沼男は誰だを経た安元楽というPCについて

この先クトゥルフTRPGシナリオ「沼男は誰だ」の
シナリオについてネタバレを含みますので履修されていない方の視聴はゆるりとご遠慮申し上げます。

箇条書きに近い文章の綴りとなりますのでまともな文章は期待しないでください。







安元楽という男は至って平凡な男であった。
 
当たり障りのない人生の中で出会ったオカルトという存在だけが
彼を非日常たる生活へと誘ってくれる唯一の固執する存在だった。
 
幼少期にかの英国で見かけた妖精と思わしきものに出会ってからというもの
彼の人生の主軸はオカルトで支えられてた。
そして、そこに共感を得ようという友人も作ろうとはしなかった。
彼にとって、それらは神聖であり人間の不可侵であるべきものであり
介入するというよりも、その存在を認識し続ける事こそが人間に許された特権だと信じてやまなかった。
 
 
あの、帰国してふらりと立ち寄ったコンビニでの出来事との出会いまでは。
 
最初は何かの冗談なのか、障害を抱えた人に出会ってしまっただけなのかと思っていた。
宗教に傾倒していると教えてもらったコンビニ店員の葉山さんと電車に揺られ、会話をしながらチラリと目を向けると物珍しげに外を眺める女性、田端櫻子が佇んでいるだけだった。
 
何も分からぬまま連れて行かれたある一軒家、そこには自身にとっての不可侵領域が踏み込んで来いとばかりに口を開けて待ち構えていた。
同じ顔をした田畑櫻子がもう一人、そして人ならざる力によって片方がねじ伏せられ血肉が飛び散る非日常が目の前に。
そして新たに出会った一軒家の周囲を歩き回る隼人さん、そしてこの出来事の最大の被害者と言っても過言ではない隼人さんのご友人、宗明さん。
正直彼は宗明さんが非日常へと巻き込まれた当事者して酷く羨んでいた、その手の模様は一体どうやって?
あの部屋の隅から音もなく出現した大きな得体の知れない犬のような存在は一体なんなのだろう!
あぁ、私がありとあらゆる方面から調べてきた伝承や言い伝えにはどれも存在しないものしかいないなんて!!
 
右を見ても左を見ても今まで見ることのなかった彼の知らない世界が広がっていて、罪悪感を覚えつつも彼を高揚感で溢れさせた。
 
 
ブローカーと呼ばれる女性との会話の中で櫻子という人ならざる存在に値段をつけることは多少憚られた。
本来この人を人間世界の通貨と比較させようというのがそもそもの間違いなのだから。
なのであの時彼が提示した金額の訳は「人間であるブローカーが納得するだけの金額」という理由に他ならなかった。
あと、女性を殴るというのも本当に憚られたがこうするしかなかったのだ。
彼は本当にただの人間で、年下の他の4人の盾になることしかできないのだから。
帰る直前にブローカーたちの紐(ホース)を解いたのは、単にすみませんと身動き取れずにブローカー達が餓死でもして捕まりたくなかった一心での行動だった。
あわよくばナイアという男とは仲良くなれたら良かったのにと少し悔しい思いもあったがあくまで当事者は宗明君であり自分自身は巻き込まれた人でしかないのだと思うことしかできなかった。
 
 
帰りのファミレスで櫻子から聞いた沼男という存在、そしてそのような存在が周囲にいる事実は喜ばずにはいられなかった。
人間側が認識してないだけで、身近に非日常が潜んでいるなんて!
当事者ではないにしろその事実を聞けただけで彼は年甲斐もなくはしゃぎたい気分だった。
生まれて35年という短くない月日が経ったにせよ、生きているうちに知ることができたのだ。
彼が次に英国へと出張する際、より一層オカルトへの造詣を深めさせないとという義務感すら湧き上がった。
 
そして、この時辺りから彼の中では田畑櫻子という沼男でありながら至極人間らしい振る舞いをするこの存在への対応が本来するべきだった対応と異なっていきつつあることを自覚していた。
自身の中のオカルトへの信条はあくまでも不可侵であるべきと思っていたのにいざ関われるとなると今まで溜め込んできた関心が尽きないのだ、これは非常にまずい事だということも重々承知していた。改めて自分はどうしようもない欲に忠実な人間だとも痛感した。
田畑櫻子という存在は沼男という自覚をしている以上どうしようもなく沼男でしかなくそれ以上でもそれ以下でもないのだ。
 
 
元の田畑邸に着いたものの、いざ櫻子をナイアに引き渡すかと決断を迫られた時、彼は何も進言しなかった。
なぜなら彼は当事者でないのだから。
これの決定権は宗明君にあると信じてやまなかったから。
だから宗明君が引き渡すと言った時それが最善だと思っていたのだ、葉山さんが行動するその時も、ずっと。
 
そして交渉が決裂したと理解した時に、彼はこの人達を守るべき立場なのだと本能で理解した。
なぜなら自分は人間であり、年下の彼等を守るのは当たり前なのだから。
とはいえ人ならざる存在と思しきナイアという男からみんなを守るのはとても困難だった。
殴りかかってもすり抜ける感覚を味わい、瞬きの合間に宗明君達に近づかれてしまい、見えない攻撃に興味を持つどころではなかった。
あぁ、やはり超常的存在と人間は対等に戦えないのかとも月刊ムーを振りかざしながらぼんやりと思っていた。
 
 
その最中で、ナイアの攻撃を受けた直後に聞こえた葉山さんと隼人君の悲鳴に近い声の先で宗明君の生死の境を彷徨っているのだと理解した時にもうなりふり構っていられなかった。
彼を死なせてはならない一心で押し込んだ心臓が動き出した時、あぁ良かったと心の底から安堵して、そして意識を落とした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 どれほど倒れていたか覚えていない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  以下、KPからの個別連絡を元にPLが記入した当時のメモの抜粋
 【前後の記憶はない】
 【櫻子は頑なに後ろを見せてくれなかった】
 【それに対して楽も特にどうとは思わなかった】
 
 
 
長すぎる気絶から覚醒し櫻子から誘われダイニングに入った時、全員の視線の違和感には気付いた。
 
なぜ一人で廊下に倒れ伏したままだったのかなど、気になる事柄はままあったものの
なんせ記憶があやふやなのだ、思い出せない事態には対応のしようがなかった。
 
葉山さんと談笑しながら飲んだ紅茶は死にかけた身としてとても美味しいものだったらしい。
美味しいですか?と問われたお煎餅も年甲斐もなく元気に美味しいと答え、胃袋を満たした。
 
 
 
 ばちん
 
 
 
しかし、食事とは違う何かが彼の中を満たした気がした。
 
 
地下に降りてよしひこと対峙した時、彼の中には怒りしかなかった。
如何に非日常的な存在であろうとも自ら撒いた問題はどうにかしてくれと思っていたからだ。
特に女性を蔑ろにするのは、英国紳士被れとしては端的にいうと理不尽にむかついた。「人間」として
だから、ここで櫻子というどうしようもなく沼男である彼女を人間に近い存在として生きてもらうことを提案した。
純粋に新たな世界を経て受肉された存在を遺憾なく駆使して生きてもらうために。

説得の甲斐あって頷いた彼女へと伸ばした手は、みるも瞬く間に泥のように崩れ始めた。
手だけではなかった、足元も、口も、視界も、身体が崩れ落ちていく。


後ろを振り返り葉山さんの無事を確認したかったかもしれない
下の階へと降りていった隼人君や宗明君の無事も祈りたかったかもしれない
それでも彼は思考することを許されず崩れてしまった
 
今際の際に網膜に焼きついた、目の前の櫻子さんの泣き笑った表情を見た感情だけが安元楽としての最期の感情として残った
 
 
 
 (あぁ、彼女が幸せそうでよかった)
 
 
                                           安元楽としての人生、これにて閉幕

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