「週刊プラグインレビュー」Newfangled Audio Saturate
相も変わらずの月末更新であります。
季節の変わり目ということで、夫婦ともども夏バテにやられつつ・・あーもうすぐ夏が来るんだなぁなんて季節になりましたよね。
うまいこと実家に帰るタイミングで夏服をださないと、半そでのレパートリーが全然ないぞぉ・・・。というような近況を過ごしております笑
さてさて、それでは今回もやっていきましょうプラグインレビュー!
今回は最近のアップデートで大化けしたプラグイン、Newfangled AudioのSaturateについて書いていきたいと思います。
Saturateとは?
SaturateはNewfungle Audoが開発したクリッパーのプラグイン。
Newfungle AudioはEventideのDSP開発として15年間のキャリアがあるDanさんがデジタル信号処理と機械学習のテクノロジーを組み合わせたプラグインを提供しているベンダー。
つい先日、Saturateがバージョンアップをして新機能が追加されたことにより大化けしたプラグインだと個人的には感じているので、是非皆さんにご紹介したいと思う。
色々な謎技術が使われているプラグインではあるものの、その論拠になっているのが学術論文から引っ張ってくる話になるため、なかなか説明するのが文系の僕には難しく、、
あくまでも使用感などがメインになるレビューである旨、あらかじめご了承いただきたい。
数学強者の人はこちらの論文を読んでみてください笑
https://www.dafx.de/paper-archive/2016/dafxpapers/20-DAFx-16_paper_41-PN.pdf
そもそもクリッパーって何のために使うのか?
クリッパーとは、基本的には「ある一定の音量を超えたときに、レシオ無限大で信号をコンプレッションするディストーション」エフェクターだ。
なので、クリッパーを使う目的は、通常はピークやトランジェントを抑えることにある。
「え?だったらリミッターでよくないですか?」そんな声が聞こえてきそうだが、構造的な部分の違いから、何を重視するか?でクリッパーのほうがトランスペアレントなプロセスが出来るシーンが多々ある。
メーカーによってリミッター後の後段処理が異なるようなのだが、その後ろのセクションがクリッパーになっているパターンと、アタックやリリースが設定不可能なTruePeakリミッターになっているパターンが僕の知っている限りだとある。
本来ピークを抑えるためだけにダイナミクスセクションを使うのだとしたら設定としてそもそもアタックタイムは必要ないはず。だが、見ればわかる通り概ね最近のリミッターにはアタックタイムの概念がある。
このアタックタイムはあくまでも、レシオ∞のコンプレッサーのアタックタイムとリリースタイムで、そこでうち漏らしたアタックやトランジェントが後段のクリッパーやTPリミッターに入っていく・・・といった仕組みになっている。
なので、クリッパーとリミッターの最大の違いはダイナミクスセクションがあるかないかで理解をするとわかりやすい。
で、このダイナミクスセクションの有無の違いは、そもそも根本的に目指していることが違う、というところがある。
リミッターは、ダイナミクスセクションでギリギリまで信号をリミッティングすることによって、クリッパーや次のステージのTPリミッターに入る信号量を抑えて、なるべくクリーンに音量を上げる、あるいは、ピークを落とすことを目的とされている。
それに対して、クリッパーはスレショルドを超えた信号がもれなく歪んで高周波が付与されていくので、「波形としてはピークをおさえたいが、派手なニュアンスだけは残したいとき」に、ピークをおさえつつ信号が大きいところだけ、ADSRを触ることなく歪ませることができる。
また、ダイナミクスセクションがないことで、時間軸(特にリズム)に対する影響が少ない。
波形のピークやトランジェントを抑えたいという目的は、リミッターもクリッパーも一緒。だけれども、歪を音楽的に使いたいか、使いたくないかでどちらを使うかが変わってくる。
まとめると、考え方としては、
アタックやトランジェントを歪みに変換したければ、クリッパーを。
歪ませずにクリーンに抑えたければリミッターを使えばいい。
さて、そんな前置きをおきつつ、Saturateがどんな機能があるか?を見ていきたい。
機能面
・Anti-Ailiasing
エイリアシングノイズを低減させるボタン。
これをONにすると微分音のハーモニクスを抑えることが出来る。
マニュアルにはEnharmonicと書かれていて、これをどう訳すかでニュアンスが大分変ってくるんだが、異名同音だと意味が通じないので、恐らく奇数倍ではない倍音を抑制する、ということだと思う。多分笑
凄く興味がある技術ではあるものの元ネタになっているとブログで紹介されている論文は数式を読み解かないと分からず・・・。
どうやら信号を微分していくと無限にオーバーサンプリングしているのと同等とみなすことができる技術・・・(Naruki氏談)ということではあるらしい。
・Drive
ラウドネスとディストーションを加えるための入力ゲイン。
最初の12dBはShapeと同じゲインカーヴをたどっていくように設計をされているとのこと。
・Clipper Shape
クリッパーをソフトニーにするか、ハードニーにするかの傾き具合を調整するスライダー。
数値が大きいほど、大きい音がこのカーヴに応じて歪むようになっていく。
ソフトニーにすればオーバードライヴとしてもつかえるし、ハードニー(100%)にすれば、大きい音だけに干渉する先ほど開設したいわゆるクリッパーとして動作するように設定することができる。
・Detail Preservaiton
Saturateのコアになっている機能。
通常のクリッパーが波形のピークを歪ませる際に、ディテールにあたる部分を破壊してしまうが、このDetail Preservationを使うことによってディテールにあたる部分を保持するように設定ができるとのこと。
なので、従来のクリッパーとして使うなら、これは0%で使うと良い。
・Ceiling
クリップさせるための最大音量を決める。
後述するAnti-AiliasingがOFFになっているときは、この値を超えることがないが、オンにすると僅かにピークが漏れることがあるとのこと。
ただ、そういったときのためにアウトプットステージにもう一段ハードクリッパーを持っていて、HardLimitボタンを押すとそれが有効化されてピークを逃がすことがないようにすることが出来る。
HardLimitモードをONにすると、アウトプット段にもう一段ハードクリッパーが追加をされて、より厳密にピークを漏らすことがなくなる。
・Detail Preservation
どのぐらいのディテールを保持するか?のスライダー。
使ってみるとわかるけれど、歪み方をここで調整することができる。
・Symentry
インプットされる波形を上ずれ、下ずれさせることで非対称な歪みかたを調整するスライダー。非対称のサチュレーターとして使うことで、ディストーションとしての奇数倍音だけではなく、偶数倍音を発生させることが出来る。
検証してみる。
正直に言いますと・・・。検証結果と実際に使ってみた感想がここまで一致しないプラグインは初めてといった印象だった。
歪みということで、エイリアスを測定してみよう。
あれ、普通にエイリアスは思いっきりでているぞ?
ただ、ナイキスト周辺で測定をしてみると、こんな感じでうまいこと信号に対して発生しているエイリアスが割り切れる倍音分布の中に隠れていくことが確認できた。
Anti-Ailiasing ON(画像)
Anti-Ailiasing OFF(画像)
恐らく、これが音階と音階の間の微分音という表現になるんだと思うのだけれど、綺麗な正の倍数、負の倍数上の倍音でマスキングをすることによって、エイリアスノイズの妙な不自然さを感じさせない技術なのではないかと推測をするところだ。
(もし数学強者の読者様がいらっしゃいましたら、かみ砕いて教えてください笑)
この測定上からは想像できないけれど、このアンチエイリアスの技術はオーバーサンプリングと似て非なるものではあるので何より負荷がめちゃくちゃ軽く、オーバーサンプリングのローパスフィルターで音がなんか変わっちゃう問題も特にない・・ということで実に優れている。
なんなら、全プラグインこうだったらいいのに・・・と思う次第である。
オススメの初期設定。
参考になるかわからないけれど、僕はこんな風に使ってますのスクショを挙げておきます。
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