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【週刊プラグインレビュー】Acustica / ASH

2022年も残すところ一週間!
皆さんいかがお過ごしでしょうか?

僕の方はというと、例年ほど忙しいわけではないんですが、なんだかんだ年末進行に突入している状況で、「無事年を乗り切れるかなぁ・・?」と少し気をもんでいる状況が続いております。

世間はクリスマス一色になっておりますが、きっとそんな中、Acusitcaからマスタリングエンジニア諸氏にとってクリスマスプレゼントというべき新製品がリリースされました笑

そう、過去の名作ADコンバーターのクリッパー部分を寄せ集めたASHであります。
「こりゃ、クリスマスどころじゃねぇ~~!」と、いうわけで今回もやっていきましょう!
週刊プラグインレビュー!!

ASHとは?

動的なIRの独自技術を持つAcusticaから、ハイエンドコンバーターのクリッピング機能を寄せ集めた製品として、ASHはリリースされた。

これの凄さは、コンバーターを複数経験していないとなかなか理解しにくいと思うので、出来る限り丁寧に解説をしていきたいと思う。

ADでクリッパー?

まず、ご存じの通り、ADコンバーターはアナログからデジタルに変換をするために専用設計された機材のことだ。
で、いわゆる”マスタリングクオリティ”と呼ばれる中でも最上級の機材の中には、一瞬のトランジェントやピークがあったとしても、それをデジタルで送る前にクリッピングをすることが出来るようになっているモノがある。

しかし、この機能自体は、どのコンバーターにもついている・・・というものではなく、以前は本当にトップエンドの機種にしかついていなかった。

一番ポピュラーなものでいえば、
・Lavry
・Prism Sound
といった、基本的には3桁万円を超えるモノたちの専売特許として搭載されていた機能で、最近(2010年あたり?かな?)になって
・HEDD
・Dangerous
・Burl
・Apogee
といったミドルハイエンドにも搭載されるようになった。

なので、フリーで働いていた僕のようなエンジニアからすると、まさに高嶺の花だった機能がついにプラグインになって戻ってきた・・・という感動がある。

しかし、なんでADでクリッパーなんだ?

とはいえ、きっと読者の人の中には、意味が分からない人のほうが多いと思う。
というのも、アナログ信号を取り込むときに、クリッピングさせないというのは基本中の基本。
で、やってみた人ならわかると思うが、たいていの場合その結果は最悪に近い不可逆なディストーションを産み出すことになるからだ。
「なぜ作品の最終工程を司るマスタリングエンジニアがそんな愚行を行うのか・・・。理解ができない・・・。」
そう感じる人がいるのも無理はない。
いまだにアナログのノリでデジタル扱ってんのかよ・・。やれやれ・・。
そんな意見も納得は出来る。

実は、僕もどちらかというとそちらサイドの意見を持っている。
純粋にデジタルという意味では、わざわざADでクリッピングするほどレベルを入れる意味もないし、ホットな信号を扱えば扱うほどTHDが増えるのが、当たり前だからだ。

しかし、THDが増える=歪むこと、ローファイになっていくこと。これが明確にデメリットになるかどうか?はジャンルとその作品が目指している方向性によって変わってくる。

例えば、いわゆる往年のヒップホップであったりRockサウンドは、デジタル的なきめ細やかな精緻さ繊細さのある音よりも、むしろ粗野で迫力のある噛みつき感のあるサウンドが正義とされることがままある。
それは現代に置いても、変わらず必要とされている需要があり、例えばそういうときに、ADクリッピングの機能があるコンバーターを持っていれば、容赦ないホットなレベルでアナログ機材をドライブしてソフトクリッピングをさせた上で、さらに最終段のADコンバーターで歪ませていくことができる。

つまり、迫力あるサウンドを簡単につくれる。
そのガッツ感が求められるシーンというのは、2020年以降であったとしても実際の現場では全然あることだ。
音質が崩れるとまではいかないが、「ダーティーな音が必要で、印象として周波数が満ちているモノが欲しい。少しでも演奏の持つ荒々しさ、熱気を表現したい・・・。」そういう現場では、おおよそそれまでの工程でルール違反とされていきた、ADをクリップさせるという離れ技でさえも正義とされることがある。

その意味では、マスタリングエンジニアがそういうサウンドにも対応することができるのかどうか?は柔軟性を測るひとつのモノサシになる。

だから、今でもLvry Goldであったり、Prism AD-2というのは随分昔のコンバーターであるにも関わらず、我々の業界では依然として特別な存在だと言わざる得ないところがある。

ここまでがADコンバーターのクリッピング機能をめぐる、ある程度の流れだ。

機能面


では、それらをシミュレーションしたASHは一体何が出来るのか?
ひとつひとつ見ていこう。

INPUT:インプットボリューム
BIGKNOB:クリッパーのスレッショルド
M/S Slider:クリッピングしたときにどのようにMSで反応させるか
HARD SOFT KNEE:クリッパーのニーの調整
POST CLIP:クリッピングモジュールの後のゲイン調整
OUTPUT:アウトプットボリューム

X4ボタン:スレッショルドのレンジを4倍にする。
Ceiling:以下のモードをそれぞれ搭載する。
ーOFF
ーSimple(同社Fire the Clipのスタイル)
ーSimple Low Ailiasing(同社Fire the Clipのスタイル)
ーAggressive Limiter
ーAgreesive Limiter+True Peak
ーTransparent Limiter
ーTransparent Limiter +True Peak

リスニングモード
LR:いわゆる標準のステレオリスニング
M:MID成分のみを聴く
S:SIDE成分のみを聴く
Δ(デルタ):オリジナル信号とプロセスされた信号の差分を聴く。
非常に惜しいのが、インプットゲインもデルタに反映されてしまうので、ゲインステージングをここで行うパターンの場合はクリッピングしている歪みのみを聞くことは出来ない。

AUTOモード
ラウドネスマッチングをした状態で、音を聞くことが出来る。
音量が大きくなって騙されるかもしれない部分をここで対策出来る。

半分非公式の元ネタ集

しかし、元ネタが何なのかは気になるところではある。
YellowがLavryなのかな・・?ぐらいの漠然とした把握であったものの、FacebookのAcusticaコミュで非公式ながら元ネタ一覧が更新されたので、ここに貼っておこうと思う。

なるほど・・SはSavtir、OnyXはApogee、PlatinumはBettermakerでしたか・・・。

確かに使ってみるとそんな感じはする笑

分析面

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