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第9話 メデタの父

「そうなんですか?まさか目から出る涙が昆虫の人化を抑える効果があったなんて!」

「そうなんじゃ。しかもデターの姿に戻ったのは良いんじゃが、言葉はそのまま話せとった。不思議じゃ。」

「えぇ?!覚えた言葉はそのままで昆虫に戻ることが可能という事ですか?これは世紀の大発見かもしれませんねぇ博士!」

「あぁ、これはまさに大発見じゃよ‼︎
そうじゃ、アイちゃん。メデル君の培養液の予備はあったかのぉ?メデタ君が戻ってきたら必要じゃろうから用意しておいてくれるか。」

「はい!かしこまりました。」

「わしはメデタ君に頼まれたあの苗木の準備をしてくるんでな。」

「はい。では私はメデリコ豚の他の飼料を頂いてこの子達を小屋に連れて行きます。」

「あぁ、承知した!」

そう言ってアイとマーブル博士は給仕室を出て行った。

その頃デターの姿のメデタは仲間達の元に戻っていた。大小合わせて100匹以上の仲間達に囲まれる様にしてその中心でみんなに必死で演説をしていた。

「同志達よ!聞いてくれ‼︎
やっと我らの出番がやって来た‼︎
あの言葉の役目を果たす時が来たのだ‼︎」

オーーー‼︎オーーーー‼︎オーーーーー‼︎

メデタの話を聞いているオスのデター達は興奮して士気が高まっている。

「我らは今までどんな事があってもたくましくそして辛抱強く子孫繁栄を繰り返して進化して来た!それも全ては人類と地球を救う為にここまでやって来たのだ!!」

オーーーーー‼︎オーーーーー‼︎オーーーーー‼︎

オスのデター達の興奮はさらにヒートアップしている。

「私の任務遂行中に出会った人間はとても優しくて素晴らしい女性だった!人間の知識や言葉を教えてくれた。そして我らに新たな名前を与えてくれたのだ!
我らはもうゴキブリなどではない‼︎
古くから人間に呼ばれて来たあの忌み嫌われて来た害虫ゴキブリの時代はもう終わりだ‼︎

我らは害虫なんかじゃない‼︎

我らの新たな呼び名は『デター』‼︎

そして僕の名は『メデタ』‼︎
その人間の女性が付けてくれた名前だ‼︎」

オーーーーー‼︎オーーーーー‼︎オーーーーー‼︎

「メデタ様ーー‼︎ 素敵~~‼︎」
更に士気が高まる男デター達の雄叫びの中には女デター達からの黄色い声援が聞こえる。

「声援ありがとう‼︎
私の話を聞いてくれてありがとう‼︎

同志達よ‼︎本題はここからだ‼︎
我らがどうやって人類と地球を救うのかと言う話を聞いて欲しい‼︎」
メデタは仲間達にメデルマネー・Dの話を事細かく説明した。

説明が終わるとデター達はしーんと静まり返った。と思ったその時。

「おっしゃーー‼︎」
「へぇ~!そんなんでええんかいな‼︎」
「もう人間に殺されなくて済むんだね‼︎」
「でも本当にそんな事が可能なのかしら?」「そうだそうだ!人間はわしらの敵だ!俺たちにとっちゃ恐ろしい悪魔だ!」

メデタの話には賛成する者もいれば反対する者の声もあった。

「みんな!よく聞いてくれ‼︎
賛成する者、反対する者があって当然だ!
なぜなら我々は今、救おうとしている人間に長い歴史の間、ゴキブリという害虫と呼ばれ迫害を受けてきた‼︎
だがそれでもまずは僕の事を信じてくれないか‼︎先程僕が説明した通り、メデルマネーという通貨は唯一、人類と地球とそして僕らをも救う通貨になりうるんだ!もしそれが人間に受け入れられれば、もうゴキブリという害虫などと迫害を受ける事は無くなるんだ‼︎
そう!やっと、やっと我らの価値に時代が追いついて来た‼︎我らが役に立てる時代がやって来たんだ!だから‼︎」
メデタは身体を地面にペタッと貼り付けて土下座をした。
「どうかこの通りです‼︎僕の事を信じてください‼︎」
メデタは頭を地面に擦り付けるようにして仲間達に懇願した。

そこに1匹のデターがメデタに近づいてきた。
「私はお前を信じている。」

メデタはその声の主を見上げた。
「父さん。」

そのデターはメデタの父親だった。
父親は周りを囲むように見ている仲間達に話しかけた。
「みんな!私の息子は命をかけて人間の元へと潜入し我らの新たなる道を導こうとしている!息子の話が真実ならば代々伝わる『あの言葉』を実現する事が出来るのではないだろうか!
どうかこの通り!私からもお願いします!息子の事を信じて下さい!」
メデタの父親はメデタの隣で頭を地面に擦り付けて深く土下座をした。

「父さん!ありがとう。」
そう言ってメデタも再び父親と共に土下座をした。
「親が子を信じなくてどうする?誰が何と言おうと私はお前を誇りに思っているよ。」
父親は土下座をしたままメデタにそう言った。

「総長!あなたに土下座されたら何も言えませんよ!どうか頭を上げて下さい!」

「そうですよ!疑ったりしてすみませんでした!メデタさんが総長の息子さんだったなんて知らなくて。」
さっきまで反対派だった2匹のデターが恐る恐る父親に近づいた。
メデタの父親はなんとこのデター集団の総長だった。

「あぁ、良いんだよ。身内からそう言う意見が出る事は分かっていた。想定内だったよ。
息子を送り込んだのは私だ。命をかけて潜入させ、そして結果を出した。そんな息子を信じない理由など無いだろう?違うかい?」

「はい!その通りです!どうもすみませんでした!」
2匹のデターはそう言ってカサカサと逃げる様にその場を離れて行った。

こうしてメデタの話は無事に仲間達全員の賛同を受ける事が出来たのだった。

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