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『エレキの若大将』に関する個人的な話 

 筆者がまだ田舎(秋田県)にいたころ、フジテレビ系のプロ野球中継時に雨天中止用の番組として映画が編成されていた。その中でも、加山雄三主演の『若大将』シリーズが編成されたときは、雨で中止になってくれないかと思っていたものだ(当時はまったくプロ野球に興味はなかった)。その雨傘番組で観た岩内克己監督の『エレキの若大将』がもう面白くて、『若大将』シリーズのファンになり、他の作品も追いかけるようになった。初めて劇場で観たのは東京に出てきてからで、日比谷にあった旧みゆき座の閉館に際して東宝映画が上映されたときに本多猪四郎監督の『ゴジラ』と2本立てだった。その前に初めて買ったレーザーディスクの中の1枚が『エレキ~』で、新宿にあった新星堂でレーザーディスクを持っていたら、店員に笑われたというのは今でも忘れられない。若大将のレーザーディスクを買って何が悪いんだと、腹立たしかったが、欲しかったんだから誰から何を言われる筋合いはないはずだ。ちなみに、そのときに買ったのは、レナード・ニモイ監督の『スター・トレック4 故郷への長い道』、ジョン・フォード監督の「黄色いリボン」、小中和哉監督の『星空のむこうの国』だった。そして、テレビ放送、ビデオ、レーザーディスク、DVDと、何度も観直している。その後、WOWOWで『若大将シリーズ』が放送されたときのウェブの解説記事を担当することになり、そのときは『アルプスの若大将』から『帰ってきた若大将』までを一気見した。中にはまだ未見だったものもあったので、ようやく全作制覇することができた。全作観た中で、個人的にはやはり『エレキ~』が一番好きだし、シリーズ中でも屈指の出来だと思った。
 物語は加山演じる田沼雄一は京南大学のアメラグ(アメリカンフットボール)部部員で、田中邦衛演じる青大将こと石山新次郎はライバル、星由里子演じるレコードショップ店員の澄子と出会い、恋のさやあてを繰り広げる。一方、雄一の実家のすき焼き屋・田能久が破産宣告を受け、久慈あさみ演じる前に出場した勝ち抜きエレキ合戦で審査員長だったプロモーターの石原から声をかけられ、寺内タケシ演じる隆と共にバンドで稼いで田能久の危機を救う。『若大将』シリーズの楽しさは雄一が毎回何かのスポーツで活躍し、石山と澄子をめぐる恋のバトルを繰り広げ、加山が劇中で歌を披露するというのが大体のパターンで、『エレキ~』では加山が弾厚作名義で作曲、岩谷時子が作詞した「君といつまでも」、「夜空の星」が歌われ、インストの「ブラック・サンド・ビーチ」、「ランニング・ドンキー」など、おなじみの曲が流れる。雄一の友人で蕎麦屋の店員役で寺内が登場し、得意のエレキのテクニックを披露しているのも音楽ファンにはたまらない。中盤の“勝ち抜きエレキ合戦”のシーンでは内田裕也が司会者役で出演し、ダジャレを披露するという、その後のイメージとは180度違う役柄であることも見どころだ。そして、ジェリー藤尾演じる銀行家の息子・赤田が結成したバンド・シャークスがザ・ビートルズ風だったりと、1965年当時の世相を反映しているも興味深いポイント。さらに、有島一郎演じる雄一の父・久太郎、飯田蝶子演じる祖母・りきなど、おなじみのレギュラーのコメディーリリーフも楽しい。
 永遠の若大将として多くのファンに親しまれた加山は、今年の12月でコンサート活動から引退するという。ファンとしては寂しい限りだが、『若大将』シリーズを始めとする数々の映画も、加山が作り出した名曲の数々も永遠に残っていく。改めて、加山の残した功績の大きさを感じずにはいられない。

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