見出し画像

日本に必要なのはエゴイストのFW

<2023年度予算の概要>

政府は2022/12/23、2023年度予算案の一般会計総額を114兆3812億円と決定しました。2022年度当初予算より6兆円以上増え、11年続けて過去最大を更新します。6.8兆円と2割以上増える防衛費が押し上げます。税収も最大の69.4兆円を見込みますが、歳出増に追いつかず35.6兆円の国債発行が予定されています。うち29兆円は赤字国債です。歳入総額に占める借金の割合は31.1%と米独の2割台前半と比較して高水準です。社会保障費は6,154億円増の36.8兆円、地方交付税は5,166億円増の16.3兆円、国債費は9,111億円増の25.2兆円です。債務残高のGDP比は264%とG7で突出して高い状況です。

現在の国の予算の組み方は、第二次世界大戦中と重なる部分があります。日中戦争が始まった1937年9月から終戦の1946年2月まで、一般会計と別に戦費調達のための『臨時軍事費特別会計』を設けました。議会での審議はなく、決算もありませんでした。戦費の調達は国債と借入金に過度に依存し、予算全体の70%超、特別会計の80%超にのぼります。そして1937年から1945年度に発行した戦時国債の総額は約1300億円ですが、その2/3を日銀が直接引き受けました。
戦時国債は戦後のハイパーインフレの引き金となりました。1949年の消費者物価は戦前の1935年の179倍、結果としてインフレに伴い政府による国債の実質的負担は解消しました。財務省内にも『戦時国債をほぼ紙くずに変えた事実上の踏み倒し』との見方が強いです。
木原官房副長官が2022/9/11、『財源として国債を排除しない』と発言したことに対し、財務省幹部は『国債発行は財源探しにはならない』『財源の大半を国債に逃げられるなら苦労しない』と指摘しました。

<長期間に渡る低成長>

日本の財政運営が硬直化する根本の要因は経済の低迷です。IMFによると、日本の過去20年間の平均成長率は0.6%で、アメリカの1.9%、イギリスの1.5%、ドイツの1.1%に及びません。この間、税収や社会保険料などの政府収入は米国が2.6倍、イギリスが2.3倍、ドイツが1.8倍に増えたのに対し、日本は1.3倍止まりです。2023年度は税収が過去最高の69兆円に達すると見積もっていますが、伸びは鈍いです。
負担と給付のバランスの見直しが遅れる社会保障費、借金返済の国債費、自治体に配る地方交付税の3項目だけで80兆円に迫り、歳出の7割弱を占めています。この割合は1980年度の5割弱から大きく高まっています。

なぜ日本だけが1人負けしているのでしょうか?私も先月は2022FIFAワールドカップを見ておりましたので、今回はサッカーになぞらえて考えてみようと思います。サッカーは攻めと守りがありますので、それぞれで見ていこうと思います。『』は遊び心でプレーヤーやファンのつぶやきを入れてみました笑。

<1-1.攻め手が不在=投資をしない>

『FWのポジション、空いてるけどやりたくないよね。だってミスったら責任取らなきゃいけないでしょ』

2023年度予算で次の成長への投資予算配分は乏しい状況です。脱炭層の研究開発にはエネルギー特別会計で約5000億円、量子やAIなどの科学技術振興費は1.3兆円と、合計2兆円程度にとどまります。
一方、欧米は投資に予算を組んでいます。アメリカは2022年から2026年でインフラ投資・雇用で総額5500億ドルを投じます。EUも2050年の脱炭素へ2021年から2027年に総額5030億ユーロを投資します。
日本は成長を促す賢い支出で税収を伸ばし、次の成長投資の財源とする好循環を生み出せていません。

OECDによると、過去30年間で企業の設備投資は米国が3.7倍、イギリスが1.7倍、ドイツが1.4倍に対し、日本は1%増とほぼ横ばいです。

<1-2.プレーヤーが動かないので、疲れない、交代枠不要=投資をしないので、新陳代謝が起こらない。企業は固定される>

『ゴールを狙わないから、そんなに動く必要はありません。疲れないので、交代は必要ありません』

QuickファクトセットでTOPIXの金融系を除く2021年度の設備投資額ランキングによると、トヨタ、NTT、日産自動車がトップ3で、直近のピークの2006年度から顔ぶれに変更はありませんでした。一方、アメリカ企業の設備投資額を並べると2021年度の首位はAmazon、Google、GM、Microsoft、Intelとなり、トップ5で2006年から残っているのはGMだけです。

帝国データバンクが2022/12/26に公表した調査によると、ゾンビ企業は2年連続で増え、2013年以来の高水準となり、直近3年間で4.2万社増えました。ゾンビ企業とは営業利益や受取利息などの合計を、支払利息で割った『インタレストカバレッジレシオ』が3年連続で1未満であり、かつ設立10年以上と定義します。儲けた金額よりも利払いの方が多く、補助金や金融機関による返済猶予で食いつないでる状態です。

<1-3.攻めないので、新しいテクニックは不要=新陳代謝が起こらないので、新しい知恵が生み出されない>

『攻める必要がないから、相手を抜く必要はありません。だから新しい、奇抜なテクニックは不要です』

世界知的所有権機関が2022/11/21に発表した2021年の世界の特許件数は340万件となり、前年比3.6%で増えました。2年連続の増加で2018年以来3年ぶりに過去最高を更新しました。全体の5割を中国が占め158万件で首位、2位アメリカ59万件、3位日本28万件です。

<1-4.プレーヤーが動かないので、周りの期待も薄い=時価総額低迷、生産性も低い>

ファン『プレーヤーに期待しません。だって動いてないんだから』
プレーヤー『ゴールは期待しないでね。だって攻めてないんだから』

日経新聞の調べでは、2022年12月上旬時点でROICに言及したのは400社と全体の1割です。大和総研によると、2021年に中期経営計画でROIC目標を導入した企業は13%で、ROE目標の導入企業58%の約1/5です。
2019年から有報の開示原則で、経営目標の達成状況を判断する指標の一つにROICが挙げられました。
プライム上場企業の2021年度のROICは5.4%で、米S&P500の11%、欧州STOXX600の7.1%を下回ります。投下資本回転率は0.96回と欧米企業に引けを取らないものの、税引後営業利益が5.6%と低いのが要因です。事業の選別が遅れ、不採算事業を抱える企業が多いことを示しています。

最上位のプライム市場の一社当たり時価総額は3725億円と、2022年4月の再編から100億円強減りました。ニューヨーク証券取引所の一社当たり時価総額136億ドルに見劣りします。

日本生産性本部が2022/12/19に発表した2021年の日本の時間当たり労働生産性は49.9ドルで、OECD加盟38カ国中27位、2020年の26位からさらに順位が後退しました。コロナからの経済活動の回復が遅れたためです。
時間当たり労働生産性は就業者が働いて生み出した付加価値を1時間あたりで指標化したものです。日本は前年の2020年に比べ実質で1.5%上昇しましたが、アメリカの85ドルの6割弱の水準です。

次に守備面=財政面を見てみます。

<2-1.守備に徹しているため、相手が守備を気にせずに攻められる=金利の上昇>

『攻めて来ないなら全員攻撃でいいよね?だって誰もゴールに攻めて来ないんだから』

財務省が2023/1/5に実施した10年物国債の入札で、最高落札利回りが0.5%と7年半ぶりの水準まで上昇し、日銀が2022年12月に引き上げた長期金利の上限に早くも達しました。

日本経済研究センターは2022/12/27、日銀が長短金利操作を撤廃した場合、長期金利は最大1.1%まで上昇するとの試算を発表しました。企業の利払い負担が増加し、経常利益を最大で3%、設備投資を9%程度押し下げる可能性があります。アメリカの長期金利が3.75%の場合、日本の長期金利は0.82%まで上昇します。アメリカが4.5%なら日本は1.1%に達します。
中長期のGDP成長率の平均が3.4%に達する内閣府の『成長実現ケース』であれば、長期金利が1.1%に達しても財政は持続可能ですが、成長率が1%にとどまる『ベースラインケース』では長期金利が0.5%でも、政府債務が持続不能になります。

<2-2.攻められるのが分かっているから、守備の成り手がいない=国債の価格が下落するのが分かっているので、日銀しか買い手がいない>

『DFってなりたくないよね?だって大変じゃん』

日銀は2022/12/19、資金循環統計で日銀による国債保有割合が2022年9月末に時間ベースで初めて5割を超え過去最大となったと公表しました。9月末の国債発行残高は1065兆6139億円、日銀の保有額は535兆6187億円でした。
家計の金融資産は前年同期比0.8%増の2005兆円、内訳は現預金が1100兆円、保険・年金が539兆円です。
民間企業の借入残高は簿価ベースで3.2%増の479兆円、企業が持つ金融資産は3.9%増の1271兆円で、内訳は現預金が3.4%増の330兆円、海外直接投資が197兆円です。

<2-3.ずっと攻められているからリスクも増える=企業も家計も債務増加>

『攻められている時間が長いので、辛い時間帯が長いな。ゲームが長く感じるよ』

民間企業が抱える債務は不良債権問題が深刻だった2000年以来の高い水準にあります。2022年3月末時点の民間企業の借入残高は簿価ベースで469兆円、うち短期借入金の残高は176兆円です。仮に金利が1%上昇すれば単純計算で4.7兆円の利払い負担増となります。債務が膨らんだのは政府がコロナで企業の資金繰りを支援したゼロゼロ融資のためで、過剰債務残高は約47兆円です。
東京商工リサーチの調査によると、2022年7月の全国企業倒産件数は494件と、前年同月比4%増でした。

家計の2022年3月末時点の借入残高は時価ベースで前年同期比1.8%増の357兆円です。この10年で毎年増加しているのは低金利を追い風に住宅ローンの貸し出しが増えたためです。住宅金融支援機構によると、住宅ローン利用者のうち74%が政策金利に連動して金利が変わる変動型の契約のため、金利の上昇は家計の負担増に直結します。

<2-4.失点が増える=倒産件数が増える>

『これだけ攻められたらそりゃ失点するよね。まあ頑張ってる方じゃない』

東京商工リサーチは2022/12/8、11月の全国企業倒産件数は581件で前年同期比14%と発表しました。前年を上回るのは8カ月連続で、全体の負債総額は1155件と前年同月比23%増えました。5億円以上の負債が23件で規模の大きな企業の倒産が目立ちます。倒産要因にコロナが含まれるものは214件で3ヶ月連続で200件以上です。

こうやって見ると、全ての原因は『攻め手が不在』かと思います。

<日本に必要なのはエゴイストのFW>

今回の2023年度予算は攻守で言えば『守』の部分が強調された予算だったと思います。結果として将来への投資がほとんどなされていないため、人々が明るい将来を描きづらく、積極的に投資や消費をしようというマインドは起こりづらいと思います。経済はある種の連想ゲームです。『明るい将来』が連想できるような政策を打つのが日本政府の役割だと思っております。そういう意味では今年度の予算も残念ながら落第点と言えるでしょう。YCS No135『中長期的な展望が見える予算を!』で令和4年度補正予算を記載させて頂きましたが、今回の予算も引き続き『明るい将来』は連想できませんでした。

私見ですが、『前年踏襲』『事なかれ主義』が日本経済をダメにしたと思っています。根本が変わらなければ『失われた30年』は『失われた40年』になる可能性が高いとも思われています。
先月閉幕したサッカーワールド杯でもやはり人々の心を魅了するのはゴールです。日本がスペインやドイツに勝利し決勝トーナメントに出場できたのも、フォワードが積極果敢にゴールを狙った結果だと思います。守備的に守りカウンターで点を取る方法でも、カウンターという攻めがあるからこそ相手も脅威を感じますし、ファンも期待ができるのです。攻め手はいつの時代も必要なのです。

今日本に必要な予算は『攻め手』が見える予算ではないでしょうか。シュートを打たなければゴールに入ることはありません。攻めることは外れることも多いですが、攻めなければ勝てません。
今回のワールドカップのイメージアニメとして採用された『ブルーロック』はまさに日本がワールドカップで優勝するために必要なのはエゴイストのFWを育てることで、世界最強のFWを生み出すことに焦点が当てられています。週刊少年マガジンで連載初話から毎週読んでおりますが、主人公の潔世一がライバルに足りない力をどうやって賄うかを頭をフル回転させて戦う姿は、日本の経済も全く同じことが言えると思います。

YCS No123『これから投資すべき分野は?』で記載しましたが、今後中国で必要となる6分野『AI、量子情報、半導体、脳科学、遺伝子、バイオテクノロジー』は攻め手として十分に投資する価値がある分野です。デジタル分野の投資方法はYCS No130『Japan As No1を復活させるためのデジタル投資方法』で記載しました。これが予算案に組み込まれるだけでも世界の投資家からの見え方は大きく違っていたものと思います。その結果、世界の投資家の間で連想ゲームが始まり、正のスパイラルが描ければ日本経済は明るい方向へ移行すると思います。

予算案は2023/1/23から召集される通常国会で審議されます。もし野党が現状の予算を承認するのではなく、『エゴイストのFW』が生み出されるような攻めの投資を加えた予算に組み替えられたら、国民の野党に対する見方はきっと変わると思います。そんな野党が今の日本には必要だと確信しております。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?