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詩集

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詩をまとめています。 恋愛詩多め。
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#失恋

詩|嘘吐き

彼はいつも「大丈夫?」と問う 心配をかけたくなくて、私はいつも 「大丈夫だよ」と答えていた 彼にも自分にも嘘を吐き続けた 彼はもう「大丈夫?」と問わない もう私を気にかけてくれない 「お前は強いから、俺がいなくても平気だよな」 彼の言葉に私は「そうだね」とまた嘘を吐いた

詩|どうか絶望よ、

胸の中で育てた絶望に頬ずりして 火照りを鎮める 太陽を手に入れようだなんて そりゃ無理な話だったんだ 太陽のそばに居られるだけで 充分だったはずなのに いつからかわたしは贅沢になった だからどうか絶望よ、 その冷たさで わたしの目を覚ましておくれ

詩|ドクターフィッシュ

身体中に開いた 数え切れないくらいの傷口に ドクターフィッシュを住まわせて 負った傷の原因を 全部丸ごと食べてもらえたらいいのに

詩|リップクリーム

わたしの下唇はいつも荒れていて、 それを見る度きみは「リップ塗ったら?」と呆れた顔をして、 ついにはどこにでも売っている安いリップクリームを買って来てくれたけれど。 きみは知らないの。 わたしの下唇が荒れている理由を。 きみがあの子と一緒にいるのを見かける度、その悔しさを、唇を噛んだ痛みで紛らしているんだよ。

詩|おめでとう、

 その報告を受けたとき、わたしは人目も憚らず飛び跳ねて大喜びした。  長い時間を一緒に過ごしてきた幼馴染みと、職場で一番仲が良い友だちという、わたしの人生においてなくてはならない大切なふたりが、付き合い始めたのだ。飛び跳ねたくもなる。 「おめでとう、お幸せにね」  張り上げた声は、風船みたいに膨らんで、上擦っている。  感情が溢れそうな声に、ふたりは目を丸くしたあと顔を見合わせ、フフと笑った。とても幸せそうに。とてもそっくりな笑顔で。まるでわたしには見えない、ふたりだけ

詩|空洞

ねえ、どうしよう 心の空洞を埋められるだけのものが まだ見つからないの 詰められそうなものは 何でも詰めてみようと 試しているのだけれどね 例えば庭の落ち葉も詰めたし 木工用ボンドも流し込んだ 角砂糖もあるだけ詰めたのよ でもだめみたい あなたがいい あなたが恋しい

詩|乖離

頑固なわたしは きみがいない日常に 絶対慣れてやるもんかって ずっと思っていたの けれどもうきみはいなくって どこを探してもいなくって いないことが普通になってしまって いつも通りの日常を過ごしている その乖離は 頑固なわたしにとって耐え難い どうしようもなく耐え難いの……

詩|分銅

不思議、ほんとうに…… きみの選んだ道を、理解して、納得していたはずなのに きみのいない日々が、ちゃんと日常になったはずなのに ごくたまに 例えば深夜に部屋の寒さと静けさを感じたときに 選んだ道の正しさを考えてしまうの なんとも言えない感情が沸き上がるの 心の中の柔らかい部分を とても大きな分銅でゆっくりと押しつぶされているような そんな感覚があるの 不思議ね、ほんとうに……

詩|ヴァイオリン協奏曲ホ短調

何の気なしにつけたラジオから 懐かしいヴァイオリン協奏曲が流れてきて思わず手を止めた 儚く美しいその旋律は かつての恋のBGMでもあった 六年もの間心を注いだその恋は 叶わずに終わってしまった 流行りの曲しか知らなかったわたしが メンデルスゾーンを聴き その作曲家の生い立ちまで調べ 少しでも親しくなろうと頑張ったけれど だめだった あのひとの眼にわたしは映らなかった それでもいい あのひとに心を注いだ六年は 儚く美しい旋律とともに美しく昇華されて わたしの細胞に刻み込ま