見出し画像

第32回はり師きゅう師(鍼灸師)国家試験【午後問題】解答・解説

東洋医学概論

問題 91

未病の概念について適切なのはどれか。
1. 人体と自然は相応している。
2. 心と体は一体である。
3. 人体は有機体として機能する。
4. 健康と疾病は連続している。
 
解答:4
東洋医学では靱帯を構成する組織・器官はそれぞれが単独で存在するのではなく、有機的な統一体として相互に協調・依存し合っている。この見方は、生理的な機能だけでなく病の進行においても重要である。これは「一元的健康観」と呼ばれ、健康の程度には高い状態から低い状態まであり、それが低下すると疾病の状体に至るという連続的な見方をする

問題 92

狭義の神の働きでないのはどれか。
1. 思惟活動の維持
2. 精神活動の制御
3. 生命活動の維持
4. 外界刺激に対する情動反応
 
解答:3
神とは広義では生命活動の総称、狭義では精神、意識、思惟活動を指す。

問題 93

本虚標実証に含まれるのはどれか。
1.肝鬱気滞
2.肝陽上亢
3.肝火犯肺
4.心肝火旺
 
解答:2
本虚標実とは本質的には体質が虚しているところに病邪が表面化して存在している病証である。そのため虚実挟雑となる。肝陽上亢では、肝腎陰虚と同時に気滞症状および肝火上炎が発生する
肝鬱気滞は実証で気滞と情志の失調がみられる。肝火犯肺は実証で気滞と情志の失調に加え鬱熱や肝火上炎がみられる。心肝火旺では実証で気滞と情志の失調と心火亢盛がみられる。

問題 94

衝脈・任脈・督脈のすべてと密接な関係にある奇恒の腑の機能はどれか。
1.月経を主る。
2.肢体を支える。
3.情報を伝達する。
4.生命活動を主宰する。
 
解答:1
寄恒の腑には、女子胞、骨、髄、脈、胆が含まれる。また、胆のみ腑にも属する。督脈や任脈の起こりは胞中、衝脈は胞宮から起こり、胞中や胞宮は女子胞のことである。つまり、それに女子胞に相当する臓器は子宮であり、月経をつかさどるといえる。

問題 95

経絡の概要について正しいのはどれか。
1.経脈の循行は上焦から起こる。
2.経別は別行する正経である。
3.奇経は表裏関係をもつ。
4.絡脈が集まったものを浮絡という。
 
解答:2
経別は別行する正経といわれている
1.経脈の循行は中焦から起こる。
3.奇経には表裏関係はない。
4.皮膚表面のことを浮絡、絡脈が放散した状体で存在する細かい脈を孫絡という。

問題 96

顔の望診で色を判断できない場合に用いる皮膚の部位はどれか。
1.腹部
2.前腕前面部
3.背部
4.下腿後面部
 
解答:2
望診において、五色をみる際、顔面や前腕(尺沢穴~孔最穴)のあたりで行うとされている。黄帝内経『霊枢』第七十四に脈膚診として書かれている。

問題 97

陰器(生殖器)に集まる経筋はどれか。
1.手の三陰経筋
2.手の三陽経筋
3.足の三陰経筋
4.足の三陽経筋
 
解答:3
足の三陽の経筋 足に起こり鳩(頬)に結ぶ。
足の三陰の経筋 足に起こり陰器(生殖器)に結ぶ
手の三陽の経筋 手に起こり角(側頭部)に結ぶ。
手の三陰の経筋 手に起こり賁(心下付近)に結ぶ。

問題 98

長夏の病邪で生じやすい症状はどれか。
1.けいれん
2.大量の汗
3.激しい口渇
4.下肢の浮腫
 
解答:4
長夏とは現代日本の梅雨の時期にあたり、湿邪の影響を受けやすい
五行色体表でも確認できる。
春ー夏―長夏―秋ー冬、
肝―心――肺―腎、
風―暑―湿―燥―寒
ここから脾の湿証であることがわかる。
とくに脾胃湿盛、脾陽虚、腎陽虚では下腿に浮腫が起こりやすい
されている。

問題 99

三毒説と関係するのはどれか。
1.疫癘
2.心労
3.打撲
4.運動不足
 
解答:3
三毒説とは、血毒、水毒、食毒に分類される。血毒(悪血)とは月経障害、打撲、熱性病による溶血などによって生じた非生理的な血液のことである。水毒とは体内の水分が代謝障害により偏在を来した水や、病的浸出液、異常な分泌液などのことである。食毒とは飲食物や大便が消化管内に停滞し宿便となって自家中毒を起こすものである。

問題 100

五行色体で相剋関係にある組合せはどれか。
1.噫―――羽
2.収―――肌肉
3.麦―――羊
4.石―――色
 
解答:1
下の色体表で確認してわかるように噯と羽は相克関係にある。
五病 語――呑―咳―欠
五音 角―徵―宮―商―
五能 生―長―化―収―蔵
五体(五主) 筋―血脈―肌肉―皮毛―骨髄
五畜 鶏―羊―牛―馬―豕
五穀 麦―黍―稷―稲―豆
五脈 弦―鈎(洪)―代―毛―石
五役 色―臭―味―声―液

問題 101

次の文で示す経脈病証はどれか。「55 歳の女性。 3 週間前に肩の上部から上肢後面が痛み始めた。 1 週間前から耳の後ろと目尻が痛む。汗をかきやすい。」
1.手の太陰経
2.手の少陰経
3.手の太陽経
4.手の少陽経
 
解答:4
手の少陽三焦経の経脈病証
耳後・肩上・上肢後面の痛み、第4指麻痺、目尻・頬の痛み、難聴。咽頭、咽頭炎症、
汗の症状が出るのは手の少陽三焦経だけである。

問題 102

次の文で示す三陰三陽病証はどれか。「全身の冷え、悪寒、下痢、嗜眠を呈し、抵抗力が弱く、身体が衰弱している状態。」
1.少陽病
2.太陰病
3.少陰病
4.厥陰病
 
解答:3
六経病『素問』 太陽経病→陽明経病→少陽経病→太陰経病→少陰経病→厥陰経病
三陰三陽病『傷寒論』 太陽病→少陽病→陽明病→太陰病→少陰病→厥陰病
六経病と三陰三陽病では陽明病と少陽病の順序が異なる。
傷寒論によると、三陰三陽病の少陰病では「少陰の病たる、脈微細、ただ寝んと欲するなり」とあり、脈微細沈、全身の冷え、悪寒、下痢、嗜眠となる。稀に顔面紅潮、喉の痛みが発生する。また、心腎の機能が低下する。

問題 103

次の文で示す病証でみられる便秘はどれか。「34 歳の女性。半年前に仕事を辞め、新しい仕事を探しつつ、夜中はテレビゲームで遊んでいることが多い。噯気が頻繁に起こり、腹部の膨満感を伴う。」
1.熱秘
2.気秘
3.虚秘
4.冷秘
 
解答:2
熱秘は実熱による便秘、気秘は気滞による便秘、虚秘は血虚による便秘、冷秘は陽虚による便秘。問題文では噯気や腹部膨満があるため気滞による気秘だと考えられる。

問題 104

次の文で示す病証で最も適切なのはどれか。「32 歳の男性。 5 日前に雨天の中、長時間の歩行をした。その翌日に微熱と発汗がみられた。現在は、倦怠感と食欲不振、水様便がみられる。」
1.表虚証
2.裏虚証
3.表実証
4.裏実証
 
解答:2
八綱弁証では裏虚証・裏実証で脾陽が損傷されて寒湿が発生する。食欲不振、水様便、腹部膨満、舌淡、舌苔白滑、脈沈遅となる。

問題 105

次の文で示す病証に対する鍼の補瀉手技で適切なのはどれか。「21 歳の男性。昨日、薄着で外出したところ、今朝から悪寒と頭痛を自覚した。咳、痰はみられない。脈は浮緊を認める。」
1.刺入後、押手を揺るがせる。
2.刺入後、細かく鍼を回転させる。
3.呼気時に刺入し、吸気時に抜鍼する。
4.浅く刺入し、後に深くする。
 
解答:1
薄着で外出したことが原因で発熱していることから、寒邪の侵入が考えられ、実寒であることが考えられるため、瀉法を行う
1は瀉法、2~4は補法となるので、1が正答である。

鍼の補瀉(六十九難を除く)
・補法
①開闔 抜鍼後に鍼孔をすぐに閉じる。
②呼吸 呼気時に刺入し、吸気時に抜く。
③迎随 経絡の流注の方向に沿って刺入する。
④徐疾 徐々に刺入し、疾(はや)く抜鍼する。
⑤浅深 浅く入れ、後に深くする。
⑥提挿 刺入したあと力強く素早く押入し軽い力かつゆっくり引き上げる。
⑦捻転 刺入したあと細かく鍼を回転させる。母指を前に出すときに力強く、母指を手前に引くときに軽く捻る。
⑧刺入した後、刺手を震わせて振動させる。

・瀉法
①開闔 抜鍼後に鍼孔をすぐに閉じない。
②呼吸 吸気時に刺入し、呼気時に抜く。
③迎随 経絡の流注の方向に逆らって刺入する。
④徐疾 疾(はや)く刺入し、徐々に抜鍼する。
⑤浅深 深く入れ、後に浅くする。
⑥提挿 刺入したあと軽い力かつゆっくり刺入し、力強くかつ素早く引き上げる。
⑦捻転 刺入したあと大きく鍼を回転させる。母指を手前に引くときに力強く、母指を前に出すときに軽く捻る。
⑧揺動 刺入したあと、押手を揺るがせる。

問題 106

治法八法で停滞した病理産物を散らすのに最も適切なのはどれか。
1.汗 法
2.清 法
3.吐 法
4.消 法
 
解答:4
消法とは停滞もしくは貯留した病理物質を消耗させることにより除去する方法であり、瀉法のひとつである。素問には「堅きはこれを削り、結するはこれを散じる」とある。

【コラム①】

今回の東洋医学概論は教科書に記載されていないことが問われるなど、やや難易度が高かったのではないかと思います。午前教科の挽回を狙っていた人は、ショックを受けたかもしれません。とはいえ、やはり基礎的な問題も多数出ていますので、基礎問題だけを正解できれば特に問題はないと思われます。

経絡経穴概論

問題 107

経脈の流注で横隔膜を貫かないのはどれか。
1.手の太陰肺経
2.足の太陰脾経
3.足の太陽膀胱経
4.手の少陽三焦経
 
解答:3
足の太陽膀胱経は下のような流注となり、横隔膜は貫かない
手の太陽小腸経の脈気を受けて内眼角に起こり、前頭部を上り、頭頂部[百会]で左右が交わる。頭頂部[百会]で分かれる支脈は、耳の上に行き側頭部に広がる。本経は頭頂部より入って脳につらなり、かえり出て分かれて項を下り、肩甲骨の内側をめぐって脊柱の両側、後正中線外方1寸5分を下り、腰部で脊柱起立筋を通り、腎を絡い、膀胱に属する。本経は、腰から下って、殿部、大腿部後面を下って膝窩に入る。後頸部で分かれたもう一本の支脈は、脊柱の両側、後正中線外方3寸を下り、殿部、大腿後外側を下り、膝窩中央[委中]で本経と合流する。さらに下腿後面(腓腹筋)を下り、下腿後外側、外果後方を通って足の第5指外側端に至り、足の少陰腎経につながる。

問題 108

小腸経の脈気を受けて内眼角に起こる経脈の別絡はどれか。
1. 衝脈
2.督脈
3.陽蹻脈
4.陽維脈
 
解答:3
内眼角に起こるのは膀胱経である。膀胱の別絡を陽蹻脈という
また、陰蹻脈の別絡は腎経である。衝脈は十二正経の海、督脈は陽経の海と、任脈は陰経の海と呼ばれる。

経脈の流注

問題 109

五兪穴について正しいのはどれか。
1.足の少陰経の井木穴は爪甲の際にある。
2.足の陽明経の滎水穴は経脈の末端穴から2番目にある。
3.手の太陽経の兪木穴は原穴と一致する。
4.手の厥陰経の経金穴は手関節横紋にある。
 
解答:2
足の陽明胃経の滎水穴は内庭であり、厲兌に続き2番目でる。
1.湧泉 足底、足指屈曲時、足底の最陥凹部
2.内庭 足背、第2・3足指間、みずかきの後縁、赤白肉際
3.腕骨 手関節後内側、第5中手骨底部と三角骨の間の陥凹部、赤白肉際
4.間使 前腕前面、長掌筋腱と橈側手根屈筋腱の間、手関節掌側横紋の上方3寸

問題 110

要穴で、所属するすべての経穴が足の三陽経のいずれかにあてはまるのはどれか。
1.下合穴
2.四総穴
3.八総穴
4.八会穴
 
 解答:1
「下合穴」―
胆:陽陵泉(胆)
小腸:下巨虚(胃)
胃:足三里(胃)
大腸:上巨虚(胃)
膀胱:委中(膀胱)
三焦:委陽(膀胱)
 
「四総穴」―
足三里(胃)
委中(胃)
列欠(肺)陰経
合谷(大腸)

「八総穴」ー 
陰維脈  内関(心包) ー 公孫(脾)  衝脈
陽維脈  外関(三焦) ー 足臨泣(胆) 帯脈
陽蹻脈  申脈(膀胱) ー 後渓(小腸) 督脈
陰蹻脈  照海(腎)  ー  列欠(肺)  任脈

「八会穴」ー
腑会:中脘(任)
臓会:章門(肝)
筋会:陽陵泉(胆)
髄会:懸鍾(胆)
血会:膈兪(膀胱)
骨会:大杼(膀胱)
脈会:太淵(肺)
気会:膻中(任脈)

ここから先は

14,404字 / 8画像

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?