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極限まで遅いのを、極限まで早くする  messian column #3

前回書いた「トゥランガリーラ交響曲」第3の循環主題「愛のテーマ」_これは4つある循環主題の中で最も重要なものですが_は第6楽章で極限まで遅いテンポで演奏されます。フレージングがどのようになっているか知覚できないほどに。ひたすら持続する弦楽器とオンドマルトノの音色が、二人の恋人が時の流れから隔絶された楽園での『永遠の愛』を紡ぎ出します。前回も掲載したフレージングを分析した楽譜を載せておきます。

第6楽章「愛のテーマ」提示部

このゆっくりなテーマの音価を「全て」16分音符に圧縮して速いテンポで提示してみたら?_そんなこと考えるのはメシアンしかいないでしょう。第10楽章「ファイナル」の第1テーマが提示された後、圧縮された「愛のテーマ」が聞こえてきます。第5楽章「星たちの血の喜悦」と同じ3/16という拍子で行われます。

練習番号4アウフタクトよりすべて16分音符に圧縮された「愛のテーマ」、オンドマルトノのパートを辿ってみるとわかりやすい。調はEs durになっている。

第6楽章の2番カッコのところまで「約5分10秒」かかるところを、第10楽章では「約20秒」で通り過ぎます。早回しにも程がありますよね!でも早くやっても遅くやってもこのテーマは成立するから凄いんです。

第10楽章のクライマックスでは「愛のテーマ」提示部がtuttiにより演奏されます。最高音域はピッコロではなくオンドマルトノの輝かしい高音に任されます。演奏会場で生で聞くとここの目眩くサウンドに本当に圧倒されますよ!まさに、宇宙的超人的なまでのスケールを伴った愛の調べは、抗うことのできない宿命としての《トリスタンの媚薬》に象徴される、とメシアン自身が語った意味を体感することができます。展開部のtuttiは前に紹介したようにすでに第8楽章で為されていました。全曲の到達点で「愛のテーマ」の主要メロディーが第6楽章と同じオリジナルのリズム形で回帰されるわけです。

第10楽章のクライマックス、tuttiによる「愛のテーマ」の強奏

実際のフレージングですと添加音価を含むため「3/8+3/16+4/8」と書くべきところですが、4/8拍子に当て込んで書いているため(これを4/8に「復帰」すると表現する)、シンコペーションが多用された書き方になっています。聴いているとこのような楽譜になっているとは想像できないと思います。

第10楽章を聴く前に一点だけ付記します。冒頭でウッドブロックが面白いリズムを叩いているのが聞こえてきますが、これは金管楽器中心で演奏されるファンファーレ的に第1主題と関連性はありません。こういうリズムを叩いています。

メシアンが偏愛するリズム

これはメシアンが偏愛するリズム形です。それぞれの小節の前半と後半が「不正確な縮小と拡大」になっています。
1小節目 3つの4分音符の後の3つの8分音符は1/2の縮小形だが、真ん中の音に符点が添加されている。
2小節目 3つの8分音符の後は1.5倍の拡大形だが、最後に16分音符が添加されている。
3小節目 後の2つの音符は最初の2つの不正確な2倍拡大形、本来ならば最後の2分音符は符点4分音符でなければいけない。

この3つの小節を連続した上記譜面を実際の作品に「偏愛するリズム形」として用いています。第4楽章の最初に出てくる印象的なウッドブロックもこれです。一度ウッドブロックにだけ注目して聴いてみるのも面白いと思いますよ。

では、最終第10楽章を聴いてみましょう!!

なおこの交響曲の全楽章詳細分析を公開しています!作品の奥の院を覗きたい方はぜひご覧ください!1楽章から順にお進みください。


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