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『ライトスタッフ』に関する個人的な話

 現在、日本を始め、世界中で大ヒットしているトム・クルーズ主演の『トップガン マーヴェリック』に出演しているエド・ハリス。午前十時の映画祭12ではロン・ハワード監督の『アポロ13』が上映され、時ならぬエド・ハリス祭りとなっている。そのハリスが出演し、午前十時で同時に上映されているのが、フィリップ・カウフマン監督の『ライトスタッフ』だ。『トップガン~』でもオマージュされているこの作品は1984年に日本で公開された。だが、最初の公開版は30分以上も短縮された160分バージョンで、ソフトでは完全版である193分バージョンが観られた。そして、完全版が日本で初めて上映されたのは、2010年の午前十時の映画祭で、ようやくスクリーンで完全版が観られたことが本当に嬉しかった。正直、最初の公開版を名画座時代のテアトル新宿で観たときは自分とは合わない(途中で寝てしまった)と思っていたが、朝10で完全版として観直したときは面白かったし、2017年に新文芸坐で35㎜フィルムで観たときは改めて感動した。最初の印象が悪くても、年月が経って観直せばまったく印象が変わる。不思議なものだ。そして、2022年の午前十時の映画祭12で改めてデジタルで観直したが、新たな感動もあったし、『トップガン~』を事前に観ていたせいもあって、さらに興味深く観ることができた。
 テレビで吹き替え版が放送されたのは、2000年1月10日にテレビ東京の「20世紀名作シネマ」の枠で、そのときのキャストは、サム・シェパード=菅生隆之、スコット・グレン=池田勝、フレッド・ウォード=秋元羊介、エド・ハリス=牛山茂、デニス・クエイド=大塚芳忠という布陣。このバージョンはブルーレイで観られるようだ。筆者もブルーレイを持っているので、久々に観直してみようかと思う。
 物語は音速の壁を破ることに挑むサム・シェパード演じるテストパイロットのチャック・イェーガーと、ソ連が世界初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げを成功させたことをきっかけに、アメリカでNASAが創設され、グレン演じるアラン・シェパード、ウォード演じるヴァージル・グリソム、ハリス演じるジョン・グレン、デニス・クエイド演じるゴードン・クーパーほか、7人の宇宙飛行士が招集されて始まる“マーキュリー計画”が対比されながら描かれる。イェーガーがストイックに音速の壁に挑戦する姿、宇宙への挑戦を続ける宇宙飛行士たちの姿を、家族や周辺の人々を含めて丹念に描写し、193分という長尺を感じさせない巧みな語り口で見せるカウフマン監督の手腕が光る。個人的にグッときたのは、グレンが副大統領から取材を強要されようとしている妻に電話で励ますシーン、ドビュッシーの「月の光」に乗せて舞われる美しいダンスシーン、そして、クライマックスのゴードンが宇宙へと飛び立つシーンだ。そこに流れるのはアカデミー賞で作曲賞を受賞したビル・コンティの勇壮な音楽。この音楽を聞いたら燃えないわけがない。それまでの物語が収束していくのに相応しいラストシーンで、清々しさを感じずにはいられない名シーンだと思う。そのほか、若きジェフ・ゴールドブラム、ランス・ヘンリクセンほか、その後に活躍する豪華キャストが出演していたことも記しておきたい。
 筆者がこの映画で唯一不満に思っているのが、クライマックスの日本語字幕である。訳者の戸田奈津子さんを批判する気は毛頭ないことだけは言っておきたい。その字幕というのは、グリッソムが宇宙へ行くゴードンに向かって言う「Go Hotdog Go!」というセリフだ。実はその前にレポーターの男性が「Go」と言うカットがあって、その字幕は「いけよ」、グリッソムのセリフは「頑張れ」と出る。だが、この場合、それまでの流れから言えば、レポーターのセリフは「行け!」、グリッソムのセリフは「ホットドッグ、行け!」と訳されるべきだと思う。その方が観ている観客のテンションもあがるはずだ。現に、日本映画「宇宙兄弟」で小栗旬が似たシチュエーションで言うセリフは「行け!」だった。その訳が修正されることはないと思うが、できれば変えてほしいというのが個人的な願望だ。その字幕で作品が観られる日が来るのだろうか……。

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