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『哀愁』に関する個人的な話

 ある日の夜、日本テレビの“水曜ロードショー”で『風と共に去りぬ』の2回目のテレビ放送(前編が2時間枠、後編が2時間半枠)がされたときに初めて通しで観て、何て綺麗な人なんだろうと思った女優がいた。その名はヴィヴィアン・リー。この作品でリーは南部では指折りの名家・オハラ家の長女スカーレット役を演じ、その強い女性像というよりは、リーの美しい姿に見惚れたものだった。その後、何回か観ていくうちに、リーに対する印象は観る年代によって感じ方も変わっていった。それは、自分が年を重ねていったという証明にもなるのだろう。『風と~』のほかにも、『美女ありき』、『欲望という名の電車』、『ローマの哀愁』、『愚か者の船』などの作品に出演した彼女だが、個人的に好きな作品は1940年に製作されたマーヴィン・ルロイ監督、ロバート・テイラー共演の『哀愁』(原題『Waterloo Bridge』)だ。
 筆者が初めてこの作品を観たのはNHK教育で放送された“世界名画劇場”を録画したビデオで、その後、テレビ朝日のローカルで金曜の午後3時ぐらいから放送されていた90分の映画枠で吹き替え版を観た。その吹き替え版は1972年10月に当時の東京12チャンネルで放送された“木曜洋画劇場”版で、ヴィヴィアン・リー=武藤礼子、ロバート・テイラー=納谷悟朗という顔ぶれ。90分枠(本編時間は75分ぐらいか)ということでかなりカットされたものだったが、武藤&納谷コンビの吹き替え版を観られたことが嬉しかったと記憶している。
 物語はテイラー演じるロイ・クローニン大佐がフランスに赴くことになった1939年、ウォータールー橋で大尉時代にあったある出来事を回想することから始まる。第一次世界大戦当時、大尉のロイは空襲警報が鳴る中でバレエ団の踊り子をするリー演じるマイラと出会う。ふたりはたちまち恋に落ち、結婚しようとするが、ロイが戦場に向かうことになり、ふたりは離れ離れになる。そして、バレエ団をクビになったマイラとヴァージニア・フィールド演じるキティにはなかなか仕事が見つからなかった。新聞でロイが戦死したことを知ったマイラは金のためにキティとともに夜の仕事をするようになるが、ある日、仕事で行った駅で生きて戻ってきたロイと再会する。ロイは結婚を進めようとするが、ロイには言えない秘密を抱えたマイラは葛藤するという流れだ。映画はマイラとロイの運命的な出会いから恋に落ちていく前半、ふたりのすれ違いから悲劇へと進んで行く後半という巧みな構成で、『風と~』とは正反対の役柄を演じたリーの美しさと儚さがモノクロ、スタンダートの画角の映像で際立つ。前半でマイラとロイが行くレストランで演奏される曲が「別れのワルツ(螢の光)」で、演奏が進んで行くうち、徐々にロウソクの灯が消されて暗くなり、恋の炎がさらに燃え上がるという雰囲気作りにひと役買っている。後半でも同じ曲が流れるが、それが前半とは反対のニュアンスで使われるというのも実に上手い。そして、マイラが持っているお守り(Goodluk Charme)がビリケン人形で、これも小道具として巧みに使われている。クライマックスに起こる悲劇は観てない方のために内緒にしておくが、グッと胸を締め付けられるような展開になっているので、そこは本編(DVDや配信で観ることができる)でお確かめいただきたい。
 『風と~』で一気にスターダムに躍り出たリーだったが、どちらかというと舞台での活躍の方が多かったという。そんなに多くない出演作の中でも、『哀愁』は『風と~』とはまったく違うリーの魅力が引き出されていると思う。最近、配信(U-NEXT)で久々に観直して、リーもいいのだが、マイラと共に生活に苦しむことになる友人キティを演じたヴァージニア・フィールドの好演が光っていることに気が付いた。前に観た映画を久々に観てみると、その時は気が付かなかったことに気付くことがあったりする。それが昔の映画を観る楽しみでもある。

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