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劇団太陽マジック 改め TAIYO MAGIC FILM @taiyo_majic を初めて観たとき「テレビブロス」に書いたレビュー


劇団太陽マジック『ゆらり2015』

【初出「テレビブロス」2015年7.4→7.17号】


 カーテンコールのあと、面識の

ある演出家や出演者に顔を見られ

たら恥ずかしいくらい涙がとまら

なくなり、逃げるように帰宅した。

 劇団太陽マジック。聞いたこと

のない劇団名だった。全裸の股間

を一枚のおぼんで隠して歩き回る

『丸腰刑事』でおなじみの芸人、

アキラ100%さんの役者ぶりを

確認するためだけに劇場へ向かっ

た(私は先日までアキラさんと同

じ芸人事務所に所属しており、先

輩後輩の義理でチケットを買おう

と思ったという側面は否めない)。

 作・演出をつとめる元お笑い芸

人の西条みつとしさんにもお世話

になっており、コメディなんだろ

うという先入観を持って見始めた。

予想に反してお笑い方面にはむし

ろストイックな作風だった。笑い

をとることに対しての美意識を伝

えるシーンこそあるが、控えめだ。

 ナレーション多めの演出ルール

に慣れるまでには戸惑いもあった。

私が好んで観ている「声を張らな

い俳優」系の舞台とはちがって、

盛り上がりのための音楽も流れる。

 作品『ゆらり2015』は20

13年に上演された第5回公演の

再演らしい。「ゆ」「ら」「り」

の1文字ずつにちなんだ3つのス

トーリーをお届けしますと、冒頭

で宣言される。アキラさんは「ゆ」

のパートに登場。三谷幸喜作品を

思わせる、ちょっとしたボタンの

かけまちがいが取り返しのつかな

いことになっていくシチュエーシ

ョンコメディ。アキラさんは行き

別れの娘に会いにきてしまった父

親という役柄であり、お笑い芸人

界で「行き別れ」はあまりにオー

ソドックスなネタなので困惑する

気持ちもあった(私に十年以上会

えてない息子がいるせいもある)。

 驚くことに「ら」のパートは朗

読劇だった。役者たちが手に台本

を持って朗読することでストーリ

ーを伝えていく。再演という事実

をこの時点で知らなかった私は、

「稽古がまにあわなかったのか?」

と思った。あとになって考えると、

お笑いライブでは、漫才をやる芸

人がコントや歌ネタにも挑戦する。

演劇の中に朗読が出てきたら駄目

という法律はなく、その自在さが

「元・芸人」の身上かもしれない。

 そして「り」のパートで再び演

劇に戻る。どうやら3つのパート

がすべてつながっていて、じつに

祖母・母・娘と三代にわたる壮大

なクロニクルが語られていると気

づくのに、少し時間が必要だった。

 その脚本の熱量といったら!

戯曲が何度か映画化されているヨ

ーロッパ企画や、演劇出身で今で

は国民的脚本家兼映画監督となっ

た三谷幸喜以上ではないかとさえ

思った。藤子・F・不二雄のSF

を好きな知人には絶対おすすめで

きると思い、実際すすめてみたら

「大傑作。3回号泣した」そうだ。

 私の心の揺さぶられ加減は、既

存のだれかの作品を例に出せない

くらいだった。「もしもあのとき

別の選択肢を選んでいたら」と、

人生で悔やんだことのある人すべ

てに観てほしい感動のストーリー。

映画化されていいし、いくら大ヒ

ットしても驚かない。(枡野浩一)


団体名も新たに、新作公演が近々予定されているそうです。
公式サイト http://taiyo-magic.com
http://eplus.jp/sys/T1U14P0010164P0108P002169172P0050001P006001P0030001


もしお役に立ちそうな記事があれば、よろしくお願いします。