アサルトリリィ Lost Memories 感想と考察

感想 ゆゆりりを中心に

 ゆゆりり推しの自分としては、舞台では夢結様が梨璃にシュッツエンゲルの誓い解消を宣言するシーンが一番キツかった。初回は配信で見たが、あまりの辛さに一時停止してしまった程だった。あの時の梨璃にとって、愛するお姉様のあの言葉はどれほどのショックだったろうか。赤尾さんの演じる梨璃の表情、涙、「もうお姉様じゃないんだ…!」という悲痛な叫び、全てが目を背けたくなるほど辛いシーンだった。レイニーブルーの古傷が疼くゾ…(マリみてで近い展開を探すなら、レイニーブルーではなく黄薔薇革命なのだが)。

 最初はこんなことを言えてしまう夢結様をどう解釈したらいいか悩んだ。舞台過去2作、アニメ、ラスバレと時間軸は違えど積み上げられてきたシュッツエンゲルの絆を自ら断ち切ってしまう夢結というのは、ゆゆりり推し百合オタクの我にとっては受け入れがたく当初は感じた。端的に言うなら残念オタクにありがちな公式との解釈違いというやつ。

 だが夢結様個人について思いを馳せるうちに「さもありなん」という結論に至った。思えばまた夢結様も自己評価がとても低い人だった。愛する姉の最期を思い出せない、もしかすると手にかけてしまったかもしれないこと、ルナティックトランサーを制御できず仲間たちを傷つけてしまうかもしれないことが、夢結様の自己評価をとても低いものにしている。夢結様が自身に信を置いているものは自身の戦闘技術(それもレアスキルを除いたもの)だけで、梨璃のシュッツエンゲルとしての自分の価値も「梨璃を護る自身の戦闘能力」だけしか見出せていなかったのかもしれない。だからこそ御前から取引を持ちかけられた時、梨璃や仲間たちを護るための有力な手段、それも自身の戦闘能力以上の有力な手段を提示された時、皆の元から去るという選択を夢結様はとったのだと思う。だからこそ最終的に二人の姉から愛されていた真実を取り戻した夢結様はきっとこれから変わっていけると思う。

 それはそれとして、初回見たときは梨璃の心をずたずたに引き裂いた夢結様は楓さんあたりからビンタされれば良いと思いましたね! まああそこから怒濤の展開が続くので、最後には「そういえばあんなこともあったねHAHAHA!」ってなったのは誰にとっても良かった。

 だからその後の梨璃の活躍が本当にすごい。あの出来事があった直後に東京の戦友たちに援軍要請を出せる冷静さがあって、都庁に突撃する時にも「一柳隊、出撃!」と号令を出せる梨璃さん。成長も勿論なんだけど、隊長としての天賦の才能ではなかろうか。内心では凄まじい嵐が吹き荒れていたはずなのに…お姉様から一方的に離縁を言い渡され、謎の敵に奪われたことが判明し、挙げ句琴陽からは「もう一柳隊ではありませんねプークスクス」と煽られて…。

 恐らく、琴陽&Lちゃんがギガント級に乗り込んで強襲してきた時に梨璃の頭のスイッチが切り替わったのでは。敵の陰謀に絡め取られた夢結様を奪還しなければ、と。妹モードから姉モードへの切り替わりとでも言うのか。ここから拒絶が表面だけであること、本心では苦しんでいることを見抜き、助け出すことに迷いがなかったのはまさしく姉の挙動に思える。ツイッターの考察を巡視している時に見たが、梅様、祀様そして梨璃を含め、夢結に縁深い人たちは皆誰かの姉であった。

 そして御前から「一度は夢結が大切に思った存在」という「過去の女」発言に対して「お姉様は一生わたしにとって大切な存在」と切り返す強さ。この一途で健気な愛情が夢結様を救ったんだよな…。夢結様のもとにやってきた、少しだけ早咲きの、小さなスノーフレイクの花…。(出典:メモリー・オブ・リリィズ)

 琴陽の強さには衝撃を受けた。過去2作では見せなかった、強化リリィとして本気…。ゼノンパラドキサで多数を圧倒するその強さ。トリグラフを双剣に変形させたところでFFⅫのジャッジマスター・ガブラスを想起した。

 Lは作中で最も救われなかった登場人物の一人かもしれない。美鈴様の戦闘スタイルをコピーする器として用意されたという説明、そしてあの透明さ。梨璃のクローンだったのか、それとも梨璃に似せて造られたのか。いずれにしても生まれて間もない、まだ空っぽに近い幼い命…。どうか夢結たちの心の中で生き続けることを願うしかない。

 感情をぶつけ合うラストバトル、これがもう、本当に…! 一度はCHARMを向け合い、殺し合う姉妹、だけどやっぱり愛する人と戦わなければならない苦しさがふくれあがっていき、やがて本音=愛情を吐き出さざるを得なくなっていく展開が、本当に心揺さぶられた。

 このシーン、夏吉さんの演技が素晴らしかった。ダインスレイフを振りかざし、「でぇやあああ!」「だぁあああ!」と雄叫びをあげて斬りかかる夢結様は、ラスバレで慣れ親しんでいる冷静で優雅な夢結様とはまるで違っていた。まさにラム乾で夏吉さんが言っていたように、お姉様を取り戻したくて必死にCHARMをふるってたんだな…。

 夢結と咲朱お姉様の殺陣で何度か鍔迫り合いがあった。CHARM越しに見つめ合う時、きっと互いの胸の苦しさが分かってしまったに違いない。

 お姉様に「貴女に私が殺せるの?」と聞かれ、「私はもうあの頃のわたしではない!」と勇ましく返すも、やっぱりお姉様への愛が溢れてきて…「貴女も救いたい!」と叫ぶ夢結様がもう夢結様で…。依存体質と看破されたけど、言い換えるとそれだけ愛情深い人ってことだと思う。依存先を美鈴様から梨璃に乗り換えた訳ではなくて、梨璃と結ばれた後もずっと美鈴様を大切に思う夢結様だから。

 それから美鈴様、夢結様、そしてLの想いが受け継がれたダインスレイフを振るう梨璃。終盤の御前はもう意地で戦っていたのだと思う。本人も最後に告白したように、咲朱様が夢結を手にかけることができない時点で計画は破綻していた。それでも夢結への執着がずっと胸のうちにあって、自分では止まることができなかった。だからこそ、最後の梨璃の一刺しが決着になった。

 ラストシーンの夢結様の「とても愛されていたのに、何も返すことができなかった…」、ここが本作で一番心に残った台詞かもしれない。静かな台詞なのに、そこに込められた愛、後悔、諦観そして哀惜等、様々な感情が綯い交ぜになっていて、とても切ない。

 そしてライブシーンのノイプレ、夏吉さんと赤尾さんの歌声が素晴らしい。アサルトリリィの音楽はCD音源よりも圧倒的にライブだ。特に夏吉さんの歌声、CD音源では調整されているせいか突出していないが、ライブで全開になったその声量、ビブラートが圧倒的。ツヤッツヤのセクシーアルトがマジで夢結様を感じられる、素晴らしい。赤尾さんも歌い方の扇情さがCD音源から相当パワーアップしており、リリックな歌詞がよりリリックになっている。振り付けと合わさりもはやエロい。

気になった点について

咲朱様の人類救済計画with夢結とは何だったのか?

御前もとい咲朱お姉様の人類救済計画とは何だったのか。その具体的な中身はついぞ触れられずに終わった。

作中の咲朱様の説明によると人類救済計画とは、

①死を伴う強化実験により、夢結が咲朱様と同格の存在になる(=高みに登る)
         ↓ 

②?????????????????

         ↓

③人類は救われる(=ヒュージの脅威から解放される)

といった内容である。

作中では具体的な手順である②について咲朱様は一切言及せず、ひたすら夢結を求め続けていた。なので、夢結様を求める姉としての愛情と、人類を救うリリィとしての使命感が、強化実験により悪魔合体してしまった狂気の産物とも思える。つまり実妹を殺す罪悪感から逃れるために「人類を救う」というリリィの大義名分を無理矢理くっつけただけで、特に人類を救う具体的な計画があった訳ではない、のだろうか。

 初回見たときはそう思ったが、振り返ると咲朱様の人類救済計画には夢結の他にもう二つ構成要素があった。『ヒュージの姫』たる来夢と藍だ。琴陽に「二人は殺すな」と言い含めておくあたり、この二人は計画に必要なピースであったはず。夢結を手に入れることだけが真目的で計画がただの口実なら、この二人を生かしておく必要はなかった。つまり計画②段階は作中では明かされなかっただけで、来夢と藍を利用した具体的な方法があったということになる。

 あと来夢と藍関連でもう一つ示されていたことに、同じゲヘナの強化実験を施された二人が手をつなぐと不思議パワーが発現するというものもある。咲朱様も夢結様と対になった暁にはこれと同じような不思議パワーが発現することを当てにしていたのだろうか。御前一派とゲヘナはTFG直前までは協力関係にあったので、そこらへんの実験資料も参照できていた可能性がある。

 あと咲朱様の実験体ヒュージを操ることができる能力、これはゲヘナから与えられたもののはず。ならば、人類救済計画はゲヘナの非道計画を咲朱様が乗っ取りを図ったものだったのだろうか。

 ここらへんはゲヘナ関係の設定が明らかにされていく途上で詳らかになるかもしれない。

咲朱様はゲヘナに殺されたのか?

 ゲヘナと一時的に協力関係にあったこと、及び実験体ヒュージなら操れることから鑑みるに、咲朱様に強化実験を施したのはゲヘナであることは明白。咲朱様の言葉によるならば、彼女は一度戦死している。その後に強力な強化実験により甦ったと。

 この死はゲヘナによって仕組まれたものだったのではないだろうか?

 レアスキル・Zがある世界でどこまで説得力があるのか分からないが、我々の生きる現実世界で蘇生は非常にシビアである。赤十字や免許センターや職場のAED講習で多くの人が学んだことであるが、人間は心停止してから1分ごとに救命率が10%下がる。心臓が停止して酸素が供給されなくなると数分で脳細胞が死に始める。

 咲朱様が最後には正気に戻ったことを考えると、人格や記憶を司る脳は特に問題なさそうである。咲朱様が息を引き取ってからすぐさま強化実験が開始されたことになる。そうなると咲朱様の死にたてほやほやの死体の近くをゲヘナ関係者が偶然通りかかったというのは間抜けが過ぎるし、そんな行き当たりばったりな実験で蘇生できるとはとても思えない。そうなると『戦死』という情報も怪しい。

 やはり咲朱様はゲヘナによって殺されたというのが自然な考えか。

美鈴お姉様が百合ヶ丘女学院に来た理由について

 本作で開示された最重要情報に、美鈴様がレアスキルにユーバーザインS級、サブスキルにカリスマ、強化スキルにエンハンスメントを持った強化リリィであった事実がある。また遂に美鈴様の死の真相も明らかになった。瀕死の状態ながら夢結を救うため、エンハンスメントで無理矢理ラプラスを発動し、ユーバーザインで咲朱お姉様関連の記憶を封印していた。美鈴様は愛する夢結様を救うために文字通り命を捧げたのだった。アニメでリア王のごとく夢結様を悩ませた幽霊は何だったのか。美鈴様は最期まで、死んだ後でさえも夢結を愛し抜いた人だった。

 …だけど少し待って欲しい。美鈴様の今際の際の行動が100%夢結様への愛であることは分かった。だけど強化リリィであったこと、レアスキル・ユーバーザインを学院に申告していなかったのはどういうことだ?

 美鈴様がゲヘナが百合ヶ丘に送り込んだスパイの可能性がある。

 百合ヶ丘女学院はゲヘナと対立している。それは単なる主義主張の対立にとどまるものではない。学院ではゲヘナの実験になっている強化リリィの救出作戦をやっている等、その対立は武力を伴い、紛争といっても差し支えないものになっている。ゲヘナにとって百合ヶ丘は実験を度々邪魔してくる目の上のタンコブといったところか。

 そして百合ヶ丘は優秀なリリィを世界中から集める人材の宝庫であり、それはゲヘナからしてみても興味の尽きないものだろう。

 そこでゲヘナが学院の内情を探り、優秀なリリィをこちら側にスカウトするために送り込んだスパイが強化リリィ・川添美鈴だったのではないか。ユーバーザインを駆使して学院関係者の記憶を操作して機密を盗みだし、同時にサブスキルのカリスマでリリィを魅了し、ゲヘナ側に引きつける。そうであるならば、夢結にも誰にも言うわけがない。自分が強化リリィであり、ユーバーザインS級を保持しているなんてことは。

推量に推量を重ねるので妄言に近いが、更に論を進めるならば、美鈴様が夢結に近づいたのは何のためか。

 白井咲朱は天才リリィとして名を知られ、最初期のテスタメント覚醒者の一人。そして夢結も同じレアスキルに覚醒することが期待されていたが、発現したのはルナティックトランサーだった。

 いかにもゲヘナが興味を持ちそうな姉妹である。

 美鈴様が咲朱様の死に関わっていたかは作中に全く証拠が示されていない。それに、もし美鈴様が咲朱様殺しのグループの一味なら、咲朱様の美鈴様に対する怒りは作中で示されたあの比ではなかったはず。しかし愛する実姉を失い傷心のルナティックトランサー保有者を籠絡するのに、カリスマ持ちのリリィはうってつけではないか。

 美鈴様はゲヘナによる白井姉妹を利用した実験計画の準備役の一人だったのではなかろうか。

 そしてその計画を強化実験後に知った咲朱様が、逆に利用して夢結と高みに登ろうとしたのが今回の動乱の契機だったりするのだろうか。

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