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『いまを生きる』に関する個人的な話

  ロビン・ウィリアムズといえば、コメディアンとしてスタートし、俳優としても2014年8月に急逝するまで数多くの作品に出演してきた。アニメで有名な実写版でロバート・アルトマン監督『ポパイ』の主人公を演じ、日本では劇場未公開のポール・マザースキー監督『ハドソン河のモスコー』で注目を浴びるようになってからは、バリー・レヴィンソン監督の『グッドモーニング、ベトナム』でオスカー主演男優賞に初ノミネートされ、ガス・ヴァン・サント監督の『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』では見事に助演男優賞に輝いた。コメディーからシリアスまで、幅広い役柄をこなす名優となったウィリアムズ。そんな彼の作品の中でも名演技の1本と言えるのが1989年製作、ピーター・ウィアー監督の『いまを生きる』で、第62回のオスカーではトム・シュルマンが脚本賞を受賞している。筆者が最初に観たのは1989年の東京国際映画祭のクロージング作品として、渋谷文化村にあるオーチャードホールで上映されたとき。特別招待作品として上映された『フィールド・オブ・ドリームス』と同様に感動したことを記憶している。そして、劇場公開時にも観て、レーザーディスク、DVDも持っている。テレビ初放送されたのは1994年3月にフジテレビの『ゴールデン洋画劇場』で、ウィリアムズ=江原正士、ロバート・ショーン・レナード=宮本充、イーサン・ホーク=鳥海勝美という布陣だった(ソフト版はウィリアムズ=堀勝之祐、レナード=古田信幸、ホーク=松本保典)。その後、劇場でリバイバル上映される機会はあまりなかったが、2016年の『午前十時の映画祭7』で再上映された。
 ニューイングランドにある全寮制のウェルトン・アカデミーに、ウィリアムズ演じる同校のOBである英語教師キーティングが赴任してくる。彼の型破りな授業に生徒たちは最初戸惑うが、次第に刺激され新鮮な考えに目覚めていく。そして、生徒たちはキーティングが学生時代に作っていた“死せる詩人の会(原題の『デッド・ポエッツ・ソサエティ』)”を復活させるが、キーティングの姿勢に教師や親の反発も高まっていって……というのが大まかなストーリー。劇中、ウィリアムズはジョン・ウェインやマーロン・ブランドなどのものまねを披露し、そのそっくりぶりに思わず笑ってしまうが、そのユーモアがあってこそ、クライマックスで見せるウィリアムズの悲しみを漂わせる笑顔にグッと来て泣いてしまうのだ。そのバックで流れるのがモーリス・ジャールの繊細で美しい音楽というのだから、これで感動しないわけがない。そして、撮影監督ジョン・シールが作り出す、まるで絵画のような映像の美しさにも魅了される。ウィリアムズのほかにも、今や演技派俳優となったホークや、TVシリーズなどでよく見かけることの多いレナードほか、現在、映画やTVシリーズで活躍する俳優たちの若き日の姿が見られるのもお楽しみのひとつだろう。
 先日、フジテレビの『ミッドナイト・アート・シアター』という深夜の枠で久々に地上波放送されたので、録画して後日観てみた。やはり、クライマックス、ウィリアムズの笑顔に泣かされた(エンドロールが途中で切られたのは地上波放送の宿命か……)。コメディー演技ができる俳優はシリアスな演技をさせても上手いというのをどこかで聞いたことがあるが、ウィリアムズはまさにその言葉がふさわしく、硬軟自在の演技は今観ても本当に素晴らしい。彼がもうこの世にいないとは、何と寂しいことだろう。

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