夢で笑えたってしょうがないじゃない#1
(タレントさんの謝罪を見てる人が興味ないと言いながらどこか楽しそうなのはどういうことなんだろう、というところから書きました。disりではないです。)
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「ちょっとトイレいってくる」
そう言って、ポテトを口に入れて立ち上がった真樹に、私は、いってら、と返事をして、バッグからスマホを出した。立ち上がったときにスカートの裾で指を拭いたのが見えた。
Twitterのアカウントを切り替えて、好きなアイドルに関するツイートを探る。
荒れている。なんでかびっくりするほど荒れている。
アイドルグループのMが卒業、理由は妊娠だった。年齢がそれほど変わらないのにあの子はもう妊娠なのか、となぜかドキドキする気持ちをポテトで噛みまくりながら画面をスクロールする。
女の子ファンは応援してるって書いていて、ヲタファンは発狂している。金返せと言ってる。シネとか言ってる。私はなんて書こうと思っているうちに真樹が戻ってきた。
「なに見てんのー?」
「んー、なんかアイドルが妊娠したから卒業なんだって」
大して興味がなさそうなふりをして、アイドルのブログを見せた。真樹が声にしてブログを読み上げていく。
「これまで物販などで声をかけてくれたみなさま、スタッフのみなさま、定期公演でいつも応援してくれたみなさま、キャスを楽しみにしてくれていたファンのみなさん、裏切ってしまう形になってしまい、本当にごめんなさい。ご迷惑、ご心配おかけして、本当にすみませんでした」
私は聞きながら、寂しくなってきた。
「全然おかけしてませんけどー!」
真樹が笑いながらスマホを私に返してくれる。私は、え?と聞き返した。
「バッカじゃない? たいして人気ないのにアイドルやって、やることやって辞めるってだけでしょ? 世の中のほとんどの人はまったくなーんにも、迷惑も心配もおかけしてませんけど」
真樹がウケると手を叩いて笑う。洗ったばかりの手から小さく水が飛んだ。
何を同じだと思っていたんだろう。アイドルとファンの人たちと毎日毎日SNSを見て映像を見て、同じところにいるような気がしていた。でも私はそもそもその現実に入っていたわけじゃなかった。
「おかけしてませんけどー」
真樹がまたそう言って最後のポテトを口に入れて笑った。