東証再編は日本の大損害
2022/4/4より東証が再編されました。東証の再編は1961年以来60年ぶりとなります。それに先駆けて2022/1/11、株式市場再編後の全上場企業の所属先を公表しました。現在「東証1部」「東証2部」「ジャスダック」「マザーズ」の4つの市場を「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場に集約します。
今回の市場再編に関して、「日本あるある」を実感したため時系列でお話したいと思います。
<再編前の問題点>
【東証1部が国を代表する上場企業ではない】
現在東証1部に上場する企業は2185社あり、市場全体の約6割が東証1部に上場しております。しかしこの企業の大半が「ほんとにトップの会社なの?」というぐらい小さい会社が多いことが問題点でした。
「1社当たり時価総額(中央値)」
東証1部 446億円、ニューヨーク3269億円、ナスダック1999億円、ロンドンプレミアム1948億円
「PBR1倍割れ比率」
東証1部 49%、ニューヨーク11.8%、ナスダック10.8%、ロンドンプレミアム18.8%
「1銘柄当たりの月間売買代金」
東証1部 1.5億ドル、ニューヨーク10億ドル、上海及びナスダック7億ドル
上記を見て一目瞭然!時価総額が欧米の約1/4~1/8である結果、PBR1倍割れがほぼ過半数となっていました。
これでは海外機関投資家が日本株に投資しようと思った時に、「なんでこんなに小さい企業がトップの市場にいるの?」となってしまい、日本の株式市場全体に対して不信感を抱いておりました。
そこで東証としては海外機関投資家の期待に応えうる企業だけを集めて、「ピカピカの日本企業だけ集めました!ぜひ投資してください」といって、日本に投資マネーを集めることを画策しました。
<ほんとの最初の案>
なので、今回の再編の目玉はプライムだったのです。最初は今2185社あるのを半分ぐらいの1000社ぐらいにしたいというのが目論見でした。
そこで流通時価総額500億円以上という案が最初に提示されました。下記のPDF P18に時価総額と会社分布図がありますが、500億以上の会社で1109社でちょうど半分ぐらいになります。またP21に英文開示の社数がありますが、こちらも500億以上の会社で1019社ですので、現在やっている会社が継続してやるならそこまで大変じゃないよね、ということを考えました。
https://drive.google.com/file/d/1dlRE33mzv9DZj7DG9uMRUVQH7zeWB6fA/view?usp=sharing
<すぐに反対案がでる>
ところがすぐに東証一部企業が反対します。上記資料P25に記載されていますが、反対した企業の多くはマザーズからの特別ルールで時価総額40億で東証1部に上場した企業がほとんどです。せっかく高い金を払ってマザーズで1年我慢して東証1部上場企業という名誉称号がもらえたにも関わらず、すぐにスタンダードに落とされてはたまりません。
業界団体等あの手この手を使って、流通時価総額を下げるように東証に働きかけました。結果、500億⇒250億⇒100億と時価総額のハードルは下がっていきました。
<最終ルール>
「プライム」
●規模が大きいこと(流通時価総額100億円以上、株主数も800人以上、流通株式比率35%)
●ガバナンスがしっかりしていること(独立社外取締役が1/3以上、コーポレートガバナンスコード全て遵守)
●海外機関投資家に対応できること(英文開示、TCFD気候変動対応)
「スタンダード」
国内の一般的な上場会社向け市場で、主に国内の個人株主、機関投資家向け。昔から上場している中堅会社はほとんどここに入ります。
●規模は中規模(流通時価総額10億円以上、株主数400人、流通株式比率25%)
●ガバナンスもそこそこ(独立社外取締役2人以上、コーポレートガバナンスコードは全てでなくてOK)
「グロース」
今後成長が期待できる企業向けの成長性重視の市場です。今後新規上場する会社は7割以上がこのグロースに上場します。
●規模は小規模(流通時価総額は5億円以上、株主数150人、流通株式比率25%)
<それでも諦めない東証一部の名誉称号>
100億円に満たない会社が、どうしても東証一部という名誉称号を捨てたくなかったため、本当に骨抜きの案を出しました。
それは、上記プライムの基準を満たせなくても適合計画書を提出すればOKという無茶苦茶な話です。しかも計画の達成年月が決められていないため、進捗を定期的に投資家へ報告は必要ですが、いつまでも未達でも問題ありません。
結果、東証は2022/1/11、2022/4/4に実施する株式市場再編後の全上場企業の所属先を公表し、プライムに1841社が上場することになりました。現在の東証1部の約8割がそのままスライドする形です。最上位のプライムは世界の投資マネーを呼び込むため高いハードルが課されましたが、各業界団体からの陳情で骨抜きとなり、基準未満でもプライムに残る企業が296社あります。
東証1部の約50%が株価が解散価値を下回るPBR1倍割れですので、プライムも引き続き約40%がPBR1倍割れの状況が続くことになります。
私見としては、市場再編は無駄でした。むしろ今までの東証1部でいいと思います。今後市場が変更するという期待があった方がまだよかったです。60年ぶりの市場再編というビックイベントをドブに捨ててしまい、せっかくの投資マネーを集める機会を失ったという意味では大損失だと思います。
もし、当初案通り時価総額500億以上の企業のみをプライムとし、今以上に厳しいハードルを企業に課したなら、プライム市場は非常に魅力的な市場になったと思います。そして、海外の機関投資家の投資を集められる市場になったのではないかと思います。
他にも当初はshould beで議論を始めながら議論するに従って骨抜きになる案をいくつも見ていると、中国のようにトップダウンで決めてしまうのもありなのではないかと思ってしまいました。あるべき姿は何なのかは難しい議論ですが、「合議制が一概によいともいいづらいな」というのが今回の東証の再編を見て思った次第です。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?