マイケル・キスクに想う

HELLOWEEN武道館公演に寄せて

マイケル・キスクという、 僕より3つ上のドイツ人シ ンガーの存在を知ったのは1987年だからもう36年も前の話だ。

36年前に発売された彼にとってのデビュー作である HELLOWEEN "Keeper of the Seven Keys Part One" アルバムで聴かれる深みのある中低域と突き抜けるよう なハイトーン、そして特徴的なビブラートによる歌。

叫びではない、 歌。

当時高校の友達とやっていたハードロックのコピーバ ンドで、ただ高い声が出るからというだけの理由で歌って(ガナって?)いた僕にとっては衝撃の出会いだっ た。

同じ年の11月末に大阪フェスティバルホールで体験し た彼らの初来日公演では、ステージ慣れしておらず動 きはぎこちないものの、 録音作品をほぼ完璧に再現する堂々とした歌いっぷりと、当時のギタリストでメインソングライターのカイ・ハンセンと楽しそうに絡んでいる様子が強烈に印象に残った。

翌1988年の "Keeper of the Seven Keys Part Two" 発売直後にカイ・ハンセンが脱退してからなんだかバンドは左前になってきた。 新しいギタリストを迎えた直後の二回目の来日公演では、 歌は相変わらず圧倒的だったがステージ上での彼は少し孤立しているようにも見えた。 それでもこの二枚のアルバムでのマイケル・キスクは正に僕のアイドルだった。

大学生になった僕は彼の髪型を真似た。 でも歌の方は全く真似できず、 その上一回生の時の軽音楽部の合宿でMETALLICAの "Master of Puppets "をガナり過ぎて喉をやられてしまい、唯一の得意技だった高い声が出なくなってしまった。

それでも出る声域での歌を少しでも上達させようと言 う考えができず、 ヴォーカルとしての立ち位置がなくなったと一人合点した僕は居場所を維持すべくギター やベースを弾くことにした。 歌同様に決して上手くはなかったが、少なくとも出る音が突然永遠に失われるという経験はその後はせずに済んだ。 そして違うタイプの音楽もよく聴くようになった。

その頃にはHELLOWEENはもう訳のわからない状態に なっていて、いつしかマイケル・キスクもバンドを脱 退していた。

そして彼はヘヴィメタルを歌わなくなったと雑誌のイ ンタビュー記事で知った。 詳しいことは覚えていないが、そのインタビューで彼はかつて自身が在籍した HELLOWEENのこと、 そこで不本意ながらに歌った歌 の事をボロクソにこき下ろしていた。

十代でデビューしていきなり注目を浴び、 そのあとは色々あったようで余程ひどい経験をしたんだろうなと気の毒に思いつつも、とても大事なものを貶められた ような気がしてとても悲しくなった。

そしてマイケル・キスクは、 僕にとっては数枚の公式録音作品と、幾つかのブートレグテープ(インターネットによる音楽配信やファイル共有などなかった時代なのですよ) の中だけの、 『これ以上新作が聴けないアイドル』 になった。 言ってみれば僕が生まれた年に酒だかドラッグだかの過剰摂取で死んだジャニス・ジョプリンと、少くとも僕の中では同列になった。 そしてHELLOWEEN脱退以降の彼名義での録音作品には一切手をつけなかった。 彼の歌唱法からすれば、むしろヘヴィメタルでない方が彼のよさがよりハイライトされると頭では分かっていても、 そういう歌を聞きたいとは思わなかった。


2011年の秋。


日本で開催されたLOUDPARK11 というイヴェントに、マイケル・キスクとカイ・ハンセンが一緒にステージに立ったこと、 二人を含むバンド名義で近々アルバムが出ることを知るに至った。

慌ててYouTubeでLOUDPARKの画像を探し倒した。

そこには年相応に横方向に成長(?)し、更にどういう わけかスキンヘッドになってしまった43歳のマイケ ル・キスクがいて、 右膝を曲げて、 マイクを持った手に覆い被さるような、 歌を歌うには一般的にはあり得ない、でも20数年前と変わらない姿勢で、 そして以前よりいっそう深みを増した声で、 "I Want Out" を歌っていた。 そしてその隣には楽しそうにギターを弾くカイ・ハンセンがいた。

なんか泣きそうになった。

で、彼らの参加した "UNISONIC" アルバムがリリースされた。以前の僕なら

「あんだけボロクソに言うといて何やねん今更。 」 と、聴くことを勝手に拒絶していたかもしれない。

ただ、僕も彼同様歳を取り

「まぁ色々と大人の事情もおありなのかもしれません けどとにもかくにも彼らが再び一緒に新しい録音作品 を作ってくれたことに感謝しつつ楽しみましょ」

という気持ちでファーストアルバムを購入した。

まあさすがに Keeper... アルバムで聴かれたような、 ツーバス踏み倒し、 ギターハモり倒しの演奏に乗った昭和50年代の合体ロボット系テレビ漫画の主題歌みたいな歌の再現を期待していたわけではないが、果たしてそんな曲はなく、恐らく彼の音域やヴォーカルスタイルを知り尽くしているであろうメンバー達が彼の歌を活かすために作ったと思われる完成度の高い楽曲がずらっと並んでいた。

で、肝心のマイケル・キスクの歌だが、、、

素晴らしいとしか言いようがなかった。

LOUDPARKの映像を見て思った通り彼の声は四半世紀 前と比較して劣化するどころかさらに深みを増してい た。 歌の旨さも相変わらずで、 歌メロを非常に丁寧に 歌っている印象。

更に歌メロと英語の歌詞がとてもしっくり来ているの が印象に残った。ヴォーカリスト自体の英語の発音はまことにドイツ人 的だが、メインソングライターの一人であり、プロデ ューサーでもあるバンドのベーシストがアメリカ人だ と言うことが、歌詞をメロディにフィットさせる工程 においていい影響を与えていたのだと思う。

大阪で開催された来日公演は、丁度仕事の大イベントを控えて超多忙な時期だったが、悩んだ末に参戦。初動が遅れたせいで実質最後尾だったが思い切り楽しんだ。ま、当時四十肩を患っていて腕は上がらなかったが。

僕のアイドルが新しい公式録音作品と共に帰ってきてくれたという事実は素直に喜びだった。

2枚目のアルバムには彼が在籍していた頃のHELLOWEENを彷彿とさせる楽曲も含まれていた。嬉しい反面個人的には無理しなくてもいいのにとも思ったが。

そうこうしている内に僕はBABYMETALと出会ってしまい、そっちにのめり込んで行き、彼女らの渾身のパフォーマンスに、そして同好の皆様との交流を満喫していた2017年、HELLOWEENがマイケル・キスクとカイ・ハンセンを含むラインナップでツアーを行うことを知るに至った。

こんなん観たいに決まってるやんと反射的に思ったが、来日公演は出張予定と重なり断念した。

2021年リリースの"HELLOWEEN"アルバムはそれはもう最高だった。聴き込んでゆくうち、アンディ・デリスの素晴らしさに気がついた。YouTubeでライヴのファンカムを見られるようになってから何度か彼が歌う映像を見て「全然あかんやん」と思っていたが、それはかつてマイケルが歌っていた曲での印象であり、彼のために書かれた曲での振り幅の大きい表現は素晴らしいと素直に思った。

そして今日、武道館で彼らのパフォーマンスを体験する。マイケル・キスクのいたHELLOWEENを観てから実に34年だ。

予習を兼ねて今年のライブのファンカム映像を見漁ったが、とてもリラックスしてパフォーマンスしている印象なので、楽しみでしかない。

大学生の頃の僕が知ったらどう思うだろう。

「エエ歳したオッサンが一度は嫌いになったバンドを観に東京まで行くなんてアホちゃうか。」

って毒づくだろうな。

まぁ、アホなんだけど。

***

お読みいただきありがとうございます。
感想を追記するかもです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?