ウクライナ情勢に見る集団思考/集団浅慮とは?2022/3/12記
本稿は、ロシアのトップリーダーであるプーチン大統領勢力の心理傾向を考える上で重要な概念と考えられる「集団思考/集団浅慮」(心理学用語)についての説明です。
ロシアの今の現状について、カルト的と考える人々が増えてきていることから、一応念のために説明しておこうと思いました。
集団としての国=ロシア自体に、カルト的現象と同様の現象が起きていること自体はそのとおりですが(構成員である国民に対する人権侵害、情報の統制、兵士を物扱い、スパイを疑う、等、似通った面はたくさんあります。)、それは戦時という外在的状況があるロシアと、団体の中は「常に空襲警報」というカルトとでは、心理状態だけ見ると似通った面があり、対内的かつ外的対応に共通性が出て来るのは当然だからであって(参考:紀藤の原稿=首都は今戦時下にある-地下鉄サリン事件の発生-1995年3月21日記 UP04/07/26-本文約4000字)、今のロシアが、すぐに「カルト」的とまで評価するのは、現段階では間違いであると思っています(今なお、ロシア国民の中には、多数の反対意見があると思われます。)。
ところで、カルト内で、グループ内メンバーに対する人権侵害(殺人もいとわなくなる感覚)が、グループ外の他者に対してすら人権侵害を容認していく心理状態につながることについては、次の拙著で簡単ですが、触れています。参考までにあげておきます。
今回、集団思考/集団浅慮の概念を上げたのは、この概念が、どんなに優秀な人でも、集団思考が働くと、しばしば、間違いやすいことを説明する概念であるからです。
集団思考/集団浅慮は、実は、英語の「グループシンク」(groupthink)の訳で、米国の社会心理学者でカリフォルニア大学バークレー校の教授だった Irving L. Janis(アーヴィング・ジャニス、1918年5月26日 - 1990年11月15日)が提唱した概念です。ジャニス教授は、ケネディ大統領の第1次キューバ危機(1961年 ピッグス湾事件=wiki)での失策、日本軍による真珠湾攻撃(1941年)予測の過小評価など、米国政権中枢の失策を題材とし、「グループシンク」(groupthink)の理論を生み出しました。
この集団思考の問題は、結果的に、楽観主義を帯びやすく(「簡単に勝てる」といった思考方法で、カルトの中にも生じやすい心理的傾向、オウム真理教の場合は、サリン事件などを引き起こしました。)、「浅慮」の問題を生じることから、グループシンク(groupthink)の直訳は、本来中立的な用語である「集団思考」であるのに、評価的表現である「集団浅慮」とも訳されています。
いずれにせよ、エリート集団が陥りやすい思考方法として、ウクライナ情勢を考える際に、重要な概念と言えます。
楽観主義の行きつく先は、核使用の問題ともからんできますので、集団思考/集団浅慮は、とても怖い概念でもあります。
核抑止力とは、核使用の恐怖感を利用した理屈ですが、相手に楽観主義があれば、これを防ぐことはできません。
そこで、次回は、さらに、集団思考/集団浅慮の概念を掘り下げ、集団思考/集団浅慮の解説をしていこうと思っています(この項続く)
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