2009年積丹岳で警察救助隊が雪庇を踏み抜いて滑落し、その脱出過程で要救助者を滑落により見失った事件の判決抜粋

 マスコミ報道では、ハイマツの枝が折れたのか折れなかったのかモヤモヤしたところがあり、それをはっきりさせるために調べたものです。

◎事件名

一 審 平成21年(ワ)第3065号 損害賠償請求事件 平成24年11月19日札幌地裁判決
二 審 平成24年(ネ)第591号・平成25年(ネ)第231号 損害賠償請求控訴・同附帯控訴事件 平成27年3月26日札幌高裁判決
最高裁 平成28年11月29日 北海道からの上告退け
 関係法
   国家賠償法第1条第1項
   警察法第2条第1項
   警察官職務執行法第3条第1項第2号
  対置される法律
   民法第698条
   警察法第2条第2項、第5条


〇山岳遭難救助は警察の本業(確定した判決の意味)

 ・山岳遭難救助は警察の「責務」であり、民間の救助活動が過失責任を負わないのに対して、警察の救助活動には、消防の救助活動と同様に、過失があった場合、救助隊員は責任を負わないが、隊員の所属する公共団体が責任を負うこととされたもの。
 ・高裁判決が過失として取り上げた行為は、ハイマツに固定していたスケッドストレッチャー(要救助者を乗せている)が滑落してその行方を見失ったことに関して、(1)ハイマツの枝が撓ったときにテープが引き抜けやすい結び方(一回り二結び)をしたこと、(2)固定したストレッチャーのそばから救助隊員全員が離れてしまったこと。
 なお、救助方法の決定は、実際の救助に当たる救助隊員の合理的判断に委ねるのが相当であるとし、その中で合理的でない方法を執った場合に限り違法を認定。
 ・要救助者自身の軽率な判断もあったこと等を総合考慮し、損害賠償額の7割を控除(一審被告「北海道」の支払分は3割。残り7割は一審原告「要救助者の両親」負担)。


◎判決における争点

 〇抜粋した視点
 懸命の努力をしたのにも関わらず、二次遭難を起こし、孤立無援の中でスキル不足によって、せっかく確保した要救助者を手放してしまった救助隊が無念。
 裁判の観点は、過失の有無を判断するため、人間の行動の中から一つ以上のミスを見出すこと。
 これに対して、事故防止の観点は、人間はミスを犯すことを前提にして、一つのミスがあってももう一つの対策で穴埋めできるよう、危険を小さくしていくこと。
 そのようなことから、事故防止の課題は、法廷ですべて解決できるものではなく、実施主体(道警)が様々な事情を抱えながらも自ら解決の意思をもって取組んでいくことが重要。
 ただし、判決文の中にも「救助における」事故防止を考えるための材料が含まれていると思われるので、その中から、個々の救助活動に係る争点を一部抜粋(表現・順序を一部変更。特に当事者名はアルファベット記号で、遭難者名は「要救助者」又は「〇〇」と表記)。

~以下判決文抜粋~

◎裁判所の観点(救助隊員の救助活動が国家賠償法上の違法な行為に該当するか否か)
 〇地裁
 警察法は、身体及び財産の保護に任じることなどを警察の責務と規定するが(同法2条1項)、これはあくまでも組織法上の一般的規定であり、同条項の規定により、警察官である山岳救助隊員が結果的に山で遭難した者の救助に失敗した場合に、その救助行為が国家賠償法上直ちに違法となるとは解することはできない。また、救助隊は、救助隊規程により、山岳における遭難者の救助活動に当たることが任務とされ、細心の注意を払い、受傷事故の防止に努めるよう定められているが、これは文理上からも明らかなとおり職務を遂行するに当たっての努力義務であって、救助隊規程により、救助隊員に山岳での遭難者に対する一般的な救助義務が課されるものと解することはできない。
 しかし、個人の生命、身体及び財産の保護に任じることなどを警察の警察の責務と規定する警察法の上記規定や、要保護者を発見した場合に応急の保護をすべき事を定めた警察官職務執行法の規定(3条1項)に照らせば、山岳救助隊員として職務を行っている警察官が遭難者を発見した場合には、適切に救助をしなければならない職務上の義務を負うというべきである。もっとも、山岳救助、特に冬山における山岳救助は、救助隊員自身も身の危険を冒して救助に当たることになるうえ、遭難者は一般に生命あるいは身体の現実的な危険にさらされており、緊急に保護を要する状態に置かれているから、遭難者を発見、保護し次第、早急に手当、介護あるいは搬送等の対処をする必要がある。そして、遭難者をどのような方法で保護し、どのように手当や搬送等の措置をすべきかは、遭難者の発見時の具体的状況(遭難者の負傷状況、体力の低下状況等の身体的状況のみならず、遭難から発見までかかった時間、発見時刻、発見場所の状況、発見時の気象状況、救助隊員の人数、装備、疲労度、応援の有無等)及びその後の状況の変化に応じて対応が変わってくることは当然であり、かつ、その判断に際しては十分な時間がないことが通常前提となっている。したがって、救助隊員が適切に救助しなければならない義務を負うとしても、救助隊員が行うべき救助活動の内容はその具体的な状況に応じて判断せざるを得ない。これらのことに加えて、本件においては、救助隊員は、山岳遭難救助養成講習会の課程を修了した者、又は、登山及び遭難救助技術に習熟し、隊員としての要件を具備している者から選ばれ(救助隊規程7条1項)、選ばれた救助隊員は必要な訓練を受けることとされていること(救助隊規程12条)をも考慮すれば、適切な救助方法の選択については、実際に救助に当たる救助隊員に合理的な選択が認められているといわざるを得ず、救助を行う際の救助隊員及び遭難者が置かれた具体的状況に照らし、その時点において実際にとった方法が合理的な選択として相当であったといえるか否かという観点から検討するのが相当である。よって、合理的と認められる救助方法を選択しながら結果的に救助に失敗したとしても、それ故に、その行為が国家賠償法上違法と解することは相当でない。救助隊員の救助活動が国家賠償法上違法と評価されるためには、救助を行う際の救助隊員及び遭難者が置かれた具体的状況に照らし、明らかに合理的と認められない方法をとったと認められることが必要であると解するのが相当である。そして、この救助活動につき救助活動を行った救助隊員に故意または過失が認められれば、被告は国家賠償法1条に基づき損害賠償義務を負うことになる。
〇高裁(概要)
 「救助隊員が救助義務を負うからといって、結果的に要救助者を救助できなかったことをもって、直ちに救助義務に違反し、当該救助活動が国家賠償法上違法と評価されると解することはできない。すなわち、・・・発見した山岳遭難者に係る救助方法を決定するに当たっては」、気象状況や遭難者の状況、二次遭難の危険等、「種々の事情を考慮しなければならず、かつ、これらの事情は容易に変わり得るものであるから、種々の制約があるだけでなく、変化するこれらの事情に応じてその都度臨機に対応しなければならないところ、救助隊員は、山岳遭難救助養成講習会の課程を修了した者、又は登山及び遭難救助技術に習熟し隊員としての要件を具備している者から選ばれ・・・、選ばれた救助隊員は必要な訓練を受けることとされていることをも考慮すれば、・・・救助方法を決定するに当たっては、実際に救助活動に当たる救助隊員の合理的な判断に委ねるのが相当である。したがって、救助隊員の救助活動が国家賠償法上違法となるのは、実際に救助活動に当たる救助隊員及び当該山岳遭難者が置かれた具体的状況を踏まえて、合理的と認められない方法を執った場合に限られると解するのが相当である。」


1 救助隊員が有すべき基礎的知識

 ○原告らの主張

 そもそも、救助隊として山岳遭難者の救助を行う場合、救助隊員は、①雪崩の知識、気象の知識、低体温症の知識等、山岳遭難についての基礎的知識を有していなければならない。


 しかしながら、本件救助に当たった救助隊員は、雪崩の知識、低体温症の知識、雪山の知識を満足に有していないにも関わらす、バックアップ体制もなしに無計画に救助に出動した。


 その結果、要救助者に適切な措置をとらなかった。

 ○被告の主張

  (知識)

 救助隊員は、夏・冬山訓練として、毎年、積丹岳を含む山岳において訓練を実施しており、平成21年の最初の冬山訓練として、1月にそれぞれ積丹岳での冬山訓練を実施したばかりであり、積丹岳の積雪状況、地理等について、全隊員が直近に体験していた。

 また、山岳関係の講習会への参加や関係資料の収集等により、天候の急変、雪崩、雪庇の形成、低体温症や厳寒の冬山における心理状況等に関する知識も十二分に持ち合わせていた。

  (組織編成と出動体制)

 救助隊員には山岳遭難に関する知識、技能等を持ち合わせた者を、警察本部長が指定し、山岳遭難事故が発生し、警察署長が隊の出動を必要と認めるときは、警察本部長に出動を要請し、警察本部長は出動を命じ、隊長は、隊本部及び関係所属長に報告又は連絡し、出動した隊の指揮は、派遣先の警察署長が行うこととしている。

 本件遭難事案は、1月31日午後3時37分頃に、要救助者とともに入山した者からの110番通報により、本部通信指令室が認知し、指令室では、直ちに積丹岳を管轄する余市署に警察無線で指令し、指令を受けた余市署員は、署長等の幹部に即報してその指揮を受け、署員の非常招集、管轄駐在所への通報と指示、警察本部への報告等の必要な初動措置を行い、余市署に「余市署対策本部」を設置した。

 さらに積丹町は、午後4時30分には、関係機関(警察、町役場、北後志消防、民間協力者)との連携を図るため「現地対策本部」を設置した。

 また、通報者P(要救助者とともに入山した者)が待機する積丹岳の休憩所に余市署員、消防隊員、民間協力者らが、町雪上車、民間協力者Q所有のスノーモービルに分乗し、午後5時17分頃到着した。

 県警航空隊は、陸本部の直轄部隊として、指令室の無線を傍受し、ヘリコブターによる捜索のために、直ちに離陸準備を開始した。午後4時30分頃に積丹岳の上空付近に到着し、捜索を開始し、日没後も可能な限り捜索したが、有視界での捜索が困難となり、やむなく午後5時20分に現場を離脱した(内容略)。

 警察本部は、余市署長からの要請により、警備部機動隊所属の5名に出動命令を発令し、山岳遭難救助隊を編成し、車両2台(雪上車を荷台に搭載)で出発し、午後8時頃に余市署に到着し状況の説明を受けた後、午後9時30分頃に積丹町役場に到着した。

 午後9時30分から10時20分までの間、積丹町役場に関係機関が集合して捜索会議が実施され、翌日(2月1日)の捜索活動については、 ①地上からの捜索活動は、県警救助隊5名、町消防職員1名、民間協力者2名で実施すること、 ②消防職員は、要救助者が発見された際の応急措置を担当すること、 ③ 移動は、町雪上車と警察雪上車、民間協力者2名のスノーモービル2台による先導で行うこと( 午後9時30分から10時20分までの間、積丹町役場に関係機関が集合して捜索会議が実施され、翌日(2月1日)の捜索活動については、 ①地上からの捜索活動は、県警救助隊5名、町消防職員1名、民間協力者2名で実施すること、 ②消防職員は、要救助者が発見された際の応急措置を担当すること、 ③ 移動は、町雪上車と警察雪上車、民間協力者2名のスノーモービル2台による先導で行うこと(注1)、 ④夜間の雪上車の走行は危険であることから、翌日午前5時30分から本格的な捜索を開始すること が合意された。

 捜索会議後、救助隊のC小隊長は、救助隊の翌日の捜索要領について、 ① C小隊長と隊員1名は、要救助者がビバークしていると推定される位置まで、スノーモービルにより先行すること( 捜索会議後、救助隊のC小隊長は、救助隊の翌日の捜索要領について、 ① C小隊長と隊員1名は、要救助者がビバークしていると推定される位置まで、スノーモービルにより先行すること(注2)、 ②他の隊員3名は、雪上車で同地点を目指すこと()、 ②他の隊員3名は、雪上車で同地点を目指すこと(注2)、 ③雪上車乗車隊員のうち1名にストレッチャー等の救助用装備資機材を重点的に装備させること、 ④搬送用の装備資機材を充実させる一方で、テントやコッヘル等の重量がかさむ機材は持参しないこと を指示した。

 認知当日の捜索状況は、ヘリコプターによる捜索及び地上からの捜索が行われた(内容略)。

 以上のとおり担当する所属及び警察官等は、それぞれの職務を適正に行い、要救助者をできうる限り早く救助し、かつ、救助隊を含むすべての活動部隊の安全を考慮した措置を講じていた。

 したがって、組織編成や出動体制等に違法性及び過失が認められるとする主張は失当である。

注1

 :実際には、午前8時50分頃当日の天候が悪いため中止し、山スキー登坂による捜索に切り替えた。なお、積丹岳に詳しい民間協力者Qは、前日1月31日余市署員(救助隊員はまだ到着していない。)に休憩所で吹雪いていれば1000m以上は吹雪で視界が悪いことが予想されるのでスノーモービルで登ることは無理だとの意見を具申していた。

注2

 :実際には、午前8時40分頃「ピリカ台」手前約300m付近に到達したが、視界が10m以下になり、車両による前進が困難となったことから、スノーモービルと雪上車は同所で待機することとし、山頂方向を目指して山スキーで出発し、進行するに従い、山スキーでの前進が困難となったことから「ピリカ台」付近で坪足による捜索に切り替えた。

〇事故防止のための検討(判決文外)
・警察の5人1小隊による救助体制は、救助前日に決定されていた。
・当初は、山頂まで雪上車・スノーモービルの機動力を使って速やかに捜索・救助する方針だったが、吹雪で視界不良のため、山スキー、その後坪足による救助に変更された。しかし、スピード中心の日帰り日程は、そのまま維持されている。
・これは、要救助者の位置がGPSで知らされていたことから、発見・収容は容易と判断されたことも影響していると思われる。

2 装備

 ○原告らの主張

 出動の際、個人装備としてのピッケルを有せず、グループ装備としてのテントやツェルト(簡易テント。底は開くようになっており、そのまま被ることもできる。)、ストーブ等も有しないなど、救助に必要な装備を備えておらず、その結果、要救助者に適切な措置をとらなかった。   

 ○被告の主張

 要救助者を発見した場合、相当時間厳冬下の極限的な状況に置かれ、体力を消耗していると思われ、発見後直ちに下山し医師に引き継ぐ必要があること、そのためには、できるだけ機動性に富む迅速な救助活動が必要であると判断して、ストレッチャー等の救助搬送用の装備資機材を充実させ、一方で、テントやコッヘル等の重量がかさむ装備資機材は持参しないこととした。

〇事故防止のための検討(判決文外
 ・携行装備は、充実すれば様々な変化に対処する選択肢を広げるが、重量が増し機動力を低下させるため、その選択は難しい。
 ・判決文には、救助隊が携行した装備については列挙されていないが、非常用の宿泊用装備(ツェルト、スコップ、スノーソー等)・非常食・小型ストーブ・燃料、ヘッドランプ、雪氷登攀用具(アイスアックス、カラビナ、スリング、ビレイ用器具等)は、最低限必要ではないか?


3 要救助者から連絡を受けたGPS位置情報の測地系変換(日本測地系→世界測地系)

 (略)


4 低体温症対策を優先せず搬送を選択したこと、ルート選択

 ○原告らの主張

  (搬送の選択)

 低体温症の患者の場合、搬送は慎重を期すこととされ、まずは保温を最優先すべきであるから、救助隊員は、要救助者を発見した後、搬送するのではなく、速やかに要救助者の保温を行うべきであった。

  (低体温症対策)

 具体的には、雪洞を掘って安全な場所を確保し、要救助者の低体温症が軽症であった場合は、カイロを胸ではなく脇の下などにあてて加温し、要救助者の体温の低下を防ぎながら、あるいは要救助者をツェルトで覆ったりして体温の上昇に努めた上で、ヘリコブターなどの救助を待つべきであった。また、カフェインの含まれる飲料は利尿作用で脱水を助長し、凍傷になりやすくさせることから、カフェオレを飲ませるべきではなかった。

  (下山ルートの選択)

 南斜面に形成されている雪庇を踏み抜くことがないように下山ルートを確保するもっとも安全かつ確実な方法は、南斜面の反対側に位置するデポ旗が設置されているルートを下山することだったにもかかわらず、救助隊員はこのルートを選択せず、C小隊長は、九合目付近にあった雪上車を目指すことを選択し、救助隊員に対して、東方向に直進することを指示した。

  (ストレッチャーの使用)

 被告は、ストレッチャーが使えなかったと主張するが、救助隊員は滑落後に40度近い斜面で使用しているし、下りの斜面では、要救助者とストレッチャーの重みで滑っていくものであるから、来た道を引き返す場合には、風雪に曝すことなく安全に搬送できるのであるから、ストレッチャーを使用して搬送すべきであった。

 ○被告の主張

  (搬送の選択)

 要救助者発見時の現場の天候は、ほとんど視界のきかない極限的な状態ともいえる猛吹雪であった。

 要救助者は、十分な広さの雪洞を掘ってビバークしていたのではなく、硬い雪面上でツェルトを被りながら風雪に曝されていたという状態であった。

 また、要救助者は、固雪面に雪洞を深く掘削できるような本格的な用具を携帯していなかった(  また、要救助者は、固雪面に雪洞を深く掘削できるような本格的な用具を携帯していなかった(注)。本格的な用具なしに雪洞を掘削できるような状態であったならば、雪山の知識を有していたと思われる要救助者は、風雪に曝されるように雪面上に伏しているようなことはなく、風雪を回避するべく深い雪洞を設営しているはずだが、これをしていなかったのであるから、同所が固雪であって容易に設営できなかったことは明らかである。

;要救助者が着用していた衣類及び携帯品
a ニット帽子、b ゴーグル、c ネックウォーマー、d スノーボード用ウェア、e フリース、f スノーボード用ズボン、g ジャージズボン、h スノーボード用ブーツ、I グローブ、j 登山用ビーコン、k コンパス、l 携帯電話
:要救助者が携行していた装備などのうち争いのないもの
a スノーボード、b スノーシュー、c ザック、d グローブ、e ゴーグル(ホイッスル付き)、f ツェルト、g プローブ(ゾンデ棒)、h ノコギリ(スノーソー)、i 空気クッション、j スポーツドリンク入りペットボトル、k ロープ、l ナイロン袋、m 割り箸(使用済み)、n 無線機、o PSP(ソニー製携帯ゲーム機、GPS(全地球測位システム)レシーバー付き)、p PSP専用予備バッテリー、q 緑色ロープが結ばれたナイロン片

 そもそも積丹岳において、登山者がビバークする場所は「フンベツの沢」付近(五合目付近)までであり、過酷な自然条件を極める積丹岳山頂付近において、ビバークする選択肢はあり得ない。

 また、①仮に同所でビバークする場合、まず、雪洞を掘る必要があるが、同所は固雪であり、計6名が滞在できる規模の雪洞を掘るには、相当な時間と労力が必要であったこと、②その間は、要救助者を吹き曝しの中でツェルト(厚さ約1ないし2mmのナイロン製)等のみで引き続き厳寒下に待機させることとなり、凍傷や低体温症が進行するのが確実視されたこと、③仮に雪洞が完成しても一夜を通じて要救助者を含めた6名の者の生命や身体の安全が確保できる見込みはなかったこと、④翌日までにビバークできたとしても、その後に天候が回復しヘリコプターによる救助が確実に期待できるかどうかが判明しなかったこと、⑤日没までには天候の見込めないため、翌朝日の出(概ね午前7時頃)までの18時間以上にわたりビバークすることが確実視されたが、そうすると要救助者の凍傷や低体温症等の進行により死亡するおそれが高かったこと から要救助者を約600m離れた雪上車まで搬送し、速やかに医師の手当を受けさせることが最善であると判断した。

  (低体温症対策)

 要救助者を発見後即座に救助隊員所携のダウンジャケットを着せて保温し、コア温度を少しでもあげるために暖かいカフェオレを飲ませた。

 カフェオレはエネルギーにもなり得たし、添加されていた砂糖は栄養源となり、湯水の投与はコア加温を実施するという重症の低体温症の治療法とされていることから、カフェオレを飲用させた措置は、極めて適切なものであった。

 また、低体温症の進行を防止するうえで、熱喪失を防ぐための保温は必須とされる。

  (下山ルートの選択)

 救助隊は、要救助者を一刻も早く発見して救助するべく、分散して、猛吹雪の中を可能な限り広範囲に捜索しながら、頂上に達し、引き続き尾根伝いに捜索しながら、要救助者を発見した。したがって、デポ旗が設置されたルートは、相当の距離に及んでおり、しかも山頂を迂回していたから、当時の悪天候下でこのルートを短時間のうちに下山することは一見して容易でなかった。

 仮にデポ旗に従って、来た道を引き返した場合、救助隊員は、要救助者を抱えて、まずは山頂まで登り、さらにデポ旗に従い北側斜面を迂回しながら下山するという、長距離で非効率的なルートを選択することとなる。 そして、①猛吹雪のため、丸めたストレッチャーを広げれば強風に煽られて飛ばされる等の危険があったことから、この時点ではストレッチャーが使えず、要救助者を抱えて移動するしかなく、長距離の移動は不可能てあったこと。②直前に目下に雪上車の位置を確認していたこと、③一刻も早く要救助者を下山させなければならなかったこと、④突風や更なる悪天候化により身動きがとれなくなる可能性もあり、最短距離での移動が必要であったこと、⑤救助隊の足跡は固雪上であり、存在せず、あるいは猛吹雪で焼失していることが予想されたこと、⑥迂回ルートによれば、より長時間を要し、長い距離の走破を必要としたことから、救助隊は迂回ルートをとることが適切であるとは判断しなかった。

  (ストレッチャーの使用 前記再掲)

 猛吹雪のため、丸めたストレッチャーを広げれば強風に煽られて飛ばされる等の危険があったことから、この時点ではストレッチャーが使えず、要救助者を抱えて移動するしかなかった。

 ○判決における判断

 要救助者は、1月31日午後1時40分頃に山頂に到着し、その後、同日午後3時30分頃、雪洞を掘り終わって、ツェルトを張ってビバークを開始している。また、2月1日午前9時過ぎには、ツェルトが裂け、裂け目から雪が入ってきており、以後約3時間にわたり、無線での会話が困難なほどの風雪を受けていたものと認められ、上記( 要救助者は、1月31日午後1時40分頃に山頂に到着し、その後、同日午後3時30分頃、雪洞を掘り終わって、ツェルトを張ってビバークを開始している。また、2月1日午前9時過ぎには、ツェルトが裂け、裂け目から雪が入ってきており、以後約3時間にわたり、無線での会話が困難なほどの風雪を受けていたものと認められ、上記(注1)記載のとおり、要救助者は、救助隊員が発見した同日午前11時59分の時点では、上半身にツェルトを被るのみの状態であった。

 上記( 上記(注2)記載のとおり、要救助者は、救助隊員の呼び掛けに対するまともな受け答えができず、自力で体を起こすこともままならない状態であり、凍傷や中度から重度の低体温症の状態にあって、現場で応急処置を施しても容態は改善されず、専門的な医療行為を受ける必要があると判断された。

 上記(  上記(注3)記載のとおり、B隊員が、要救助者な暖かいカフェオレを飲ませたところ、要救助者はこれを飲み干すことができた。

 そして、上記( そして、上記(注4)記載のとおり、救助隊員2名が両側から体を支える形で要救助者の搬送が行われたものであるが、その際、要救助者は自力で立つことはできなかったものの、自らの意思で足を動かせるくらいの体力は残っているような状態だった。

 救助隊員が要救助者を発見した時点での山頂付近の天候は、強い北風が吹き荒れ、猛吹雪の影響で、僅か3ないし5m先を見ることがやっとの状態だった。

 また、山頂付近は、吹きさらしの風によりアイスバーン状態となっていて、雪面が固くなっており、ビバークするために雪洞を掘ることは困難な状況だった。そもそも、通常、積丹岳の登山者がビバークする場合、6合目手前の「フンベツの沢」で雪面の横を掘って入るか、7合目付近の「1000メートル平」で雪のブロックを作って、周囲を囲み、小さいテントを張るなどの方法でビバークする程度であり、「1000メートル平」より上でビバークすること自体が困難である。

 上記(  上記(注5)記載のとおり、スノーモービルと町雪上車は、「ピリカ台」手前約300m付近で待機していたところ、30ないし40分経過後、視界が約30m程度に回復したため、デポ旗を目印として徐々に山頂を目指して移動を開始した。2月1日午前11時前頃、待機箇所から約500m進行した7合目半の地点に、救助隊員のスキー板を発見し、同所から山頂にかけては、アイスバーン状態であったことから、スノーモービルで走行していたQとRも、町雪上車に乗り込み、町雪上車は山頂へと向かった。その後、同日午前11時過ぎに9合目付近に到着し、同所が雪上車で登る限界と判断されたことから、同所で待機することとした。

 救助隊員は、山頂付近を捜索中、一瞬晴れ間がのぞいた際に、雪上車で登れる限界地点とされる9合目まで町雪上車が登坂してきていることを確認し、他方、町雪上車からも、救助隊員が山頂から下山しながら南側に移動している状況が確認された。

 以上によれば、要救助者は、救助隊が発見した時点で、約22時間程度山頂付近に滞在し、ビバークして以降も少なくとも3時間以上風雪にさらされ、凍傷から中程度から重度の低体温症にあった上、救助隊員が発見した時点においても強い北風が吹き荒れていたため、その発見場所でビバークすれば、要救助者の凍傷や低体温症が急速に悪化するおそがあったことに加え、雪面が硬くなっていたのであるから、ビバークしようとすれば、さらに時間を要したと考えられ、要救助者の身体に悪影響をを与える可能性が高かったことが認められる。

 また、救助隊員が要救助者を発見した場所から9合目まで来ている雪上車までの距離は、目測で800mないし1km程度であり、雪上車までの搬送は1時間ないしに1時間半程度で可能であると判断できた。さらに、要救助者を発見した地点から雪上車待機場所まで概ね直線で向かうルートは斜度がなく平らな地形であった。

 したがって、救助隊が要救助者を発見場所から9合目まで来た雪上車に向けて、登山してきたルートを戻らず、登山道に沿って最短ルートで移動しようとしたことは、要救助者の身体的状況や気象状況に鑑みて、不合理な選択であったとは認められない。

注1

 :救助隊は、午前11時59分、斜面上に、強風に吹かれ音を立てて棚引いている黄色のツェルトを発見した。そして、ツェルトの端を雪面に埋め込んで風に飛ばされないようにした上で、その下に上半身を潜り込ませるような姿勢で、雪面上にうつぶせに倒れている要救助者を発見した。なお、ツェルト付近に雪洞は確認できなかった。

注2

 :A隊員とB隊員が、要救助者を抱え起こし、「大丈夫か。しっかりしろ。〇〇さんか。」等と呼び掛けたところ、要救助者は「あっ、うっ。」等とうめき声を上げ、その生存が確認されたものの、意識はもうろうとしておりまともな受け答えはできず、自力で体を起こすこともままならない状態だった。

注3

 :分隊長は、要救助者に予備のダウンジャケットを羽織らせ、B隊員は、ザック内から魔法瓶を取り出して、要救助者に暖かいカフェオレを飲ませた。

注4

 :C小隊長は、要救助者を直ちに搬送するとの判断をし、要救助者の腕を両隊員(注:A隊員・B隊員)の肩口に回させた上で、両隊員が要救助者の腰付近を掴んで担ぎ上げる方法で搬送を開始した。

注5

 :午前8時40分頃、救助隊らは、「ピリカ台」手前約300m付近に到達した。そして、同所付近において、スノーモービル及び町雪上車の運転者双方から、視界が10m程度しかなく、どこをどう走っているか見当もつかないので、天候が回復するまで捜索を中断したい旨の申入れがなされたことから、救助隊らは、その場で20分程度待機した。その後も天候が回復しないため、Qは、このままの天気ではスノーモービルと雪上車はこれ以上進めない旨告げたところ、救助隊は、無線によって要救助者の容態の悪化が窺えたことから、天候の回復を待たずに、町雪上車から降車して徒歩による救助活動を開始した。

  (ストレッチャーの使用)

 ここで、原告らは、ストレッチャーのを使用して要救助者を搬送すべきだった旨主張するが、搬送を開始した時点では、要救助者は体を支えられれば立位を保ち、自らの意思で足を動かせるくらいの体力は残っているような状態だったのであり、前記のような強風下で丸めたストレッチャーを広げることを避けた救助隊員の判断が不合理な選択であったとは認められない。

  (カフェオレを飲ませたこと)

 原告らは、救助隊員が要救助者を発見し、搬送を開始するまでの間に暖かいカフェオレを飲ませた行為について、カフェインの含まれる飲料はの利尿作用で脱水を助長し、凍傷になりやすくさせるから不適切である旨主張し、これに沿う証拠(甲11)を提出するが、甲11号証においても低体温症の対処として暖かい飲み物を飲ませることが推奨されている上、救助隊員が持参したカフェオレに含まれたカフェインの量は魔法瓶全体で約192mg、要救助者が飲用したカフェオレは約100ml、うちカフェインは約38mgと少量であって、これにより低体温症が促進されたとはいえないことから、救助隊員が要救助者にカフェオレを飲ませた行為が不合理な選択であったとは認められない。

5 下山の進行方法

 ○原告らの主張

 約600mの距離がある九合目付近まで正しく進むためには、方角が1度ずれれば10m以上ずれるので、方角を正確に確定する必要があり、コンパスの場合、地形図を用いて現在地と雪上車の位置の確定、磁針偏差の修正が必要であったにもかかわらず、現在地点地点を地図に書き込むことも、目標地点を正確に把握することもせず、漫然と方向を定めてやみくもに進んだ。 選択した方角に直進するには、常時コンパスで方角を確認しながら進行すべきで、視界が悪かったのであれば、全員が一体として同時に歩くのではなく、視界の確保できる範囲内で他の隊員を先行させ、後方から都度コンパスで常に方向を確認しながら、進行・停止を繰り返さなければならなかったのに、隊員の感覚に従って漫然と進行したので、南東方向にあった雪庇に向かって行ってしまった。

 ○被告の主張

 救助隊員は、下山ルートの南側に雪庇が形成されている可能性を案じ、細心の注意で歩行していたのであるが、雪庇の存在を認識できない状況、すなわち猛吹雪の影響で一面真っ白であり、数m先も見えず、どこに雪庇があるか目視できない状況であった。そして、想像した以上の(予想をはるかに超えた)突風の影響を受け(突風に曝され)、雪庇の存在を認識できない状態でこれを踏み抜き滑落した。

 救助隊員は、救助活動の2日前までの積丹岳での遭難救助訓練等により、積丹岳の地形はもちろんのこと、雪庇や雪崩が発生する可能性が高い地点などを知悉していた。

 出発に際して、C小隊長(隊員5名のトップ)は、GPS、地形図、マップポインター(GPSの緯度・経度データを地形図上に投影することにより、1秒単位で地形図上の現在地を読み取る定規のこと。)で現在地を正確に確認し、指差しにより進行方向を示しながら、「気持ち北東方向」という表現で方角を指示して進行方向を再度示し、その後も随時声をあげて指示する方法で、雪庇を回避するために最善の努力を尽くしたが、想像を超える強風のため、隊列は意図せずに雪庇の方向へと流れてしまった。 救助隊員は、救助活動の2日前に実施した訓練から、現場の南側に崖があることを知悉していたことから、この点をも踏まえて、C小隊長は救助隊員に対し、「気持ち北東方向」に進行するように指示したのであって、雪庇を回避する上で適切な判断であって、いかなる判断の誤りも認められない。 また、出発後約5分、約50mを進行して滑落したとすれば、GPSと地形図で1秒の距離を移動するかしないかのうちに滑落したということになり、図面上においても、明確な相違を確認できるものではなかった。 したがって、雪庇からの滑落は、現在地や方向修正をする間もないうちに、想像を絶する強風のために知らず知らずのうちに体が流されたために発生したという回避できない出来事だったといえる。 よって、雪庇からの滑落は、激烈を極める自然条件下における回避不可能な事故であるから、救助隊員の判断の誤りや逸脱が認められないのは明らかである。

 ○地裁判決における判断

 主な救助隊員は、救助活動の2日前に積丹岳で山岳訓練を実施しており、崖が要救助者の発見場所の近くであること、山頂付近の南斜面では、雪庇を踏み抜くなどして崖下へと滑落する危険性があることを十分認識していたと認められる。また、当時の天候は、北風が強く、南側へ体が流される危険性が強く、視界も悪かった上、斜面自体がでこぼこして、歩く際、前後左右に体が傾く状態であって進行方向がずれる可能性の高いことが容易に認識できた。

 そして、要救助者の発見場所から雪上車待機場所は、ほぼ東方向にあるが、雪上車に向かって移動を開始した時点においては風雪のため、救助隊員はその場所から雪上車を目視することはできなかった。また、救助隊が登山道を通って雪上車待機場所に向かうとすれば、上記( そして、要救助者の発見場所から雪上車待機場所は、ほぼ東方向にあるが、雪上車に向かって移動を開始した時点においては風雪のため、救助隊員はその場所から雪上車を目視することはできなかった。また、救助隊が登山道を通って雪上車待機場所に向かうとすれば、上記(注)記載のとおり、要救助者の発見場所から雪庇まではおおむね50mの距離にあり、進行方向が若干南南方向に向けば、雪庇を踏み抜く危険が現実化する状況にあった。

注 

 要救助者の発見場所から雪庇までは、おおむね50mの距離だったが、北東方向に進行すれば、南側の崖に向かうことはない位置関係だった。

 したがって、視界が不良であり、足場も悪く、強風が吹いている状況においては、進行方向についても救助隊に合理的な選択が認められているとしても、進行方向が南にぶれる危険性のある方法は、細心の注意を払うのでなければ合理的な選択に当たらないといわざるを得ない。

 さらに、①北東方向に進行すれば、南側の崖に向かうことはない位置関係であったこと、②GPSに自分がたどってきた場所をポイントとして固定し、位置を後から確認する機能を利用してそのとおり下山すること、常時コンパスで方角を確認しながら、進行方向を指示することなど、当時の状況下でもとりうる他の方法が容易に想定できることをも考慮すれば、救助隊が選択した上記進行方法は、合理的なものであったと認めることはできず、この選択は国家賠償法上違法といわざるを得ない。

 また、これまで判示した事情に加え、要救助者らの滑落は、後述のとおり、風にあおられて飛ばされたような事情は見られず、歩行途上に雪庇を踏み抜いたものと認められるから、救助隊員には少なくとも過失があったと認められる。

 上記(略)及び上記(略)記載のとおり、要救助者は、救助隊員が発見した当時、凍傷や中度から重度の低体温症であったものの、呼び掛けに対して「あっ、うっ。」等とうめき声を上げ、カフェオレを飲み干すことができ、自らの意思で足を動かせるくらいの体力は残っているような状態だった。

 これに対して、要救助者は、滑落後には、上記( これに対して、要救助者は、滑落後には、上記(注)記載のとおり、刺激に対して顔を歪ませる等してわずかに反応する程度であり、救助隊員が発見した当時の容態と比較して、症状が悪化していることが明らかである。

:滑落後、要救助者は、刺激に対しては、顔を歪ませる等してわずかに反応するが、目の焦点は定まっておらず、発見時の容態と比較すると、症状が悪化していることは明らかな状態であった。

 また、救助隊員の滑落後の疲労の程度も激しく、要救助者を乗せたストレッチャーを崖上まで引き上げるだけで4ないし5時間程度かかることが見込まれたこと、天候の回復も見込めず、ヘリコプター等の救助の余地はなく、崖上から9合目まで戻っても雪上車はその時点では休憩所まで戻っており、更に休憩所まで戻るには夜間になる上、徒歩で戻る必要があったと解されることからすれば、仮に、要救助者を乗せたストレッチャーを崖上まで引き上げることができたとしても、要救助者は、凍傷や低体温症が悪化して死亡していた蓋然性が高いものと認められる。

 よって、救助隊員が合理的な進行方法をとらなかったことと要救助者の死亡(凍死)との間には因果関係があるというべきである。

 この点に対して、被告は、救助隊員は雪庇が形成されている可能性を案じて細心の注意で歩行していたものの、予想外の突風に曝されたために、雪庇を適切に回避できなかったものであって、過失はない旨主張する。

 しかしながら、救助隊員の進行方法は、上記認定のとおりである上、進行を開始してから滑落するまで、C小隊長は、北風で体が流されたのではないかと思うとするものの、進行方向は正しいと思っており、「気持ち北東方向に進行する」という指示についても、北風が強いから北東に進めという趣旨ではなく、南側にある崖に気をつけるようにという趣旨であったこと、風にそれほど流されると思ってなかったことを証言する。

 また、E隊員は、「気持ち北東方向に進行する」という指示は、北からの風が強いので、南側に落とされないように気を付けろという意味だと思ったこと、風が強くて横にずれることもあったことを証言するものの、強い風を受けている感覚はあったが、真っすぐ歩いていられたこと、歩いている斜面自体がでこぼこしていたので、体が前後左右に傾いている感覚はあったが、コンパスを確認していたので、間違いなく真っすぐ歩いていると考えていた旨証言する。

 A隊員も、「気持ち北東方向に進行する」という指示は、北風が強いので、風に負けないようにという指示だと理解したことを証言するものの、斜面がでこほごしていたことにより、体が前後左右に振られるといった印象があったこと、確かに強風だったが、真っすぐ歩いている認識だったことを証言する。

 以上によれば、北風が強かったことは認められるものの、予想外の突風によって体が流され、回避不能な状態で雪庇を踏み抜いたと認めるに足りる証拠はなく、かえって、上記(注:前述「主な救助隊員は、救助活動の2日前に・・・救助隊員には少なくとも過失があったと認められる。」の文章)記載のとおり、進行方向の指示が不適切であった上、斜面自体がでこぼこしており、歩く際、前後左右に体が傾く状態だったことにより、救助隊員は南東方向に直進したことが認められるから、被告の上記主張は採用できない。

 ○高裁判決における判断(要約)

 雪庇を踏み抜いて滑落した後も、要救助者はなお救命可能性があった。

〇事故防止のための検討(判決文外)
 ・稜線上を移動する場合、地形図にはない微地形の影響も受けるため、裁判所が示した移動方法を採ったとしても雪庇を完全に避けることは困難ではないか?
 ・むしろ思い切って稜線から離れ、GPSだけに頼るという方法も考えられなくもないが、歩行しづらくなるのでは?
 ・判決では、救助方法の決定は、実際の救助に当たる救助隊員の合理的判断に委ねるべきとしているが、知識不足の救助隊員に判断を求めるのは酷であり、当面は、ベテランの者を対策本部の顧問に派遣して、常に隊員に助言する体制を取ることができないのか?
 ・滑落したのは二次遭難したのと同じと受け止めるべきであり、対策本部は、直ちに第二次救助隊を派遣すべきでなかったのか?


6 雪庇を踏み抜いて滑落した後の要救助者の引上げ

(1) 滑落後の引上げ

  ○原告らの主張

 滑落後も要救助者は救命可能性はあると認識されていたが、低体温症は進行しており、直ちに移動せず加温を最優先すべきであったにもかかわらず、ストレッチャーに要救助者を乗せ、40度の斜面で引上げを強行した。

  ○被告の主張

   (早期に離脱しなければならなかったこと)

 稜線上から滑落した後、その場から直ちに離脱しなければならないと考え、速やかに離脱するための行動を全力で開始した。

 これは、①要救助者の状態は発見時よりさらに危急的なものになっていたため、一刻の猶予もないと判断されたこと、②いずれ日没となり、周囲が暗くなると行動が困難となるばかりか、より一層低体温化が進行し、更に現場で一昼夜を経れば、要救助者を死亡させることが確実であったこと、③斜面の積雪の状態や実際に雪庇を踏み抜いたこと等から、滑落後に当該場所でビバークすることが極めて危険であり、かつ要救助者を死亡させるてであろうと判断したからである。

 雪崩の発生が懸念された根拠としては、①稜線上から10m程度までの斜度は60ないし70度、さらにその下方40m程度までの斜度は約50度、さらに下方の斜度は30ないし40度程度であり、急傾斜の稜線上から50m程度の雪の状態はクラスト状態(昼間の日差しで溶けた表面の雪が、夜の寒気で凍結し、これが繰り返されて厚く固い層ができる。)であって、これより下がるに従い積雪がみられ、その積載層の下は体重で簡単に踏み抜けるパリパリとした固雪の板状、その下層は再度積雪層となっていたことから、固雪の板状層を踏み抜くと、横に亀裂が広がり、雪崩が発生する可能性があったこと、②滑落時に雪庇を踏み抜いており他の雪庇に対して振動等の影響を与えていたほか、救助隊員らの滑落時の衝撃も積雪層に振動を与えており、雪崩を誘発する可能性が増大していたこと、③積丹岳は雪崩が起きやすい山であり、実際にも、平成19年に雪崩による死亡事故が発生していたことが挙げられる。

  (搬送方法)

 滑落した場所から稜線上までま距離は約200m、斜度は約40度前後の急斜面であった。したがって、そのような場所から体格の良い要救助者を抱えてあるいは背負って登ることなど、当時の救助隊員の体力を考えても、およそ不可能であることが一見して明らかであった。

 そのために、引上げ時にずり落ちないよう要救助者をストレッチャーに固定して引き上げる方法を採用したのであり、そのような救助法は、冬山における救助活動において当然に行われている一般的な手法であって、そこにはいかなる判断の誤りもない。

 引上げは、ストレッチャーの前で2人がこれを引っ張り上げ、ストレッチャーの下方で1人が前方の2人の引上げに合わせて押し上げるという方法でバランスをとりながら、「イチ、ニ、サン」と掛け声をかけて行われた。そして、救助隊員の体力の消耗が均一になるように、適時適切なところで、救助隊員がそれぞれの位置を交代してこれを実施した。

 3名の救助隊員は、休憩することなく救助活動を継続し、ストレッチャーを約50m引上げるのに1時間以上を要した。それは要救助者を乗せたストレッチャーの重さはもとより、膝までの積雪と斜度40度前後の急斜面上を足を滑らせないように登坂しなければならないことから、一度に引き上げる距離が僅か数十cmに過ぎず、想像以上の労力が必要であったために、救助隊員の疲労は相当なものとなっていたからである。

 特にA隊員は、次第に掛け声が合わなくなり、バランスの崩れなども目立ってきており、その疲労は極限状態に達していた。A隊員は、100m滑落(注:雪庇を踏み抜いて滑落)した後、要救助者の傍らで要救助者に話かけ続けながら30分以上も他の隊員の到着を待っていたために、体力的にも精神的にも、相当のダメージを受けていたのである。

 したがって、このままの体制では、稜線上まで残り100mの急斜面を人力により引き上げることは、体力の面からみても、不可能であると思料された。そればかりでなく、この状態を続ければ、A隊員自身が要救助者となりかねなかった。

 それゆえ、救助隊員の交代は必然であり、そうしなければ要救助者を引き上げられなかったのである。

〇事故防止のための検討(判決文外)
 ・更に上部が急斜面であれば、隊員を交代したとしても、その日のうちに引き上げることは困難ではないか?
 ・むしろ、引き上げを止めて、雪崩の危険がより少ない場所まで引き下ろし、雪洞を掘って隊員ともども救助を待つのが最善策(よりリスクが少ない)ではなかったか?


(2) 引上げ休止の際のストレッチャーの滑落防止措置
〇事故防止のための検討(判決文外)
 ・このままでは、救助を断る人が必ず出てくる!(そのほうが救命可能性が高くなるケースもある。)
 ・ロープワークを中心とした確保の基本が全くできていないので、隊員とその指揮者の再指導が早急に必要。指導内容としては、ロープによる確保を学ぶため岸壁・雪壁を複数登攀する実践訓練が適当。


  ア ストレッチャーを固定した姿勢
   ○原告らの主張

 ストレッチャーは、斜面を滑りやすいので、斜面と横向きに置き、雪面を少し踏み固め、ストレッチャーを置いた後、それを斜面に押し付けて雪に沈ませ、安定させた上で、ハイマツへの結束などによりアンカーをとる必要があったのに、要救助者を乗せたストレッチャーを、頭部が若干左側に傾いている不安定な状態で吊り下げた。

   ○被告の主張

 原告らは、ストレッチャーを斜面と直角にしておけば、落下しなかったと主張するが、ストレッチャーの底面には溝はなく、滑らかなプラスチックであったから、ストレッチャーを斜面と直角に置いたところで滑落の可能性が減少するものではなかった。

  イ テンションがかかった状態のままでストレッチャーを固定したこと
   ○原告らの主張

 ウェビング(線維性のテープ)がなんらかの要因で外れた場合には直ちにストレッチャーが滑走することになる、ウェビングにテンションがかかった状態でストレッチャーを吊り下げた。

   ○被告の主張

    (上記イを参照。)

○事故防止のための検討(判決文外)
 ・テンションを抜いて固定するのが普通では? ピッケルを使えばそれほど手間をかけずに足場が作れるのでは?
 ・隊員だけでなく指揮者を含めて確保方法の再研修・再訓練が必要。 


  ウ ハイマツに結びつけたこと
   ○原告らの主張

 ストレッチャーの固定にあたっては、ピッケルを複数使用して固定点を複数にした上、力の分散を図り、かつ、ピッケルが抜けないように上に人が体重をかけて固定する方法をとるべきだった。

   ○被告の主張

 傾斜40度以上の斜面において、ストレッチャーを引き上げていたところ、先頭でシュリングを引いているA隊員の疲労が激しく、引上作業に支障をきたしてきた。

 重量のあるストレッチャーを急斜面上で上昇させる作業には、相当の体力を必要としたため、疲労困憊した救助隊員がそのまま作業を継続すれば、かえってストレッチャーを落下させたり、救助隊員自身が受傷するおそれがあった。

 したがって、わずかの休息をとりながら作業分担を交代することで、救助隊員の疲労度を軽減しなければならなかったのは当然であり、そのために、一旦ストレッチャーを固定すべきであると判断したのは適切であった。

 救助隊員は、ハイマツは、これまでの経験や知識から、アンカーとして十分な耐性と強度を有すると判断したことから、アンカーとして登坂途上のハイマツを選択した。

 この点について、原告らは、アンカーとしてピッケル等を複数利用し、三点で固定する方法をとるべきであったと主張するが、上記の手法がハイマツをアンカーする手法よりも優れているとされる合理的な状況は認められず、ハイマツで十分アンカーとなる以上、あえて労力を費してまでピッケルを地面に固定する必要はなかった。

 また、十分に強度のある自然物のアンカーは、不安定性を払拭できず、容易に脱落する可能性のある人工物のアンカーよりも、はるかに信頼に値する。

  エ 一回り二結びという結び方
   ○原告らの主張

 ストレッチャーをハイマツに固定させる際、ストレッチャーに引き手代わりに結束していたシュリング(短いロープを輪のように結んだもの)の輪にウェビングを通し、ウェビングのそれぞれの端を太さ約5cmの幹と太さ約3cmの枝に「一回り二結び」という負荷がかかれば結び目の締りが増すが、輪が締まってハイマツへの接着性がより強くなるということのない結び方で結束した。

 また、ハイマツの枝は、柔軟性があって力を加えると容易にしなり、その結果、枝が集合しやすく、結んだ輪自体が締まらないかぎり、集合した枝が抜けやすいという性状をもっていることから、過重がかかることによって輪が締まる結び方でなければ、枝から抜けてしまう危険が非常に大きい。

 本件でも、ハイマツに結んだ二つの結び目のうち一方は幹についたままであり、もう一方は結び目はあったが枝はついていなかったというのであるから、固定が外れた原因は、ハイマツがしなったことによって結び目が解けることのないままに枝から抜け落ちた以外には、科学的にあり得ない。

 このようにハイマツへの結束は、ストレッチャーの固定方法として極めて不十分であり、たとえばブルージック結びというテンションをかけると幹を締め付けて移動しなくなる結び方をすべきだった。

   ○被告の主張

 救助隊員は、直近にあるハイマツの幹(太さ約5cm)と枝(太さ約3cm)を揺すり、その強度を確認し、枯れたものではないこと、アンカーとして十分活用できることを確認のうえ、ストレッチャーの引き手として結束していたシュリングの輪にウェビングを通し、そのそれぞれの端を同ハイマツの幹にそれぞれ「一回り二結び」で結びつけ、手を離して数十秒間目視したところ、ストレッチャーは安定し、安全が確保されたことを確認した。

   ○高裁判決における判断(要約)

 「ひと回りふた結び」の結び方で枝に結ぶと、結び目の輪が枝の先のほうにすべり、しなった枝から抜け落ちるおそれのあることは、容易に予見できた・・・ 結束するに当たっては、・・・根元に近い幹の部分に、荷重がかかると結び目が締まる結び方で結束すべきであった・・・

○事故防止のための検討(判決文外)
 ・この部分は、確保方法の一環として再研修・再訓練が必要。

 
  オ 二本のシュリング等を一本にまとめた結束方法
   ○原告らの主張

 ストレッチャーに結びつけた二本のシュリング等をそれぞれ別々にハイマツに固定するのではなく、その二本を一本のウェビングを通して、ウェビングの両端をハイマツに結んでいるところ、これは、一方の結束が解ければストレッチャーとの結束が解けてしまう方法であるから、極めて不完全な結束方法といえる。

〇事故防止のための検討(判決文外)
・この部分は、確保方法の再研修・再訓練が必要。


  カ バックアップを取っていないこと
   ○原告らの主張

 ひとつの固定方法としてハイマツへの結束を行ったのだとしても、それが外れた場合に備えてバックアップを取っておくべきだったにもかかわらず、ハイマツに結びつけた以外には、ストレッチャーを一切固定せず、安全を確保する義務を怠った。

        ○事故防止のための検討(判決文外)
 ・バックアップは当然すべきこと。ハイマツの周囲の雪を掘れば、支点を取ったものと別のハイマツが出てきてバックアップ用に使えるのでは?
 ・もし、支点が採れないのなら隊員1名が雪を掘って足場を確保した上で、体とストレッチャーとをロープで結びつけて確保すべき。
 ・この部分は、確保方法の再研修・再訓練が必要。

キ 全員同時にストレッチャーのそばを離れたこと
   ○原告らの主張

 ハイマツの結束が外れる場合に限らず、雪崩への対処や要救助者が何か話かけるなどした際の対応もできないにもかかわらず、救助隊員全員が要救助者のもとを離れ、要救助者の安全を確保する義務を怠った。

   ○被告の主張

 ハイマツの幹に結びつけ、手を離して数十秒間目視したところ、ストレッチャーは安定し、安全が確保されたことを確認した。したがって、その場を離れても良いと判断した。

 その後に、A隊員は稜線方向に登り、稜線から1名がストレッチャー方向に移動した。C小隊長とE隊員は、この交代時間を有効に活用して、引き上げ完了後のザック回収時間を少しでも短縮するために、約50m下方に置いてきたそれぞれのザック(1個約20kg)を固定場所まで引き上げることとした。

 そして、ストレッチャーの周囲に誰もいなくなった間に、全く予想に反して、ハイマツからストレッチャーが離れ、ストレッチャーが滑落したのである。これは、救助隊員にとって全く予想していなかった出来事であった。

 したがって、救助隊員らが採用した人員交代のための上記の手法(注:ハイマツに固定した行為も含む。)には、いかなる判断の誤りもないのが明らかである。

   ○高裁判決における判断(要約)

 滑落のおそれがあるにもかかわらず、救助隊員が要救助者のそばを離れなければならなかったとは認め難い。

7 ストレッチャーが落下して見失った要救助者の捜索を中止した行為
 ○原告らの主張

 やわらかい雪が膝上まであった状態で、ストレッチャーは要救助者を乗せていたことから、雪の上にストレッチャーの跡が確認できた。

 要救助者の低体温症は進行していたとみられるため、早期の身柄確保と保温を行う必要があったから、ストレッチャーの跡を辿って要救助者を確保し、直ちにビバークすべきであったにもかかわらず、捜索活動を中止して下山を開始している。

 ○被告の主張

 ストレッチャーが落下した地点まで救助隊員が降下し、要救助者を発見しようとする過程で、雪崩が発生する可能性が案じられた。

 また、要救助者を発見できた同所でビバークをした場合、同所において雪崩が発生する可能性があった。

 原告らは、ストレッチャーが滑落した後にまず行うべきことは、要救助者の探索であり、ストレッチャーが滑落する際に残した跡を辿れば容易であったと主張するが、ストレッチャーの裏面には、溝やエッジ等もなく、底面は半球状であったから、追跡可能な点線状の跡が残存するわけではない。

 また、要救助者を乗せた流線型で空気抵抗が少ない重さ70kg余のストレッチャーがこのような急斜面を加速して滑落した場合には、雪面上をすれすれに飛ぶように滑走し又は雪上にできたこぶや岩などへ乗り上げて飛び跳ねるように滑走するのであるから、その痕跡が順次追跡することが可能な点線状になることなどあり得ない。

 さらに、ストレッチャーの軌跡が点線状の痕跡として残存した可能性があっても、吹雪の影響によりそれが短時間のうちに消滅し追跡が不可能となることが、十分に予想された。

 実際にも、救助隊員が滑落するオレンジ色のストレッチャーを目視で追跡していたのであるが、急斜面を滑り落ち、直近の崖をストレッチャーが越え、一旦視界から消え、再度猛スピードのストレッチャーが視界に入ったものの、吹雪のため視認性が悪く、目測約200m先で確認不能となった。

 加えて、ストレッチャーが滑落した先の地形(傾斜、崖の有無等)は、地図上からは容易に判断することができず、地図に依拠しても、ストレッチャーが停止していた地点を予測することは困難であった。

 これらの状況から、C小隊長は、ストレッチャーが滑落した後に、現場の天候、救助隊員の健康状態(疲労度、凍傷の有無等)、雪崩の危険性、日没時刻、要救助者を発見できる可能性、捜索を継続した場合の二次災害発生の可能性等を十分に検討した結果、苦渋の選択として、その後の救助活動を中止することを決断したものである。

~以上判決文抜粋~


◎以下は単なる感想

〇一審原告(要救助者の両親)の考えについて


 クライマーなら常識となっている確保方法を救助隊員が知らないなど、道警救助隊の技量不足を疑わせるものが様々あり、要救助者の両親が提訴したのも尤も。

 確定した判決は、警察のプロ意識の向上に警鐘としての効果があり、この点では提訴の目的に沿う結果になったのでは?

 しかし、救助隊の装備(ピッケルが個人装備でなかった。)、救助方針の甘さ(不時露営の準備、安全確保等)など、裁判所の判断に採り上げられなかった事項については、行政の裁量に委ねられていることから、道警の奮起に期待するしかない。

〇一審被告(北海道)の考えについて

 北海道の山岳遭難救助は、民間の技術レベルが高かったという歴史的背景があるようで、道警としては、官民による山岳遭難防止対策協議会に加わり、その一員として任意に関わってきたとの認識がこれまであり、判決に違和感を抱いた状態のまま新たな対処方針が見い出せなかったため、また裁判対象外の約束(救助対策の見直し等)を避けたいため、和解できずに控訴・上告にまで至ったのでは?

 しかし、判決確定後は、救助に主体的に関わらなければならず、特に救助隊員のレベルアップが急がれる。その際は、これまで築き上げられた官民の連携を引き続き活かしながら、北海道の山岳の特徴を踏まえた救助隊(富山県警と肩を並べる必要はないのでは?)に発展することを期待したい。 

 なお、仮に山岳遭難が更に増えれば、救助と他の業務対応(例えば交通事故処理)とが重なってしまうことも否定できないが、しばらくは内部の応援体制で対処するしかないのでは?

〇裁判所の考えについて
 登山が一般化し遭難も増加したことから、国家の力が及ばない領域を残すのは不適当と考え、今回は警察にその役回りを振付けたのでは?

 警察の業務は、人権保護のため、厳格に範囲が限られているのに、「山岳遭難救助は警察の責務」というふうに、法律家集団特有の価値観で司法が融通無碍に法律を解釈しているように見えるのは、当方の知識不足のせいなのか?(生命・財産、人権保護に当たる場合は積極的に解釈するということか? 法律家集団特有の価値観に触れる部分の情報が少ないように感じられる。県漁業調整規則から熊本県の不法行為を見つけ出して水俣病問題解決のヒット作を出したことと警察法からヒット作を見つけ出そうとするのでは、少し気遣いの仕方が違うのでは?…)

〇個人的感想

 要救助者を乗せたオレンジ色のスケッドストレッチャーが白い雪の急斜面を猛スピードで滑走していく光景を想像すると背筋が凍りつくようです。


◎引用元


地裁判決:判例時報No.2172(平成25年3月1日号)P77-97,判例時報社


高裁判決:入手できず(概要版使用。ただし、第三者でも札幌高裁での「閲覧」は可能とのこと)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?