ネコのイラストレーションの描き方
ネコのイラストレーションの描き方には苦労しました。まずトラウマとなったのが2001年頃、大学時代の恩師安西水丸先生(故人)から、卒業後の仕事のファイルを見て頂いたときに「この猫がよくないなあ」と言われたことでした。(詳細http://masayameguro.jugem.jp/?eid=74)それ以来ネコのイラストレーションには深い思い入れを持って描き続けて来ました。いつか先生にも褒められるようなネコのイラストレーションを描くために。先生は2014年に他界したため、絵本「ネコのなまえは」は見て頂けませんでしたが、きっと「よく描いたね」と言って頂けると今は信じています。
ネコの絵はどうしてもネコの漫画やアニメの影響を受けがちです。簡単に描くことは出来ても”どこかで見たようなネコ”になってしまいます。どこにでもいるありふれたモチーフにありがちな難しさです。 安西水丸先生は村上春樹さんとの「ふわふわ」(詳細)という絵本に描くネコをどんな風に”ふわふわ”描くかということに何日も考えたそうです。表紙にあるように輪郭の描き方がその成果です。
ネコの描き方は千差万別でいいのですが、先述の”ふわふわ”のようにどのようにネコを描きたいか、というテーマづけが大切です。「どんなネコを描きたいのか」安西先生に注意された当時のネコにはそれがありませんでした。ただ漠然と「この辺にネコでも描くかな」という程度だったのです。
ぼくの場合ネコの描き方は”あまり可愛くなりすぎない”ということかもしれません。あとはポーズなのですが、丸まっている、飛んでいる、尻尾を立てている、など描いていく時に、あまりスリムで美しくない、ずんぐりむっくりしていたり、どことなく鈍臭い感じだったり、ボーッとしている雰囲気を出して描いています。
2016年に枡野浩一さんと制作した絵本「あれたべたい」では脇役として登場させたのですが、わざと黒目を描かず、中途半端に画面から見切れさせています。そうすることでネコが絵の全体から目立たないようにしました。ただそのことが逆に個性的で面白い自分にしか描けない絵になったかなと思っています。
2017年には、枡野浩一さんとネコ自身が主役となる「ネコのなまえは」を絵本館さんから出版して頂きました。このネコの描き方のポイントは黄色いネコ、丸まったネコが主軸となることです。ぼくはかなり以前からネコを黄色く描くのが好きでしたが、これは直感的なものでしかありません。丸さを強調するのは、実体験として丸くなって寝ていたり、のんびりしていたはずのネコがパッと動いたりする場面に遭遇したことが印象深かったからです。突然引っ掻かれたり、くしゃみをかけられて風邪をひいたこともあります。また、ぼくの車の上で二匹の猫が決闘している時は肝を冷やしました。何分間も顔がくっつくほど睨み合い、急に二匹がパッと飛び上がり、目にも止まらぬ速さで戦いました。あまりの緊張感に剣客同士の立ち合いはこんな風だったのかと思いました。
ぼくにとってネコは”かわいい””のんびりしている”ように見せかけて油断ならない奴なのです。こんな風に、自身がネコとどのような関係があるか、ネコがどう見えるか、がイラストレーションを描くときのポイントとしてとても重要になります。
最後に、沢山描いてきた仕上げとして描いたネコは歌人枡野浩一さんの短歌に描いたネコの絵でした。2015年と2016年に高円寺フェス内のイベントでぼくは沢山枡野浩一さんの短歌をTシャツに描いていました。枡野さんの短歌はユニークだったりしんみりしたり、ネコを違う角度で描いて短歌に合わせてみたところどれも好評でした。間抜けなネコ、焦るネコ、素敵なネコ。やはりイラストレーションは、優れたお題を頂くと引きあげてもらえるものだなと実感しました。自分だけで描いていたら、なかなか「ネコのなまえは」にはたどりつかなかったかなと思っています。皆さんも、是非好きな文章に挿絵としてイラストレーションを描くつもりでネコを描いてみてはいかがでしょうか。
最後に、ぼくは先の「ネコのケンカ」の様子を身振り手振りをつけて真似るのが得意です。
2017年7月13日 目黒雅也
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