還暦七夕Ⅵ

 君は私の腰に回していた腕を解くと、またねと呟き小走りで離れて行った。私は直ぐには振り向かず、暫くしてゆっくりと振り向いた。君はすでにかなり遠くまで離れていた。後ろ姿は紛れもなく君だった。指切り忘れたなぁ。来年もまた来てくれるかな?時間にしてほんの数十秒の抱擁だったが、私にとってはこの上ない至福の時間だった。そのまま時が止まればと、ありきたりの思いが頭の中を駆け巡る。君が顔を見せなかったのは、気持ちの揺らぎやすい私への思いやりだったのでは?君の優しさは今も変わらないね。また来年、必ず生きて会いに行きます。今日から一年‥‥来年の七夕に必ず。

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