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メシアンとワーグナー 意外な共通項

このnoteではワーグナーとメシアンの話題が多いですが、今回はその2人の意外な?共通項についての話です。

メシアンが1976年のアメリカ建国200年のために委嘱を受けて書いた
「峡谷から星たちへ」
という傑作があります。
1972年のアメリカユタ州への旅行で、楽章のタイトルにも現れるザイオン国立公園とブライス・キャニオンの雄大な自然から大きな霊感を得て、巨大な峡谷と岩石、果てしない宇宙に広がる星たち、そして多彩な鳴き声で呼び交わす鳥たちの様子を通して、人智を超えた自然に対する畏怖と神への畏敬の念を表した曲です。

全曲は3部12曲に分かれており、砂漠、星、鳥のカテゴリに分かれた曲が並びます。

第1部
「砂漠」
「ムクドリモドキ」
「星たちの上に書かれているもの」
「マミジロオニヒタキ」 ピアノソロ
「シーダー・ブレークスと畏怖の贈り物」

第2部
「恒星の呼び声」 ホルンソロ
「ブライスキャニオンと赤橙色の岩」

第3部
「よみがえりしものとアルデバランの歌」
「マネシツグミ」 ピアノソロ
「モリツグミ」
「オマオ、ソウシチョウ、ハワイヒタキ、シキチョウ」
「ザイオン公園と天国」

極彩色を表現するために採られたオーケストラ編成は独特です。

ピアノソロ、ホルンソロ、シロリンバソロ、グロッケンシュピールソロ
ピッコロ、フルート2人、アルト・フルート
オーボエ2人、イングリッシュ・ホルン
クラリネット3人、バス・クラリネット
ファゴット2人、コントラ・ファゴット
ホルン2人
トランペット3人
トロンボーン2人、バス・トロンボーン
弦楽器6-3-3-1(全てソロ扱い)
ジェオフォーン(砂の音)エオリフォーン(風の音)をはじめとする多数の打楽器

風の音や砂の音、トランペットのマウスピースだけでの演奏、コントラバスの指板の下を弾く奏法など色彩的な書法が随所に見られ、そのサウンドの斬新さに耳を奪われます。3曲目はダニエル書ペルシャザルの饗宴に現れる「メネ・メネ・テケル・ウパルシン」という言葉が音化されています。10曲目は「どーそーみーどー」という音型が耳から離れなくなります。



さてそこから遡ること100年、1876 年にアメリカ建国100周年のための曲を書いたのがワーグナーなのです。タイトルは「アメリカ合衆国独立宣言100年祭のための大祝典行進曲」。1876年といえばバイロイト祝祭劇場の開場の年にあたります。ワーグナーがこんな曲を書いたのは、要はお金が目当てだったわけです。上演経費など嵩みますからね。

では「ニーベルングの指環」を完成させたワーグナーが書いた行進曲とは?

うーん、大ワーグナーにしては陳腐(失礼!!)かなあ。いや、実際これを作曲中のリヒャルトが、何も思い付かない!と作曲に苦慮しているというコジマの証言がありますし、無理矢理捻り出したという感じの曲に思えます。編成はバストランペットも入った大掛かりなもの、リングのオーケストラを想像させます。

バストランペットも入ってる大編成のオーケストラ

中間部には祝典行進曲なのにハーゲンの見張りに登場する「苦痛の和音」が現れる始末。これリングのモチーフを重ねた和音で、パルジファルでも重要な役割を果たす音なんですが、なぜここで鳴る?と初めて聞いた時は思わず仰け反ってしまいましたもの。下からE-G-B-C#-Fという音でできています。

最初の小節の音がEGBC#Fというハーゲンの苦痛の和音だ

キワモノではありますが、一度オールワーグナープログラムの中の一曲として取り上げられても面白いかなあ、と思うのですがいかがでしょう?

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