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いつかドラマで見たように カーテンの中に隠れてみようよ 窓からなだれ込む風で カーテンがさらさら揺れて わたしたちの影を隠すのよ 隠されてみようよ 揺れるわたしたちの心も
雪が降りだしたと思ったら 急に青空が広がって いつの間にか雪が雨に変わり あちこちから水蒸気が上がっているから 「はっきりしてよ」と 空に向かって言ってみたら 隣できみが笑った 曖昧な態度でわたしを振り回す きみに向けての言葉だとは 夢にも思わないという様子で
ドーナツの穴になりたかったの。 生地から型を抜いて、抜いて、抜いて、捏ねて伸ばして型を抜いて、抜いて そうして残った、たったひとつのドーナツの穴。 それを食べられるのはひとりだけだから。手に入れた日は自分が特別だって思えて。 そんな風に、誰かの特別になりたかったのに、ね。
ハンカチに 自分の名前を刺繍するように きみの心にも わたしの名前を刺繍できたら 一日の中で二秒くらいは わたしを思い出してくれるのかな 二秒でいい 二秒でいい、のに
運転席のあのひとを 横目でずっと盗み見ている そして祈っている 赤信号で停まるたび 盗み見をやめなくてはいけないから どうかこの先の信号も その次の信号も タイミングよく青にかわってくれ、と でもそうするとすぐに到着して すぐに別れの挨拶をしなくてはならないから どうかこの道が 不思議な力で数キロくらい伸びてくれ、と わたしはそんなジレンマに踊らされ 途方に暮れながら気付くのだ これが恋というものか
わたしの下唇はいつも荒れていて、 それを見る度きみは「リップ塗ったら?」と呆れた顔をして、 ついにはどこにでも売っている安いリップクリームを買って来てくれたけれど。 きみは知らないの。 わたしの下唇が荒れている理由を。 きみがあの子と一緒にいるのを見かける度、その悔しさを、唇を噛んだ痛みで紛らしているんだよ。
この楽しい時間が、 砂が落ち切ったときに終わるのなら。 私は全力で、それを阻止したい。 彼の目を盗んで、 砂時計をひっくり返し、 この時間を永遠にしたい。 たとえ盗人だと咎められようと、 今、この瞬間、 彼の時間を私のものにできるなら。 何度だって盗みを犯すよ、なんて。
ね、見て。綺麗な宝石でしょう。 ずっと前からこっそり集めていたの。 きみと会えない日はね、涙が溢れるの。 その涙はこぼれ落ちると宝石になって、 手元に残ってキラキラ輝くのよ。 不思議でしょう。 もう瓶いっぱいになったのよ。 だからもっと会いに来て。
あの人に出会った瞬間 わたしの心に 小さなダイヤが生まれた ダイヤは日ごと大きくなり、 光輝き、 嬉しくなって大事にそれを育てた、 のに あの人が他の誰かと話す度 あの人が他の誰かと笑う度 ダイヤが黒く染まっていく 今じゃあもう光はない まるで燃え尽きた炭のようだった
今から内緒話をするね わたし、あなたが好き 好きで好きで好きで あちこち痛いの ひとを好きになることが こんなに痛みをともなうなんて あなたと出会う前は 知らなかったの 痛いのはきらい でもたとえ痛みで のたうち回ったとしても わたし、あなたがすき
曰く人見知りで 表情の乏しい 無口なきみが 最近は満面の笑みで わたしの話に声を出して笑って そのせいでずれてしまったマスクを 何度も何度も直すから 明日は何の話題で 笑ってもらおうかな、なんて 毎晩ベッドで考えている
もしかしたら、知らないうちに まばたきがシャッターで 脳がフィルムで 保存した記憶をいつでも自由に プリントできるようになっているかもしれないから わたしはまばたきのシャッターを切るの きみといるとき まばたきが多いのはそういうことだよ