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トレタを卒業します

 2020年2月末日をもってトレタCFOを退任し、退職することになりました。飲食店をはじめとするお取引先のみなさま、株主・金融機関・投資家のみなさま、そしてトレタ民(トレタの役員・社員・卒業生の総称)に心から感謝しています。どうもありがとうございました。

 株式会社トレタが創業してちょうど2年経った2015年8月に入社し、それから4年7ヶ月をトレタ民の一員として過ごしましたので、トレタの旅の2/3を一緒し、つくってきたことになります。

振り返り

バックオフィスの構築
 入社時は社員約30名。最初は自分の役割をあまり定義せず、必要と思ったことにどんどん取り組むことを意識して動きました。ちょうど管理組織を立ち上げるタイミングで、当時は2人のメンバーと一緒に経理財務から人事総務、法務、情シスといった役割を担うチームをつくりました。
 今後の事業成長から必要となる機能を逆算して現状とのギャップを整理、会社フェーズと重要度・緊急度、投資対効果を考えてメンバーを採用し、チームづくりを進めました。また、資金調達のデュー・デリジェンスにおいて、会計事務所・法律事務所・コンサルティング会社等のアドバイザーの客観的視点で、会社フェーズに相応したバックオフィス水準について検証しながら、それを目安としてステップバイステップで整えました。
 現在社員数は150名に達しましたが、事業規模に見合う質とメンバーを伴った体制が構築されていると思います。

資金調達
 2019年12月時点で累計61.4億円の資金を調達、これまで投資に対して攻めの姿勢で事業を推進しました。事業成長を測る売上成長率も、デロイト トーマツ リミテッドが公表する「日本テクノロジーFast50」で上位にランクインする水準(2016年3位→2017年2位→2018年16位→2019年18位)を実現し、お客さまから評価いただいています。

 資金調達においては、創業者である中村がトレタを通じて実現したいビジョンや構想、それを実現するためのストーリーといった企業価値の源泉について話し、その道筋を具現化した事業計画の策定や投資判断の基礎となるデュー・デリジェンス、ドキュメントといった実行プロセスを担当しました。特に2018年12月にNTTドコモさんと締結した30億円調達の資本業務提携は、ベストを尽くしたディールとなりました。

 トレタはこれまで、多くのVCや事業会社から出資いただきました。株主のみなさんから叱咤激励をいただいただけでなく、さまざまな経営課題を議論し、知見を吸収しながら事業を成長しました。経営においては、相矛盾することに対して最適な意思決定をすることが求められます。例えば、短期視点と長期視点、スピードの角度、開発の優先順位における収益性とユーザーニーズ、空中戦と地上戦、コストと投資、選択・集中と多角化など。株主のみなさんから有益なフィードバックをいただく反面、それぞれのバックグラウンドの違い(=リターンの尺度)故の相違もあり、運営の難しさを感じることもありました。

事業コントロール
 トレタは、SaaSビジネスを展開している会社の1つです。

 SaaSビジネスでは、その事業モデルの特性から初期投資と必要な資金調達を行い、中長期的に価値を創出し投資を回収していくことになります。事業化フェーズにおいて、R&D(開発)投資でプロダクトをつくり、市場規模を想定したS&M(セールスマーケティング)投資で事業の成長角度を決める。収益化フェーズにおいて、運用とG&A(管理)コストを加味して持続可能な事業の骨格を固めつつ、さらなる資金調達を実行し、健全なユニットエコノミクスをベースとしたS&M投資で一気に成長を加速させる。
   能書き的にはこんな感じですが、実際はS&M・R&D・G&Aがオペレーションにおいて密接に連動しており、その繊細さ、各機能へのリソース配分のバランス、組織風土といった要因が絡んでそのコントロールは試行錯誤でした。

トレタについて

トレタの難しさ
 トレタには、他のSaaSビジネスのアプリと比較して、以下のような難しさを感じました。
(1)リアルタイムで使用される
 トレタが提供する予約顧客台帳アプリは、飲食店において、お客さまが予約する時や来店した時に使用されます。つまり、飲食店のスタッフがお客さまとリアルに対応するタイミングで使われるため、その瞬間アプリに不具合が出てしまうことは許されません。
 他のアプリ、例えばBtoBプラットフォーム請求書(インフォマート)やSales Cloud(セールスフォース・ドットコム)が処理中に止まっても「固まっちゃったね」でその場は流れますが、トレタの場合は、予約や来店時に止まってしまう=売上に影響する死活問題であるため、インフラ並みの運用水準が求められます。
(2)連携の重要度が高い
 トレタは、グルメサイト・POSのような他のアプリと連携する機能を有しています。予約顧客台帳アプリをこれらと連携することで、アプリとしての新たな価値が創出されます(紙の台帳にはない価値)。グルメサイトやPOSはさまざまな会社が提供しており、それぞれ仕様が異なる故、柔軟に対応できるような開発の汎用性が求められます。
 他のアプリ、例えばsmartHRは一部の勤怠システムと連携することで、データを抽出し取り込む手作業が減って楽にはなりますが、トレタの場合は、その連携がお店のオペレーション、店長・スタッフの働き方そのものを変えるほど重要なものとなります。
(3)多種な人が多様なシーンで使う
 トレタは、飲食店のスタッフが飲食店の現場で使用します。使用するスタッフによって経験値やITリテラシーは異なりますし、使用する場所も受付台で電話を受けながら使う時もあれば、接客をしながら操作したり、調理をしながら確認したり、使われるシーンも多様です。
 他のアプリ、例えばマネーフォワードクラウド(マネーフォワード)は、ユーザーが経理知識をある程度有している・PCリテラシーがそこそこ高い人物像が想定され、オフィスのデスクで使用することがイメージできますが、トレタは、さまざまな人・場所によって使用される故、現場で使うスタッフを考え抜いたデザインや、現場のオペレーションを想像した使い勝手を考えて設計する必要があります。

トレタのよさ
 このような難しさに取り組んでいることもあってか、トレタには以下のよさを感じました。
(1)ビジョンへの共感
 トレタには、飲食店を自ら開業した経験を持つ創業者の中村が体感した「ITの力で飲食店をハッピーにできれば、結果として食文化をより豊かにすることにつながる」という想いに共感して入ったメンバーが多いです。多くのメンバーが自分の取り組んでいる仕事に対して社会的意義を感じることができる点は、トレタの強さであると思います。
(2)優秀なメンバー
 このようなビジョンは派手さはない一方で、ビジョンに共感して入るメンバーが多いこともあってか、トレタは「落ち着いたスタートアップ」という感じで、個人的には仕事がしやすい環境でした。人間くささが出る飲食店向けにサービスを提供し、食べること・飲むことが好きなメンバーが多い事もあってか、コミュニケーション能力も高く、人間関係で苦労することはほとんどありませんでした。エンジニアやセールスマーケ、バックオフィスなど、それぞれのフェーズで優秀なメンバーと一緒に仕事できたことは財産です。
(3)現場を考える思考
 トレタの難しさとも関わりますが、飲食店はサービス業の中でも法人規模や業態、オペレーションなど多種多様で、そういった個別性の高い店舗のオペレーションに組み込むアプリケーションを提供することは難易度が高い、それ故にやりがいのある事業と感じました。それに取り組むべく現場意識を持ち、課題をどのように解決するか、多種多様なニーズに対しどの機能を組み込むか、どの機能は捨てるかということを、形式・表面的なアプローチでなく、本質的・ストレートなアプローチで課題を解決しようとする思考はとても好きでした。

WHY 卒業?

 上述したNTTドコモとのディールをクロージングし、今後の事業成長に向けた基盤を整えたことで一定の役割を果たし区切りとなったこと、また、このディールの真っ只中に娘を授かり変化したことが、新しいチャレンジを考え始めたきっかけとなりました。
 妻が妊娠から仕事と両立することの大変さや復帰に対する不安、娘を授かってからの子育て、保育園が象徴する行政の現実といったことを肌で感じたり、娘に対して何ができるか、何を遺していきたいかを考えたりしました。死ぬことと時間が平等であることは、すべての人にとって不変な事実で、これからあっという間に過ぎていく時間をどのように行動するか。
 僕自身は、これまで成長企業やスタートアップ、経営危機にある会社で汗を流してきました。そういった助けを必要としている会社や困っている会社に突っ込み、行動することで心が豊かになります。行動するうえで、誰と一緒に取り組みたいか、そして敢えて難しい山を登ることを選ぶ、という自分の声に戻った時に、新しくチャレンジしたい機会がありました。
 受け入れていただいたトレタに感謝しつつ、ささやかながら恩返しをしていきたいと思います。

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