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第11倍音

自然倍音列の以下のような楽譜を見たことある人は多いのではないでしょうか?

楽典.com より

基音C2の周波数の整数倍した音がどの音になるのか表したものですね。金管楽器の方にはお馴染みのものです。

第7倍音には下向きの矢印がついていますが、実際のB音よりも低いことを表します。同じく第11倍音にも下向きの矢印がついており、実際のF#音より低いことを示します。

この第11倍音に注目した作曲家を2人ご紹介しましょう。

一人目は度々このnoteでも登場するオリヴィエ・メシアンです。

メシアンは自著「わが音楽語法」の中で、極めて耳の良い人はこの第11倍音を知覚できると言っています。上に示したように実際にはF#音より大分低いのですが、近似値的にF#音として扱っています。

この増4度の添加音を含んだ和音をメシアンは偏愛します。またこのF#は、増4度下のC音に対する引力が働いているとして、F#→Cという進行を作り出しました。

「わが音楽語法」の譜例より

良いピアノで下のC音を弾いて、よーく耳を澄ますとF#(実際は若干低めのF#です)が聞こえてくるかもしれません。


もう一人はフンパーディンクです。彼の作った有名なオペラ「ヘンゼルとグレーテル」の中に第11倍音にまつわる場面が出てきます。
以下は第3幕、お菓子になった魔女を見て子供たちが "Hei!"と歓声をあげる場面のスコアです。

「ヘンゼルとグレーテル」第3幕より

ホルンのパートに注目してみましょう。第1、第3ホルンのFの音に⚪︎印が付いているのがお分かり頂けるでしょうか?この⚪︎の注釈が下の方に書いてあります。

"Die mit ⚪︎ bezeichneten Töne F vom 1. und 3. Horn sind als Naturtöne, das heisst als Ton 11 der Naturskala wiederzugeben."

「⚪︎マークのついた1、3番ホルンのFの音は自然音です。つまり自然倍音列の第11倍音ということです。」

ここでホルンが吹き鳴らすテーマは「ほうきのテーマ」です。そう、あの魔女が乗っていたほうきです。ヘンゼルとグレーテルによってかまどに押し込められ焼かれてお菓子になって出てきた魔女を見て、それまでお菓子にされていた子供たちが大喜びします。その爆発する喜びの表現として、ナチュラルホルンで鼓舞されたファンファーレのように、ホルンに自然倍音を使ったメロディーを吹かせているのです。譜面だとFの音で表記してありますが、ちょうどFとF#の間くらいになるので、普通のFより若干高めの音が聞こえてくることになります。(F管ですので実音は5度下が鳴ります。)実演をお聴きいただくとよくわかると思いますよ。

ヘングレといえば森、森といえばホルン!そうしたドイツの伝統をも踏まえ、ここぞという箇所に敢えて自然倍音の響きを使ったところにときめきを感じます。


以上、第11倍音に関するお話でした!!

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