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青むまで 2020年

銀のスプーン
            胡桃
 
花わさび終の棲家の窓そうじ
ものを知るさびしさ知らず天花粉
沙羅の花いちにちの傷なめる夜
郭公やひとり紙漉く山の人
天の川氾濫のよう八ヶ岳
山ほどの罪滅ぼしや雨蛙
落し文しずかに喋る人が好き
トラノオの星々あつめ山歩き
白木槿息子がつくる参鶏湯
朝顔や汚れ取れない白い足袋
呼ぶ声に知らんぷりして大花野
茜さす空気をたべて鹿の鳴く
今朝の秋原稿用紙白いまま
白鳥来る銀のスプーン落とさずに
初雪や囁くように舟が出る


庭仕事
 
庭のアナベルは重たいほど白い花を咲かせ
大きなクルミとモミジの木の下には
自然に生えた野草園
家は山の中にあるので
通りすがりに覗く人もいない
通るのは熊と鹿ばかり
草を刈った庭を眺めるのはうれしい
これってなにかと似ている
そうだ 書くことかもしれない
詩や俳句を書く
別にやらなくてもいいことだ
でも、自分で気に入ったものが書けると
ほんの一瞬 胸に風が通る
書くことも庭もいい趣味だ
お金がかからないと嘯く
パソコンがあればいい
(でも、本を買ってしまう)
スコップと剪定鋏があればいい
(でも、種と苗にお金はかかる)
庭の手入れをしている人たちを見かける
あの人も詩人だと思う
どんな小さな庭でもその人の詩がある
美しさは一瞬で
なまけると草ぼうぼうになり
身体はぼろ雑巾のようだけど
死ぬまで一輪の花を咲かせたいと
詩人であるガーデナーは
夢見るのだ

※山の家の本棚から出てきた。いまは「海程香川」に投句していないけれど、「海程香川」の方たちが花巻、遠野に吟行に来てくれたことがあった。代表の野崎憲子さんはじめ関西圏の人だけでなく、九州の方、ニューヨク在住の月野ぽさん等の俳人が来てくれて、実に楽しい2泊3日だった。

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