LIFE IS NOVEL #32

翌日。男に言われた通り、朝からニュース番組に噛り付いて見ることにした。

考えてみればこの1週間、自分のこととカノウ達のことばかりで、世間で何が起きているのか気にかけていなかったから、ほとんどが目新しいニュースだった。

しかし、ザッピングで眺めるどのチャンネルも大したことは報道していなかった。政治家の不祥事、国内の新しい会社、海外の新しい決まり、芸能人のスキャンダル、トレンドの新商品、いつの時代も同じことを繰り返している。
いつかの災害や、あの時の戦争に比べたら平和極まりない日常がそこにあった。姉の彼氏(偽)の言葉が真実なら、この画面にヒントが映るはずだ。

いつの時代も事件はいつの間にか誰かが仕掛けて、誰もが知るところなる頃には全てが終わっているものだ。僕はかつて以上に神経を使わなくてはならなかった。

スマホにメモを残す。その中で出てきた名前をすべてピックアップした。そして、今日知ったものだけ、消していった。

残った名前は確かに有名人ばかりだ。首相、大統領、大臣、社長、俳優、アイドル、タレント。だが、この中でカノウ達がターゲットにしそうな人物は絞られることができた。
ふるいに掛けた名前を眺めたが、すぐに見るのも嫌になった。そこにあるのは、当然国や社会を動かす立場、影響力を持ちすぎている面子だった。

「まあ、当然か…」

この中の誰かに憑依しろ、ということはないだろう。そんなシチュエーションがお膳立てできるとは思えない。くじ引きのような確率に賭けるようなことはしないはずだ。

「タケヤス、そろそろ出ないとまずいんじゃない?」
母の声で時間を見れば、一限目に間に合うギリギリの時間になっていた。学校を気にしている事態ではないのかもしれない。とはいえこのままで答えは出なさそうだった。

結論。メモした名前をあの二人に送信して、あとはいつも通りの生活を送ることにした。
それくらいの嫌がらせをしてもバチは当たらないだろう。せめてもの抵抗を見せておくことにした。

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