パン屋のじいちゃんが好きだった

アル中DV借金で、いつも宝缶チューハイをダッシュボードにおいてた父方のじいちゃん。
パン屋のじいちゃんと呼んでいた。

両親から見れば最低なじいちゃんだったんだろう。
おれもそう教えられたから、そう思うようにしていた。

けど、おれにとっては年に一度会うかどうかで小遣いも全部母に渡し、モゴモゴしゃべって何言ってるか分からない母方のじいちゃんよりも、よく会いに来ておもちゃを買ってくれるパン屋のじいちゃんのほうがずっと優しくて好きなじいちゃんだった。

両親はパン屋のじいちゃんとばあちゃんを嫌っていた。
妹も嫌っていたらしい。

でも、おれにとってはふたりはおれを特別かわいがってくれた。
分かりやすく愛してくれていた。

まあ、ばあちゃんのベタベタぐあいは鬱陶しいなと思っていたけれど、世にも珍しいおれをかわいがる大人だった。

じいちゃんがおれを見る目はいつも優しかった。

おれはおれの母ではないし、おれの父でもない。
あの二人がなんと言おうと、おれはパン屋のじいちゃんが好きなままでよかったんだ。

じいちゃんが死んだとき泣いてやれなくてごめんな。
両親の前だったから、おれはじいちゃんを嫌ってなきゃいけないと、そう思ってた。

ばあちゃんおれに泣いて抱きついたよな。
抱きしめ返してあげたかったけど、ガマンしちゃったよ。
「このふたりがおれの両親を苦しめた」なんて言い聞かせてね。

ほかの人がなんていうか知らんけど、おれはふたりのこと好きだったよ。

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