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『ディア・ハンター』に関する個人的な話

 ダグラス・トランブル監督の『サイレント・ランニング』、テッド・ポスト監督、クリント・イーストウッド主演の『ダーティハリー2』の脚本を手がけ、後にイーストウッド主演の『サンダーボルト』で監督デビューしたマイケル・チミノ。1981年の『天国の門』はユナイテッド・アーティストを経営危機に追い込むほどの興行的失敗となる。1985年『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』、1987年『シシリアン』、1990年『逃亡者』、1996年『心の指紋』、2007年『それぞれのシネマ ~カンヌ国際映画祭60回記念製作映画~』のショートフィルム1本と、作品を送り出してきたが、2016年7月に77歳で他界した。そんな彼の代表作と言っても過言ではないのが、1978年の『ディア・ハンター』だ。第51回のオスカーで作品賞、監督賞、助演男優賞、音響賞、編集賞の5部門を獲得し、そのほか、各映画祭でも高い評価を受けた。筆者が初めて観たのは劇場公開時、実家近く(秋田県大曲市)の映画館・大曲日劇で、通常は2本立てだったのが、この作品は3時間以上の長尺ということで1本立ての上映。当時、映画好きの同級生と観に行ったのだが、その衝撃の大きさに観終わった後は無言になってしまった。その後、1984年10月27日放送のフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』でのテレビ初放送(3時間枠、正味140分)で観た。ロバート・デ・ニーロ=山本圭、クリストファー・ウォーケン=羽佐間道夫、ジョン・サヴェージ=野沢那智、ジョン・カザール=青野武、メリル・ストリープ=池田昌子という豪華な吹き替えキャスト陣で、今のところ、吹き替え版はこのバージョンのみだ。そして、2011年の“第二回午前十時の映画祭”の35ミリフィルム、2018年の4Kデジタル修復版と、スクリーンで観る機会に恵まれ、その都度、感動を新たにしたものだった。
 舞台は1968年のペンシルベニア州クレアトン。デ・ニーロ演じるマイケル、ウォーケン演じるニック、サヴェージ演じるスティーブン、カザール演じるスタン、チャック・アスペグラン演じるアクセルは町の製鋼所に勤める親友グループで、週末には山で鹿狩りを楽しむ平凡な若者たち。ある土曜日、ベトナムに徴兵されるマイケル、ニック、スティーブンの歓送会と、スチーブンの結婚式が行われる。そして、マイケルたちはベトナム戦争に行き、戦場の過酷さを知る。そして、スティーブンやニックと別れ別れになったマイケルはクレアトンに生還。陸軍病院に入院していたスティーブンからニックが生きていることを知ったマイケルはふたたびベトナムへと向かう。
 映画の前半はマイケルたちの平和な生活が、中盤ではベトナム戦争、後半ではベトナム戦争からの帰還後が描かれる。オスカー助演男優賞を受賞したウォーケンの終盤の鬼気迫る演技、ロシアン・ルーレットのシーンは何度観ても衝撃的で、そのシーンの後の何とも言えない無常感、ラストで歌われる「ゴッド・ブレス・アメリカ」の切なさといったらない。デ・ニーロほか、キャストの歌声が胸に迫ってくる。そして、スタンリー・マイヤーズ作曲、ジョン・ウィリアムス(作曲家とは別人)のギターによるテーマ曲「カヴァティーナ」の美しさ、ヴィルモス・ジグモンドの撮影、ベトナム戦争に行く前と行った後の対比した構成と、本当に見応えのある、3時間超という長尺を感じさせない人間ドラマも見事としか言いようがない。
 劇場公開時に衝撃を受けてから何度も観返す機会があったが、観るたびに感動させられてしまう。後にリバイバルで観た『天国の門 完全版』は素晴らしかったが、『天国の門』の最初の劇場公開で、もしもマイケル・チミノが失敗していなかったら、彼の映画監督人生はどうなっていただろうか。それを考えると何とももったいない気はする。でも、『ディア~』は後世にも語り継がれる名作であることは間違いない。もし、まだ観たことがないという方には、一度は大きなスクリーンで観ることをオススメしたい。

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