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韓国大統領選

◎韓国大統領当選者の評判
 3月9日の大統領選挙で尹錫悦候補が約25万票という史上最大の僅差(0.73%)で与党・李在明候補を破り、次期大統領となることが決まった。約25万票差とは実質的にその半数の約12万人強の有権者が「行って来い」で候補者の運命を分けたことになる。韓国中央日報の東京支局長が日本のBSテレビで「実質的には引き分け」と解説していた。投票前には第三の候補安哲秀氏が尹錫悦候補を支持する声明を出し、野党候補を一本化したから、数字の上では10%前後の差で尹候補が勝利するという楽観論も野党「国民の力」の李俊錫代表から出ていた。しかし蓋を開けてみると、1%以下の得票差だった。私が知る共に民主党の知人からは「善戦した」という声が多かった。「政権交代をしたいならば、やらせてみよう」という心境だったのかも。
 ただ、世論は投票結果と同様に尹当選者に厳しい。韓国ギャロップ社の調査(3月22日から24日まで)では「国政遂行能力」では「うまくやるだろう」が55%だった。文在寅大統領の場合には87%、朴槿恵前大統領でも78%だった。尹当選者に対する期待度が低いことがわかる。同じ世論調査で「うまく行かないだろう」という回答が40%にものぼっている。
 ただ就任式まで一か月半と迫っているのに、尹当選者にはさまざまな問題がある。
 一つは大統領官邸を出て、ソウル市内龍山にある国防部のなかに執務室を作ると頑なに主張している点である。当初は光化門の合同庁舎で執務すると言ったりしていたが、それが現実的でないとわかると、龍山の国防部の敷地に大統領執務室を作ると言い出した。国防部に執務室を移転すると言い出したのは尹当選者独特の軍部に対するコンプレックスがあるのかも知れない。その理由は同氏は視力不良を理由に軍への徴兵を逃れているという経歴がある。軍歴のない最高司令官が一般国民だけでなく、軍人から尊敬されるのかという国民からの視点もある。国防部には地下バンカーなどの設備が整っているからだという説もあるが、青瓦台にも地下バンカーはある。なぜ大統領府のある青瓦台ではダメなのか?一説には尹錫悦当選者を強く応援する占い師や風水師らが青瓦台では大統領として短命に終わるといって青瓦台に入るのを絶対反対したというのだ。文政権時代も青瓦台は権力独裁の象徴だとして他の執務室を検討した経緯があるというが、尹候補の場合には風水師や占い師が深く関与しているという情報がある。朴槿恵前大統領が知人の崔順実という個人を青瓦台に自由に往来させて、側近から情報をとったり、金銭を提供して便宜をはかってもらっていたことから崔順実ゲートが発覚して弾劾事件につながったが、崔順実の父親(チェ・テミン師)が宗教団体を率いていた時期があり、朴正煕元大統領との親しかったことから娘が朴槿恵大統領の懐に飛び込んだという経緯があった。昨年大統領選挙運動中に尹候補が記者会見をした際、手のひらに「王」という文字が書かれているのをみた韓国の記者が指摘して大きく報道されたことがあった。その時、尹候補は知人が自分を激励するために「王」という文字を手のひらに書いてくれたと弁解していたが、当時から占い師(風水師)とのつながりが噂されていた。国政を占い師に任せるのかという批判で朴槿恵を操ったと言われる崔順実とイメージが重なる点があると韓国マスコミは指摘している。
 尹当選者が青瓦台を嫌がるのは風水による短命説だという話とは別に、青瓦台は大統領が狙撃対象となるには一番適しているからだと分析する韓国記者もいる。文在寅大統領は保守派から嫌われていたようだが、保守派のなかでも過激派の軍人グループのなかには文在寅暗殺の動きもあったと聞く。私が直接聞いた情報もある。その情報によれば、軍部のなかの少数過激派が韓国空軍の戦闘機で青瓦台を空爆、ピンポイントで文在寅大統領を抹殺するという計画だ。この計画には尾ひれについていて、青瓦台空爆後、戦闘機のパイロットが日本に亡命するために当時の安倍内閣に亡命要請をする段取りも計画していたというのだ。あまりにも荒唐無稽の話で、いくら文在寅嫌いの安倍内閣でもそんな話には乗るはずがないが、青瓦台がターゲットになりやすいのは事実だろう。1968年には北朝鮮から派遣された特殊部隊が朴正煕大統領(当時)を暗殺しようとゲリラ部隊が青瓦台近くまで侵入した事件は有名である。
 大統領官邸(青瓦台)の執務室には歴代の大統領の肖像が飾られている。勿論、尹錫悦当選者が「自分が監獄へ送った」と公言している朴槿恵前大統領の肖像もあり、尹大統領をにらみ下ろすことになる。この風水説には夫人のキム・ゴンヒ氏が強い影響力を受けているという噂もある。
 当選直後のフランスの新聞「ルモンド」紙が知性が売り物の新聞にしては珍しく、キムゴンヒ夫人の経歴を紹介しながら、夫人を「娼婦」「コールガール」と呼ばれていたというエピソードを書いている。一国の国家元首のファーストレデイを「娼婦」呼ばわりするのは尋常ではない。米国トランプが大統領に当選したとき、メラニア夫人がモデル出身で複雑な男遍歴があったと書いていたが、その比ではないだろう。大統領の就任式は従来、国会議事堂前の広場で行われるが、その際にキムゴンヒ夫人が出席するかどうかも韓国マスコミの関心事である。大統領職引継ぎ委員会のある事務所で就任式をやるという話もある。事務的な就任式ならば夫人が出席しなくても違和感がないからだ。質素な就任式もよいだろうが、ファストレデイが出席しないとなると、どうなるのか?慣例では就任式のあと、光化門の会場で、外交官や外国の賓客を招いてレセプションを開くのが慣例だ。尹当選者は「私が当選したら、大統領の家族親戚関係を管理する付属室を廃止する」とも言っている。キムゴンヒ夫人も選挙運動中、経歴詐称や接待婦疑惑、母親の詐欺罪での実刑判決などマスコミに叩かれ続けてきただけに、表舞台に出てマスコミのさらし者になるには相当の抵抗感やトラウマがあるようだ。
 3月25日現在、文大統領と尹錫悦当選者の会談は実現していない。大統領選挙が終わって二週間も経過しているのに、引継ぎの挨拶もしないのは異常だと言える。引き継ぎの面会は大統領官邸(青瓦台)で行われるのが慣例だが、尹当選者が青瓦台での挨拶を頑なに拒否しているという情報もある。一度、会談の日程がセッテイングされたが、前日になって急遽キャンセルになった。世論調査では国民の53%が尹錫悦当選者が青瓦台に入らないことに反対している。尹当選者が20日に青瓦台を大統領執務室として使用しないと宣言すると、二日間で二十万人以上が大統領官邸の移転に反対する請願を提出した。大統領府としては請願が20万人以上に達した場合には何らかの対応や回答をしなければならいというルールがある。二人の会談が実現しないのは移転問題を始め、李明博元大統領をめぐる恩赦の時期や主要公共機関(韓国銀行など)のトップの任期をめぐって両者が対立している、などさまざまな説が流れているが、結局は二人の意地の張り合いになっているのではないか。尹当選者は大統領選挙運動中から「自分が当選したら、文政権のスキャンダルを追及する」と「政治報復」を公言しているから文大統領としても怒り心頭に達しているに違いない。
 李明博大統領の恩赦は文大統領としては個人的には到底許容できないところだろう。李明博大統領(当時)がロムヒョン元大統領を自殺に追い込んだ張本人だと信じているからだ。文大統領の頑固さは昔から有名であり、尹錫悦当選者も同じだろう。尹氏は「韓国のエリツイン」とも言われるほどの酒好きだ。昨年、選挙運動中も前夜の深酒が響いて討論会の日程をキャンセルしたというエピソードもある。
 ひょっとして二年前、米国トランプ大統領がバイデン新大統領の就任式に出席せずにヘリコプターでホワイトハウスを離れたように、尹大統領当選者も文大統領と挨拶せずに大統領に就任するなんていう事態が起きるかも知れない。ウクライナ戦争や北朝鮮のICBMミサイル危機を目の前にして南北関係や北東アジアの情勢が急変する事態を放置することになれば、一国の最高司令官になるにはチト幼稚すぎるという批判も出てくる。共に民主党支持者のなかには尹政権に対する「民主化運動を起こそう」という動きがあるそうだ。6月の地方自治体選挙が尹政権にとって最初の試練となる。

wrote by masaki tachikawa

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