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シスコ・パラダイス

 熊本で生まれ育った「遅咲き」の画家、塔本シスコさんの個展「シスコ・パラダイス」を熊本市現代美術館に見に行きました。
 シスコさんは53歳で絵を描くことに目覚めて、91歳でその生涯を終えるまで、子供のように自由奔放に絵を描き続けた女性です。サンフランシスコに憧れていたお父さんが「シスコ」と名付けたのだそうです。

 40代で旦那さまが急逝し、そのショックからシスコさんも脳溢血を起こし、心身の消耗から立ち直ろうとする中、シスコさんは次第に絵を描くことに目覚めていったそうです。そんなある日、画家である長男さんが描いた油絵を、なぜかシスコさんは猛然と「包丁で削り取り」(!)そのキャンバスに自身の絵を描き始めます。息子さんははじめ非常にショックを受けたそうですが、その作品の素晴らしさに、家族一丸となってシスコさんの創作を応援するようになったそうです。

 シスコさんは野の草花や虫や鳥たち、それから猫が大好き。庭先の身近な題材を元に描かれた作品は、まるで桃源郷のような祝祭的でにぎやかな色彩と、生命の自由な力と生きる喜びに満ち溢れています。
 シスコさんの絵の作風やその人柄から、「幸せの絵具」という映画にもなった画家のモード・ルイスさんを連想しました。

 サイズもどの絵もものすごく大きいのです。とても80代、90代の女性が描いたとは信じられないパワーと、斬新な構図です。その中で、なんだか思いがけず気持ちがこみ上げてきて、涙が出た作品がありました。
 「春の庭」という、庭先の春の草花がぎっしりと描かれた作品で、ビオラやあやめ、それから白いタンポポが描かれています。(この作品は全体像を撮ってなかったので、写真はネットから拝借しました。)

 その大きな絵の上の方のには、白いタンポポの綿毛が風に吹かれて飛んでいく様子が描かれています。
 その表現がまるで、無数の魂が光となって空に昇っていくように見え、それがすごい歓喜に包まれているように感じて、見たとたんに胸がこみ上げて涙が出ました。写真ではそのエネルギーは伝わらないですが、その部分を切り抜いて撮影しました。


 それからシスコさんは絵の中にシスコさん自身の「内在神」をたくさん描いています。どの神様も日本の神さまではありませんね。シスコさんの前世の記憶なのかな。

「鳥の精」という粘土の像のシリーズもとても好きでした。

 シスコさんは53歳から絵を始めました。今の私と同じ年です。このタイミングでシスコさんに出会ったのも偶然ではない気がしました。
 「はじめるのに遅すぎることなど何もないし、時と共に終わりゆくものも何もない」というメッセージをもらった気がしました。
 命は、いつも「今」が盛りなのですね。

 シスコさんの熊本での個展は明日までです!



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