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50歳になる誕生日の朝。
ひとつの家具を見てふと水落厚介という男を思い出した。2017年〜2018年頃に一緒に働いていた青年だ。当時彼は宮崎の田野町で全国でも有名な家具職人さんのところに弟子として修行を積んでいた。

彼のとの出会いは一本の電話から。「自分は家具職人の親方の元で勉強している。しかし弟子奉公の期間が後一年で終わり修行を終えて地元の鳥取に帰らねばならぬが帰る金が無い」「なので休みである週末だけで良いので働かせてくれ」というのである。

詳しくは聞かなかったが僕は単純に感動した。当時事務所を建築したばかりで人を雇用する余裕も仕事も無かったが今週から来てくださいと言った。この男に興味を持ったからだ。

週末は現場が動いていないため事務所で積算のシステム構築やCADを使ってのパース作成をお願いしていた。
とても寡黙で黙々と仕事をやる。僕とも仕事以外ほとんど話はしない。食事は1度、2度しただろうか。


フローランテでの椅子づくりのイベント

地元を離れ少ない給金で技術を学び休みの日はうちでアルバイト遊ぶ暇もない。
それでも一日一日を大切に生きている。

『やがて死ぬ けしきは見えず 蝉の声』という芭蕉の句がある。
蝉は与えられた夏の一瞬の生を天地いっぱいに、鳴いている。

「いま」「ここ」に全力を尽くす。

家具職人 水落厚介

彼が残してくれた家具。いつ見ても彼の心が伝わってきます。
僕たちの建築もそうでありたい。