虚構の劇団「ホーボーズ・ソング」。抗おうとするもの、挑戦しようとするものへの賛辞を。

最近は流石にそう何度も芝居を見に行くことが出来なくなってきていて、今回の虚構の劇団の実に3年ぶりの新作だったけど、スケジュールやら金銭的やらのいろんな理由で、結局千秋楽の1回しか見に行けなかった。

そして、1回しか見に行けなかったことを、案の定後悔している。仕方がないこととはいえ、こんなに「挑戦的な公演」を1回しか見れなかったのは、思ったより痛恨に感じている。

そんなわけで、虚構の劇団第11回公演「ホーボーズ・ソング スナフキンの手紙NEO」の千秋楽公演を鑑賞してきました。

ただし…この芝居、単純に「作品のみの評価」をするのは、私にとって非常に難しい。なぜなら、ある意味においてこの作品は「非常に笑いづらい」のだ。ファンタジーなんだけど、ファンタジーでなくてはいけないんだけど、物語の一番下に流れているものは、他のどの作品よりも現実に近いものになってしまったから。

「スナフキンの手紙」の時代は、「希望の90年代」が(皮肉でも)謳われてた。まだそんな余裕があった。でも20年経った後の「スナフキンの手紙NEO」の時代は、「憎悪の10年代」。もう、皮肉として扱う余裕すらなくなってきている。

そんな中、本来ならこんな芝居を作って欲しくはなかったと思う。作ってはいけなかったんだと思う(「観たくなかった」、ではない)。

逆に、こんな芝居を作らなくてはいけない時代なのだ。憎悪の10年代というのは。

公演自体は、非常に素晴らしかった。もはや「安心してなにも考えずに笑わせてくれる」程、劇団員もゲストも地力がついてて、おや?と気になってしまう要素は殆ど無い。オリジナルからのメンバーは芝居のメリハリと安定感を巧みに使いこなし、今回から正式な劇団員となった森田ひかりさん、木村美月さんは早くも自分たちの魅力を見つけ始め磨き始めていることがよく分かる。研修生達も一生懸命な前向きさを全面に押し出してる。

ゲストのオレノグラフィティさんも佃井皆美さんも、劇団員とは気心をしれた身であり、バランスよく物語に溶け込んでいる。映像の使い方もずいぶん進歩し、結構ハードな場面構成も難なく食らいついてる。

だからこそ…出来るのなら、若い世代に「こんな作品」を演じてほしくはなかったなと、思ってしまう。いや、言葉を変えよう。「こんな芝居を演じなければいけない時代」になってしまったことに、私は笑いながら悲しくなってしまった。

それは作品のせいではない。この作品を「リアルに近いファンタジー」にしてしまった、「憎悪の10年代」という現代の風潮に対する悲しさなのだ、と。

鴻上さんがさんざん笑い飛ばしてきた「世間」が、ここまで笑いづらくなる時代がやってくるとは…いや、それは自業自得なのか。


でも一方で、「ホーボーズ・ソング」はたまらなく「挑戦的な」公演であり、その点は私も見ていて、凄く嬉しく感じていた。

ほぼ旗揚げから見続けた「虚構の劇団」という劇団の中で、こんなにもチャレンジングな公演は初めてだ。これまではどちらかと言うと、「鴻上尚史」という確固とした地盤に支えられて、劇団員がそれぞれのキャラクターや自分の役割を模索しながら表現している様に感じることがあった。その集大成が、前回の公演「ビー・ヒア・ナウ」だった(厳密にはあれは「鴻上さん演出」ではないので、集大成と呼ぶべきではないのかもしれないけど)

あれから1年後の、3年ぶりの完全新作。「虚構の劇団」は、次のステップに踏み出したようだ。

「ホーボーズ・ソング」で、劇団員はついに鴻上尚史さんと同じ立ち位置に立ったようだ。支えられる地盤ではなく、「戦う相手」になって、「挑戦状」を叩きつけられて、こんなに難しい芝居を笑いながらこなしている。

…こんなことを書きながら、何となく「暗殺教室」みたいだなって、思ってしまった。

教師と生徒から、「戦う相手」に。その第一歩として表現されたのがこの作品なら、私は十分納得できるし、観客として満足した。

でなければ、こんなに「あまりにも挑戦的な作品」を心から楽しんでしまう事はできなかっただろう。終わり方も色んな意味で衝撃的だし、今までなら「え?なんでこんなことしてるの?」って思ってしまうことも、劇団員たちは難なく演じていたし、私もすぅって受け入れた。

結構前に「虚構の劇団」に第三舞台の影を見つけようとすることは止めたはずなのだけど、それでもどうしても頭の片隅に見つけてしまうこともあるにはあった。

だけど、この「ホーボーズ・ソング」は、完全に「虚構の劇団」のものだ。他のだれでもない、何処にもない、「虚構の劇団」にしか出来ない作品だ。

この芝居を「虚構の劇団」で観れたことに、私はとても幸せで、光栄で、嬉しく感じた。

そして、やっぱり何とか頑張って1公演2回は見に行きたいと思う。なので、これからもチケット代はあんまり高くならないでね。某35周年経ったあの劇団みたいには…。


追伸:あと、とってもとっても眼福でした。今回図らずも最前列の中の席だったので、眼福過ぎて視線を何処に持ってっていいかわからず高校生レベルで目がキョドってしまったシーンが有りました…。やっぱり現役でダンスとかしっかり踊れるメンバーだから、皆スタイルがいいのよね…。

鴻上さん!!ありがとう!!色んな意味で本当にありがとう!!!

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