Theory:急なALL-INへの対応

    自分:3bb open from BTN
    相手:100bb All-IN from BB

頻出ではありませんが, 多くの人が経験する典型的な状況のひとつだと思います. このようなBBのプレイはGTO理論上は誤りで, どのようなhandを持っている場合でもこのプレイングによりEVを下げてしまうことになります (BTNが適切に対処する前提です).

・BTNはどのような対処をするのがGTOでは正しいのか?
・本当にBBのプレイはどのようなhandの場合でもEVが下がるのか?

今回は, これを(部分的にSolverの力を借りながら)なるべく理論的に分析したいと思います.

★ 前提 ★

・計算を単純化するため, rakeは考慮しないものとします. 【脚注1】
・BTNのレンジは次のようなものを仮定します. 【脚注2】
全部で534 comboとなっています. 

★ MDF (Minimum Defending Frequency) の適用 ★

BBがAll-INを選択する直前に, Potには各プレイヤが次の金額を入れています. 

    BTN:3bb,  SB:0.5bb,  BB:1bb → 合計:4.5bb.

BBが, 本来 Fold すべき弱いハンドで Bluff All-IN を選択した場合の EV を, BB の視点で見てみます. 

    Foldしてくれる → +4.5bb
    Callされてしまう → -99bb

 ※Callされても勝つ場合がありますが, その議論はあとまわしにします.

99 = 4.5 × 22 なので, 1回 Call される間に 22回以上 Foldしてもらえれば, BB が All-IN を選択した場合のEVは正になります.
したがって次の (a) が成り立つならば, (b) も成り立ちます. 【脚注3】

    (a) GTOではBBはFoldするハンドがある.
    (b) GTOではBTNは 1/23 以上の頻度で Call する.

(a)が成り立つだろうことはSolverの解析などにより分かっていますし, (a)が成り立たないとを疑う人も少ないでしょうから, (a)が成り立つことは認めて議論を進めます. 【脚注4】

    分かったこと
        → GTOではBTNは 1/23 以上の頻度でCallする
        → GTOではBTNは 26 combo以上はCallする

ここでいう 1/23 が MDF と呼ばれる値です. 【脚注5】
例えば
    AA(6), KK(6), QQ(6), JJ(6), AKs(4) → 合計28combo
最低でもこのあたりはCallするといえそうです. 

★ Equityを考慮した修正★

MDFは注意が必要な概念で, Potの大きさとBetの大きさから機械的に計算される値をそのまま適用して良い場面もあれば, それよりも高い頻度・低い頻度が適正なこともあります (別記事でも何度も触れることになると思います). 

実現すべきことが何なのかをきちんと考えます. 

    実現すべきこと
        → BBの本来 Fold すべきであろうハンドの All-IN に,
         正のEVを与えない.

今回の状況で, Solverは, BBの次のようなプレイがGTOに近いと判断しています. 【脚注6】

BBが Fold すべきであろうハンドには、例えばA4oがあります. このハンドは上記に挙げた 28comboのrange:AA, KK, QQ, JJ, AKs
に対して26%のEquityがあります (次の図). 【脚注7】

    実現すべきこと
      → BBの Equity 26% のハンドの All-IN に, 正の EV を与えない.

と考えることにします. Equity 26% のハンドを All-IN した場合, Callされても
最終的なPotの大きさの 26% が EV で手元に戻ってきます. All-IN の EV は
    Fold してもらう → +4.5bb
    Call される → -99bb + 200.5bb × 26% = -47bb
のように修正して考えることになります. この数値から先ほどと同様に計算すると, 次のような計算結果が得られます.
    分かること
        → GTOではBTNは 4.5 / 51.5 = 8.7% 以上の頻度でCallする
        → GTOではBTNは 47 combo以上はCallする

ことになります. 例えば
    AA(6)~99(6), AK(16), AQs(4) → 合計56 combo
を Call してみることにしましょう. 【脚注8】
Call レンジを作成できました!

★ 結果の検証 ★

上で求めたように, 
    BTNのCall range:以下の56 combo
      → AA(6), KK(6), QQ(6), JJ(6), TT(6), 99(6), AK(16), AQs(4)
としてみます. これはGTOでしょうか?この戦略がGTOであることを確かめるには, BBがAll-INを選んでも, 本来得られる以上の利益が出ないことを確かめれば十分です. 本来得られるEVについてはSolverによる値を用いることにします. また, All-INを選んだ場合のEVについてはCall頻度とEquityから完全な計算が可能です. 計算結果を並べてみましょう.

※都合により, 1bbが10とした数値が表示されています. 

レンジを作るときに計算した想定の通り, 本来 Fold すべきであったハンドのAll-INのEVが正にならないことが確認できます.
さらに, AAやKKを含めた全てのhandについて, (All-IN EVが正である場合でも)適正にプレイすることで得られていたであろうEVよりも低いEVしか得られていないことがわかります. 

差分をとって, All-INを選択することによるEV lossを図示します.

面白いのは, (今回の状況でBTNにとって最も嫌に感じるであろう)AAやKKこそが, 直接All-INをするという選択によって最もEVを失っているところです. 普通の額の 3-bet であればプレイすべきBTNのハンドの多くに Fold されてしまうことで,  TT や 99 にまでCallしてもらえていてもトータルでは損をしてしまっています.

なお, 今回のレンジが唯一のGTOというわけではありません. 【脚注9】
例えば今回の56 comboに加えて88もcallした62comboのレンジを考えると, BBが AA や KK をAll-INした場合のEV lossが減少しますが, その代わり弱いハンドをAll-INすることによるEV lossが大きくなります. いずれにせよ全てのハンドにとってAll-INが損な選択肢でありさえすれば, GTOであると言えます.

★ まとめ ★

・GTOでは急なAll-INに対して, 本来FoldすべきハンドのEVを正にしないようにCallする.
・PotとBetの大きさから分かるMDFでは不足. PreflopではBluffにも25~30%程度のEquityがあるため, MDFの2倍程度をcallする必要がある.
・Callレンジを決めるのは頻度.
・相手の AA や KK に TT 等でCallして負けてしまうこともあるが, それでも相手がAll-INしてくれたおかげでこちらは平均損失を抑えられている. 

また, 逆の立場になって考えると
・AAやKKを一気にAll-INしちゃうのは損なプレイ.
・45combo程度しかCallしない相手にはA4oはFoldせずにAll-INした方が得.
・30combo程度しかCallしない相手には72oすらAll-INした方が得.

であることも分かります. 特に, 頻度ではなくハンドの強さでcallするかを決めている(例えばQQ+をCallする戦略)ような初心者が CO や BTNなど広いレンジでプレイしているときに, All-INあるいは大きなraiseを行うことは有効なexploitになりえます.

ところで, この手のプレイは25NLや50NLですらたまに見かけます.
適正な量のcallを行えないプレイヤから利益を上げて25, 50NLまで辿りついく攻略法もありうるということなのかも?

★ 関連 ★

 「これこれの56 combo」という結論よりも, それを導出する思考法に重きを置いて説明をしたつもりです. 思考法を理解できた方は, 他の場面でも同様の考え方が使えそうな場面がないかを考えたり, 実際にCallレンジを作ってみて妥当性を検証すると面白いと思います.

例えば次のような問題が考えられます. 

・PositionやEffective Stackが異なる場合で同じ状況になった場合にはどうだろうか?例えば (BTN, 50bb), (UTG, 100bb), (UTG, 50bb) でAll-INされた場合にはどのようなハンドでCallする?

・BTN vs BBで自分がBBから3-bet. 相手に4-bet All-INを返された場合はどうしよう?(あなたが普段使っているsizeやcombo数の3-betを想定する)

・Single Raised PotのFlopでDonk All-INが飛んできたけどどのくらい Call しよう?Flop Donk All-INはどのようなハンドでも間違いになるだろうか?

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【脚注1】rakeを含めても同様の考察は可能です. 興味のある方は試してみてください.

【脚注2】詳細なレンジの形は議論にはあまり関係ないので, そこで神経質にならないでください. 結論よりも思考方法を重視して説明をしていますので, レンジやopen sizeの違いが気になる方は, 妥当だと思うレンジに差し替えて同様の分析を行ってみるとよいでしょう.
一応書いておくと, 私が使っているレンジというわけでもありません. 

【脚注3】(b)が成り立たないとすると, BBは Fold するよりも All-IN した方が得なので(a)に矛盾する.

【脚注4】(a)を証明するのは難しいと思います. 少なくとも「GTOではFoldするハンドが存在するのは当たり前でしょ」とはいきません. 
例えばBTNのopen sizeが1.0001 bb openならBTNのrangeがAAのみであっても全てのハンドがCall以上になるでしょう. またHUではeffective stackが2.5bb程度であれば, SBのAll-INに対してBBは全てをCallするのが正しいです.
少なくとも定量的な計算を伴った議論をしなければ証明できない命題ということになりますね. Solverなしで証明を与える方法に関してアイデアがあれば教えてください.

【脚注5】一般にPot がPで相手がBの大きさのbet/raiseを行った場合,
    MDF = B / (B+P)
と計算されます. 今回はMDF = 4.5 / (4.5+99) = 1/23ということになります.
またこのように極端に大きいbet sizeの場合には、
    4.5 / 99 = 1 / 22
 と近似的に計算するのも手っ取り早くて実践的でしょう. 

【脚注6】Piocloud様:
    https://piocloud.weebly.com/
\PioCash.zip\Solutions\100bb - Custom Sizings\30_105_235_1000

にある V4_100@3@40.cfr を参照しました. これが完璧なGTOというわけではないでしょうが, 近似的に EV を見積もるには十分だと判断しました. 

【脚注7】PioSOLVER edgeがなくとも, 「post-flopのアクションがないpreflop only game」の計算は可能(最近まで気づいていなかったw).
それを使ってこの Equity の図を作成しました. 

脚注8】「47 combo 以上Callしよう → 56 comboをCallしてみます!」
ここは少し説明をさぼりました. 実は (99を外した)50combo だとA4oのEVを消すには少し足りません. 以下のような理由となります:
・50combo近くに広げたため, 28 comboレンジと比べると少し弱い
  → A4oのEquityは27%+と見積もりなおす必要がある
・removal effectの影響で, 9%強をCallしているつもりでも,
 A4o持ちから見ると9%弱しかCallできていないことになってしまう. 
ここまで厳密に計算しようとすると, 実践で即席で考えるには計算の負担が大きくなりすぎてしまうと思います. 単純に計算された値(47combo)より1~2割上乗せするようなイメージを持つとよいのではないでしょうか. 

【脚注9】GTOの定義は別記事で整理する予定です. ある条件を満たす戦略をGTOと呼びますが, GTOは一般には1つに定まるものではなく, ある程度の任意性を持ちます(Solverの出力こそが正義とも言えないことになりますね).
特に, 相手がGTOから外れた場合の応手については自由度が高いことが多いです. 

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