俺たちのゴレアドール 旅立ち
"Goleador"
サッカーの本場の言葉で、ストライカーを意味する。
僕たち大分トリニータのサポーターにとっては、この男を指す言葉。
後藤 優介
大分トリニータが育成年代からここまで育て上げた最高のストライカーだ。
素朴な笑顔とは裏腹に、
小柄ながら強い体幹・ボディバランスとスピード、運動量を兼ね備え、抜群の裏への抜け出しやアクロバティックな動きでゴールを陥れる術を持つ。
将来のエースストライカー候補として、プリンスリーグ得点王の実績を引っ提げ、満を持してトップチームに昇格してきたが、そのプロキャリアの滑り出しは決して順調ではなかった。
エレベーターというよりはジェットコースター級の乱高下を繰り返すクラブで、起用法にも苦しめられた。レンタル移籍も経験した。
何より、抜群の抜け出しで作り出した決定機で放ったシュートが、ポストの横を転がったり…バーを叩いたり…
メンタル面での課題が、そのままプレーに出るような選手だった。
いつからだろうか、こんなに頼もしくなったのは。
後藤優介との思い出を少しだけ振り返ってみたい。
順調とは言えない滑り出し、見せた可能性
加入した2012年に、HOYO AC ELAN大分(現在のJFL ヴェルスパ大分)にレンタル、2013年はチームがJ1に昇格したこともあったので出場機会は限られた。
戦力として、試合に絡み始めてきたのは2014年シーズン頃から。
背番号もストライカーナンバーの9に変更し、自身初の2桁出場とリーグ戦初ゴールを記録する。
ようやく芽が出始めたと期待して迎えた2015年
チームは絶不調、監督交代による戦術変更の煽りを受け、後藤だけでなく多くの選手が苦しんだ。後藤の場合は、運動量やスピードを活かした守備のタスクが多く、4-4-2のサイドで起用されることもあり、肝心の攻撃で力を発揮しきれない場面が多かった。
そのため批判を受けることも多かった。戦術や技術的な批判はさておき、心無い言葉もたくさん飛び交っていた記憶がある。
しかし、才能を見せつけた試合がこのシーズンにあった。
それが、田坂監督から柳田監督に交代した直後のホーム京都サンガ戦。
吉平、坂井といったユースの後輩や松本昌也といった若手主体のメンバーで、浮足立った展開のまま立ち上がりに失点した試合。
その試合の流れを引き戻したのが後藤だった。
一瞬の抜け出しで相手の裏を取った1点目と、美しいカーブを描いて壁を越えゴールに吸い込まれていった2点目のFK
後藤の「らしさ」が存分に発揮された試合で、ここから「もう少し彼を信じて待ってみよう」と思わされた。
開幕ゴールと2桁得点
チームは無残にも史上初のJ3に降格したが、後藤をはじめ、高松やダニエル、昌也・怜の両松本といった主力級がチームに残った。
チームは、1年でのJ2復帰を至上命題として、未知のJ3リーグに足を踏み入れる。
開幕戦の相手は、AC長野パルセイロ
先発に抜擢されたのは、後藤ではなく吉平翼だった。これだけで後藤の置かれた厳しい立ち位置をうかがい知ることができる。
その吉平は、バーにてて当ててしまったが前半に決定機を作る。守備でも奮闘し、疲れ果てたところに後藤が投入された。
正直、スタジアムの空気は「ここで後藤か?」となっていたように思う。
期待したい気持ちと諦めに似た気持ちがごちゃ混ぜになったようなそんな雰囲気だった。
しかし、ここで後藤が結果を残す。
左サイドで坂井がタメを作り、右SBで起用されていた山口貴弘が右足インスイングでのクロス、そこに飛び込み点で合わせたのが後藤だった。
膠着した試合で、スコアレスドローも覚悟した後半37分のゴールだった。
正直、この試合を落として、序盤の貯金を作れていなかったら、そのままJ3の波に飲み込まれていたかもしれない、とさえ思う。
それだけ、重要なゴールだった。
ハットトリックとチーム得点王
ここから完全に波にのった後藤は…となればよかったのだが、そこまでうまくはいかず、後藤は前半戦の15試合で3得点に終わる。
転機となったのは、第17節のホーム藤枝MYFC戦
2-2でハーフタイムを迎え、後藤のゴールで勝ち越した後2トップを組む三平和司がレッドカードを受け退場し、数的不利になったチームは、直後に同点ゴールを許してしまう。
決して上位の相手とは言えない藤枝相手に勝ち点を取りこぼすと、先を行く栃木との差が開いてしまう…そんな心配を振り払ったのが後藤だった。
オープンな展開となった後半アディショナルタイムに、左サイドで八反田康平(現鹿児島ユナイテッド)からのボールを受け、相手DFと2対1の状況を作ると、逆サイドをプルアウェイした坂井の動きをおとりに使い、相手DFとの間を作って右足で回転をかけ、ボールを流し込む。
1点目が相手のまずい守備からのGKとの1対1、2点目が松本怜の仕掛けからニアに入りこみ点で合わせるヘディングゴール、そして3点目がミドルレンジからのシュートと多彩な得点パターンを見せつけた試合となった。
そこから後藤は4試合で決勝点を挙げ、チームのJ2昇格に大きく貢献する。(特にホーム鹿児島ユナイテッド戦のゴールが秀逸なのでぜひDVDで!)
得点王こそ、15得点の藤本憲明に1点差で譲ったものの、14得点でチーム得点王。また、7アシストもチーム最多。
攻撃の中心として機能し、チームを引っ張った。
J2復帰以降の活躍はここで触れるまでもないだろう。2年連続での二桁ゴールとともに、記憶に残るゴールがたくさん。
こんなロングシュートをぶち込んでみたり…
ワールドクラスのアクロバティックなボレーを叩きこんだり
最近はPKも落ち着いて決められるようになった。
今年の天皇杯広島戦、PKキッカーの一番手を務めたとき、自信のある表情に成長を感じた。(それでもオシム監督状態になっていたのはここだけの秘密だけど。)
2019シーズンは、
リーグ戦 16試合2得点
カップ戦 5 試合 3得点
天皇杯 3 試合 1得点
ストライカーとしては、物足りない数字だと思う。それでも、リーグでの2ゴールはいずれも試合を決めるゴールなところはごっちゃんらしいな。
浦和戦のゴールは、後藤優介ならではのゴールだった。このゴールを目の前で見られたことは一生忘れないだろう。
ぬるま湯からの卒業
ごっちゃんが覚醒する前、「どこかにレンタルで出して武者修行させては?」という声は少なからずあった。
心無い声をかける人が多少はいるものの、なんだかんだ大分はみんなが優しく、ミスをしたり、点が取れなかったりしても、どちらかというと次に向けて…と優しい声をかけがちだ。
悪い言い方をすれば、「ぬるま湯」なのかもしれない。
そうした環境が、彼の成長を阻害…といっては言い過ぎか…成長に歯止めをかけているのではないか?という考えからだ。
トリニータの環境や雰囲気の良し悪しを論じるつもりはない。
ただ、一つ言えることは、ごっちゃんはもうそのぬるま湯で成長する段階ではないということだ。ここで輝けることはもうわかっているから。
下位カテゴリーからの勝手知ったる仲間がいて、使いどころや強みをわかってくれる指揮官やスタッフがいて、たとえ失敗しても、信じて暖かく見守ってくれるファン・サポーターがいて…そんな環境という限界(リミッター)を外さなければならない。
その時が来たのだ。
新加入選手として、ストライカーとして、求められるのは明確に得点に絡むことそれだけという環境に身を投げる…
そのプレッシャーは計り知れない。
押しつぶされるかもしれない。
出番を勝ち取れないかもしれない。
一方で、家族が増え、責任は増している。
それでも行くという決断、退路を断った完全での移籍
もう彼は僕らの知っている頼りないごっちゃんではないのだ。
一人前のストライカーとして、一家の大黒柱として、父親として…旅立っていくのだ。
別れは辛く、寂しいものだ。
それでも、後藤優介が僕たちに残してくれたものは消えることはない。
今のこの場所まで、僕らを導いてくれたことに心から感謝し、
苦しい時を共に過ごし、共に喜びを勝ち取ってきた仲間の決断に、心から敬意を表したい。
俺たちのゴレアドール、後藤優介!
奪えウルトラゴール!!
来年、福森直也とともに元気に、ピッチ上で(ここ大事)!!!会えることを楽しみにしたい。
行ってらっしゃい!
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