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『 あ る 男 』を読んで

愛したはずの夫は まったくの別人でした

 このサブタイトルがついた平野啓一郎の作品「ある男」を読んで、今の社会にこんな闇が平然と行われている事にショックを受けました。

 谷口里枝は、8年近く前に元夫との離婚調停でお世話になった弁護士の城戸章良(あきら)に今回の事件についての相談をした。就業中に事故で亡くなった再婚相手の「谷口大祐」という名の夫は死後、別人と判明したのです。あらゆる公文書が「谷口大祐」である事を証明していて、一周忌後お墓の相談をするつもりで群馬の亡き夫の実家に知らせた所、実兄の恭一が宮崎まで飛んできました。しかし、大祐の写真を見て弟ではないと断言したのです。

人生の何処かで、全く別人として生き直す

 城戸は恭一から、大祐のかっての恋人後藤美涼の連絡先を教えてもらい、そこへ尋ねて行った。美涼の話では、大祐が彼女の前から急に姿を消してから音信不通になっているそうだ。美涼は、大祐を探すために彼の名前で勝手にアカウントを取得し、成りすまして投稿をしていた、きっと連絡してくるはずだと言うのだった。

 里枝から依頼を受けてから、既に10ヵ月以上経過していたが身元調査は完全に行き詰まっていた。城戸は、仕事中に戸籍の交換を仲介していた小見浦と言う男の話を聞く事ができた。何度も、もったいぶって話を長引かせたがやっと「谷口大祐」と「曽根崎義彦」の名前を聞き出した。

 城戸は、杉野と言う名の友人の弁護士が、確定死刑囚の公募美術展に携わっておりそのギャラリーを訪れていた。その中に、ある風景画が谷口大祐を名乗る男が描く絵にそっくりだったので、その事がずっと気になっていました。里枝の文具店に大祐が画用紙を買いに来たのが、二人の最初の出会いでした。大祐は仕事の合間に風景画を描くのが唯一の趣味で、里枝にその絵を見せに来たりして親交を深めていました。杉野によるとその絵は小林謙吉と言う死刑囚のものでした、謙吉には誠という一人息子がいて離婚した母親の「原」という姓を名乗っている事が分かりました。

 以前、美涼が架空のアカウントを投稿していたがそのアカウントを消去して欲しいと申し出た男がいて、城戸はこの件を早く終わらせたい一心でその男とのアクセスに成功し何とか名古屋で会う事ができた。

 その男の話では、まず宮崎で事故死した「谷口大祐」は「原 誠」が本当の名前で、実父が三人もの人を殺した死刑囚でその事実から抜け出す為に、父親がヤクザの「曽根崎義彦」という男と戸籍を交換した。しかし、曽根崎の人間性を嫌い「谷口大祐」と再び戸籍を変え、本物の「谷口大祐」は「曽根崎義彦」になった。名古屋で話をしたのは、美涼の元彼の「谷口大祐」で今は「曽根崎義彦」と名乗っている。何だか戸籍交換のマッチングアプリみたいな気がしてきましたが、その世界では次々に変えていくのは特別なことではないようです。

 今まで戸籍は、自分にとって厳然たるものと考えていましたが、公文書を書き換える技術や仲介者などの商売が成り立つ闇の世界がある事を、この小説で知りました。

【出典】「ある男(文春文庫 ひ 19-3)」はコチラから( ・∇・)。
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