子を見る生徒達.
生徒:「冷てーよ」
新庄先生:「こら,お前らなに見とるんや」

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新庄先生:「明日までに落としてこい」

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生徒:「他の先生は,いちいち言わないのに」

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帰って行く新庄先生.
新庄先生:「どけどけ! ああ冷た」

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■昼休みの職員室

直子,お弁当を藤村先生に手渡す.
直子:「はい」

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藤村先生:「ありがとう」

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直子,様子を窺うが……

新庄先生に睨まれて……

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直子:「おー,こわ」

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直子,退散.

■昼休みの焼却炉

藤村先生,直子から貰った弁当を焼却炉へ.

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ゴミを捨てに来た新庄先生それを見るも無言.
藤村先生:「まともに全部食べてたら,胃が持ちませんからね」

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■引き続きの昼休みの生物室・生物準備室

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羽村先生の後ろからそっと近づく繭.

コーヒーを注ぐ羽村先生の頭の上で紙袋パーン.

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羽村先生:「うわ! びっくりさせるなよ」

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◻️いたずら楽しそう.

繭:「この間ねえ,土曜の夜」

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羽村先生:「ん?」
繭:「あの人見た」

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羽村先生:「あの人って,あ,千秋さん?」
頷く繭.

繭:「車に乗ってた」

羽村先生:「そう」

机の椅子に座る羽村先生.
羽村先生の様子を窺う繭.

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繭:「それだけ」

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パックの牛乳を飲みながら羽村先生に質問する繭.
繭:「どうして好きになったの?」

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羽村先生:「どうしてって.明るくて,ハキハキしてるところかなぁ.自分にないところに憧れたっていうか」

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なお,パックの牛乳を飲みながら聞いてる繭.
繭:「先生は暗いの?」

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羽村先生:「さぁ,まぁ,明るい方じゃないと思うな」

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不満げに『ふーん』という顔の繭.

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羽村先生:「彼女,成城の幼稚園に勤めてる,あれでも保母さんなんだ」

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羽村先生:「子供好きで,大学教授のお嬢さんなのに,そういう澄ましたところもないし」

羽村先生:「自分には勿体ないぐらいの人だと思うよ」
退屈そうに聞いていた繭が生物室の水槽の方へ走っていく.

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水槽の魚にパンくずをやる繭.

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羽村先生,繭のそばへ.
羽村先生:「そんなことより,もうウチに来るようなことはやめて欲しいんだ」

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羽村先生:「見られてたらしいんだ.キミが来たの.D組の生徒が退学処分になること知ってるね.別にお互いやましいとこなんかあるわけもないんだけど,変な噂でも立ったらキミにとってよくないからね」

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鬱陶しそうに人体模型の方に逃げる繭.話しを続ける羽村先生.

羽村先生:「もちろん,僕も困る」

羽村先生:「今は教師をしてるけど,春には結婚して研究室に戻るんだ.それまでの間に,なんていうか,つまらない評判たてられたくない」

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羽村先生:「ほんと,イヤになるよね」

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急に準備室の方に走り出す繭.

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紙袋からカメラを取り出し,羽村先生の横へ.

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状況が理解できない羽村先生.
羽村先生:「なに?」

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繭,いきなり羽村先生と自撮りツーショット写真をパチリ.

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羽村先生:「な,なに?」
繭:「記念撮影!」

繭:「こーんなに大きく引き伸ばしちゃうんだ」

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生物室から走って出て行く繭.
羽村先生:「おい,ちょっと」

羽村先生,慌てて追いかける.コーヒーあちち.

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羽村先生:「ダメだよ!ダメだよ!おい!」

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が,繭の姿はもうない.

■教室?

窓から外をうかがう繭.

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■生物準備室

コーヒーを沸かした三角フラスコが割れる.

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羽村先生,溜め息.

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◻️熱々のフラスコを水に漬けたらいかん.

01月15日(金)

◻️当時のこの日は『成人の日』でお休みです.

■どこかの公園

新庄親子と羽村先生,公園でボール蹴り.

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■新庄先生宅

羽村先生.新庄先生宅へ.昼食?夕飯?

 新庄先生と貴広君の二人に婚約者のことでからかわれる羽村先生.

羽村先生:「そんなことないですって」
新庄先生:「ニヤけてたくせに.白状せい」

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◻️⇧『逃げてたくせに』かどうか,聞き取りに自信なし.

新庄先生:「自分とダブらせてたやろ」
羽村先生:「また,もう」

貴広君:「先生の結婚する人ってどんな人?」

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新庄先生:「お,ええツッコミや」

羽村先生:「参ったなあ,もう.親子で」

貴広君:「奇麗?」
羽村先生:「え?」

羽村先生:「うーん,まあね」

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新庄先生:「まあね,やて.まあねと来たか!」

新庄先生のツッコミ.羽村先生の肩バーン.むせる羽村先生.
新庄先生:「むせたいのはこっちや.のう」
貴広君:「うん」

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新庄先生:「まあ,ぬけぬけと『まあね』と言うのが,アンタのええところや」

親権の裁判を起こす旨の元妻から電話.
新庄先生:「はい,新庄です」

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こっそりと,学校でのお父さんの様子を訊ねる貴広君

貴広君:「なあ,お父さん,学校ではどうなん?」
羽村先生:「どうって?」
貴広君:「生徒に人気ある?」

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羽村先生:「もちろん.一番人気あるよ.だって,あの調子だもん」
貴広君:「そうか」

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新庄先生,電話で激おこ.
新庄先生:「やかましわい! 今さらなに言うてるんや」

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新庄先生:「貴広,俺一人でちゃんと立派に育てとるわ.今さら母親面すんな.裁判? 何が裁判や.やれるもんやったらやってみい!」

電話ガチャ切りの新庄先生.
ちょっとびっくりな様子の貴広君.

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心配そうに新庄先生の方を見る羽村先生.

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新庄先生独り言.
新庄先生:「何が裁判や」

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こたつに戻る新庄先生.

新庄先生:「貴広.冷めるで.食いや」
貴広君:「うん」

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羽村先生は察した様子で無言のまま.

■ファーストフード店

繭,芸能事務所からスカウトされてる様子.

スカウトの人:「実はこんどね.アースっていう制作会社で,『学園天国』っていうタイトルのVシネマを一本作るんだけど,今度オーディションがあるんだけど,それをぜひキミにやってもらいたいんだよ」

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興味なしの繭は横を向いて聞いている.

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スカウトの人:「じゃあ,いいよ.僕の名刺,置いとくから,もしその気になったら,電話してよ」

スカウトの人,席を立って店を出る.

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席に座ったまま,立ち去るのを見る繭.笑顔で名刺を見てる.

◻️人の話を聞くのは鬱陶しいけど,スカウトされること自体はまんざらでもないのね.

繭,スカウトの忘れて行ったタバコをゲット.

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■歩道橋

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繭,店を出たあと,歩道橋でタバコに挑戦するがむせる.

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その場から逃げるように走って行く繭.

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■レストラン

羽村先生と千秋,食事中.なお,羽村先生はペンギンの話に夢中.

羽村先生:「南極の皇帝ペンギンの話なんですよ.無数のペンギンが岸壁でパタパタとやってるのは,彼らを食料にするアザラシが,その海の下にいるかいないか判断つきかねて,飛び込めずにいるんです」

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千秋は退屈そう.
千秋:「ええ」

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羽村先生:「ええ,しかし,そのうち仲間の中で,後ろから押したりするものが出てくる.一羽が海の中に落ちれば,そこにアザラシがいるかどうかがわかるわけです.その一羽は当然食べられてしまうんですが,そうした卑怯な行動というのが,自然界では非常に多いです.まあそこが,リチャード=ドーキンスの指摘する『利己的な遺伝子』というわけなんです」

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さらに退屈そうな千秋.

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羽村先生:「例えば,これをこんどはミツバチに置き換えてみますと」
千秋:「隆夫さん」

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羽村先生:「はい? ああ,すいません.つい,夢中になっちゃって」

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首を横に振る千秋.
千秋:「楽しいけど」

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羽村先生:「あ,忘れてました」
婚約指輪を取り出す羽村先生.

羽村先生:「婚約指輪です.あまり高いものではないんですけど」
千秋の前に置く羽村先生.

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受け取る千秋.
千秋:「わあ,奇麗(棒)」

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羽村先生:「そういえば,ほら,このあいだ僕の部屋に遊びに来てた生徒」
千秋:「ええ」

羽村先生:「土曜の夜に,クルマで通るあなたを見たといってました」

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千秋:「え?」

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ワインを飲む羽村先生.

千秋:「そぅ」

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店を出る二人.

羽村先生:「タクシー,つかまるかなあ」

千秋:「学校.どうですか?」
羽村先生:「ああ,授業の方はだいぶ慣れました」

千秋:「生徒の方には?」

羽村先生:「ああ,それは,難しいですね.よく理解できません」
千秋:「生物学者を目指しているあなたでも?」
羽村先生:「からかわないで下さいよ」

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千秋,ストールでさっと隠して……

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羽村先生とキス.

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■二宮家近くの階段

階段を上って家に帰る繭.

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■二宮家

繭が帰宅.

繭,廊下でアトリエを見るが,お父さんががいない.

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自分の部屋から物音がするのに気付いて……

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廊下を走って自室へ.

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■繭の部屋

お父さんが机まわりを詮索中.

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部屋に入ってきた繭に気付いた耕介.
耕介:「今日は早かったじゃないか」

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耕介:「なんだよその目は!」

じっと睨み付ける繭.

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耕介:「親が子供の心配するのは当たり前だろ!」

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机の様子を確認する繭.
耕介:「最近,遅いから,ちょっと気になってたんだよ」
繭:「もう部屋に入らないで」
耕介:「わかった.二度としないよ」

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机の椅子に座る繭.

笑顔で見つめる耕介.

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繭:「着替えるから出て」

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耕介:「ああ」

手にしている繭のファイルをベッドに置き,部屋を出る耕介.

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耕介:「悪かっ,たな」

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ドアを閉めて行く耕介.

ファイルを机に戻す繭.

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■羽村先生のアパート

羽村先生と千秋,えちえち中.

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◻️なお,プライバシー保護のため,

表 現 自 粛

■繭の部屋

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繭,羽村先生とのツーショット写真を見て,にやにや中.

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◻️⇧ 改めて見ると,ニヤニヤはしてないのかぁ.

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01月18日(月)

■朝の登校風景

◻️参考情報)学校の時計は0805.

急ぎ足の羽村先生.

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■朝の教員ロッカー

羽村先生の下足箱に『助けて』の手紙が入っている.

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■放課後の体育館横

羽村先生,『助けて』の手紙について新庄先生に相談.

新庄先生:「おちょくってるだけちゃうか」
羽村先生:「うーん,そうも思うんですけど」

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新庄先生:「助けてって書いてても,名前もなんも書いてへんからなあ」
羽村先生:「話しづらいことなのかもしれません」

羽村先生の顔を見て,笑顔の新庄先生.
新庄先生:「割と親身になったてんやなと思て」

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羽村先生:「いえ,ただ,毎朝,必ず入ってるもんで,だんだん」
新庄先生:「担任もってへんアンタに渡すんや.新手のラブレターかもしれんで」

軽い溜め息の羽村先生.
新庄先生:「まあ,別に気にすることない」
羽村先生:「はあ」

行きかける新庄先生.
羽村先生:「あ,新庄先生」
立ち止まって振り向く新庄先生.
羽村先生:「あれから奥さんとは」

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新庄先生:「貴広は俺の子供や」

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むっとした感じで行く新庄先生.

■放課後の体育館

体育館に入って行く羽村先生.

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バスケットボール部員,やって来た羽村先生に気付く.

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佐伯先輩:「整列」

整列した端っこに繭がいる.
羽村先生:「あの,聞いてると思いますが,バスケット部の顧問になりました羽村です」

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羽村先生:「運動はあまり得意ではないんですが」
繭がいることに気付いて『え?』な表情の羽村先生.

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佐伯先輩:「主将の佐伯です」

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羽村先生:「あ,よろしく」
佐伯先輩:「よろしくお願いします」
部員全員,羽村先生に一礼.
部員:「よろしくお願いします」

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佐伯先輩:「練習,続けていいでしょうか」
羽村先生:「あ,うん」

練習を再開する部員たち.

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繭:「先生」
羽村先生:「どういうこと?」
繭:「何が?」

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羽村先生:「何がって?」

繭:「半端なんで,お願いします」

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羽村先生にボールをパスして

練習を始める繭.

羽村先生,持っていたカーディガンを置いて,練習に参加.

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■放課後の2Bの教室

直子,一人で内職中(藤村先生にプレゼントするマフラー編み).

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直子:「あたしも,テニス部入ろうかなあ.一人じゃ,放課後持て余すもんなあ.はあ,孤独だな」

直子,マフラーが完成.
直子:「完成!」

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教室の窓ガラスを鏡代わりに出来上がりを確認する直子.

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直子:「いいじゃん.なかなかいいじゃん」

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『よし!』という顔の直子.なぜかマフラーの香りを嗅いでる.

■職員室

直子,藤村先生にマフラーを渡しに職員室へ.

直子:「失礼しまーす.あの,藤村先生は」
先生:「クラブじゃないの?」
直子:「いえ,今日は出てないみたいなんですけど」

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先生:「ああ,教材研究って言ってたから,視聴覚室じゃないかしら」
直子:「あ,そうですか.わかりました」

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職員室を出て,視聴覚室に向かう直子.

■体育館

バスケットボール部の練習.

羽村先生,練習に参加中.が,部員とぶつかって転倒.

変な手の付き方をして,小指を切って血が滲む.

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痛そうな羽村先生.

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繭がすぐに羽村先生に駆け寄って,けがした小指の血を吸うなど.

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羽村先生は慌てた様子.
羽村先生:「あっ,大丈夫だから」

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すぐに立ち上がる羽村先生.
羽村先生:「ほんとに」

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羽村先生を睨み付ける佐伯先輩.

■新校舎前

マフラーを入れた紙袋を持って視聴覚室に向かう直子.

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■バスケットボール部部室

皆さん部活終了で着替え中.

佐伯先輩,繭に近づく.
佐伯先輩:「ウチの部に入ったの,あの新任が目的?」
繭,チラッと佐伯先輩を見るが……

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無視して,その場をあとにする.

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■視聴覚室

教材ビデオの音声が廊下まで聞こえている.

直子,視聴覚室へ入ろうとするが,鍵がかかっている.

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後ろのドアも鍵がかかっている.

準備室のドアも開かない.

様子に気付いた藤村先生が廊下に出てくる.それに気付いた直子が

一礼して

藤村先生に駆け寄る.

直子:「B組の相沢です」
藤村先生:「うん」
直子:「このあいだ,お弁当持って」
藤村先生:「どうぞ」

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案内されて中に入る直子.

藤村先生は仕事の続き.それを横で見ている直子.
直子:「こんな遅くまで,大変ですよね」
藤村先生:「ああ」

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直子:「なんか,緊張しちゃうな」

チラッと直子の方を見る藤村先生.
藤村先生:「そお?」

直子:「あの,これ」

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紙袋のマフラーを藤村先生に見せる直子.

直子,ドアから廊下を確認.

生物準備室に入って行く羽村先生.

直子,視聴覚室のドアを閉めて鍵をかける.

直子,ちょっと手持ちぶさた気味になって……

椅子に座って待つ.

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藤村先生,直子の後ろに立ち,肩に手をやる.
見上げる直子.

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藤村先生,ヘッドホンを直子に.
藤村先生:「これ,聞いてて」
直子:「はい」
ちょっと笑顔になる直子.

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藤村先生,直子の肩をポンと叩いて,準備室へ.

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ヘッドホンをしたまま教材のビデオを見る直子.

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■生物(準備)室

羽村先生帰り支度(?).

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羽村先生,書類と白衣を持って,生物室を確認.

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■視聴覚室

準備室から戻ってきた藤村先生,後ろから直子に抱きつく.

直子:「先生」
藤村先生:「好きだろう」
直子:「え,でもあたし」
状況が飲み込めない直子.

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藤村先生:「好きなんだろう?」
直子:「あたしそういうの」
いやな表情の直子.

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藤村先生:「声を出したら人が来るよ.こんなところを見られたら退学だ!」

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直子を押し倒す藤村先生.

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■生物準備室

羽村先生,生物準備室を出る.

廊下に大音量で英語教材の音声が流れ出して,視聴覚室の方を見る羽村先生.

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すぐに音量が小さくなり,気にする様子もなく,歩いて行く.

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再度,大音量で英語教材の音声が流れて,振り返る羽村先生.

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また音量が小さくなったので,そのまま行く羽村先生.

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■視聴覚室

必死に抵抗中の直子.

以 下 表 現 自 粛

一部情報を解除すると,藤村先生,表現自粛中の行為をビデオカメラで録画していた.

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01月19日(火)

■体育授業風景

学年・クラス・時限とも不明.

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◻️多分,1〜2時間目かとは思いますが.

■2B授業中(数学)

◻️多分,4時間目じゃないかとは思いますがよくわからない.

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繭,10円玉を回して遊んでいる.

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直子は学校を休んでいる.

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繭はちょっと心配している顔.

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■職員室

繭,宮原先生に直子のことを訊ねている.家から連絡がないので,宮原先生もわからない様子.

宮原先生:「きのう,帰り,一緒じゃなかったの?」
頷く繭.

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宮原先生:「そう,おうちからは何の連絡もないのよ」

スナックをやっているのを非行に持って来いの状況と皮肉まじりにいう藤村先生.

藤村先生:「夜遊びして,朝帰りだったんじゃないんですか」
宮原先生:「まさか」

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宮原先生:「でも,そういえば,彼女の家,母親がスナックやってるんですよね」

自席に着く藤村先生.
藤村先生:「ほらほら,非行には持って来いの状況だ」

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宮原先生:「やめて下さいよ.うちのクラスからそんな」

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なにかこう,腑に堕ちない表情で藤村先生を見る繭.

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■校舎外通路

校舎入口で羽村先生とすれ違う繭.

繭:「あ」

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羽村先生:「おう」
繭:「今日,クラブ休んでいい?」
羽村先生:「え?」
繭:「友達のお見舞いに行くの」
羽村先生:「ああ,いいよ,そういうことなら」

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繭:「あたしがいないと,寂しいと思うけど」
なぜかニコニコの繭.

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対して強がりの羽村先生.
羽村先生:「そんなことまったく」

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駆け出す繭.

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途中立ち止まって振り返る.
繭:
「寂しいと思うけど」

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繭,走って行く.

新庄先生:「はあ〜,さみしい,か」
羽村先生:「え?」

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■下校時の井の頭公園駅前

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改札前に車を止めて車内で繭を待つ千秋.

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繭が改札前まで来る.

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千秋が車のドアを開ける音に振り返る繭.

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車を降りた千秋の前に歩み寄る繭.

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■校内

羽村先生と宮原先生が歩きながら話している.

宮原先生:「ええ,二宮繭はうちのクラスですけど」
『そうですか』と頷く羽村先生.

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宮原先生:「二宮さんが何か?」
羽村先生:「いえ,なにってことは.ご両親は健在なんですか?」
宮原先生:「ああ,確か,二年前に母親が亡くなってるはずですが」

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羽村先生:「そうですか」
宮原先生:「あ,でも,父親の方は,二宮耕介って御存知ですか」
羽村先生:「あ,いえ」
宮原先生:「彫刻家なんです.若い頃は前衛っぽくって結構流行ったらしいんですけど」
頷く羽村先生.
羽村先生:「ああ」

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宮原先生:「羽村先生」
羽村先生:「はい」
宮原先生:「私,最初に忠告しましたよね」

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羽村先生:「は?」
宮原先生:「生徒と個人的に深くかかわらない方がいいって」
羽村先生:「ああ,そういうつもりじゃ,全然」

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宮原先生:「教師同士なら問題はないんですけど」
羽村先生:「はい?」

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宮原先生:「結・婚・す・れ・ば (はーと)」

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◻️いや,なんかセリフの後にハートマークが見えたもんで.

笑顔で去る宮原先生.

■ショッピングセンター内紳士服専門店

繭,千秋の買い物に付き合わされている.退屈そうに店内をウロウロ.

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繭,千秋のそばに移動.

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千秋は羽村先生にプレゼントするネクタイ選択中.

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ネクタイを何本か手に取る千秋.
千秋:「隆夫さんにはどっちが似合うかしら」

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繭は無表情.

■体育館

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バスケットボール部員に詰め寄られている羽村先生.

佐伯先輩:「うちの部は,都内でも指折りの伝統校です.代わりのコーチが来るまでとはいっても,大会も近いし」

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佐伯先輩:「ルールも知らない人が顧問になるなんて,みんな納得できないんです」

羽村先生:「僕に,どうしろって」
佐伯先輩:「他の先生に代わって頂きたいんです」

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羽村先生:「ああ,しかし,皆さん,手いっぱいだということで僕が」
佐伯先輩:「だったら,部員一同で教頭先生に直訴するだけです」

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◻️参考情報)体育館の時計は1640.

羽村先生:「それは,困る」

佐伯先輩:「能力がないって思われるの,そんなにイヤですか」

むっとした表情の羽村先生.

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佐伯先輩:「だったらせめて,体力のあるところだけでも証明して下さい」

羽村先生:「証明,って」

佐伯先輩:「そうですねえ」
部員に目をやる佐伯先輩.

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佐伯先輩:「腕立て100回とか」
『そうよねえ』な感じで失笑の部員たち.

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『ええ?』な感じの羽村先生.

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羽村先生を睨み付けてる佐伯先輩.

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上着を脱いで腕立て準備に入る羽村先生.
羽村先生:「ぶふふ」

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羽村先生,笑ってみるが,部員たちの空気は『早くしろよ』

 靴下ですべる羽村先生.

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部員たちの笑い.

靴下を脱ぐ羽村先生.

部員たちのカウント.
部員:「いーち,にーい」

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■ショッピングセンター内

紳士服店を出る千秋と繭.

千秋:「土曜の夜,私を見たんですってね.どのあたりかしら.駅前通り?」

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千秋:「同窓会があってね.帰り道の友達,乗せて行ったの」

繭:「友達?」

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千秋:「やっぱり.男の人だから,もしかして,誤解されたかなって,心配してたの」

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繭はムッとした表情で千秋の話を聞いている.

千秋:「式の前でしょ.隆夫さんに変に伝わったら困ると思って.それで一応あなたに確認しとこうと思って」

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先に行く千秋.

立ち止まっている繭.
千秋:「車で一緒だったくらいのことなんだけど」

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繭:「ホテルから出るの見たわ」

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凍りつく千秋.

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■体育館

羽村先生,腕立て伏せ続行中.

部員:「にじゅうご,にじゅうろく,にじゅうしち,にじゅうはち」

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■ショッピングセンター内のカフェ

千秋と繭,カフェへ.

繭はアイスカフェオレ(?)を堪能中.

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千秋:「タバコ吸ってもいいかしら.園児たちの前じゃ吸えないから」

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千秋がタバコを切らしているのを見た繭……

先日ゲットしたタバコを鞄から取り出して千秋に差し出す.

驚いた様子の千秋.

繭:「学校じゃ吸えないから」

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千秋:「ありがと」
平静を装い,タバコを受け取る千秋.

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千秋:「それで?」

千秋:「そのこと,隆夫さんに?」

無言の笑顔で首を横に振る繭.

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愛想笑いで応じる千秋.
千秋:「そっ,私たち,気が合いそうね」

タバコに火をつける千秋.

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千秋:「隆夫さんってね,悪い人じゃ,もちろんないんだけど,正直言って,とっても退屈なの」

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■体育館

羽村先生,腕立て伏せ続行中.

部員:「さんじゅうきゅう,よんじゅう,よんじゅういち,よんじゅうに,よんじゅうさん」

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千秋:「ペンギンがどうだとか,原始のスープがなんだとか.そんな話し,聞いてて面白いと思う?」

■ショッピングセンター内のカフェ

千秋:「セックスもとっても幼稚なの」

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■体育館

羽村先生,腕立て伏せ続行中.

部員:「よんじゅうし,よんじゅうご,よんじゅうろく,よんじゅうしち,よんじゅうはち」

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千秋:「ただ,父に半ば無理に勧められてね.つまらん男だが,結婚相手にはいいだろって.そ,まったくその通りの人」

■ショッピングセンター内のカフェ

千秋:「わかるでしょ.あなたも同じ女ですもの」

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横を向いて黙って話を聞いている繭.

千秋:「考えてみれば,あなたにこんな言い訳めいたこと言う必要もないのにね」

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千秋:「だって,彼,私にぞっこんでしょ.例えば,あなたが何を話しても,彼,本気にするかしら?」

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横を向いていた繭が千秋の顔を見る.

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千秋:「私とあなたの言うこと,どちらを信じるかしら」

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なお無表情に千秋の顔を見る繭.

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千秋:「つまんないお喋りに付き合わせちゃったみたいね」

千秋:「さよなら」

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席を立って店を出る千秋.

■体育館

羽村先生,腕立て伏せ続行中.

部員:「ごじゅうさん,ごじゅうし,ごじゅうご,ごじゅうろく」

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そろそろ限界の羽村先生.

■ショッピングセンターのエスカレーター

カフェを出た千秋,ショッピングセンター内の下りエスカレーターへ.

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気配を感じて振り返った刹那……

さっきの話で怒った繭が……

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千秋を突き落とす.

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千秋,エスカレーター下まで転落.左足負傷.

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我にかえる繭.

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エスカレ−ター下で倒れたまま動けない千秋.

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■体育館

羽村先生,腕立て伏せ続行中.

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部員:「ろくじゅうさん」

ここで白旗の羽村先生.

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体育館を出て行くバスケ部員の皆さん.

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グロッキー状態で,伏せたままの羽村先生.

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出て行った部員と入れ替わりに入ってくる新庄先生.羽村先生にタオルを投げ渡す.

新庄先生:「大丈夫か」

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新庄先生の方を見る羽村先生.
羽村先生:「ああ,いたんですか」

新庄先生:「63回か.まあ,生物の教師としては,ようやったほうや」

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新庄先生,体育館を出る.

寝返って仰向けになる羽村先生.
羽村先生:「何やってるんだ,オレは」

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■羽村先生のアパート

夜になって疲れ果てて帰ってきた羽村先生.

リビングのクッションに倒れ込む.

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部屋の電話が鳴る.羽村先生,何とか起き上がって電話を取る.

羽村先生:「はい,羽村です.もしもし」

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羽村先生:「もしもしー」
公衆電話で無言の繭.でも,何か言いたそう.

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羽村先生:「もしもし?」
羽村先生,電話を切ろうとする.
繭:「あたし」

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羽村先生:「あ,なんだ.イタズラ電話かと思ったよ」

繭:「何度も電話したの……」

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羽村先生:「なにか用なのか」

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繭:「別に……」

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羽村先生:「腕痛くて,受話器持ってるのもツライんだ」

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黙っている繭.

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羽村先生:「もしもし? いや,クラブでさ,腕立てかなんかやっちゃったもんだからさ」

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やっぱり黙っている繭.

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起き上がって正座で座る羽村先生.
羽村先生:「あ,キミに謝らなくちゃいけないことがあったんだ」

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繭:「なに?」

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羽村先生の言葉を聞こうとする繭.

羽村先生:「お母さんが亡くなったって,本当だったんだね.冗談と思って悪かったよ」

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羽村先生の言葉を聞く繭.

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羽村先生:「ごめん.同情されるのもヤだね」

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少し笑顔になる繭.
繭:「ううん,先生の同情は好き」

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料金切れのピーピー音.『あっ』という表情の繭.

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羽村先生:「もうすぐ,切れるね」

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繭がポケットから『あのときの十円玉』を取り出す.

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『昭和五十年』と書かれた『あのときの十円玉』を確認する繭.

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少しためらいながら十円玉を入れる.

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繭:「10円入れたよ」

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◻️この言い方がかわいい.異論は認めない.

羽村先生:「なら,あと3分話せるか」
羽村先生の表情と声が明るくなる.

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繭も少しホッとしたような笑顔に.
繭:「うん」

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羽村先生:「と言っても,なに話そう」

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繭:「あたしね」

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羽村先生:「うん?」

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繭:「ペンギンの話が聞きたい」

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羽村先生:「よし」

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繭:「うん」

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羽村先生:「南極の皇帝ペンギンの話しなんだけどさ.ほら,よくテレビなんかでやってるだろう」

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羽村先生:「ペンギンが沢山集まって,岸壁の上で押し合いへし合いして,その下は氷の海でさ」

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羽村先生の話を楽しそうに,どこか安心したように聞く繭.

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あのときの僕には……

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失うものが沢山あるような気がして……

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受話器越しの彼女の声が震えていたことに,まだ気付いてはやれなかった.

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