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VOL. 05 衝撃の一夜

02月05日 (金) 

■井の頭公園駅

登校風景

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日向女子高の生徒が他校の男子生徒に手紙を渡すところを見て微妙な表情の繭.

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繭,直子を見つけて駆け寄る.

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繭:「おはよ!」
直子:「おはよ.痛ぁ」

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繭:「どうしたの?」
直子:「筋肉痛よ」

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繭:「これね」
繭,竹刀を振るポーズ.

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直子:「柔軟ばっかよ,まだ」
繭:「卒業までに段取らせてくれるんでしょ?」
直子:「段?」

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直子:「団子でも食ってた方がマシよ」

繭:「直,カニみたい」

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カニ歩きする直子.
直子:「嫁に行けんよまったく」 

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■正門

服装検査.

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新庄先生:「婚約解消したって,どっちがや?」
羽村先生:「は?」

新庄先生:「その,どっちがどっちがや?」

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羽村先生:「僕がフラれたんですよ」
新庄先生:「そうか,なんて言うたらええか」
羽村先生:「また,ビールに餃子でも奢って下さいね」

新庄先生:「おぉ,ぱーっと行こうパーッと.春巻きもつけたるわ」
二人:「わはは」

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直子:「おはようございます」
羽村先生:「おはよう」

新庄先生:「なんや,その歩き方は」
直子:「自分の胸に聞いてください」

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新庄先生:「生理か?」
直子:「やらしいなあ.朝っぱらから,変態」

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新庄先生:「保健体育の教師やぞ,オレは.誰が変態や」
笑ってる直子.

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繭:「おはようございます」

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羽村先生:「おはよう」

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繭:「包帯,今日とれるの」
羽村先生:「そう」

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塩酸事件他諸々思い出す羽村先生.

「バーン!」
「うっ」
「僕は何もかも失ってしまった」

羽村先生:「髪もヨシと」
繭:「心配? 跡残るんじゃないかって」
羽村先生:「そりゃそうさ」

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繭:「残ったら責任取ってもらうからね」
羽村先生:「え?」

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振り向いてイタズラっぽく笑って行く繭

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新庄先生:「はよ行け」

新庄先生:「お前とおったら,オレの威厳が損なわれるんや」
直子:「はいはい」
新庄先生:「相沢,OK」

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繭と直子,一緒に教室に向かう.

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キミは覚えているかい?

あの頃から僕たちは徐々に自分の存在を,互いの心の中に見ることができたんだね.

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誰かに見られたら壊れてしまう……

途中立ち止まり,振り返って羽村先生の方を見る繭.

……そんな危うく消えてしまいそうなキミが,僕の中にいた.

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■校舎横の外廊下

藤村先生と羽村先生,外廊下を歩いている.

藤村先生:「ボイコット,なくなったらしいですね」
羽村先生:「ええ」

藤村先生:「感謝して欲しいなあ.僕が各クラスで先生のことをフォローしたんですよ」
羽村先生:「ああ,そうなんですか.いやぁ」

藤村先生:「先生は,あんなことをするタイプじゃないと言いましたからね」

羽村先生:「藤村先生の言うことなら,生徒達も信じるんでしょうね」

藤村先生:「さわやかで,優しい教師を演じるのも時々疲れますけどね」
羽村先生:「え?」

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藤村先生:「いや,誰にでも愛される人間は,誰かに深く愛してはもらえないって.そんなことってあるでしょ」

藤村先生:「アイドル歌手みたいに」

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羽村先生:「はは」

羽村先生:「先生は恋人いらっしゃらないんですか」

藤村先生:「今んとこはね」

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羽村先生:「理想が高いんでしょうね」
藤村先生:「そんなことないですよ」

藤村先生:「僕のことを心から……」

藤村先生,転がってきたボールを拾おうとして,例のビデオテープがポケットから落ちる.

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生徒:「すみません」

藤村先生:「おぅ」
ボールを受け取って,一礼して行く生徒.

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ビデオテープを拾って藤村先生に渡す羽村先生.
藤村先生:「あ,どうも」

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キョドる藤村先生.

藤村先生:「あ,ところで,あの,聞きました?」
羽村先生:「はい?」

藤村先生:「いやあの,バスケット部の佐伯麻美」

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羽村先生:「彼女が何か?」

藤村先生:「転校するらしいですよ」

先に行く藤村先生.
状況を計りかねる羽村先生.

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■お昼休みの購買前

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繭,パンを買って生物室へ向かおうとしたところで佐伯先輩と遭遇.

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繭,佐伯先輩をチラ見だけして,無視して行こうとするが……

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佐伯先輩から転校のお知らせが……

佐伯先輩:「父の仕事の都合でね,神戸に転校するの.だからもう邪魔しないわ.けど覚えといて」

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佐伯先輩:「あなたもいつかきっと,男に幻滅するのよ」

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立ち去る佐伯先輩を見る繭.

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■お昼休みの視聴覚準備室

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直子がビデオを探すも見つからない.

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藤村先生:「なに探してんの?」
振り向く直子.

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藤村先生:「テープだったらそこにはないよ」

テーブルの上着からテープをとり出す藤村先生.
藤村先生:「これでしょ」

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それを見た直子……

黙って準備室を出ようとする.

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藤村先生:「ねえ」
立ち止まる直子.
藤村先生:「土曜の夜,食事でもしようか」

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振り向く直子.
直子:「用がありますから」

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藤村先生:「そのとき,返してあげるよ」

直子の方に振り向く藤村先生.
藤村先生:「約束するよ」

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やるせない表情の直子.

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■お昼休みの生物準備室

例によって,三角フラスコでお湯を沸かしている羽村先生.

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ギーッと開く生物準備室の扉.

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こっそり部屋に入って来たのは繭.
なお,羽村先生は本を読みながら居眠り中.

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繭がそっと丸椅子に腰掛け……

袋からパックの牛乳とメロンパンをとり出す.

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居眠りする羽村先生の前でメロンパンを齧る繭.

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居眠り中,ガクッとなる羽村先生.

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それを見て『あっ』となる繭.

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薄目を開けて様子をうかがう羽村先生.

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羽村先生の様子をうかがう繭.

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羽村先生(の寝言ふり):「メロンパンがもう.ミルクこぼすなよ」

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繭,こぼしたミルクを袖で拭く.

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羽村先生の寝た振りに気付く繭.

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席を立って,羽村先生の様子をうかがう繭.

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羽村先生にそっと顔を近づけキスしようとする繭.

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それに気付いて椅子からズッこける羽村先生.

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繭:「あはは」

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羽村先生:「なに考えて」
繭:「寝た振りするからよ」

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羽村先生:「キミの方が一枚上手だなぁ」

コーヒを入れる羽村先生.
繭:「今度の日曜ねぇ」
羽村先生:「うん」

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繭:「映画連れてって」

ちょっと面倒臭そうな羽村先生.

繭:「用ある?」
羽村先生:「別に用はないけど」

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繭:「動物園行ったでしょ」

羽村先生:「行ったけど」

『ふ〜ん,先生,素直じゃないわね』という顔の繭.

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繭:「じゃぁねぇ」

繭:「こうしようよ」
羽村先生:「ん?」

繭:「あした1500計るの,体育の時間.それで,もしあたしが一等とったら行くの」

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羽村先生:「勝手に,決めるなよ」

繭:「でも,なんか理由が欲しいでしょ?」

ちょっと溜め息の羽村先生.

繭:「陸上部のすっごい速い子もいるんだよ.ドーピングでもしない限り,あたしの一等はないな」

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繭:「もう練習でも2回負けてるの」
コーヒーをすすりながら面倒臭そうにうなずく羽村先生.
繭:「あたしここのとこ体調も悪いし」

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誘いに乗って来ない羽村先生にちょっとイラッとする繭.

繭:「ここ大丈夫かなぁ」

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『ちょっと待て』な羽村先生.

羽村先生:「それをいうのは反則だろ」

繭:「動物園はよくて,映画はダメっていうルールもないでしょ.ね」

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ここで職員室から羽村先生の呼出しの放送.

職員室に向かう羽村先生.
羽村先生:「一等取ったらな」

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繭:「うん!」

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『ぴあ』を手に取る繭.
繭:「なに見るかなあ」

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■塩酸被ったときの病院

繭,放課後病院へ.

包帯を取ると火傷の跡が残っていた.

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先生:「ああ,やっぱりここんとこ,跡が残ったなあ」

キズをじっと見つめている繭.

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先生:「まあ,形成外科へ行けば,この程度ならすっかり奇麗になるから.大学病院を紹介してあげよう.佐藤君,松原先生の新しい名刺持ってきて」

看護師:「はい」

02月06日(土)

■朝の教員下足室

羽村先生:「おはようございます」

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羽村先生の下足箱に手紙が入っている.

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開けてみると,中には映画のチケットが.

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羽村先生:「もう勝った気でいるよ」

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■グラウンド

2B保健体育の授業の1500mタイム測定.

◻️何時間目の授業かまではわからなかった.

新庄先生:「位置について」

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直子は例によってやる気ゼロ.
直子:「適当にやろうよね」
新庄先生:「よーい,スタート!」

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一人おいてけぼりを食らう直子.
直子:「あれ? ちょっとみんな速い」

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■生物準備室

羽村先生,腕時計で時刻確認.

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窓からグランドの様子を見る羽村先生.

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◻️まえから思ってたのだが,羽村先生のかけてる眼鏡は何の眼鏡?

■グランド

繭,先頭を走る.

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新庄先生:「二宮! ちょっと飛ばし過ぎや.ペース考え!」

羽村先生,グラウンドに様子を見にきた.
羽村先生:「彼女,速いですね」

新庄先生:「あれやったら後半持たんで」

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新庄先生:「おい,お前なにやってんねん.ちゃんと走れ」

直子:「貧血が」

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新庄先生:「貧血ってツラか」

新庄先生:「あんた,持久走,どうやった?」
羽村先生:「ああ,僕は,運動全般ダメでしたから」

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新庄先生:「持久走は別の要素もあるやろが.ほら,中学の時,女子が男子の前,先ゴールしよるよって.好きなこの前ではりき入れたろうか,みたいな」

羽村先生:「ええ,それでもやっぱり,競争ごとは苦手なんですね」
新庄先生:「誰でもみなそうや.人の前走るのは疲れるんや」

まだ先頭を走っている繭だが……

新庄先生:「よし! ラスト一周!」

繭,ちょっと疲れてきたか.

新庄先生:「抜かれるかな?」

周回遅れの直子.
直子:「女の友情ってこんなものよね」

直子:「繭,頑張れ!」

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新庄先生:「お前が頑張れ!」

だいぶ追いつかれてしまった……

気が気ではない羽村先生.

ここで追いつかれてしまう.

心配そうな表情で見守る羽村先生.

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余力は残ってなさそう.

繭,終盤で追い越されたところで力尽きてこけてしまう……

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が,何とか最後の力を振り絞ってゴール.

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新庄先生:「二宮,ようがんばった」

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一位にはなれなかったが……

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『よく頑張った』という表情の羽村先生.

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■レストラン

藤村先生と直子,夜に食事.

藤村先生:「どうしたの? 食欲ないの?」

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藤村先生:「その口紅,似合うね.他の店にすればよかったかな」
直子:「あたし」
藤村先生:「ん?」

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直子:「あたし,先生に憧れてたんです.あんなふうじゃなくて,もっと,あれだったら.だって,みんなに自慢しても羨ましがられたと思うし」

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グラスにワインを注ぎながら話す藤村先生.
藤村先生:「そのうち僕に幻滅したら,そのこともみんなに話してたと思うよ」

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直子:「幻滅なんて」

藤村先生:「するさ,残酷なまでにね」
ワインが溢れたところで気付いて手を止める藤村先生.

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藤村先生:「こうするしか,キミは僕を受け入れなかったと思うよ」

無言の直子.

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こぼれたワインのシミの上にビデオテープを置く藤村先生.

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藤村先生:「このテープがあれば,キミは盲目的に僕にしたがう」

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直子:「けどそんなのは.あたし,そんなものがあって先生を好きになれません」

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藤村先生,直子が自分の思い通りにならないことにやや苛ついた表情を見せる.

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■帰り際の路上(新宿あたり?)

食事後,店を出た藤村先生と直子.

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藤村先生:「送って行けないからさあ.ここで別れようか」
うつむいたままの直子.

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藤村先生:「心配しないでいいよ.約束守るから」

ビデオを直子に渡す藤村先生.

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藤村先生:「また会ってくれるよね」
直子:「学校で会えるじゃないですか」

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直子:「もちろん,誰にも言わないから安心して」

藤村先生:「忘れられるの? オレのこと」

直子:「あたし,ヤなことはすぐ忘れるの」

直子:「さよなら」

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笑いだす藤村先生.

笑いだす藤村先生に立ち止まって振り返る直子.

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直子:「嘘ついたの?」

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藤村先生:「ウソじゃないさ.それはあんときのテープだよ.ダビングしたけどね」

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藤村先生:「僕も残念だよ.まあいいさ」

藤村先生:「俺達にはまだまだ,時間あるからさ」

駆け足で立ち去る藤村先生.

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呆然と立ち尽くす直子.

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■新庄先生宅

直子,藤村先生と別れたあと,新庄先生宅へ直行.

新庄先生が玄関を開けると……

いきなり直子が入ってきた.
直子:「こんばんわ!」

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新庄先生:「なんやお前」

部屋に入るなり,貴広君に挨拶する直子.
直子:「オッス」

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貴広君:「オッス.こんばんわ」

直子:「うわあ,貧しい食生活.ダメよ,貴広君,育ち盛りなんだからこんなの.あたしが材料買ってきたから」

直子:「今おいしいの作ってあげるからね」
貴広君:「おおお!」

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新庄先生:「どないしたんや.なんかあったんか」

直子:「もう.フライパン使ったらすぐに水に浸けとかないと,こびりついちゃうのよ」

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新庄先生:「おいおまえ」
貴広君:「なあ,お姉ちゃん,今日奇麗やなあ」

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一瞬手が止まって笑顔になる直子.

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■羽村先生のアパート

羽村先生帰宅.

鍵を開けようとするが開かない.部屋の電気もついている.

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ドアノブをひねると鍵があいていた.

玄関に入ると……
羽村先生:「ん?」

足元には

革靴が一足.

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羽村先生の兄がアパートに泊まりに来てた.

◻️なお,私は新潟弁を知らないので,聞き取りは完全じゃないことを先に告白しておきます.

羽村先生:「来るなら来るって,電話してくれよ,あんちゃん」

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パジャマ姿で缶ビール開けてるあんちゃん.
あんちゃん:「明日の予定がさね,一日急に繰り上がってしまったすけさあ」

羽村先生:「農協の会合?」

あんちゃん:「ああ」

羽村先生:「鍵,どうやって?」

あんちゃん:「ああ,隣の大家に,兄貴だって言ってよ」

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あんちゃん:「疑り深くてめえったことよ.免許証見せてもなかなか信じやしねえ.似てませんねえなんて,ジロジロ値踏みするみたいに見やがってよ」

羽村先生は自分の晩御飯の準備中.
羽村先生:「あはは.田舎と違って,こっちは物騒だからね」

あんちゃん:「土産出したら,ころっと鍵出しやがったけどな」

羽村先生:「あははは」

あんちゃん,羽村先生がレンジにいれた器を見て勘違い.
あんちゃん:「あ,わりなや」

羽村先生:「え,あ,これオレの(晩飯)」

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あんちゃん:「ああ,そかそか」

羽村先生:「つまみ,なんかあるかな」

■二宮家

耕介,アトリエで作品製作中.

繭は床の汚れをぞうきんで拭いている.
耕介:「しばらく,海外で暮らしてみないか」

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『え?』という表情の繭.

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繭は黙ってぞうきん掛けを続ける.
耕介:「お前にも,色々不便な思いをさせてきたからなぁ」

繭:「あたし,今のままで十分よ」

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耕介:「人間,これで十分ということはない.あらゆる欲望に際限がないのが人間だ.だから,騙したり殺したりするんだ.人間は」

繭:「もう行くわ」

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耕介:「高校は退学するんだ」

驚いた表情で振り返る繭.

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耕介:「優秀な家庭教師を雇ってやる」

耕介:「お前はまだ若いから,くだらん人間に魅かれたりするんだよ」

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繭:「先生のことをいってるの?」

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耕介:「失望させるな!」

その場に座り込む耕介
耕介:「私は,お前がすべてなんだよ」

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黙って自分の部屋へ駆け込む繭.

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■羽村先生のアパート

あんちゃん:「仕事か?」

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羽村先生:「ああ.プリントを作らなきゃなんないんだ」
あんちゃん:「ふうん」

羽村先生:「一枚で寒くねぇ?」

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あんちゃん:「ああ」

羽村先生:「寒かったら,ほんとにオレのベッドでさあ」
あんちゃん:「隆夫」
羽村先生:「うん?」

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溜め息をつくあんちゃん.
あんちゃん:「ここ来るめえ,むこうの家,挨拶しに行った」

振り向く羽村先生.

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あんちゃん:「結婚,やめたってどういうことだよ」

あんちゃん:「まあいい.明日話そうて」

■二宮家

部屋に鍵をかけて机の下に篭る繭.

繭の部屋のドアを叩く耕介.

耕介:「繭!」

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耕介:「繭,開けなさい.繭」
部屋の扉を開けようとするが,鍵がかかっている.

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◻️前回(第四話 01月28日)は鍵がついてなかったのだが,さすがにつけるよね.ていうか,なんで今までつけてなかったのかと.

机の下に篭って耳を塞ぐ繭.

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耕介:「繭,これだけははっきり言っておく.私は絶対お前を手放さないぞ」

耕介:「誰にも,どこにも」
繭はかなりギリギリの状況.

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耕介:「そのときは」

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耕介:「私が死ぬときだ」

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◻️このセリフが最終話につながっているように思う.

顔を上げて……

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窓の外を見る繭.

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02月07日(日)

■羽村先生のアパート

◻️私は新潟弁を知らないので,聞き取りは完全じゃないことを先に告白しときまs(ry

羽村先生:「だから,電話しようと思ったさ」

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あんちゃん:「電話なんかで埒があくか」

羽村先生:「電話して,きちんとした説明しにそのうち行くつもりだったさ」

あんちゃん:「ほんとか?」
羽村先生:「どういう意味だね」

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あんちゃん:「おまんは,昔からそげなとこあるすけさ」

あんちゃん:「なんか都合の良くねえことがあるといつもだんまり決め込むんだ」

あんちゃん:「そすればいつか誰かに知られたときでも,きっとまわりが助けてくれるってな.黙ってりゃ,ああそうかい苦しんでたんだって同情されようとしやがってよ」

羽村先生:「今回のことじゃ,色々事情もあったんだよ」

あんちゃん:「どっちがどうでなんてのは聞かねえ」

あんちゃん:「んだども,ポシャったらポシャったで,すぐ連絡するのが大人のやることじゃねえかや.違うか」

羽村先生:「あったりめえの正論ばっか言うなよ」

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あんちゃん:「まだこて」
羽村先生:「なんだよ」

あんちゃん:「高校教師になったって聞いて,親父やお袋はホッとしたかもしんねえ」

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あんちゃん:「んだでも,オレは全然ほっとなんかしてねえ」

あんちゃん:「むしろそげなこと電話一本で知らしてきて腹立ったことよ」

あんちゃん:「お偉い学者さんになるって言ってたすけな」

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あんちゃん:「んだすけ,おらあ大学院まで仕送りしてやったんじゃねえか.百姓なんてのは儲かる仕事じゃねえど」

あんちゃん:「ゴルフ場に土地売る奴もいんども,百姓が土地手放したら,終わりだすけな」

あんちゃん:「言っとけどよ,親父は身体がああだすけ,野良仕事なんかできやしねえ.全部おらが汗水たらして稼いだ金,送ってやったんだすけな」

笑う羽村先生.
あんちゃん:「何がおかしい?」

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羽村先生:「可笑しかねえよ.むしろありがたくて,涙が出ることよ」

あんちゃん:「あんちゃんは偉いよ.いつも言うことは正しいさ」

あんちゃん:「だけど,あんちゃんの方こそ」

あんちゃん:「自分誤魔化してきたんだねえがや」

あんちゃん:「おらあ,おまんとは違う」

羽村先生:「自分のやりてえことあったのに,それをば隠してたねえが?」

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羽村先生:「結婚相手だって,親のいいなりだぎゃや」

羽村先生:「自分の夢,オレに背負わして,親の面倒見てますって被害者面すんのはやめてくれ!」

あんちゃん:「もう一度言って見ろ」

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羽村先生:「あんちゃんはなあ,オレに嫉妬してたのさ.親父がオレのことかわいがるって嫉妬してたのさ」

羽村先生:「それなのに親父の面倒だとか,オレに仕送りしてるとか,そういう,ゆがんだ自己満足にひたって生きてんのさ」

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羽村先生:「悲劇の主人公気取って,同情されてえのは自分じゃねえかよ」

あんちゃん,ここで堪忍袋の緒が切れててしまう.

羽村先生をぶん殴るあんちゃん.

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あんちゃん:「おめえなんかに,農家の長男の気持ちがわかるか.やりてえことやるに,好きなことやりたくて東京に出てった人間にな」

羽村先生:「やりてえことがあったら,家出でもでもなんでもすりゃよかったでねか」

もう一回,羽村先生をぶん殴るあんちゃん.

あんちゃん:「能書きばっか覚えやがって! 意気地のねえくせによ」

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羽村先生にケリをいれるあんちゃん.

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あんちゃん:「クァW背DRF〜!@#$%^&*()」

◻️↑あんちゃん,何て言ってるのかわからなかった.

羽村先生,ここでついにブチ切れて,取っ組み合いの兄弟げんかが.

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◻️⇧ すんません.兄弟喧嘩のベストショットがよくわからなかったです.

棚の扉でしこたま頭をぶつけてしまったあんちゃん.

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我にかえる羽村先生.
羽村先生:「あんちゃん」

羽村先生:「大丈夫?」

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羽村先生:「たんこぶできてねえ? あっちで冷やした方がいいよ」

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救急箱をとり出す羽村先生と,洗面所へ向かうあんちゃん.

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■バス停

羽村先生:「頭,大丈夫?」
あんちゃん:「なあんてことねえよ」

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あんちゃん:「親父には,おらからうまく言っとくすけ」
羽村先生:「ああ」

あんちゃん:「おまんの言う通りかもしんねえなや」
羽村先生:「え?」

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あんちゃん:「悲劇の主人公ってやつさ.けど言っとけど,おら,親父の面倒,いやいや見てるわけじゃねえど」
羽村先生:「ああ」

あんちゃん:「おまんのこともだ.ガキの頃から泣き虫だったおまんが,自分の弟が,かわいくてしんぺいしてんだ」

バスがやって来る.

あんちゃん:「教養ねえすけ,あげな言い方しかできねえけどな」

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羽村先生:「あんちゃん」

バスに乗るあんちゃん.

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出発するバスの中から手を振るあんちゃん.

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見送る羽村先生.

羽村先生,兄を見送ったあと,吉祥寺の映画館へ.

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走る羽村先生.

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■テアトル吉祥寺

◻️なお,映画のタイトルは『THE WAY WE WERE』なのか『追憶』なのかよくわかってないです私.

映画館に到着するが,繭がいない.

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とりあえず下に降りる羽村先生.

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羽村先生,階段の死角に立ってる人にぶつかりそうになる.
羽村先生:「あ,すいません」

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振り返るとサングラスを掛けた少年っぽい子が……

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手を振る少年.

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サングラスを下げてると,繭だった.
繭:「オレ」

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『おー』って感じの羽村先生.

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繭:「行こうぜ」

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映画を見終わって,出口のポスターを眺める繭.
羽村先生:「さてと」

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繭:「海行きたい」
羽村先生:「ええ?」

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羽村先生:「これから行ったら,帰り,夜になっちゃうよ」

繭:「いいじゃない.せっかくの休みなんだから」

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溜め息の羽村先生.

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■北鎌倉駅

で,結局鎌倉へ.

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羽村先生:「なるべく早く帰ろうな」
繭:「うん」

羽村先生の『早く帰ろうな』に,ちょっと不満そうな繭.
羽村先生:「けど,考えてみると久々だなあ」

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羽村先生:「海なんか見るの」

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■鎌倉の海

話しながら砂浜を歩く羽村先生と繭.

繭:「先生の田舎には海ないの?」
羽村先生:「そんなに近くじゃないけどあるよ.けど,太平洋側と日本海じゃ,まったく違う気がするな」

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繭:「どんなふうに?」

羽村先生:「もっと冷たい感じがする.水とか空気の話しだけじゃなくて」

繭:「どっちの海が好き?」

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羽村先生:「そりゃ,新潟の海さ」

繭:「あたしも見てみたいな」

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繭:「ねえ,いつか連れてって」

繭:「連れてけ」
繭,羽村先生を波打ち際に向かって押したり.

羽村先生:「うわ,あ,冷て」

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繭:「連れてくか」
もう一回押したり.

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羽村先生:「わかったよ」

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砂浜に棒で大きな猫の絵を描く繭.

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それをそばで見ている羽村先生.

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その横に……

猫の絵を描く羽村先生.

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靴飛ばし.

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『もう一回』

羽村先生・繭:「せえーの」

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◻️いや,羽村先生の口がwww

羽村先生靴を飛ばし過ぎて波の中へ.

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『あーあ』な表情の二人.

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靴を拾おうとした羽村先生を後ろから押す繭.
羽村先生:「ああ!」

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『こらあ!』な羽村先生.

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遊びに来てるチビさんと山を作って遊ぶ繭と,靴を乾かす羽村先生.

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チビさんのママが迎えに来た.

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チビさん:「ありがとう,バイバイ」

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手を振る繭.
繭:「バイバイ」

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時計を気にする羽村先生.

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それを不満げに見つめる繭.

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■レストラン

夜御飯の二人.

羽村先生:「雨,止みそうもないな」

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◻️羽村先生,やっぱり口にソースかなんかをくっつけてしまうのね.

羽村先生:「これ食べたら帰ろう」

羽村先生:「参ったな,それでも着いたら9時半過ぎちゃうよ」

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羽村先生:「ちょっと傘買ってくる」

不満げな表情の繭.

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繭,窓の外の雨を見る.

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■二宮家

◻️参考情報)時計は2005.

グラス片手に繭の帰りを待つ耕介.

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電話が鳴る.
急いで電話に出る耕介.
耕介:「繭か? いや違います」

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間違い電話だった模様.

■夜の鎌倉の海

繭:「先生」
羽村先生:「ん?」
繭:「あたし,もうちょっと居たいな」
羽村先生:「そういうわけにはいかないよ」

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羽村先生:「もう十分楽しんだろ.僕も楽しかったよ.また今度,機会があったらにしよう」

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羽村先生:「ね,もう遅いし.これから電車に乗ったって,ほら」

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繭:「ねえ,ちょっとその時計見せて」

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羽村先生:「これ?」
頷く繭.
羽村先生:「これ別に普通のだよ」

繭:「そお? 珍しいじゃないの」

羽村先生:「ええ? どこでも売ってるけどなあ」
繭:「いくらしたの?」

羽村先生:「これ,学生の時買ったやつだからさあ.これ」
羽村先生の腕時計を手にした刹那……

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海に向かって……
羽村先生:「え?」

思い切り腕時計を投げ放ってしまう.

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羽村先生:「な!?」

羽村先生:「何するんだよ!」

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羽村先生:「どうしてこういうことするんだよ!」

繭:「だって……時計ばっかり見てるんだもん」

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繭:「帰りばっかり気にしてるんだもん」

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羽村先生:「悪かったよ」

羽村先生:「けど,だからって,捨てることはないだろう」

繭:「帰りたくないの.一緒にいたいの」

繭:「先生とずっと一緒にいたいの」

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羽村先生:「わがまま言うなよ.そんなこと,できるわけないだろう」

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繭:「どうして?」

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繭:「どうしてダメなのよ! 先生だから? あたしが生徒だから?」

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羽村先生:「わからないこと言うなよ」

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繭:「あだし,今日は帰らない!」

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◻️いや,誰が何といおうと,『あだし』って言ってる(異論は認めない

羽村先生:「いいかげんにしろよ」

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繭:「一人でも帰らない」

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羽村先生:「いい加減にしろ!」

羽村先生:「ならもう勝手にしろよ」

羽村先生:「先に帰る」
傘を繭の方に投げて一人先に行く羽村先生.

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一人残される繭.

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羽村先生が置いて行った傘を……

海に向かって投げる繭.

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飛んで行く傘.

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■北鎌倉駅

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御婦人が落とした傘 ↑ を拾って渡す ↓ 羽村先生.
御婦人:「あ,どうもすいません」
羽村先生:「いえ」

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◻️参考情報)時刻は2227.

改札前で繭が来るのを待つ羽村先生.

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それから一時間以上経過……

終電の時刻(2341)を確認する羽村先生.

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時計は2338.

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駅周辺を確認する羽村先生.しかし,まもなく終電が到着する.

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切符を購入する羽村先生.

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羽村先生,改札を通ってホームへ.

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終電車到着.

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羽村先生の脳裏を繭の言葉がよぎる.

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『一緒にいたいの……先生とずっと一緒にいたいの』

思い出した繭の言葉に揺れる羽村先生.
羽村先生:「教師だぞオレは」

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動き出す終電.

電車に乗らなかった羽村先生.

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消灯するホーム

改札に戻る羽村先生.

改札を出ると……

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券売機の脇にしゃがみ込んでいる繭が.

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羽村先生に気付く繭.

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立ち上がって……

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繭:「ごめんなさい.壊れちゃったみたい」

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腕時計を差し出す繭.

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黙って自分のコートを繭に掛けてやる羽村先生.

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■旅館

繭と羽村先生,鎌倉で泊まる.

旅館の人:「お二人様ですね」

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羽村先生:「あ,いえ」
旅館の人:「は?」

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羽村先生:「あの,できれば別々に」
旅館の人:「あいにく,お部屋の方はひとつしかご用意できないんですが」

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繭が家に電話している.

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耕介:「誰といるんだ」

耕介:「友達だろ.友達のうちに泊まると言うんだろ」
繭:「違うよ」

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繭:「好きな人と……好きな人と一緒にいるの」

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繭:「あたし……先生と一緒にいるの」

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耕介:「繭」

立ち上がって電話を切る繭.

耕介:「待ちなさい」
切れる電話.

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ショックを隠し切れない耕介.

■旅館

旅館の人:「それではどうぞごゆっくり」

羽村先生:「どうも」

部屋にひかれた布団を見る羽村先生.

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髪を乾かす繭.

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◻️なにかこう,覚悟を決めたような表情にも見える.

繭のコートをストーブの前に掛ける羽村先生.

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羽村先生:「お父さん,なんて?」

羽村先生の腕時計を手にしながら話す繭.
繭:「うん.友達のウチに泊まるって言ったから」
羽村先生:「ああ」

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繭:「昼間のこと,約束だよ」

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羽村先生:「うん?」
繭:「田舎へ連れてってくれるって」
羽村先生:「ああ」

繭:「先生の育ったうちも見たいな」

羽村先生:「古い農家だよ.このあいだ,少し改築したらしいけど」

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腕時計を枕元において,

右手の小指を差し出す繭.

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羽村先生:「わかった」

羽村先生:「約束な」
指切りを交わす二人.

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繭:「このままでいい?」

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繭:「切るのヤだから」

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羽村先生:「ああ」

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何か言いたげな繭.

繭:「夢って……見る?」

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羽村先生:「夢.ああ,けど,ここのとこ疲れてて見ないや.見てるんだろうけど,起きると忘れちゃうよ」

繭:「あたしね」
羽村先生:「うん」

繭:「あたし,よく,見る夢があるの」

繭:「夢の中でね.あたしは,眠ってるの」

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繭:「とっても静かで……暗くて……あたしは,眠ってるの」

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繭:「そのうち……夢の中のあたしは,目が覚めるの.けど……ほんとのあたしは,眠ったままで……誰かを呼びたいけど……声がでなくて……だんだん……息が……苦しくなるの」

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指切りした指を離して寝返りを打つ繭.
とっさに繭の左手をつかむ羽村先生.

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手を握り合う二人.

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繭が羽村先生の方に顔を向ける.

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『大丈夫』という感じで,両手でしっかり繭の手を握る羽村先生.

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羽村先生の両手に右手を添える繭.

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繭:「この前,言ったでしょう」

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繭:「人間は……」

繭:「三つの顔があるって」

羽村先生:「ああ」

繭:「他人が知ってる自分」

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繭:「自分が知ってる自分」

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繭:「ほんとのあたしを知っても,嫌いにならないでね」

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繭の右腕の傷跡に頬を付け,

傷跡にそっと口付する羽村先生.

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目を閉じる繭.

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動き出す腕時計の秒針.

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掛けていた羽村先生のコートが繭のコートの上に落ちてかぶさる.

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例えばそれがどう思われようと,例えばそれでどうなろうと,彼女を愛おしいと思う気持ちは変わらないだろう.僕は彼女を愛していた.

02月08日(月)

■教職員の下足室

朝,学校に訪れる耕介.

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新庄先生が降りてくる.
耕介が新庄先生に職員室がどこかを訊ねる.
耕介:「あの,職員室は」

新庄先生:「ええ,二階あがって,奥ですけど」

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耕介,職員室に向かう.

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新庄先生:「いや,あの」

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■北鎌倉駅

大仏キーホルダー.

朝,帰りの電車を待つ羽村先生と繭.

もう一個取り出す繭.

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羽村先生,腕時計を見ようとするが……

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……昨日のことを思い出して『いや,時間は気にしてないよ』のそぶりで腕を引っ込める.

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それを見た繭,羽村先生の左腕をつかんで顔のそばにグイっとやる.

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サングラスを外して,時間を確認する羽村先生.

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入ってくる電車を確認する二人.

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電車が来た.

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生あくびのふたり……

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……の前を電車が.

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◻️いや,別にどうでもいいですけど,電車の向こうに二人がちゃんと写ってる一コマを探すのに苦労しましたっていう.


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