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第20回 #書き出し祭り 特別会場感想(まさかミケ猫)


はじめに

 第20回書き出し祭り特別会場の感想を以下に書いていきます。以前Xで呟いたタイトル・あらすじへの感想(※本文未読時のもの)も一緒に掲載しますので、予想や期待をどのように突き抜けてくるのか、といった部分にも着目していきながら感想を書いていきたいと思います。

企画概要

第20回書き出し祭り 特別会場

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事務局ポスト

タイトル一覧

第20回書き出し祭り 特別会場 タイトル一覧

あらすじ一覧

T-01 私、義妹の身代わりに殺戮の王子に嫁いだら重宝だと溺愛される日々になりました

タイトル・あらすじ感想

 あらすじ読んだらしっかり和ファンだった! 飛鳥か奈良らへんの時代でしょうか、チョイスが渋くて絶対詳しい人じゃんってなります。さすが第一走者、面白そう。吹雪ちゃんの巫女術も楽しみにしてまーす!

本文感想

 特別会場一発目からすごく面白かったです!
 本作はもう冒頭からいいですよね、時代背景をしっかり感じられる語彙で、素敵な世界観を高い解像度で描き出してくれているので、ついつい作品世界に没入して読み込んでしまいます。話運びから単語選びまでブレずにしっかり書いてくれたなと。
 忍命の悪い噂についてはこの様子だと事実無根みたいなので、何がどうしてそういう話になったのか気になるところです。誰かの陰謀とかもあるんでしょうかね。物語を広げられるポイントかなと思いました。
 それと、吹雪の過去の語り方がいいですよね。ここで「自分を奴婢にしたうんぬんの恨みつらみ」ではなく「神を敬っていない」ことを中心に語られていくのが、彼女というキャラクターらしい思考だなと感じました。
 そして、厳しいバックストーリーから一転、二人の会話が始まると、そこに立場の違いはあるのですが、やりとりは丁寧で好ましいものだったなと思います。美豆良について忍命はあまり良く思っていないのか、自分自身も結っていませんし、結っていない吹雪を受け入れていることに、何かまだ隠された背景事情があるのかなと想像してしまいました。
 巫女術については面白い設定ですよね。私はどうしても仕組みを考えてしまいがちなのですが、いくつか仮定を置いて考えてみると、こういった奇跡を乱用するとどこかに弊害があるんじゃないかなぁと考えてしまいます。吹雪は信仰心から悪用はしませんでしたし、悪用するような人間にはそもそも備わらない力なのかもしれません。ちなみに、夜伽で巫女術が消えてしまうというのはちょっと疑問なんですよねぇ。時系列的が明確でないので分からないのですが、吹雪の母親が巫女術を失ったのが吹雪を生む前だとすると、父親が母を奴婢に落とした時系列が分からないなと思って。そもそも巫女術を重視するなら、形だけの妻に留めておくのではないかなーと思いますので、このあたりはまだ隠れている情報・失う条件があるような気がします。気のせいかもしれません。
 忍命についても不思議な能力を扱えるようですね。これが巫女術と何か関連性のある能力なのか、といった部分も気になるところです。この時代は神話にかなり近いと思いますから、忍命が神の血を色濃く継いでいてもおかしくないなと思います。だとすると、吹雪の巫女術は特に失われないか、忍命にあわせて何かしら変化するのかもしれませんね。
 これから二人がどうなっていくのか、ぜひラブラブな姿を読ませていただけたらなと思いますので、続きを楽しみにしたいと思います。面白かったです。

T-02 代替品の花嫁と狼な御曹司

タイトル・あらすじ感想

 異類婚姻譚はロマンなんですよ。しかも姉と婚約者の駆け落ちっていう冒頭から、あとはゆるゆると上がってく話じゃないですかぁ。狼御曹司の「ふん」はデレの前フリでしょ。絶対面白いやつ! 知ってるよ!

本文感想

 これは良いツンデレもふもふ旦那様を見せていただいたなぁと思います。これは良いものですね。これから楽しい話になっていくんだろうなと期待できます。面白かったです。
 千景が嫁入りすることになった経緯については、すごく明確に描かれていたのが印象的でした。身代わり婚の理由について納得のいくものを用意するのってけっこう大変だと思うのですが、姉と婚約者のやらかしという強力なものをボンと配置してくれて、それを巡る周辺事情を綺麗に補完して納得の行く物語に仕立て上げてくれたのが素晴らしかったですね。そんな中で、千景が不憫な状況に置かれることによって読者が応援したくなること、また彼女がもふもふ好きということが、この物語にとってわりと重要な要素を早々に提示してもらえたのかなと思います。
 最初の会話が刺々しいのは鉄板ですね。やっぱりツンデレはこれくらいツンを見せてくれたほうがデレの破壊力が出ますからねぇ、この屋敷での立ち位置も含めて、良い助走になったのかなと思います。旦那様にとっては自分がもふもふであることは負い目でしょうが、千景にとってはご褒美ですからね。この後は楽しいお話になっていくんだろうなと期待が持てました。
 全体を通して、構図の明確さとそれを説明する段取りの上手さ、キャラを魅力的に見せる描写など見習いたい部分が多かった作品だなと思います。すごく好きだなぁというのが率直な感想でして、ぜひぜひ続きを書いてほしいなと願っています。面白かったです。

T-03 竹取奇譚

タイトル・あらすじ感想

 タイトルからワクワクさせておいて、あらすじで天元突破してきたんですが。天才がいましたね。なんという延長線を開幕してくれたんですか。面白すぎでしょう。これは読んでからじっくり語らせてください!

本文感想

 あらすじから発展して、さらにここまで面白くしてくれるとは思わないじゃないですか。天才ですか。みんなが知ってるかぐや姫の設定を掘り下げて「かぐやの遺産」を生み出し、それを巡って争うのが竹取の翁の子孫と宮本武蔵ですよ。なんて面白そうなものを持ってきてくれたんでしょうか。面白すぎるじゃないですか。
 冒頭、まずみんなが知っているおとぎ話に混ぜ込んだのは「かぐやの言霊」という仮定なんですよね。はじめに置いたのはこれたった一つで、そこから月の民の能力やかぐやの遺産なんかの設定を広げていったのかなと思うのですが、この広げ方がほんとワクワクします。それで、八百年ほど経過して江戸時代を舞台にこのかぐやの遺産を巡る争いが歴史の裏で起こり始めると。いやぁ、すごく面白いですよねぇ。
 哥刈との遭遇シーンでは、竹千代はさらっと「人避けや獣避けの妖術」なんて言葉を出して世界観をさらに広げてくれます。人ならざる者が存在している前提の世界で、代を重ねた「竹取の翁」はおそらく月の話や使命なんかと一緒にこういった力も溜め込んできたのかなぁなんて想像してたりします。帝とも何かしらの繋がりがあるでしょうしね。
 池田好運について調べてみるとWikipediaには「長崎港沖に沈没していたポルトガル船からカラクリを用いて銀600貫ほどを引き揚げた」とか書いてあるので、彼は『蓬莱の玉の枝』担当でしょうか。宮本武蔵は何を持ってるんだろうなぁ、想像が広がりますよね。
 本作は発想力と設定の広げ方に度肝を抜かれた、すごく面白い作品だったなぁと思います。とても楽しませていただきました。続きがあったら嬉しいなぁと思うのですが、これは祭り向けに書いた作品かもなぁとも思うと悩ましいところです。どうでしょう作者様、もうちょっとだけ先まで書いてみませんか?

T-04 マレビト放浪娘は黒蝶に就き

タイトル・あらすじ感想

 こういうタイプの和ファンも良いなぁ、めちゃくちゃ面白そう! 帝都を舞台に、人外に好かれてしまうチトセが絵巻きにまつわる事件に巻き込まれてく。書き出しでは謎のばら撒きフェーズかなぁ。楽しみにしてます!

本文感想

 面白かったですねぇ……これは緊迫感がありました。あらすじからはもう少しのんびりした空気になるのかなと感じていましたが、男を看取って絵巻を受け取るところからの展開にはハラハラさせられましたね。
 さて、本作はまずチトセと鏡華の関係が良いと思ったんですよね。チトセは人外に好かれるおせっかい焼き、鏡華は冷静にチトセに意見を述べながらなんやかんやと付き合う、そんな二人の関係が微笑ましいなぁと感じました。チトセの解雇理由を説明しながら、そういった二人の様子を自然と提示してくれているのが上手いところだなと。
 そうしてしっかりと足場を固めつつ、チトセは男から巻物を受け取ることになる。緊迫感のある逃走劇が始まって、彼女は巻物を解放すると。ここまでの流れがとても鮮やかでしたね。事態の推移にすごく納得感があります。
 ここまでスピード感を持って事件を見せてくれた後で、クロアゲハの視点からしっかり情報提示があるのが嬉しいですよね。そして、チトセについて理解している読者目線からだと「マレビト転がってるよ」「式神を従えそうなヤツがいるよ」となってくるわけですね。これは面白いです。
 ここまで流れでちゃんとチトセがこの事件のキーパーソンとして関わっていくだろうことが読者には容易に想像が付きますし、納得感がありますよね。巻物も全部で十二あるみたいなので、今後いろいろな物語が展開されていくんだろうなと楽しみになります。ぜひぜひ、この続きも読ませていただきたいなと思うので、ご検討いただけると幸いです。

T-05 寿幻夢

タイトル・あらすじ感想

 和ファンで創作落語とか楽し過ぎるでしょう。あらすじにある寿限無、時そば、まんじゅう怖いは第一話でやってくれるんですかね。私はぜんぜん詳しくはないんですけど、ちりとてちんとか読みたいです!(楽しいですよね)

本文感想

 旦那、これは実に面白い作品でございましたね。第20回書き出し祭りの特別枠という大舞台で、なかなか粋なことやってくれるじゃあないですか。きっと旦那は、和風ファンタジーというお題が出た時に長屋のご隠居にでも相談しに行ったんじゃあないですかね。あっしが想像するに、たぶんこんな感じだったと思うんです。
「ご隠居、ご隠居」
「おーなんだ作者かい。血相変えてどうした」
「聞いてくださいよ、今度書き出し祭りに出るんですがね」
「牡蠣出汁? なんだ、牡蠣は目黒にかぎるだろ」
「そんな秋刀魚みたいなこと言ってる場合じゃねえんです」
「なんだ、ずいぶん余裕がねえな」
 作者はずいぶん慌てている様子。
「ご隠居、それでですね。実は今度の祭りで、お題に沿った小噺を用意する必要があるんです。それでこれがまた、とんでもねえお題が出ましてね」
「とんでもねえお題だぁ? どんなだい」
「へい。和風のファンタジーなんですがね」
「なんだいそのハンター爺ってのは。ネテロかい?」
「ご隠居は一体どの時系列に存在してんですか。違います、ハンター爺じゃなくてファンタジーです。ほら、えっと……そう魔法、魔法なんかが出てくるお話のことでさあ」
「魔法だあ? なんだいそりゃ」
「こう、呪文なんかを言うと不思議なことが起こる」
「ほう。するってーと、ホグワーツの話でも書けばいいのかい」
「ご隠居はほんとどこの時系列に存在してるんですか」
「グリフィンドぉー!」
「違いますご隠居。いや違くはないんですがね、たしかにそう、ハリーポッターみてえな魔法が出てくる小噺を作る必要があるんですよ」
 そういってご隠居に相談した作者でしたが、ご隠居だって創作についてはズブの素人ですからね。それでも、一人で考えるよりはマシだってんで、二人でいろいろと頭を悩ませたわけです。その途中でご隠居の奥さんが「ちりとてちん」とかいう珍味を持ってきて一騒動あったりしたんだが、その話はここでは一旦端に寄せておいて。
「しかしご隠居、ホグワーツをそのまんま出したんじゃ和風ファンタジーにはならねえと思うんですよ」
「ほう、たしかにな。おめえもちっとは頭が回るようになったな」
「へい」
「それならどうだい、ホグワーツに入学する子が、その年だけ全員日本人だったって設定で書いてみるのはどうだい」
「それはイギリス魔法界が大混乱に陥りやすね」
「なかなか愉快な話だろう」
「だがそれを和風ファンタジーと呼ぶのは無理があるんじゃねえでしょうかね。舞台はイギリスになっちまうわけでしょ? 教師だってみんな日本人にするわけにはいきやせんから。魔法生物だって洋風ですしね」
「たしかになぁ」
「だいたい呪文だってラテン語準拠じゃねえですか」
「あー、そこじゃないかい?」
 ご隠居は、何か思いついたようで。
「呪文を日本語にすれば和風ファンタジーになるんじゃねえか?」
「それはどういう感じで?」
「そうだなぁ、日本語で魔法が発動しちまうと、ちょいとばかり日常生活に不都合が出ちまうからなぁ。普段は全く使わない、それでいて日本語だと分かるような言葉で魔法が発動すればいいんじゃないかい?」
「そんな都合のいい言葉がありますかい?」
「例えばほら、寿限無なんかを使うとだな」
「あー、落語に魔法を混ぜるんですかい。なるほど」
 とまぁ、こんな感じで、旦那はご隠居と一緒にこの作品を作ったんじゃないかなぁと想像しているわけですね。それから、たぶんご隠居とはこんな会話をしたんじゃねえかと思うわけです。
「おめえさん、学校要素は絶対忘れずに出すんだぞ」
「学校ですか? それはどうしてですかい、ご隠居」
「そりゃお前……ホグワーツへのリスペクトだよ」
 本作は最後にしっかり学校要素も入っていて、愉快な作品に仕上がっていたと思います。面白かったです。

T-06 封印悪鬼

タイトル・あらすじ感想

 ノリと勢いで和ファンを乗り切ろうという強い決意の感じられる素晴らしいあらすじだったと思います! 絶対笑っちゃうから公共の場では絶対読まないと決めました! どうなっちゃうのじゃありませんよぉ! あらすじで腹筋攻撃すんのやめてください!

本文感想

 やりやがったな! あらすじから本文の温度差ぁ! これはめちゃくちゃ熱いやつを読ませてくれたじゃないですかぁ……あー、これはもう大好きですね。すごく良かったです。
 まずねぇ、すごく好きだなぁと思ったのは、セリフなんですよ。これが本当に熱くていいなと思っていて。いろいろ良かった言葉はあるんですけどやはり――父様は私に、諦め方は教えなかった。ここですねぇ。この短い言葉にいろんな感情が詰まっていて、私はもうすごく痺れました。熱くて大好きです。
 それから、父様の愛情が良いですよね。何が良いって、端的な言葉で感情を鋭く表現する茶々とは対称的に、父様は口数少なく行動で示すじゃないですか。茶々との別れの時にも内心渦巻いていた想いは色々とあったと思うんですが、ただ彼女を騙して背中を蹴飛ばすんですよ。これがもう愛だなぁと思って。こういう行動で語るようなやり方が、もうすごく好きだなと思って読んでました。良いなぁ、こういうの私も書きたいです。
 そして最後は、封印されていた悪鬼の前に立つ茶々。これがもう熱くていいですよね。ヒーローものの導入にも近い空気を感じたんですが、自分の身をかえりみずに全力で立ち向かう姿が本当に熱くて良いなぁと、感動してました。
 続きが欲しいなぁ……書いてくれないかなぁ……と希望だけ出しておきますね。とても面白かったです。

T-07 さくや奇譚

タイトル・あらすじ感想

 怖っ。古いものと新しいものが入り混じる時代背景の中、艷やかな童女の昔話という違和感のあるこれは……ホラーになるのかなぁ。とにかく怪しげでゾクゾクさせてくれそうです。楽しみにしてますね。
 ちなみに、私は封印悪鬼の後にこれ読むんですかぁ……温度差ぁ……

本文感想

 怖っ。なんかもう朔耶からは、ただごとじゃない空気を感じるというか、絶対恐ろしいオチが待ってるやつじゃないですか。最高です。これは大好き。
 それで、少し身も蓋もない言い方をするのなら、㐂弥彦って高い文章力で鮮明に描き出されたロリコンじゃないですか。いやまぁ、ロリコンという言葉が生まれる前からロリコンという存在はいたので、㐂弥彦の存在自体は自然だと思うんです。本作の時代背景の中で彼がロリコンとしてどう活動してきたのか、読んでいてすこく没入しましたし、納得感しました。よく考えられたロリコンだなぁと。
 だからこそなんですが、彼にはろくな運命が待っていないんだろうなぁという予感を、それはもう強く持っていましてね。破滅する方向への期待感といいますか。マイナス向きのフラグみたいなモノがびしびし立ってるなぁと思いまして。こういう期待のさせ方が上手いなぁと思って、勉強させてもらおうと思いました。本作は要研究です。
 性的な題材ってホラーとの相性がけっこういいと思うんですけれど、本作は本当にそこのところ上手くついて、艶かしく饒舌な童女という、とても怖くて怪しい話にになっていたと思います。これ全部で七晩あるんですよねえ……絶対ろくな結末が待っていないと思わせてくれるところが、もう最高だと思いました。ぜひぜひ最後まで読ませてください!

T-08 万葉連理之婚姻令 〜嫁いできた皇女は赤子でした〜

タイトル・あらすじ感想

 むしろ灰簾の方が赤子を嫁扱いできるのかなぁ、という点も気にしつつ。
 万葉集っていうと奈良時代くらいでしたっけ。本作の「万葉国」もそのくらいのイメージで読もうと思います! 子育てあるあるなんかが読めると楽しいですよね!

本文感想

 良いですねぇ、皇女を娶らなければならない状況に追い込まれた灰簾。十八歳差の妻を赤子から育成するってだいぶ苦行だと思うんですが、これは彼の冷静で穏やかな性格だからこそ成り立つ状況なのだなぁと思います。大変だなぁ。これからの苦労を思うと応援したくなりますよね。面白かったです。
 冒頭から赤子が来るシーンで、父親と対比するように灰簾の性格がよく分かるなぁと思いました。冷静で穏やか、ちょっと諦めがちだったりするのでしょうか。ここで感情のままに文句をたれ続ければ万葉国との関係が悪化するでしょうから、状況をよく見て不満を飲み込む性格なのだなと思います。これは良くも悪くも、なのだろうなと。
 土師連の仕事は土師器を作る工人たちの取りまとめ。職人の一族、みたいなイメージでしょうか。埴輪を作って大王に納めるくらいですし、皇女を与えられるくらいですから、かなり重要な位置にいる一族なのだろうと思います。けっこう大所帯なんですかね、そのあたりの規模感が今後明らかになっていくと嬉しいなと思います。
 そして最後に巫覡の力の片鱗を見せる八幡ちゃん。埴輪を作る土師連と埴輪を動かせる八幡ちゃんの相性はバツグンだと思うのですが、さてこれがどんな事態に繋がっていくんですかね。今後どんな風に物語が転がっていくのか、灰簾の子育て苦労話とともに楽しみにさせていただきたいと思います。面白かったです。

T-09 金喰らいの俗物道士

タイトル・あらすじ感想

 あらすじがないので妄想で期待します!
 霞を食って生きる仙人になり損なった男は、その代わり金を食って生きる体になっちゃったんですよね。それで佐渡島に渡って金山を掘りながら、今まで避けていた俗世と関わることになって……みたいな感じでしょうか! 当たれぇ!

本文感想

 ぜんぜん当たらなかった……! かすりもしませんでしたね。そりゃそうか。
 本作はとても面白い和風アクションだったと思います。銭形平次みたいな戦い方をしますが、敵が人外であり、また銭である必要性がしっかりと説明されていたので納得感がありました。俗な感情が籠もってることが大事なんですねぇ……これはめちゃくちゃお金の掛かりそうな戦い方だなぁとは思いますが、なるほど。独特の戦い方と理由付けでインパクトのある作品だったと思います。
 また、この理屈だと新しく鋳造した貨幣よりも、時を経てたくさんの人間感情に晒された古銭などの方が強そうだなと思ったり、銭個別にめちゃくちゃ強いものがあったりしそうだなと想像していました。また、同様の理屈で銭以外の武器を使うライバルなんかも出せそうだなと思ったりもします。
 浦部と盛姫のコンビもすごく良いですよね。軽口を言い合いながらバチバチに戦うのって読んでいてすごく楽しかったです。また、浦部の悪評はなんだかんだ盛姫のせいなのかなと思ったり。いずれにせよ銭はたくさん必要になるやり方だと思うので、そのあたりの稼ぎ方も今後の物語の中で重要になってくるポイントかなぁと思っています。味方陣営に小粋な両替商なんかがいたりすると、また会話が楽しくなりそうだなと思ったり。
 さてさて、物語は赤子を守る神楽の視点から語られていきますが、やはりこの赤子は本作のキーになってくる存在なのかなと思っています。今はまだ何の力も発揮していないですが、神楽も赤子も何かしらで鬼との戦いの本筋に関わっていくことになるのだろうなと。これは今後の楽しみになる部分なのかなと思っています。とても面白い作品でした!

T-10 桃太郎

タイトル・あらすじ感想

 どう来るのかなぁと思ってたら、あらすじの最後の一文ですよ! これはやられたなぁ、どうなるんだろう。犬猿雉の役割が既得権益と化し、形骸化した「桃太郎」の称号が権威付けのみの目的で襲名されてくのが読みたいです先生!

本文感想

 なるほど、こうなるんだぁ……これはすごい設定をぶっこんで来ましたね。面白いです。桃太郎はRPGモチーフというか、まぁRPGが桃太郎モチーフみたいなところがちょっとあるので、一周回って戻ってきた上で時代をかなり進めた感じでしょうか。で、主人公は鬼彦という名の新人桃太郎と。桃介との対比がされていますが、鬼彦の出自が気になるところですよね。この地名こそ日の本の国となっていますが、エルフがいたりオークがいたりするのでだいぶファンタジー色が強めの世界観だなと思います。
 鬼彦があえて自分の膂力を隠しているのは、自分の出自を隠したいのかなぁ(直球ですけど鬼の血を引いてると思うので)というのと、初代から「膂力で戦う鬼vs技で戦う桃太郎」みたいな価値観があることが桃介のセリフから垣間見えるので、そういうのもあってかなぁと思っています。
 さて、私は一つ本作の構図で面白いなと思うのは、桃介が親友だという点なんですよね。これで彼を安易に悪役にしなかったところに、この先の展開の楽しみがあるなぁと思っていまして。たぶんですが、桃介の方は定番能力の極まった桃太郎パーティを見せてくれると思うんですよ。で、鬼彦の方はシルフと共に定番から外れた鬼パーティを見せてくれると思って。最終的な着地点は見えていませんが、たぶん『い』級の鬼と戦うのが大きなイベントにはなりそうだなぁと思っているので、そこに向けてこの競合する構図を大きく育てて行ってもらえると楽しいななんてと思っています。
 本作はすごくインパクトもありますし、新しく面白い桃太郎の世界を見せてくれると思うので、続きを読みたいところなんですけど……祭り向けに書いたのだから続きないよーと言われてしまうとちょっと残念なんですが、私としてはぜひ続きを読みたいなと思っています。

T-11 坂の曲りたるところ

タイトル・あらすじ感想

 この坂ってもしかしなくても黄泉比良坂モチーフですよね。しっかりとした和風ファンタジー感の中に怪しげに滲むホラー感がめちゃくちゃ面白そうじゃないですか。昏き穴からの禍いって何だろうなぁ。怖いなぁ、怖いなぁと楽しみにしてます(まんじゅう怖いメソッド)

本文感想

 これはまた独特の世界観の作品でしたね。何を食べて育ったらこういう世界を書けるようになるんでしょう。やっぱり稷餅ですかね。この空気感はなんて言えば良いんだろう……現実よりも神話の世界に近いような、淡々としたなかに昏い感情が滲むかのような、不思議な魅力のある作品だったと思います。とても面白かったです。
 印象的なのはやはり、坂下の役割としてのルールでしょうか。「童よ、母が恋しいか」「わたしに母はおりませぬ」のやりとりを繰り返すじゃないですか。それって科学的な感覚からは乖離したある種の宗教的な慣習に近いものがあると思うんですが、この何かあれば容易に禁忌に触れてしまいそうな感じと言いますか……ルールを破った結果何があるのか明らかにはなっていなくて、明確な理屈があるわけでもないのですが、それでも破ったら大変なことになるという薄ぼんやりしたルールがこの独特の世界観を形作っていると思うんですよね。これは、坂下の役割としてのルールだけでなく、龍との接し方であったり、火守に対する恐れであったり、漠然としているからこそ破ってはいけない何かを感じさせる……そういうのが上手いなぁと思いました。見習いたいポイントだと思います。
 さて、そんな世界観の中で「わしは餅を食うのじゃ」とジタバタする龍の可愛さがほっこりポイントになっていましたよね。この空気感の中で自由に振る舞う龍の可愛さが際立っていて、ここもまた作品を魅力的にしているポイントだなと思いました。
 この後起こるだろう禍いについては触れていくのはこれからになるかと思いますが、どんな内容なのか、また稗田の鬼がどのようなキャラクターなのか、世界観の広がりとともに楽しみにしたいと思います。面白かったです。

T-12 祟られ内裏の香術妃 〜かりそめ女御は後宮の謎を香りで暴く〜

タイトル・あらすじ感想

 和風ファンタジーで後宮モノ来ましたね。しかも香師なんてすごい設定を使ったミステリですよ。やべぇ、こりゃ絶対面白いやつじゃないですか。第一話で香師の嗅ぎ分け推理力のあたりをちょい出ししてほしいなぁって期待してます!

本文感想

 ほほう、これは期待していたところに直球を投げ込んで頂きましたね。しかも期待を大幅に突き抜ける形の豪速球でした。えぇ、そりゃあもう面白かったですとも。なるほど、アカシは完全にホームズですね。冬親また彼女の凄さをうまく引き出すワトスン的な良い役割を担ってくれていて、読んでいてとても楽しかったです。
 本作で一番のキーになるのはやはり「香り」という面ですよね。しかも彼女は物理的な匂いだけでなく、嘘の匂いのような概念的な言い回しを使います。これは思うに、嘘そのものを嗅ぎ分けているというよりも、目の前の人物から感じる様々な匂いを総合して評価した結果として脳内に描き出される背景と現在の言動の間に違和感があるのかどうかを「香り」を使った言い回しで表現しているのかなと感じていまして……つまりはめちゃくちゃ推理力の高い人物であり、決して嗅覚だけでやっていく探偵役ではないのだろうなと思ったわけです。
 そして、本作では香りにまつわる情報がちりばめられているかと思うんですよね。アカシが活躍していけばその正体も明らかになると思いますが、女たちが纏っている「鼻につく香」であったりだとか、「寝不足のかた特有の、疲れた匂い」というのも詳細を掘り下げていくともう少し裏があるんじゃないかと思って。もちろんこのエピソードの主題となるだろう「月人の祟り」についても香りという側面から明らかになるのだろうなと思っています。冬親を眠らせたのにも理由があるんでしょうし。
 あらすじ時点では「推理力をちょい出ししてくれると嬉しいな」なんて思っていましたが、舐めた口きいてすみませんでした。推理力をガッツリ見せつけてくれていますね。これは非常に続きが楽しみになる作品でした。とても面白かったです。

T-13 女飛脚と切腹侍 東海道五十三次幽状伝

タイトル・あらすじ感想

 おやおや、これはタイトルで想像してたより相当コミカルなやつですね? いや、シチュエーションはけっこうシビアなんですけど、二人のキャラから面白さが滲み出てるんですよねぇ。ハラキリじゃないんですよ!笑

本文感想

 これは笑いました。超面白かったです。最初はけっこうシリアスな作品なのかな、タイあら感想読み違えてたかなと思ってたんですけど……いやあ、しっかり面白いじゃないですか! しかも山南さん、ちょっと気になって名前をググってみたらしっかり新選組の人じゃないですか。こんなところで何してるんですか。まったくもう、めちゃくちゃ面白かったですよ。
 本作の面白いのは、なんと言っても幽鬼すら困惑させる死に様ですよね。いや、FAを見て気になってはいたんです。絵面のインパクトがもうすごかったですからね。だけどさぁ……いやぁ、まさかこんなことになるとは思わないじゃないですか。お腹痛いです。
 それで、本作については幽鬼の設定についてちょっと考えていたんですけれど、少し不可解な点があるなと思っていまして。というのが、あらすじ最初の言葉を借りるなら「一幽一魂」じゃないですか。一人殺すと成仏して、殺された人がまた幽鬼になる……とすると、幽鬼の個体数って放っておいても増えずに一定のはずなんですよ。まして方術士という滅却手段があり、地縛霊を殺しただけでも成仏できることが分かっているので……ということは、この十年で幽鬼を生み出し続けている何者かが存在しているはずなんですよね。それは人かもしれませんし、人外かも知れませんし、何かの仕組みや呪いのようなものなのかもしれません。そこの真実は分かりませんが、その発生源さえ潰してしまえばあとは時間をかけて個体数を減らしていくだけ(それこそ山南が介錯させた数だけ幽鬼が成仏していく)なので、今後は旅をしながらそういう部分を明らかにしていくのがストーリーの大筋なんじゃないかなぁと勝手に想像を巡らせていました。全然外れているかもしれません。
 さて、そんな真面目な話も少しだけ交えつつ、本作はとにかく山南のぶっ飛んだキャラクターで笑わせてもらった面白い作品だったなぁと思います。それと本作についてはなんとなく、けっこう続きの構想もあって作っている作品なんじゃないかと勝手に期待してるんですが……え、期待してていいですよね? 楽しみに待ちたいと思いますので、よろしくお願いします!

T-14 霊都怪異譚

タイトル・あらすじ感想

 あらすじがないので妄想しますね!
 最近霊都で話題になっている怪異がいるんですよね。一見すると全裸の男にしか見えなくて叫びそうになるんですが、安心してください。ちゃんとふんどしを履いてますよって……とにかく明るいお話になるのかなと予想。当たれぇ!

本文感想

 はい。とにかく明るい人の話ではなかったですね。そりゃそうです。ごめんなさい。
 本作は……彼女をなんて呼ぶのが適切なんだろう。とりあえず暫定赤目ちゃんかなぁ。とにかくもう、赤目ちゃんに幸せになってほしいと願ってしまうような作品だったなと思います。
 色々と難しい状況だとは思うのですが、護生家の人たちにはぜひ気持ちよく退場してもらってですねぇ……いやまぁ、彼らも一応全体的に見れば正義側の陣営ではあるんですよ。それもけっこう重要な役割を担っているみたいですから、そうそう退場すると霊都全体が困ったことになるのは、それはそうなんですけどね。ただ、赤目ちゃんを幼少期から閉じ込めているだけでギルティですね。ぜひ大男のところに行ってもらって、うまいこと自由になって欲しいなと願うばかりです。
 赤目ちゃんの式神である白妙さんの冒頭からの活躍は格好良かったですよね。男たちとの気安いやりとりも素敵で、良い関係を築けているなと思いました。最後の「礼ぐらい言わせんかい、クソがーッ!」と言わせてしまうような関係がすごい良いなと思っていて……ほら、このセリフには色んな関係性だったり感情だったりが乗っているじゃないですか。そういうのを感じられて、すごく良いなと思ったわけです。
 で、ここまで「幸せになってくれ」という感情を読者に抱かせたのだから、この後はちゃんとその期待に応えてくれると思って良いんですよね、というのを私は言いたいわけです。もう護生家の人たちはしっかり痛い目をみてもらって、赤目ちゃんには通り名じゃなくてちゃんとした名前が与えられて、それでハッピーになるところまで期待していますからね。ぜひぜひ続きをお願いしたいわけです、よろしくお願いしますね。

T-15 奉る街のまつろえぬ姫君 −明治落日御國仕舞ノ顛末記−

タイトル・あらすじ感想

 明治のロマンって、やっぱりこう新しい価値観が入ってくる中で古い価値観が淘汰されたり、何らか混ざり込んだりって部分だと思うんですが。
 妖異が失われつつある時代の物語……すごく良いです。これはめちゃくちゃ楽しみにしてます。

本文感想

 これは面白かったですね。祭街が想像していたより遥かに混沌としていて、ワクワクしました。今や日本の中で唯一の、人ならぬ者が暮らす街ですからね。この雑多で楽しい様子が面白かったです。
 さて、本作で何より目を引くのは、やっぱり街の様子かなと思うんですよね。人の相手に隠れ潜むような人外たちの生活はわりとよく見ますが、龍と姫を追う途中ですれ違うのが化け猫や落ち武者だったりするのが本当に楽しいですよね。豆狸と大鬼の喧嘩神輿とか私も参加してみたいですし、野良猫みたいに人間を扱う妖狐には度肝を抜かれました。こういう常識の隙を全力で突いてくるシーンってほんと良いですよね。
 そんな中、姫を追う藤野のことを思うと切なくなりますよね。仲間に引き入れてやればいいのに、なんて思ってしまいますが……姫は嫌なんだろうなぁ。秘密はいつか不和を生む、というのは建前のように聞こえたんですよね。何となくですが、本音は「滅びゆく祭街に藤野を巻き込みたくない、彼には生きていてほしい」といった感情のように思いました。これは個人的にそういう印象をうけたってだけの話ですが。お互いを想い合うが故にすれ違っているような、すごくもどかしい関係……! ちゃんと話せお前らと言いたくなりますが、そういう性格でもなさそうですからね。
 ここからどういう物語が待っているのか、その中で二人の関係はどんな風に変化していくのか、祭街はやはり滅んでしまうのか……色々と期待をしながら、続きを待たせていただきたいと思います。待ってます!

T-16 その刀は誠の名のもとに

タイトル・あらすじ感想

 わー、立て続けに明治おいしい。刀が消えていく時代の中での刀鍛冶の娘と、刀を求める少年の物語……すごく良いですよね。時代の大きな流れの中で、変わってほしくないものだってある。そういう割り切れなさや切なさを感じさせてくれるのを、すごく期待してまーす!

本文感想

 警視庁の新選組! これだけで色々と妄想の広がる設定だと思ったんですが、それで総夜は人ならざる者と戦う特殊な警官だったわけですね。はー、これはワクワクする作品だと思います! まさかこう来るとは思ってませんでした。ほうほう。
 新選組って基本的に政府に逆らった側で、一部例外はあるにせよ、この時代はわりと肩身が狭かったんじゃないかなと思うんですよ。それが実は警視庁に組み込まれていて、マガイモノと呼ばれる人外と戦ってました……これは面白い世界観ですよね。そして総夜が「あの方々」と呼ぶ上位存在がいると。背景の妄想度が高くて、すごくワクワクしました。
 そして総夜と茜ちゃんの関係がまた、私はすごく良いと思うんですよね。総夜って硬派というか、わりと不器用でカタブツみたいな感じだと思うんです。そして剣の腕は滅法立つと。そこに来て、茜ちゃんはすごく真面目で職人気質、物怖じしない少女だと思うので、精神的には総夜を引っ張っていってくれそうな感じがあります。そして、彼女が無価値だと思っていた自分の刀が総夜にとっては大きな意味があるものだと。この二人の組み合わせがもう、初々しくてニヤニヤしちゃいますよねぇ。
 書き出し四千字しかないのが悔しいですねぇ、これは続きを読みたいなぁと思っています。ぜひ書いてくださいね。待ってます! 面白かったです!

T-17 帝都あやかし事件簿 〜幻の陰陽師〜

タイトル・あらすじ感想

 わー楽しそう! 妖怪嫌いの東堂とバディを組むのが妖怪を従えるおキヨって構図が、もう既に面白いですからね! これは楽しいの期待できますよー! ボロを出しちゃう妖怪たちに苦労するおキヨの姿なんかも読めたら嬉しいです!

本文感想

 面白かったです。背景に見え隠れする事情はけっこうヤバい感じはするんですが、おキヨちゃんと妖怪たちの様子にほのぼのしちゃいますよね。読んでいてほっこりしてしまうようなお話でした。あとみんなで狸のキンタマで生活してんの面白すぎます。
 本作でやっぱりいいなと思うのは、妖怪たちの様子ですよね。みんなの好みに合わせて朝ごはんをよういするおキヨ。早朝から鐘で叩き起こされて大人しく食卓につく妖怪たち。そういった中でも全員が同じじゃなくて、早起きする奴がいたり、屋根の上で食事を摂ったりする奴がいたりするのがすごく良いなと思っていす。なんて言えばいいのかなぁ、このゆるゆるとみんなで生活している雰囲気がたまらないですよね。みんなの世話をやくおキヨの姿にほっこりしながら読んでいました。
 ここに東堂が入ってきて、いよいよ物語が動き始めるわけですが……なるほど。おキヨは見た目は幼女ですが、時の権力者を常に支えてきた「幻の陰陽師」であると。普段はだいぶゆるい雰囲気で生活していますが、仕事になると極めて有能なんですね。良いなぁ。そして、特務機関の本部で仲間が死にかけている……というか、生かされているという感じでしょうか。透明人間の事件というのにも裏がありそうですし、これは先が気になるところですね。普通にやると鬱展開になってしまいそうですが、このおキヨや妖怪たちがどう事件をひっくり返してくれて、事態を混沌と混ぜっ返してくれるのかすごく読みたいです! 切ないエピソードも交えつつ、全体としては楽しい話になるんじゃないかなぁと思っています。

T-18 西壁の守護者 ~生き残りをかけて戦う陰陽師は怨霊を御せるか~

タイトル・あらすじ感想

 これはハイファン味の強い和風ファンタジーを読ませてくれそうでワクワクします。人妖の設定が主軸だと思うんですが、けっこうシリアスな系統の妖みたいですからね。それに立ち向かう陰陽師。熱々のバトルを期待してます!

本文感想

 すごいなぁ、これはとても面白かったです。何より独特の世界観に痺れますよね……細部まで練り込まれた設定はつい色々と考えてしまいますし、張り詰めた空気の中で進行していく物語、戦場の描写にすごく引き込まれます。もう最初から最後まで、すっと没入して楽しませていただきました。
 冒頭から約魚の設定に痺れましたね。約束を守らせる呪いというのは色々な描き方があると思うんですが、本作においては墨で描かれた魚が体を泳ぐんですよ。これは良いです。映像作品にしても映えると思います。
 そして大陸からやってくる刀伊。それを守る防人の職務は、かなり緊迫感のあるもの描かれ方をされていたと思います。短い間に顔ぶれが大きく変わるような修羅場。防人たちは己の死すらも利用され、命をかけて戦わされるわけです。この冷酷な舞台設定が、本作の刺すように厳しい空気感を作っているのだと思いました。
 人妖の設定もいいですよね。見た目はそれぞれバラバラなんですが、めちゃくちゃシリアスな生態の恐ろしい化け物をしていて、一応殺せはするけれど厄介な性質をしている。対する人間側は、陰陽の術を駆使しながら戦うと。この戦いが、まさに血みどろの戦場といった感じですごく緊迫感があって良かったんですよ……手に汗握る戦場を見せてくれたなと思います。
 さて、阿呼の登場によって物語は在景の心の深いところを抉るような話になってきます。なぜ在景は騙されることになったのか。鏡子は今どうなっているのか。阿呼の過去には何があったのか。考えていくと心の底をかき混ぜられるようで落ち着かないですよねぇ……うわぁ、どうなるんだろ。過去に何があって、今どうなっていて、これから先どうなるのか。もう色々と気になってしまいます。続きは、続きはありますよね? お待ちしてますからね。面白かったです!

T-19 あなたのこいとのぼる蒼天

タイトル・あらすじ感想

 これは素敵な作品になると期待してます!
 鯉と恋のダブルミーニング、時代背景的に百合は簡単には認められないというか、結婚相手を親が決める時代だと思います。生半可なことじゃ掴みとれない道……そんな中をぜひ前向きに突っ走ってください! エモお願いします

本文感想

 はぁー、これは面白かったですねぇ。すごくモラトリアムな感じがしますねぇ。私はタイあらの段階でちょっと読み違えてしまっていて、ことねとさくらの恋みたいなものも入ってくるのかなと思っていたんですが、もう少し純粋に「自分の生き方を悩む子たち」みたいな作品だったなと思います。茜さんの存在をアクセントに、優しい雰囲気のまま心の深いところにじっくり染み入るようなお話を読ませていただいたと思います。面白かったです。
 さて、まず一人称こいのぼり視点というのが良いですよね。本作を印象づける独創的な設定であるとも思いますし、この無機物が動き出す不思議な感じには童話的な雰囲気もあると思うので、ことねやさくらの年齢だったり本作のテーマみないなところと上手くマッチしていたように思います。
 さくらの視点から考えると、彼女が茜さんを見た時の反応ってすごく自然ですよね。それでも初対面で「気持ち悪い」はちょっとなぁと思いますが、そういう歯に衣着せぬ部分が子ども的でもあり、彼女の性格がよく現れている部分だなと思います。
 一方で、そのさくらの発言を聞いて怒ることねの気持ちもすごくよく分かりますよね。彼女の性格もこういった会話の中で見えてきて、家族を大事にしていることだったり、茜のこともその家族の輪にいれてしっかりと大切にしていることが伝わってきます。
 そして茜さんは、ことねやさくらよりずっと呑気で穏やかだなと思います。人間じゃないからこそののんびりさなのかもしれませんが、自分を気持ち悪いと言われても特に響いた様子がなかったりだとか、そういった茜さんの性格が本作の優しい空気感を作っているようにも思いました。
 さて、物語はさくらに巻き込まれるような形で進んでいくことになりますが……最終的にどうなるんでしょうね。みんなそれぞれ良い子たちだなぁと思うので、良い着地点を見つけて幸せになってほしいなと願っています。とても面白かったです。

T-20 こちら内務省警保寮怪異特別対策局

タイトル・あらすじ感想

 怪対局、癖の強い奴らが集まったチームで怪異に挑むの、めちゃくちゃ良いですねぇ。仲間の掛け合いとか絶対楽しいやつだと思います。面白くなるだろうなってのが既に透けて見えてますからね! これは楽しみ!

本文感想

 すごいなぁ、これは期待していた通りの楽しい怪対局をバシッと読ませてくれたと思います。キャラがそれぞれ立っていて良いですよね。ちょっとピリッとしている部分もあるんですが、会話の底では信頼しあっている感じがあってすごく良い仲間だなと思いました。世界観としてはけっこうシビアだと思うんですけど、こう「気安い関係の仕事仲間」くらいの距離感が独特で心地よく読めますよね。とても面白かったです。
 過去の比丘尼――しづの過去の封印エピソードはワクワクしました。子々孫々に至るまで封印を守り続ける、というのはとても難しいことですよね。数百年も経てば社会だって大きく変化しますし、面識のない先祖の遺言を守り続けるのって難しいと思うので……不死身のしづさんはきっと、これまで色々な怪異を封印してきたんだろうなと思うと。もうここから、どんどん話を広げていけそうな気がして楽しみになりますよね。
 怪対局の仲間もそれぞれ愉快でしたね。筋肉ムキムキだけど怪異向けには無力でしかない局長の純之助。クールで口が悪い士門は刀使いで、天狗の血を引いている。のんびり寝ていた十四郎は鬼になれるみたいですが、満月の夜しか活躍できない。そして、封印しかできない不死身のしづ。凸凹どころかバラバラの四人ですが、だからこそ面白いと言うか、軽口を叩き合いながらどうにかこうにか怪異に対処していく四人の姿を期待できますよね。
 本作はとても楽しい話だったと思います。それぞれの過去エピソードなんかも想像が膨らみますし、いろいろな怪異に対処するエピソードを読ませてくれそうな気がしています。誰視点からでも面白そうですし、しづさんの封印という便利な設定があるので急に怪異が現れても違和感のない世界観してます。この続きがどんな感じで展開していくのか楽しみにしています。面白かったです。

T-21 荒ぶる乙女は恋に焦がれて青く燃ゆる。

タイトル・あらすじ感想

 恋を夢見る乙女たちがバチバチに治安維持部隊やってるの面白すぎるでしょう。黒一点の三男坊は偏屈だしなぁ。負の情念が溜まりすぎると妖魔が生まれる仕様なのも舞台を面白くしてくれそうです。楽しみだなぁ。

本文感想

 これは面白いですね! なんだろう、この姦しい感じがすごく女学生してるなぁって。恋がしたくて暴走する三人娘おもしろすぎでしょ。それと、言葉の端々がいいですよね。大正時代の女学生が使ってた流行語みたいの(なんか前にちょっと話題になってましたよね)が散りばめられてて、昔も女の子ってこんな感じだったのかなぁと思ってニヤニヤしちゃいました。とても面白かったです。
 冒頭から千代子、ハル、サキの三人のやり取りには笑ってしまいました。千代子のこじらせ俳句いいですよね。淡々としているハルも、愉快に混ぜっ返すサキもそれぞれキャラが立っていて、千代子がそんな二人をぐいぐい引っ張りながら話をおかしな方向に転がしていくのが読んでて楽しいなと思います。
 宗像少佐との会話では、世界観を補完するような情報を掘り下げると同時に、彼女たちの愉快さをさらに広げてくれたなと思います。少佐は苦労してるなぁ……ハルもサキもぶっ飛んでいますが、千代子が元気に全肯定してるのがおかしくて。もう止めらんないですねこれは。
 そして三人が出会うのが、女嫌いという一人の男。あぁもうこれ、めちゃくちゃ楽しいやつじゃないですか。色んな方向に大騒ぎになる予感しかしないんですが……恋愛、友情、妖魔との戦い。果たしてどういう物語が展開されていくのか、すごく楽しみです。面白かったですー!

T-22 陰陽の大工 政信

タイトル・あらすじ感想

 すごいなぁ、めちゃくちゃしっかりとしたローファンですよ。陰陽師の設定をすごく自然に現実世界と混ぜて、江戸の裏で行われていたファンタジーを想像させてくれる面白いやつ! すごく読みたいです!

本文感想

 平内政信をググったら「匠明」を書いた人って本当に出てきたのでびっくりしました。民明書房的な感じだと思ってたからぁ……いやぁ、これは面白かったですね。続き待ってます。
 さて、不遇スキルを極めることで誰も至ったことのない新境地を開拓して大活躍する、という系統の作品は、実は私けっこう大好物だったりするんですよね。しかも本作は極まった独自性を見せてくれていて、陰陽術の「木」を駆使し、大工として活躍する――しかも江戸時代の裏でそれが起こっていたというんですから、こりゃあワクワクするっきゃないです。そして見せてくれる術もすごく独特で、建築することによって特殊効果を発揮すると。これがもう、突き抜けて面白いなと感じさせられました。すごかった。
 また、マリが都合の良いだけの味方キャラじゃなかったのも良いなと思ったポイントですね。彼女の「これを私も習得して、土御門に対抗する」という一言。なるほど、賀茂家なりの裏があるのかぁとすごく納得しました。そして熱いのが、そんな彼女の予想をさらに突き抜けるような政信の活躍ですよね。計画通りニヤリってしているキャラの予想を突き抜けて驚かせる快感ってたまらないと思うんですよね。
 本作は書き出し祭りの四千字という短い中にいろんな面白さを詰め込んだ上で、読者をしっかりと連れて行ってくれるすごい作品だなと思いました。めちゃくちゃ面白かったので、ガチで続きをお願いしますね。応援しています。がんばってください。

T-23 人ならざる血の使い道

タイトル・あらすじ感想

 蝦夷舞台かぁ! 主人公は何やら人外というか、この二つがどうやって両親になってどんな形で生まれてきた奴なのか全然想像できないです!笑 アイヌの少女は何かに巻き込まれる形かなぁ。こりゃ読まないと分からないので楽しみにしてます!

本文感想

 すごい! 異類婚姻譚は大好きなんですけれど、ここまで異類すぎる婚姻譚はいまだかつて読んだことがないです! すげぇ……本人同士だけじゃなくて両親の結婚までぶっ飛んでて面白かったです。すごいなぁ。
 まず両親については、母親が「おきつねさまの恩返しの最後の依り代」という商家のご令嬢であり、婚約破棄されたのをきっかけに「外つ国の禁忌の生きる書」に対して血を分け与え、本がイケメンになって結婚したよと。ここまでで十分一つの面白い作品に仕上がるじゃないですか。でもそれはサイドストーリーでしかなくて、本筋はその息子なんですよ。
 生きる本と依り代の息子である三郎は、人と同じ時を歩めない。そんな彼が嫁にとプロポーズしたのは狐神とアイヌの間の子。いろいろ事情はあるにせよ……すごいなぁ。たぶんですけど、エプンキネの両親が結婚した経緯もけっこう面白いエピソードありますよね。それで、まだ明かされていない三郎とエプンキネのプロポーズに至るまでの細かいエピソードであったりだとか、そういうのがいろいろ読みたくなるじゃないですか。第一話で結論は見せてもらっているので、これは「ここからどうなるの?」というより「ここにいたるまで何があったの?」を見せてくれるお話なのかなぁと私は思っていて、すごく読みたい部分でもあります。
 続きを書いて欲しい、というか過去の色々をちゃんと読ませて欲しいなぁと思わせてくれる作品でしたね。この先どういう感じになっていくのかすごく楽しみです。ぜひ続きを……続きの供給をお願いします。

T-24 どこまで行っても消えない業を、俺は斬る

タイトル・あらすじ感想

 かつて妖怪退治をしていた老人が、過去に後悔を抱えながら転生する……転生先は読まないと分からないですが、これは海斗の格好いい活躍が見られそうですね。歳を重ねた格好良さを見せつけてほしいです。期待してますよ!

本文感想

 ほう、すごいですね。まさか鬼の女の姿になって転生するとは……これは予想外でしたね。面白かったです!
 冒頭からすごくヒロイックですよね。妖怪に食べられそうな子どもを助ける。これは格好いいところから始まったなと思いますし、素直に海斗のことを応援できそうだなと思います。そして私は……これは私が単純に特撮好きだから思ってしまうことかもしれませんが「仮面ライダーが最初に変身して自分の身体能力を把握しきれず思いの外威力が出て戸惑ってるシーン」というある意味定番な私の大好きなシーンを、この作品ではしっかり読ませてくれたなと思って勝手に熱くなっていました。いいですよね。
 そして、刀で戦うシーンの見せ場もすごくいいんですよ。「──その男は最強と呼ばれていた」から始まる一節が超クール。私はこれ映像で見たいです。特撮で見たいです。絶対かっこいいやつじゃないですか。大好きです。
 で、最後に「鬼のお姉ちゃん」と言われていろいろとひっくり返されると。あらすじの段階では理解しきれていなかったのですが、海斗がかつて斬り殺した鬼の女が死ぬ間際に「愛してる」って言った彼女なんですね。で、なぜか今の海斗は彼女と同じ姿になっていると。これが一体どういうからくりなのか、色々と気になりますよね。きっと続きを書いてくれると強く信じていますので、そのあたりどういうことなのか楽しみにしています。面白かったです。

T-25 【鬼姫と冴えない陰陽師】の -都(みやこ)救済日記-

タイトル・あらすじ感想

 軽いノリでエゲつない設定を叩きつけてくるなぁ。こんなの大好きに決まってんじゃないですか。絶対面白いでしょ。設定もしっかりしてるので、この凸凹バディがどんな感じで活躍していくのか楽しみにしてます。面白いやつ! 知ってます!

本文感想

 特別会場のラストを飾るにふさわしい、めっちゃくちゃ面白い作品だったと思います。やりますねぇ、これは強い。綾姫ちゃんはあらすじ時点で想像してた何倍も可愛かったですし、何倍もメスガキしてました。そしてめっちゃ強い。おじちゃんたちを手玉に取り、バッサバッサと切り捨てて、鮮血を塗り拡げていく様は残酷なのに爽快感すらありました。
 それを支えている要素が、会話の中で語られていく綾姫が「鬼姫」になった経緯だったなと。家族を惨殺されていく中で湧き起こる憎悪と憤怒が、とても濃く煮詰まっているからこそ……そして、表面的な言葉にはその感情を乗せずに、彼女が行動で示し続けているからこそ、読者が彼女に感情移入して応援したくなるんだろうなと思っています。読み手としてすごく楽しく読んでいたのと同時に、書き手としては、シーンをブツ切れにせずに、でもしっかりと過去の出来事や感情が伝わってくるような書き方が本当に上手いなと思ったので、こういうのはガンガン真似させてもらおうとメモを取っていました。これは猛者だなぁ。
 そして永浬の登場がまた本作を力強く面白くしてくれましたよね。綾姫のキャラが強く立っているので、彼女を中心に据えるだけでもすごく面白い作品が書けると思うんです。しかしここで永浬という、この究極メスガキの彩姫ちゃんを手のひらで転がせてしまう陰陽師という面白いヒーロー役をボンと配置してくれたお陰で作品の構図がガラリと変わりましたよね。いやほら、バディものでどちらのキャラも主張が強いって最高じゃないですか。それで、綾姫ちゃんの過去にもまだ秘密が隠されていて、これから協力していくことになると。これはもう、本当に面白いなと思いまして。
 私なんかはもう作者様の手のひらでゴロンゴロン転がされて作品を楽しませていただきましたが、けっこう転がされた人多いんじゃないかなと思っています。すごく面白い作品だと思いますので、続きを! 続きを! 何とぞよろしくお願いしますね。お願いしますね!!!

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