見出し画像

劇団大人の麦茶 「やっと味がする。」

観劇を終えて初めてぼくのポスター制作は完了する。「大人の麦茶」の観劇に臨む時、先にスズナリの下にあるBARで一杯引っ掛けるのが楽しみの一つだ。

イラストレーションの仕事で、特殊なものとして演劇ポスターがある。ただし演劇をコンスタントに打つ劇団の、また波長が合う仕事となるとなかなか出会いは少ない。「大人の麦茶」の仕事はその貴重な演劇ポスターのお仕事で、毎回楽しみにしている。

以前文庫本の装丁をやった時は本の内容のみならず映画化されるその分厚い脚本まで読破しなければならなかった。そこから10案以上出して絞っていく。ぼくはあらすじだけ読んだ時点で初めからピンと来たアイデアが一番いいと思っていて、それを通す為にそれぞれ欠点を持たせたダミー複数案を出し、必要な手順を踏みつつゴールを目指していく。

ところがこの「大人の麦茶」作品の場合は大体のさわりのみ教えてもらい話の全貌はほとんど見えない状態から仕事が始まる。だからぼくも役者一人一人のことを調べていき、どのように演じるのか、どんな雰囲気がいいのかを想像する。だいたい一発OKであとは細部にリクエストが入るくらい。観劇をするまではそれがどんなお話しなのか分からない。

今回は最終日の観劇となった。

正直な話、演劇の感想って関係者が褒めているものばかりでむず痒い気がするので、今回は感想はあえて公表するつもりはなかった。でも言いたくて仕方ない。

最後の終わり方、鳥肌が立つほど素敵でした。

好きなものが色々出てきた。サザン、ビーフシチュー(きっとこれは継ぎ足したスープを冷凍庫から取り出して作られていただろう)。やはり何よりエンディングの仕方。ぼくは綺麗事でないものが好みなもので。

イラストレーションの仕事は、内容を隅々まで把握すれば良いというものではなく、パッと出会い頭の一瞬なのだと思う。多少実情と変わろうがどうなろうがそこに込めた情念が大切だ。「大人の麦茶」との仕事ではそれを確信している。これまでの絵を並べてみると、初めての仕事から数えて毎回様々な試みをして「大人の麦茶」とはなんたるかを探ってきた。今回ようやくぼくの中で劇団との一体感が完成しつつあり「大人の麦茶」をどのように描くかという"やっと味がする"ようになって来たと思っている。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?