マガジンのカバー画像

詩集

34
詩をまとめています。 恋愛詩多め。
運営しているクリエイター

#短編小説

詩|おめでとう、

 その報告を受けたとき、わたしは人目も憚らず飛び跳ねて大喜びした。  長い時間を一緒に過ごしてきた幼馴染みと、職場で一番仲が良い友だちという、わたしの人生においてなくてはならない大切なふたりが、付き合い始めたのだ。飛び跳ねたくもなる。 「おめでとう、お幸せにね」  張り上げた声は、風船みたいに膨らんで、上擦っている。  感情が溢れそうな声に、ふたりは目を丸くしたあと顔を見合わせ、フフと笑った。とても幸せそうに。とてもそっくりな笑顔で。まるでわたしには見えない、ふたりだけ

詩|分銅

不思議、ほんとうに…… きみの選んだ道を、理解して、納得していたはずなのに きみのいない日々が、ちゃんと日常になったはずなのに ごくたまに 例えば深夜に部屋の寒さと静けさを感じたときに 選んだ道の正しさを考えてしまうの なんとも言えない感情が沸き上がるの 心の中の柔らかい部分を とても大きな分銅でゆっくりと押しつぶされているような そんな感覚があるの 不思議ね、ほんとうに……

詩|色彩

また季節が変わるね 一昨日まで鮮やかだった街並みは 昨日の雨と今日の風で すっかり灰汁色になったみたい それでもわたしは好きよ 静かに降る白磁色の雨も ヒュウヒュウ鳴る墨色の風も そこに紛れ込むストーブの緋色のにおいも 低い鉛色の空は分厚い羽毛布団みたい 「きみはいつも不思議なことを言うね」 笑ったあの人の横顔は黄金色に見えた

詩|ヴァイオリン協奏曲ホ短調

何の気なしにつけたラジオから 懐かしいヴァイオリン協奏曲が流れてきて思わず手を止めた 儚く美しいその旋律は かつての恋のBGMでもあった 六年もの間心を注いだその恋は 叶わずに終わってしまった 流行りの曲しか知らなかったわたしが メンデルスゾーンを聴き その作曲家の生い立ちまで調べ 少しでも親しくなろうと頑張ったけれど だめだった あのひとの眼にわたしは映らなかった それでもいい あのひとに心を注いだ六年は 儚く美しい旋律とともに美しく昇華されて わたしの細胞に刻み込ま

詩|寄る辺ないパレード

夜に押しつぶされてしまいそうで 人が作った光を求めて外に出たけれど 私は寄る辺もなく 人混みに流されるままただ歩く 誰と話すでも、 視線を合わせるでもなく、 ただただ歩く 見知らぬ夜のパレードに 参加しているように