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ブルース・ウィリス主演、ジョン・マクティアナン監督『ダイ・ハード』

 1988年7月にアメリカ、1989年2月に日本で、その後のアクション映画の流れを変える1本の映画が公開された。名前は『ダイ・ハード』。ロデリック・ソープの原作を基にジェブ・スチュアートが脚本化し、スティーブン・E・デ・スーザがリライト。監督は『プレデター』のジョン・マクティアナン。主演はテレビシリーズ『こちらブルームーン探偵社』で人気が出て、映画『ブラインド・デート』や『キャデラック・カウボーイ』に出演したブルース・ウィリス。アメリカでは1億ドル超えの大ヒットを記録し、日本では配給収入11億円と、そこそこ当たった。その後、1990年にレニー・ハーリン監督『ダイ・ハード2』、1995年にマクティアナン監督『ダイ・ハード3』、2007年にレン・ワイズマン監督『ダイ・ハード4.0』、2013年にジョン・ムーア監督『ダイ・ハード/ラスト・デイ』と、続編が作られる大ヒットシリーズになった。
 筆者がこの映画を観たのは読売ホールで行われた一般試写会。仕事の関係で入るのがギリギリで、座った周りにはアメリカ人と思われる集団がいた。そして、映画が進むにつれ、彼らは大いに盛り上がり、その雰囲気に飲まれるように、筆者のテンションも上がっていき、クライマックスには最高潮に達し、まるでアメリカの映画館にいるような時間を過ごした。そして、劇場公開時は今はなき新宿プラザ劇場の70ミリブローアップで再鑑賞した。テレビ初放送されたのは1990年10月7日のテレビ朝日『日曜洋画劇場』で、ウィリス=野沢那智さん(追録ノーカット版では岩崎ひろしさん)、アラン・リックマン=有川博さん(土師孝也さん)、ボニー・べデリア=弥永和子さん(宮島依里さん)、レジナルド・ヴェルジョンソン=坂口芳貞さん(石田圭祐さん)という吹き替えキャストだった。2度目は1992年のフジテレビ『ゴールデン洋画劇場』で、ウィリス=村野武範さん、リックマン=内海賢二さん、べデリア=吉田理保子さん、ヴェルジョンソン=富田耕生さん。ちなみに、ソフト版はウィリス=樋浦勉さん(機内上映版も)、リックマン=小林勝彦さん、べデリア=駒塚由衣さん、ヴェルジョンソン=内海賢二さん。機内上映版はリックマン=筈見純さん、べデリア=横尾まりさん、ヴェルジョンソン=飯塚昭三さん。劇場鑑賞後はテレビ放送、ビデオ、レーザーディスク、DVD、ブルーレイと、もう何度観たかも忘れてしまうほどだ。
 舞台はクリスマス・イブのロサンゼルスにある建設中の高層ビル“ナカトミ・プラザ”。べデリア演じる別居中の妻ホリーに会うため、ウィリス演じるニューヨーク市警の警官マクレーンがやってくる。マクレーンはホリーが勤める日系企業ナカトミ商事のクリスマスパーティーが開かれているナカトミ・プラザにやってきてホリーと再会する。だが、リックマン演じるハンス率いる武装集団がビルにやってきて、ジェームズ繁田演じるタカギ社長、ホリー以下社員たちを人質に取る。それを逃れたマクレーンはフロアから脱出し、ハンスたちと戦いを繰り広げるというのが物語の流れだ。マクティアナン監督は映画の中にユーモアを入れたいということで、ハードなアクションが展開する中にユーモアが随所に散りばめられている。それがマクレーンと後に友情を育んでいくヴェルジョンソン演じる警官パウエル、マクレーンとハンス、ポール・グリーソン演じるロス市警の警部ロビンソン、デヴロー・ホワイト演じる運転手アーガイルとの会話に活かされてくる。前半の何気ないセリフや動作が後の展開に生きてくるなど、いわゆる伏線回収も実に巧みで、クライマックスのマクレーンとパウエルの初対面、その後の展開にも効いている。ウィリスがシュワちゃんやスタローンのような完全無敵のヒーローではなく、ごく普通の警官である中年男が事件に巻き込まれ、その知識を駆使して武装集団と対していくという図式、マクレーンとハンスとの間で繰り広げられる頭脳戦、派手なアクションのつるべ打ちなど、これまでのアクション映画とは一線を画すような演出を見せたマクティアナン監督の手腕は、今観直しても本当に見事としか言いようがない。そして、『ダイ・ハード2』でも登場するウィリアム・アザ―トン演じるお騒がせリポーターのソーンバーグ、警部ロビンソン、ロバート・デヴィ演じるFBI捜査官ジョンソンといった脇役たちも主役周りを際立たせる好助演ぶりを見せる。
 この映画でスターとして出世していったウィリスだが、2022年3月に失語症のために俳優を引退(その後、認知症であることも発表された)してしまった。アクション、サスペンスなど、ジャンルを問わず、引退寸前まで俳優として活躍し続けたウィリス。彼の代表作の1本『ダイ・ハード』はテレビ放送はされるものの、劇場でのリバイバル上映はほとんどと言っていいほどない(近年、立川シネマシティでのブルーレイ上映はあったが……)。この作品ほど映画館の大きなスクリーンといい音響で観るからこそ映える映画もない。『午前十時の映画祭』や4Kデジタルリマスター版のDCPでもいいので、劇場で観られる機会ができないだろうか。一度はスクリーンで観たいという映画ファンも多いと思う。配給会社の皆さま、ぜひ、ご検討を。

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