見出し画像

ジョージ・ルーカス監督『アメリカン・グラフィティ』

 ジョージ・ルーカス監督といえば、『スター・ウォーズ』シリーズの生みの親で、『~エピソード4/新たなる希望』、『~エピソード1/ファントム・メナス』から『~エピソード3/シスの復讐』までの新三部作を監督。
“インディ・ジョーンズ”シリーズほか、数多くの作品の製作総指揮を担当するなど、プロデュース業で手腕を発揮。ルーカス・フィルムとILMを創設してからは映像技術の開発に力を入れるという、映画界に多大な影響を与えてきたクリエーターのひとりだ。そんな彼がUSCフィルム・スクール時代に作った短編『電子的迷宮/THX-1138:4EB』を長編映画化した『THX-1138』で商業デビューした後、フランシス・フォード・コッポラをプロデューサーに迎えて監督した第2作が『アメリカン・グラフィティ』だ。
 テレビ初放送は1980年10月のフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』で、リチャード・ドレイファス=野島昭生さん、ロン(当時はロニー名義)・ハワード=古川登志夫さん、ポール・ル・マット=佐々木功さん、チャールズ・マーティン・スミス=湯原昌幸さんというキャスティングだった。その後、1983年(あたりだったと記憶)にテレビ朝日『日曜洋画劇場』で放送されたときに初めて観て、ドレイファス=堀勝之祐さん、ハワード=池田秀一さん、ル・マット=青野武さん、マーティン・スミス=富山敬さん、1984年にTBSの深夜に放送された『名作洋画ノーカット10週』(CM中断は1回のみという、当時としてはかなり画期的な企画)ではドレイファス=野島さん、ハワード=田中秀幸さん、ル・マット=鈴置洋孝さん、マーティン・スミス=三ツ矢雄二さん、DVDではドレイファス=堀内賢雄さん、ハワード=森川智之さん、ル・マット=井上和彦さん、マーティン・スミス=石田彰さんというキャスティングで吹き替え版が作られた。そして、DJ役のウルフマン・ジャックの吹き替えを誰が担当するかが話題となり、フジ版=桑田佳祐さん、テレビ朝日版&TBS版は小林克也さん、DVD版は大塚芳忠さんだった。
 筆者が初めてスクリーンで観られたのは、2011年の『第二回午前十時の映画祭』でTOHOシネマズ府中だった。それまでにテレビモニターでしか観ていなかったこの作品を初めて映画館の大きなスクリーンで観られたことが本当に嬉しかった。
 舞台は1962年9月のカリフォルニア州モデスト。高校を卒業したドレイファス演じるカート、ハワード演じるスティーブ、ル・マット演じるジョン、マーティン・スミス演じるテリーをメインに、カートが東部の大学に進学するために街を出るまでの一夜の出来事が描かれる。カート、スティーブ、ジョン、テリーそれぞれのパートが同時進行しながらシンクロしていくという作劇、オープニングのビル・ヘイリー&ザ・コメッツの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」を皮切りに、エンドロールのザ・ビーチ・ボーイズの「オール・サマー・ロング」まで、当時のヒット曲を流す(劇中、バンドによるカバー曲もあるが)という画期的な手法で描かれる物語は青春群像ドラマとしてよく出来ているし、オールディース・バット・グッディーズの言葉通り、場面に合わせるように、今聴いても色褪せない名曲の数々の登場には唸らされる。エンドロール前、4人のその後を紹介するというのもかなり斬新だった。メインキャラクターを演じたドレイファス、マーティン・スミスなどは俳優として映画界で活躍。ハワードは映画監督に転身し、御大ロジャー・コーマンが製作総指揮を担当した監督デビュー作『バニシング in TURBO』を皮切りに、数々のヒット作を生み出すヒットメーカーになった。そして、当時はまだ無名(生活のために大工として働いていた)だったハリソン・フォードが、その後、人気俳優として歩み出すきっかけになったことも注目したいポイントのひとつだ。
 現在、映画の中で既成の曲が使われるのはごく当たり前になっているが、当時(現在でも)はその映画に合わせた劇伴が作られるのが普通だった。だが、ヒット曲をふんだんに使ったり、群像劇にこだわったことなど、後の映画界で普通になることをすでにこの時代に先駆けていたルーカスの先見の明は本当にスゴいと思う。映画がフィルム(アナログ)からデジタルへと変わっていく道筋を付けたのもルーカスだし、“アメ・グラ”が映画の歴史を変えるきっかけを作った彼だからこそできた、さまざまな実験精神に満ちあふれた作品であることをブルーレイで久しぶりに観直して感じたし、面白かったのも確かだ。ルーカスの話(ブルーレイの映像特典)によると、最初に編集したときは3時間あったという。もし、このバージョンが観られるとしたら、現在のバージョン(ビデオ発売時に劇場公開時で切ってしまった場面を復活させた113分版)と比べてみたいという気がしないでもない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?